救いのために   作:ヒナまつり

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14話 中編

 

 ケルシーとクロージャからもらった財布にドッグタグを入れ棚に隠すように置く。裏切った僕がこれを持っている資格はないのだから。

 

 「…W、準備できたよ」

 

 「分かったわ。ミーシャとスカルシュレッダーはこっちで引き取るから好きに暴れなさい」

 

 Wから受け取り仮面を被る。…こんな顔、ロドスのみんなに見られたらダメだから。

 

 「他のレユニオンの兵士も、サルカズの傭兵も、連れてっていいよ。scoutだけいれば…平気だから」

 

 「はいはい、分かったわ。ただ無茶して死ぬんじゃないわよ?」

 

 愉しそうに笑うWは本当に悪魔のようだ。イシンがこんな顔をしているのに…いや、こんな顔をしているから笑っているのかもしれない。

 

 黒い雲が覆っているの空は雨が降りそうで、太陽の光を通さない。

 

 そんな、日溢れもない暗い外でアーミヤ達の動向を探る。

 

 ─アーミヤ、ケルシー…ロドスのみんなにもう会えないんだって理解をすればする程、胸が締め付けられる。

 

 それに、みんなに嫌われちゃうのも…嫌だ。ロドスを、手放したくない。

 

 でも結局…こうなるんだったら、最後に遺書ぐらい書いとけば良かったな…

 

 


 

 「ドクター、レユニオンが撤退を始めました。多分、ミーシャさんを逃がすためだと思われます」

 

 「あぁ…分かった。このまま追撃を行う。皆はフォルトとスカルシュレッダーの動向に気を付けてくれ」

 

 攻撃をすることなく撤退するレユニオンに疑問を持ちつつ、戦況を見極めるため、辺りを見渡す。

 

 そこで、見たのだ。

 

 片羽の黒い翼を大きく広げ、様々な動物を使役する小さなレユニオンの兵士を…。

 

 そして、その兵士は空中に紋様を描き…紋様から巨大な焔が地面をどろどろに溶かしながらこちらを飲み込むように進み始めた。

 

 「全員退避!近づければ熱に殺されるぞ!」

 

 チェンが近衛局の兵士を連れ後方へ撤退を始めるものの、巨大な焔はそれを許さないかのように分裂を始め、速度を増す。

 

 このままでは、全てを呑み込むだろう。

 

 「皆さん!私の背後へ!」

 

 そう、啖呵を切ったアーミヤがその焔を防ぐようにアーツを起動する。

 

 そして、アーミヤのアーツが多少の被害を出しながらも焔を消失させた瞬間、その背後から大きな白狼に跨がりながら一人のレユニオンがクロスボウを放ちながら、突撃してきた。

 

 だが、クロスボウの矢は先が潰されているようで喰らったものは気絶する程度で済んでいるみたいだ。

 

 「ここから、先は…立ち入り禁止。通るなら、命を支払って」

 

 「フォルト…!貴方、本気なのね!?なら、こっちも容赦出来ないから!」

 

 いち早く動いたフランカの刃はフォルトに刺さることなく、白虎の身体に止められた。

 

 そして、白虎はフランカへ襲いかかる。

 

 「この…!」

 

 正常ではない筋肉量の白虎にフランカは防戦一方だ。かろうじてリスカムとテキサスのカバーが間に合った。

 

 「フランカ…前に出すぎ」

 

 「…チェンさん、フォルトさんの相手はロドスが行います。なので、ミーシャさんの奪還を任せてもよろしいですか?」

 

 「…分かった。ここは頼む…総員、迂回してレユニオンを叩くぞ!」

 

 「─あっちはお願い。ロドスは、僕一人で足止めする」

 

 フォルトは誰かへ、通信をしながら4匹の動物を手元へ戻す。

 

 そして、何かを喋り…目が怪しく光る。

 

 「フォルトさん…今すぐ降参すれば手荒な真似はせずに済みます。ですから、武器を捨ててください」

 

 「こちらこそ、そっちが降参すれば…みんなを傷つけずに済む。だから、降参して」

 

 「残念です…。ただそれなら、拘束させてもらいますね?フォルトさん♡」

 

 「あ、アーミヤ…?なんで喜んでるんだ…?」

 

 様子が変なアーミヤは何処か光悦したような表情でフォルトを見つめる。

 

 その視線が恐ろしいのかぶるりと身体を震わせ、フォルトはやるしかないと腹を括ったようだ。

 

 「憤怒の悪魔よ…僕へ、力をよこせ…!」

 

 アーミヤに似た色のアーツがフォルトの身体へ纏う。

 

 そして、4匹の動物と共にフォルトはナイフを取り出した。

 

 


 

 「ねぇ、フォルト?貴方が、私に勝てたこと無かったでしょ…?お願いだから、こんなことやめましょ…?」

 

 「…そうだね。フランカ、確かに勝てたこと無かった。けど、今は戦わないと…いけない理由がある」

 

 手に持ったナイフでの攻撃は容易く逸らされる。だって、手が震えているのだから。

 

 その上、白虎の対応をしながらリスカムは嫌なタイミングで援護をしてくるのだ。

 

 「フォルトさん、どんな事情があるのか分かりませんが私達は貴方の味方です。ですから、せめて事情を話してくれませんか…?」

 

 それに…リスカムとフランカの悲しい顔が心を抉ってくるのだ。

 

 そして無意識下で、傷つけたくないという気持ちが攻撃を軟弱にする。

 

 「…っ!貴方にとってロドスは家なんでしょ!?それなのになんで…!」

 

 「別に…何でもいいでしょ、フランカには…関係ない」

 

 「…あるに決まってるでしょ!?リスカムも私も、貴方を弟みたいに思っているんだから!」

 

 そう言いながら振るうフランカの刃も何時ものキレがない。

 

 それこそがその発言が本当のことを言っているのだと、そして彼女の心を傷つけるのだと教えてくる。

 

 だけど、そんな状況でも白虎に対してはフランカもリスカムも正確に対処していて、リスカムの射撃で白虎は白い粒子になって消失した。

 

 その上…エクシアを狙う鷹も落とされたみたいだ。彼女の視線がこちらへ向けられる。それは、何処か罰が悪そうな視線だった。

 

 「そうだ…フォルト…私があの時、あんな道選んだから怒ってるんでしょ…?あんな目に遭ったから…そうでもなきゃ、フォルトがロドスを裏切ったりしないもん」

 

 「…それは違うよ。別にあれはエクシアのせいじゃないし」

 

 何故か、泣きそうな顔で話すエクシアは勘違いをしているようだ。

 

 だが、今はその間違いを正す暇はない。今持てる最大火力を…

 

 そう思い、詠唱を唱えようとするとアーミヤのアーツとテキサスの刃がその隙を狙ってくる。

 

 じりじりと戦況は負けへと傾いていく。

 

 やっぱり、勝てるわけないか…。

 

 真っ白い毛が血で汚れて今にも倒れそうな狼を撫でる。

 

 4匹の動物は今ではこいつ一人だ。

 

 僕も、怪我は無いけど残ってる武器はナイフ一本だけ…まぁ、時間は稼げた。

 

 ただ、こんなに何も出来ないとは思わなかったな…。

 

 「フォルトさん…もういいでしょう?降参してください」

 

 最後の慈悲のように微笑むアーミヤは、何だか恐ろしい雰囲気を醸し出している。

 

 そう、それはまるで、ヤンデレとかそういう類いの感じの。

 

 「…ねぇ、アーミヤ…僕さ、scout部隊で、鬼ごっこ負けたことないんだ…。だから、バイバイ」

 

 懐に隠し持っていたスモークとフラッシュバンを投げつける。

 

 「…っ!エクシアさん!」

 

 「了解!」

 

 だが、視野が利いていないだろうにエクシアは正確に足を狙ってくる。

 

 狼が身を挺して守ってくれなければ動けなくなっていただろう。

 

 全身の力を脚へ込め、飛ぶ。その間近、アーミヤの叫ぶ声が聞こえた。

 

 「フォルトさん…!絶対に…絶対に逃がしませんから!」

 

 その声を無視するように撤退地点へと二度三度跳び跳ねる。

 

 そのうち、アーミヤの匂いも他のみんなの匂いも届かない位置まで離れられたようだ。

 

 それに、確かWとの合流地点がここだった…筈。

 

 早く着きすぎたかなと思い、身体を休めるため地面へ座る。

 

 だが、そこで力を使った代償が僕を襲った。全身への痛み、ぐるぐると頭を回る嫌な考えが幾つも混ざり合い、口から苦悶の呻きが漏れる。

 

 それに、一番力を借りた憤怒と色欲の代償が重かった。

 

 憤怒は、イラつかせるためか思い出したくもないあの過去とアーミヤ達が僕を蔑むような目で見つめてくる幻覚を寄越した。

 

 何も出来なかった無力感と大切なものを自ら壊してしまったという絶望。

 

 その上、アーミヤ達が僕を罵ってくる。その声は本物そっくりで言われてない筈なのに言われたみたい…。

 

 「許して、許して…ごめんなさい…」

 

 聞きたくなくて耳を塞いでも、その声は聞こえる。

 

 目を閉じても、その幻覚は見え続ける。

 

 逃げ場のない地獄がそこにはあった。

 

 「─ルト…フォルト!」

 

 「…やだ、やめて…」

 

 「あぁ、もう!何があったのよ!?早く正気に戻りなさい!」

 

 その声と共に頭へ衝撃が走った。

 

 だけど、そのお陰で幻覚も幻聴も無くなった。

 

 だが、今度は身体が熱くなった。ケルシーとの交わしたあのキスの時のように。

 

 「W…僕から離れて…」

 

 「はぁ?正気に戻ったと思ったら次は離れてってあんたどうかしてんじゃないの?」

 

 訳分かんないと呆れたようにため息をつくWが、欲しくなってくる。

 

 その唇を─その身体を。

 

 キモチワルイそんな考えが頭を占めていく。

 

 「おねがい…離れて」

 

 必死に理性で抗おうにも増幅された本能が理性を上回ろうとする。

 

 「…何よ、あんた興奮してるわけ?仲間を裏切って…私に?あらあら、最低ねぇ?アーミヤが今のあんたを見たらどう思うかしら」

 

 にやにやとこちらを見つめるその目がその声が、神経を苛立たせる。

 

 こんなこと思いたくもないのに…!

 

 「っ!…アーツの副作用じゃなきゃ、思わない。だから…離れて」

 

 「へぇ~?生意気なこと言うじゃない…?アーツの副作用がなきゃあんたを興奮させれない身体でごめんなさいね~?」

 

 何故かムキになったWは距離を詰めてくる。

 

 「ほら、どうしたいか…言ってみなさいよ」

 

 「知らない!早く、離れて…!」

 

 Wを見ないように目を閉じながら離れようとするがWは僕を抱き締めて離さない。

 

 Wは何がしたいんだ…?なんで、離れてって言ってるのに近づいてくるんだ。

 

 「なら、しょうがないわね…?私からしてあげるわ」

 

 僕の手を手で押さえ付けながら地面へ押し倒してくる。

 

 もしかしたらWも、色欲の影響を受けているのかもしれない。

 

 「やめて!W…多分僕のアーツの副作用に、当たってる。理性を、保って…?!」

 

 その言葉を口にした時、Wは唇を押し付けてきた。

 

 ケルシーとのキスと違ってWのキスは強引で僕の抵抗を無視するように舌をいれてくる。

 

 絡み合うのではなく貪るように。

 

 僕の息が続かなくなって抵抗してもWは離してくれない。必死で酸素を求めるように舌を動かしてもWを興奮させるだけだった。

 

 そして、クラクラと朦朧になって意識を手放しそうになった時、やっとWは口を離してくれた。

 

 必死に息を吸う。だけど、Wはそれを許さないかのごとくまた、口づけをする。

 

 頭がぐちゃぐちゃになっちゃいそうなほど苦しいのか気持ちいいのか分からない感覚が僕を襲う。

 

 でも、力が負けている僕はWが満足するまで身を任せるしかなかった。

 

 そして、ようやく許されたのは4度目のキスが終わる頃だった。

 

 僕の目から滴る涙が床を濡らし、Wは舌をペロッと舐める。

 

 その様子は淫魔ように妖艶で真っ白な顔が火照ってるのも相まって見惚れてしまった。

 

 「あら、まだして欲しいの?」

 

 「そ、そんな…訳ない。苦しかった、んだから。早く、離して…」

 

 あの変な感覚は、なんか…中毒性があるのかもしれない。

 

 だって、一瞬期待してしまったのだから…。

 

 だが、Wもやっと落ち着いたようで離してくれた。

 

 「ねぇ?フォルト、もし私の目的を果たしてくれたらあれより良いことしてあげるわ」

 

 Wの赤い瞳が、鋭い瞳孔が僕を見据える。まるで、獲物を見つめる獣ように。

 

 本当に。Wは、手を出してはいけない悪魔だったのかもしれない。

 

 朦朧とする思考の中でそう、後悔する。

 

 


 

 scoutが戻ってきた頃には、何事もなかったかのようにWは話を進めた。

 

 「それで、次の作戦を伝えるわ」

 

 「私の今回の目標はタルラの始末をすることってのは伝えたわよね?」

 

 「うん、聞いたよ」

 

 「ならいいわ。で、scoutはそれの手伝いを頼みたいのよ。あんたなら、騙し討ちは得意でしょ?」

 

 「あぁ、そうだな。だが、タルラに通るかは分からないからな?」

 

 「それは、こっちで舞台を作るからいいわ。それで、フォルトには、フロストノヴァを監視して欲しいわ。まぁ、タルラ襲撃の時に戻らないようにして貰えれば及第点ね」

 

 「そのために、スノーデビル小隊へ着いていきなさい」

 

 「それ、フロストノヴァは…許してくれるの?」

 

 「多分、平気よ。それに、あんたなんか暴れたって直ぐに殺せるだろうから脅威にも思わないじゃない?」

 

 ─むっ…事実だけどムカつく。確かに、詠唱すら許されなそうだけど…。

 

 「…分かった。それなら、一先ずフロストノヴァとの、合流を図るんだね」

 

 そう話しながら暗いトンネルを歩いていく。

 

 光が一切ないこのトンネルは、まさしく今のフォルトを示しているようだった…。

 

 


 

 「アーミヤ…それは、本当の情報なのか…?」

 

 ブリーフィング室で指揮を取っていた時、アーミヤからの緊急の連絡が来たときにはどんな問題が起きたのかと感じていたが…まさか、フォルトが裏切ったという報告だとは思いもしなかった。

 

 あの約束は…?あの言葉は嘘だったのか…?

 

 いや…あり得ない、あり得ていい筈がない。彼のあの行為が嘘な筈がない。

 

 未だに彼の温もりも愛も私の身体に刻まれているのだから。

 

 なら、ならば彼は誰かにアーツで操られているのか…それとも脅されているのだ。

  

 ああ、そうだ…きっとその筈なのだ。

 

 それで、ソイツは私から彼を遠ざけようと…奪おうとしているのだ。

 

 許せない、許せる筈がない。

 

 思わず、歯を噛み締めて口内が血の味に染まる。

 

 あぁ、これ程までの怒りは何時振りだろう。だが、今は怒りに呑まれている場合ではない。

 

 脅しかアーツで操られているのならば彼がロドスを裏切っていることで精神的に傷ついているだろう。

 

 早く、助けてあげなければいけない。

 

 「アーミヤ、君はそのまま龍門との行動に専念してくれ。フォルトのことは、私に任せてくれ」

 

 それだけを伝え、レッドとヘリパイロットを、呼び出す。

 

 今は一刻を争うのだ。

 

 「待っていてくれ、フォルト。直ぐに君を助ける。…そう約束したからな…」

 

 彼の役に立てることに何処か嬉しいこの気持ちは歪なのだろう。

 

 だが、それでもこれが私の愛の形なのだ…。

 




次回はここで曇ってない人たちやヤンデレ化してない人を狙います。

それでは、ゆっくりお待ちくださいませ。
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