捨てられた都市で白い息が宙を舞う。
Wに連れられて来たこの場所は、チェルノボーグが捨てた廃都市らしい。
それ故か、源石が壁へ突き刺さっていたり、今にも崩れそうな建物が幾つか散見された。
─捨てられた都市、か…。ここにいた人たちは、一体…どうしたのだろう…?
ある建物は中が散らかされていた。…それは、身支度を直ぐに整えなければいけない理由があったからなのだろう。
無事に、逃げられたのならいいのだが…
そんな考えに耽っていると、急に立ち止まったWにぶつかってしまった。
「痛っ。…W、どうしたの…?」
その衝撃で外れた仮面を拾い、Wの視線の先を覗く。
そこには、会いたくない人たちがいた。
「…フォルト、さん…?」
自分の目を疑うように目を擦るジェシカと信じられないと顔を歪ませるメテオリーテ、裏切ったことへ憤りを感じているフロストリーフ。
その三つの視線が、フォルトを貫く。
思わず顔を歪ましてしまう。だが、バレないように顔に偽りの表情を張り付ける。
そうしなければ、彼女達を余計に傷つけてしまうかもしれないから。
「なんで、Wと…行動しているんですか…?」
ジェシカの純粋な瞳がキラリと光を纏う。流れ出そうな雫を必死に止めているようだ。
「…アーミヤから、聞いてない?…僕は、ロドスを裏切った。それだけ」
ニヤニヤと笑い離れたWを見送ってから俺は淡々と揺らぐ感情を見せないように答える。
「そんな、嘘じゃ…ないんですか…?」
「フォルト…冗談だって、言ってくれないかしら。今ならまだ、アーミヤだって許してくれるわ…」
二人の悲しそうな声が耳にこびりつく。こんな顔を、させるつもりではなかったのに…。
そんな後悔はもう遅いのだ。だから、せめて…僕は悪役を演じる。
この先の戦いで彼女達が傷つかないように…。
「嘘でも、冗談でもない。これが真実だよ。…僕は、裏切り者だ」
仮面を被り二本のナイフを取り出し、三人へ向ける。
その瞬間、目の前に飛び出したフロストリーフが斧を振り上げる。
それをナイフで受け止め、弾き返す。だが、直ぐに接近してきて、またがむしゃらに斧を振り回す。
「フォルト…!何故、何故裏切った!お前は、そんなことをする質ではないだろ!?」
強い、強い感情が乗った斧は段々と重さを増していき、それに伴って、彼女のアーツが周囲の熱を奪ってくる。
「フロストリーフに、僕の…何が分かるの!」
負けじと力を込めて押し返す。しかし、その隙を狙ってメテオリーテの矢がナイフ目掛けて飛んでくる。
間一髪で身体を捻らせ、避けるがその時にはフロストリーフが斧を構えていた。
上段から振り下ろさせた斧はナイフで受け止めた腕を痺れさせ、思わず膝を付いてしまう程の火力があった。
「分かるに決まってる!お前との会話で、お前の好きな音楽でこんなことが嫌いだって…!」
冷気にやられ仮面にヒビが入る。そして、一部がかけ視野が広くなった目に、彼女の苦虫を噛み潰したような表情が写った。
「憤怒、吹き飛ばせ!」
自身への怒りを込めた渦巻いた炎がフロストリーフを吹き飛ばす。
それに合わせてナイフを投げつけ、クロスボウへ持ち変える。
そして、横から飛んできたメテオリーテの矢をバックステップで躱し、斧へ矢を打ち込む。
だが、フロストリーフはナイフを斧で弾き、矢をアーツで折った。
そんな、埒が明かない戦闘に一筋の冷気が吹き込んだ。
その冷気は空気中の水分を凍らせ雪を降らし、道路を…建物を凍らせる。
「スノーデビル…!?メテオリーテ、ジェシカ逃げるぞ!」
焦った様子で走り去ろうとするフロストリーフがその場で立ち止まってしまっているジェシカの手を取って走る。
「嫌…!フォルトさん…!」
泣きながら手を伸ばすジェシカのその手に手を伸ばすことは出来ない。
ズキズキと痛む心を落ち着かせながら、離れていく三人を見つめる。
「あら、戻りたくなったのかしら?」
「そんな、ことない。それで…W。あの人が、フロストノヴァ?」
防寒着で着込んだ兵士の中心にいる白い兎はこちらを鋭い瞳で俺の心を見透かそうとしてくる。
それが嫌で、Wへ顔を向けて質問をする。
「えぇ、そうよ。少し話してくるからここで待っときなさい」
その言葉に頷いて、破損した仮面を取り外す。
破損した仮面は右目の辺りが割れており、大粒の涙を流しているようだった。
それが、俺の、イシンのその心を表しているようでポツリと積もった雪に滴が落ちる。
だが、Wのこちらを呼ぶ声に応えるため、拭い仮面を取り付ける。
「お前が、フォルトか。ロドスを裏切った裏切り者だと聞いたが…それは本当か?」
俺の瞳を覗き込むように問うフロストノヴァは、心を偽ることを許さないだろう。
その俺を見据えようとする視線に真摯に応える。
「本当だよ。僕は裏切り者」
「それは、Wに脅されてか?それとも、自身の意思によるものか。どちらだ」
「それは…両方」
「そうか、…分かった。お前の同行を許可する」
あっさりと許可されて困惑しているとスノーデビル小隊の一人がプロテクターを持ってきて、渡してくる。
「もしかして、始めから…決めてたの?」
「いや、初めは殺してもいいかと思っていた。だが、君のその瞳が昔の彼女にそっくりだったからな」
「彼女…?分からないけど、よろしく…フロストノヴァ」
握手をしようと伸ばした手を困ったように見て、フロストノヴァは少し寂しそうな顔をしていた。
─そういえば、フロストノヴァは身体が冬のようになってるんだっけ。不味いことしちゃったな。
「すまないが、握手は出来ない。私の手では、君の手を凍らせてしまう」
「アーツの、悪影響?…でも、それなら…対処法があるよ。フロストノヴァ、少し信じて…手を差し出して」
真っ直ぐな瞳でフロストノヴァを見つめそう言うとフロストノヴァはWを横目で眺めてからゆっくりと手を差し出してきてくれた。
その手に、自らの手を近づける。そして、呟く。
『■■■■■、手に触れる冷気を吸収して』
その状態で、フロストノヴァの手に触れる。
すると、少し温い体温が感じられた。それに、ブレイズのような、誰かを守るために努力したであろう手の感触を。
「…暖かい。まさか、この身体になっても人の温もりを感じられるとはな。…ありがとう」
感慨深く、握って離してを繰り返して手を動かすフロストノヴァは…なんだか色も合わせて月下美人のような儚さを感じられた。
「姉さん、良かったじゃないか!」
次々に喜びの声を挙げるスノーデビルの皆を見ているとフロストノヴァは、彼らに物凄く信頼されているのだと感じ取れる。
それを、眺めていると何処か寂しそうな顔をしているWが話し掛けてきた。
「結構、気に入られたみたいじゃない。良かったわね」
何故そんな顔をしているのか。俺にもイシンにも分からなかった。
だけれど、この悪魔も人であることは間違えないのだろう。
今を見て過去を憂うことが出来るのだから。
「W…辛いことが、あったの?…平気?」
たが、Wにとってはイシンの心からの心配は無用の物だったのかもしれない。…いや、それとも自らの過去に触れられるのが嫌だったのかもしれないが。
「…私はあんたの戦友を殺したのようなものよ?何で、そんなやつにあんたはそんな声が掛けられるのかしら」
嘲笑するように、こちらを煽ってくるWは何だか酷く歪なように感じられた。
それは、俺が過去で見てきた何かを喪い彷徨った人たちのように。
「いま思えば…scoutが、Wを見る目は…恨んでなんかなかった。それが、何でかは…分からない。でもね、それでWも結局は…この戦いに、テラという大地に…巻き込まれただけ、なんだって思った。だから、僕はWを恨まないよ。皆もそんなこと、望まないだろうし、ね」
「ふん、私が本当に殺戮を楽しんでないと思っているのならそれは間違いよ。ただ…。いえ何でもないわ。私はそろそろ行くわ、まだやり残したことがあるから」
その心に近づくことすら、拒絶されてしまった。Wの長く偽りという氷で凍りついたその心を理解する日は来るのだろうか。
去り行く背中を見つめながら、俺の頭は次の展開を思い描く。
フロストノヴァが生き残る未来を、誰もが死なずに幸せになれる理想な世界を。それこそが唯一イシンの救いのためになるのだから。
短めです。
次の展開に悩みがあるので更新が遅れるかもしれません。
少しお待ちいただけると助かります
アークナイツのアニメ分のところが終わったらこの先はアニメ化を待つかどうか。待つ際はifや日常を書く
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