救いのために   作:ヒナまつり

28 / 41
18話 前編

 

 彼女達の生きた証と共に、フロストノヴァとの合流地点へ向かう。

 

 ─僕は…どんな顔をして、フロストノヴァに、会えばいいの?

 

 ─彼女に託されたのに、守ることが出来なかった。彼女も、絶対に助けたかった筈なのに。

 

 無力感、自身への怒り…悲しみ。色んな感情がぐるぐると周り続ける。

 

 あの、暖かい風が慰めてくれたのに…心の濁りは消えることはない。

 

 ─契り、約束、それらを守れたことは、あったかな。結局、残るのは…僕だけ…みんな、みんないなくなる。助けたくて、頑張っても…伸ばした手は、届かないんだ。

 

 ─みんなは、道端に咲く花のように…消えていく。あんなに、力強く咲いているのに…刈り取られる。

 

 ─僕は、どうすればいいんだろう…?どうすれば…守りたい人を、守りたい物を奪われずに…生きれるの?

 

 合流地点へ後一歩のところでイシンの感情が流れ込んでくる。

 

 彼は、幼く柔い。そして、全ての出来事を自らのせいだと抱えてしまう。

 

 つまり、何であれ…救えなかった以上、彼にとっては自らの罪となるのだ。

 

 それが、どうしようもなく手を出せないような物でも、運命に定められていたとしても。

 

 だからこそ、俺は彼にとっての救いとなる道を示そうとしたのだ。…常に自らを責め続ける、哀れな子羊のために。

 

 だが、この世界はそんな願いを赦してくれるほど優しくないみたいだ。

 

 今だって、泣き続ける彼の頭を撫でることも、慰めることも出来ない。

 

 ただ、感情を共にすることしか俺には出来ないのだ。

 

 だから、今は歩き続けるしかない。フロストノヴァの元へ。

 

 


 

 「…フォルト、アレックスとミーシャはどうした?」

 

 閑散としたビルの隙間から、ゆっくりと歩いてきたフォルトへそう問う。

 

 「…ごめん、助けられなかった…僕の、僕のせいで…みんな、死んじゃった」

 

 深海を思い浮かばせる碧い彼の瞳は腫れ上がり虚ろで手にしたアレックスの仮面とミーシャの物である何かを私の元へ持ってくる。

 

 泣いていたのだろう、いや…今も泣いているのだろう。

 

 私にはどうすればいいのか、分からない。泣きじゃくる子供へ出来ることなど─っ。

 

 そうか、ボジョカスティは…奴はあの時の私を見てこの感情を抱いたのだろうな。

 

 まさか、私もすることになるとは。

 

 彼を傷つけないように、防寒具で皮膚を隠しながら…彼を抱きしめる。

 

 愛おしいものを、か弱いものを抱くように。

 

 フォルトは初めは驚きで身体を固めたが、直ぐに私に身体を委ね、声も出さずに泣き出す。

 

 「よく、彼らの亡骸を持って帰って来てくれた…フォルト、ありがとう」

 

 「でも…でも、助けられなかった…僕が、強かったら…力があったら…」

 

 「無いものをねだっても意味はない。それにフォルト、お前は彼らを助ける為に頑張ったのだろう?」

 

 「うん…頑張った、使える力は全て、でも─」

 

 「戦士ならば、死を迎えるのは覚悟しているものだ。そして、戦士の多くはその死すら認識されないもので、生きた証が残されないものだ」

 

 「だが、フォルトのお陰で彼らの生きた証が残った。空の墓を作り、空虚なものに祈ることが無くなった。それを、君は意味がないと思うのか?」

 

 「…思わない。けど、助けたかった…の」

 

 「ああ、そうだな。ならば、次こそは助けれるよう努力を続けるんだ。技を磨き、強くなれ。それだけが生者に出来ることだ。分かったか」

 

 「…うん、うん。…分かった、ありがとう、フロストノヴァ」

 

 ほんのりと暖かい彼の体温が離れる。それを恋しくて伸ばそうとする手を止める。

 

 光に照らされた、彼の瞳からはもう濁りは取れたようだ。

 

 「フォルト、もう平気か?」

 

 「うん…もう大丈夫。今度こそ、守れるように…頑張る」

 

 だが、まだ危うい。これは…治せないほど深くの傷だろう。

 

 見守ってあげれなければ、せめて、私が生きれる後少しの時間は…。

 

 


 

 「おい、フォルトもう少しゆっくり動け。一人でも多く助けたいのは分かるが龍門の近衛隊にでもバレたら、誰一人守れない。分かったか?」

 

 「…?バレないよ、それだけは自信ある。でも、そうだね。みんなと合わせる…仲間だもんね」

 

 黒い霧が溢れる路地裏を縫いながら走る…その背後には、スノーデビル小隊の数人と数多くのレユニオン、感染者がいた。

 

 今は、黒装束からレユニオンと感染者を守るために案内している所だ。

 

 「それで、これからどうするの?」

 

 「それは、姐さんと合流してから話す。それより、今は警戒をしろ」

 

 「…分かった」

 

 感染者、非感染者の河が流れていく。それを見守っていると何処からか寒い風が吹く。

 

 何かと振り返ると、ビルを越える大きな、それは大きな氷の山があった。

 

 「フロストノヴァ…?何かあったみたい。行ってくる」

 

 「ちょっ!待てって持ち場から離れるなよっ!」

 

 嫌な予感がした。何が失われてしまうような、そんな予感が。

 

 だから、ごめん…後で怒られるから離れるの許してくれ。

 


 

 「それで、飛んできたのか?あのな?俺だってある程度は戦えるんだからな?」

 

 「むむ…でも、嫌な予感がしたの。でも、予感通り、フロストノヴァは…もう、限界なんでしょ?」

 

 「分かるか…そうだよ、姐さんはもう…余り生きられない。鉱石病のせいで…」

 

 ポツりと呟くベトロワの顔は苦しそうな顔で、フロストノヴァを覗いている。

 

 死んで欲しくない、そう思っているのだろう。

 

 「なぁ、フォルト…一つだけ、叶えて欲しい願いがあるんだ。それは、お前に苦痛を与えるだろうし…絶対にお前は進んでやりたいことではないんだが…すまない、叶えてくれないか?」

 

 何時にもなく真剣な眼差しのベトロワは、何処か狂気的な瞳で、俺を見る。

 

 それは、俺に害するとか…そういう類いのものではなかった。…どちらかというと、悪魔との契約を行ってしまうような、そんな危うさを含む瞳だった。

 

 だから、俺は…元聖職者として、彼の願いを聞いた。

 

 「…汝、求めることを語れ。さすれば、それは叶うだろう」

 

 「ふっ…なんだそれ?まぁいい、俺の願いは…姐さんと一緒に、ここから逃げてくれ。…そして大旦那と姐さんを会わせてやってくれ。お前の力があれば、姐さんはまた大旦那と抱擁ぐらいは出来るだろ。…それで、叶えてくれるのか?」

 

 「そっか、それって…皆を見捨てろってこと?」

 

 「ああ、俺達は龍門の部隊の足止めをしないといけないからな。そうしなきゃ、皆…殺されるだろうからな。ただ、俺は…お前に見捨てろっていうわけではない。俺の、スノーデビルの願いを、想いを持っていって欲しいんだ」

 

 「想いを…?」

 

 「ああ、姐さんに幸せになって欲しい。その想いをお前に託す。だから、お前には俺達のトランスポーターになって欲しいんだ。それこそが俺らの生きる理由で死ぬ理由だ。頼めるか」 

 

 「…そっか、うん…託された。…ねぇ、僕にとって、スノーデビル小隊はさ、輝く太陽に見えたよ。こんな世界になったって、思いやりを忘れないで…助けれる人を、命懸けで助けて…」

 

 思いつく限り、言葉を伝える。涙と、嗚咽で聞き取れるかは分からないけれど…それでも、この想いを最後に伝えれないなんて嫌だったから。

 

 ─本当は、みんな助けたい。ベトロワも、ビッグベアにも小隊のみんなにも死んで欲しくない。

 

 ─でも、フロストノヴァが言った。無い物ねだりをしたって意味がないって。それに、戦士ならば死を迎えることは覚悟しているものだって、だから…僕は、scoutの約束通り、戦士の…彼らの意思を尊重する。

 

 ─だから、後悔しない。平気だよ、"エディドヤ"

 

 …分かった、イシン。ならば、元聖職者として…頑張ろう。

 

 「くくっ、お前…酷い顔してるぞ?はぁ…笑った笑った。でも、姐さんにその顔は見せるなよ?」

 

 「…うん、分かった。ねぇ、ベトロワ…またいつか、会おうね?」

 

 「ああ、またいつか」

 

 


 

 なんだ…?暖かい…。それに…この匂いは…。

 

 フォルト…か?なぜ、私は背負われて…?なぜ、力が…戻ってる…ベトロワは、ビッグベアは…?

 

 「…ん?…フロストノヴァ、起きたんだ。ごめんね、このまま…大旦那に会いに行こう」

 

 …そうか、彼らは。

 

 「フォルト、下ろせ。…私には、果たさなければいけない約束がある─ゴホッ、ゴホッ」

 

 「嫌だ…僕は色々、託されちゃったから。だから、暴れないで」

 

 「お前にも…関係あることだ。それとも、彼らの願いは聞けて…私のは聞けないとは言わないだろう?」

 

 困ったように、頬を搔きながらフォルトは私を慎重に床へ下ろす。

 

 「フロストノヴァ、僕は…彼らとの誓いも、果たさないといけない。だから、もし…フロストノヴァに…何かあったら手を出すから」

 

 「それに、僕は…フロストノヴァの力に…なりたい。その想いを、許してくれるなら、僕も…許す」

 

 なんだ、少し寝ていただけなのに…彼は成長している。いい、戦士の顔だ。

 

 「そうか。フォルト、力を貸せ…私の願いを叶えるために」

 

 「…うん、分かった。それと、フロストノヴァ…戦うとき、僕に遠慮しないで、本気出していいから」

 

 「分かっているのか…私が何をするのか」

 

 「…分かってる。ロドスと、戦うんでしょ?」

 

 「ああ、そうだ。…何故とは聞かないのだな」

 

 「その気持ち、僕も…分かるから。僕の家族も、気がついたら、死んでた。それも、生きろって…呪いを残して」

 

 「そうか。すまない、君に─」

 

 「言わないで、僕は…いま、フロストノヴァの部下だよ。ロドスじゃない。だから、ね?」

 

 「ふふっ、そうだな。行くぞ…フォルト」

 

 「うん、隊長」

 

 


 

 ある広場で、スノーデビル小隊と近衛隊が戦っていた。

 

 でも、それはほぼ虐殺で…最後に残ったベトロワは、滅多刺しにされて、流れ出た血が地面を染める。

 

 「そんな、嘘でしょ…?だめ、だめぇ!」

 

 「ブレイズ、やめろ。彼らの死を侮辱する気か?お前は何のためにこの戦場にいるんだ?」

 

 飛び出していきそうなブレイズを止めたのは、Aceだった。そして無理矢理、ブレイズと目を合わせて問う。

 

 「…っ!私は、私は感染者の力になりたくて─」

 

 「違う、それはお前が戦場に立った理由だ。俺が言ったのは今、お前が何故この戦場にいるのかだ」

 

 「…Ace、私は…私は、ここ、龍門からレユニオンを退けるため」

 

 「なら、次やることはなんだ?」

 

 「下層フロアに逃げ込んだレユニオンを追うこと」

 

 「そうだ、きっと…そこに彼女はいる。フォルトと共にな」

 

 「そうだね…うん、よし!それじゃあ行こっか、ドクターも来るんでしょ?」

 

 「ああ、彼女とフォルトには…約束したから。それにしても、ケルシー…君も来るとは」

 

 「…フォルトは私の患者だ。彼の後始末をすると言うなら私が向かわなければならない。それだけだ」

 

 「そうか。じゃあ、行こう。彼らとの約束を果たすために」

 

 


 

 「また会ったな、ロドス」

 

 「久しぶり、皆…」

 




次で局部壊死篇完結です。いやぁ、長かった。そして、めちゃくちゃ楽しかった。

次の話が終わったら多分日常回をある程度書いていくと思います。

それと、リクエストのやつをそろそろ書き上げれそうなのでもしかしたらそっちを出すかもしれません。

まぁ、とりあえず言いたいことは…ここまで長い間読んでくださりありがとうございます。

そして、これからも読んでくだされば嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。