救いのために   作:ヒナまつり

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3話

 

 暖かな風と共に何かに揺すられる感覚で、薄れていた意識が覚めていく。

 

 目を開けると、微笑みながら僕を起こそうと揺らしているパフューマと目があった。

 

 パフューマの橙色の瞳が柔らかに僕の顔を見つめ続けているのが少し気恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。

 

 でも、その態度ですらパフューマは、楽しそうに見つめていた。

 

 「ふふっ、おはよう…フォルトくん?いい夢は見れたかしら…?」

 

 「…なにも、見てないよ。僕に、夢になる記憶は…ないから」

 

 「あら、私とここでお茶したことは夢になる程度のことではないってことかしら?うぅ、お姉さんとっても悲しいわ…。でも、…もう悲しい夢に苦しめられることは、なくなったのね…?」

 

 わざとらしく泣いた振りをしながら、こちらをチラチラと見てくるパフューマは、何処か寂しそうな瞳で僕を見ていた。

 

 何でそんな顔をするのか、僕には分からなかったけど…そんな瞳は何だか僕の心をモヤモヤにしてくる。

 

 そんな思いは、僕の身体を無意識に動かしてパフューマの手を握っていた。

 

 「…わっ、ごめん。勝手に、手が動いて…。でも、その。パフューマ?…そんな、顔しないで?僕、パフューマの笑顔が見たいな…?」

 

 「…ふふっ、そうね…もう大丈夫よ。ありがとう、フォルトくん。こういう…優しい所、変わってないのね……あっ、そうだ…ケルシー先生が執務室にフォルトくんの事を呼んでいたわよ?」

 

 「猫さんが…?そっか、分かった。僕、行ってくるね…?」

 

 そう言い席を立とうとした時、服を引っ張られる感覚と共に甘い香りと暖かさが僕の身体を覆う。

 

 見えないけれどきっとパフューマは、後ろから僕の事を抱き締めていた…少し震えている身体で。

 

 「…どうしたの…?なにか、あったの?」

 

 「…ねぇ、フォルトくん。私はね…ずっと、ずっとここにいて欲しいの。だってフォルトくんは記憶を失ってどうせ皆のために無茶をするもの。それで、今度こそもう…帰ってこないかもしれない。それが私は怖いの…怖くて貴方を閉じ込めてしまいたいぐらいに…!それなら、そもそも貴方に戦いなんてして欲しくないの…。今なら、ただの患者として此処に居られるわ…だから、私の手を取って…フォルトくん…!」

 

 弱々しい声で呟く彼女の声は震えていた。だけど、何処か闇を含んでいた。心の底から僕が戦いになんて行かないでと願い望んでいるのだろう。

 

 きっと、ケルシーが僕を前線に復帰させるとパフューマに伝えたのだろう。

 

 死にかけた上、記憶を失ってで帰ってきた僕を心配するがゆえに記憶がなくなって戦う理由を無くした僕を留めることにしたんだ。

 

 …ズキリと、胸が痛んだ。トゲが刺さったように。

 

 でも、何故か分からないが僕はその望みだけは聞き入れられないと感じた。いや、この望みを受け入れたら僕が僕じゃなくなってしまうと恐怖が襲ってきたのだ。

 

 きっと、きっと僕が生きる世界はこんなに綺麗で透き通った場所ではなく、血と悲鳴で赤い泥にまみれた戦場なんだろう。

 

 でなければ、こんなにも…幸せが恐ろしい筈がない。こんなに望まれている手が取れない訳がない。

 

 「…ごめん、ね?パフューマ…それだけは、出来ないんだ。でも、生きて帰ってくるよ…?君が、そう…望んでくれるなら。何を犠牲にしたって…ね?」

 

 「それじゃ…意味がないのよ…私はフォルトくんには幸せになって欲しいの!ただ、ただ幸せそうに花を愛でる君が、私は大好きなの!彼女たちの言葉を私に教えてくれるフォルトくんが大好きなのよ!」

 

 「でも、でもある日の戦場で殺されかけた仲間を守るために誤って人を殺してしまったの。その日から、フォルトくんはが二度と素手で花を触らなくなったの…きっと、きっと手が汚れてしまったと思ったのでしょうね…?」

 

 「それから、フォルトくんは…人を殺すことに躊躇しなくなったわ、他の誰かが死ぬぐらいなら…僕以外の人の手が汚れるくらいならって…!」

 

 「私は…もう何時も苦しそうに彼女たちを触るフォルトくんは…もう見たくないのよ…!それに、記憶を失ったのなら戦場なんて知らない方がいいわ…きっと、優しいフォルトくんは心を痛めてしまうから…ね?だから、お願い…私の話を呑んで?…ずっと、ずっと私と此処に居て…ね?…お願いよ…」

 

 彼女は、頼れる大人だと思っていた。一人で立てるような強い人だと…でも、違ったのかもしれない。

 

 彼女も、きっと苦しんでいたんだ。どんどんと傷付いて帰ってくる僕を見て。

 

 でも、きっと過去の僕はそんな周りを見えないほどに生き急いでいたんだろう。

 

 だから、パフューマは今の記憶を失って足場にすら立てない今の僕を閉じ込めてそんな苦しみの循環から遠ざけようとしているだろう。

 

 だって、彼女は彼女たちに愛されるような優しい人だから。

 

 …僕は、どうすればいいのだろうか…?身体は、そんな幸せを望んでしまっては駄目だと叫んでいる。でも、それと共にこんなに悲しんでいる人を無視することは出来ないと心臓を突き刺すような痛みで伝えてくる。

 

 グルグルと廻る思考は、暗く閉ざされた空白の先のレールを見ることは出来なかった。

 

 だって、それは無数に分かれていて先も見えないから。

 

 でも、でも…あの光になら、アーミヤになら…付いて行きたいと思えた。どんな暗闇にあったってあの人ならきっと、越えられるから。

 

 「…ごめん。僕は…彼女の…アーミヤの行く末を、見たい。その為にならきっと、どれだけ苦しくても、死なないよ。きっと、此処に帰ってくる。証拠に…今も、ここにいるでしょ?」

 

 「…ええ、そうね。やっぱり、フォルトくんは変わらないわね…私がどれだけ縋っても、見ているのは他の人な所が。はぁ…ちょっと自信無くしちゃうわね…?でも、そんなフォルトくんの心の隅に私が少しでもいるのなら、また見守ってあげる」

 

 「どれだけ傷付いて苦しんで、寝るのも辛くなっても私はフォルトくんの休む場所になってあげるわ。だから、帰ってきてね…?貴方が居ないこの場所は、貴方との思い出で溢れていて辛いもの…」

 

 「…分かった。次、帰ってきた時…その思い出についても教えて。僕も、パフューマと居たいから。だって、パフューマの側は…暖かくて、いい匂いがするから。此処に居てもいいって、そう思えるから…ね」

 

 そう呟いてから離れた、彼女の暖かさが恋しくなる心を抑えつつ、彼女の顔を見ないように外へ出る。

 

 扉の閉まる音の後に、雫の流れる音が聞こえた気がした。

 

 


 

 「来たか。…フォルト、瞳が腫れているようだが何かあったのか?」

 

 来た道を戻り、教えられた部屋に辿り着いたら黒装束の変な人とケルシーが書類を処理しながら待っていた。

 

 目敏いケルシーの気遣いが、少し痛くてはぐらかすように答えた。

 

 「…寝てたからかな。それで、猫さん話って?それとその人、誰?嫌な匂いするけど」

 

 「…ケルシー、もしかして私…臭いのかい?」

 

 顔が見えてないのに、ぎょっとした顔を想像出来てしまうぐらいに反応する彼の周りには、死の匂いが纏まりついていた。

 

 「ドクター、フォルトには君が犯してきた罪が見えるようだ。彼のアーツにある能力によってな」

 

 「罪…それは、ケルシーが私を嫌っているのと関係あるんだね…。…はぁ、私は何をしたのか覚えてないけど…取り敢えず、自己紹介をしよう」

 

 「私はドクター、鉱石病の研究者らしい…ってのも君と同じく過去の記憶を失っているんだ。まぁ、よろしくね」

 

 黒く差し出された手には、古臭い嫌な匂いと共に何処か神聖な光を帯びていた。

 

 死に取り憑かれた悪魔にも、皆を救う救世主にも見えるその手を僕は取った。

 

 何故だか、彼と僕は似ているように感じたから。

 

 「よろしく、ドクター。僕たちは…記憶を失った仲間、だね?」

 

 「ああ、私は君よりも記憶を失ってから長いから先輩だ。その件で困ったことがあったら相談していいからね?」

 

 「ん、じゃあ…いっぱい頼るね?ドクター…?」

 

 木の枝も折れない程力弱く握られた握手に困惑しながら、ケルシーを見る。

 

 彼女が何の用で呼んだのか、何となく分かるけど…彼女の口から聞きたかったから。

 

 「フォルト…もう勘づいているようだが、君にはレユニオンとの戦いに参加して欲しい。君のアーツも技能も今の私たち、ロドスには必要だ。…だが、記憶を失っている君が今どれ程の力を出せるか確認しなければならない」

 

 「分かった…。練習相手は、外にいる4人?」

 

 「あら、バレちゃったみたいね?索敵能力は下がってないみたいで良かったわねー?」

 

 「もう、フランカが扉の近くに寄ったからじゃないの?それとジェシカ?早く中に入って」

 

 「うう…リスカム先輩押さないで下さい…!!まだ心の準備が…!」

 

 「…ご機嫌よう、フォルトさん。わらわはパゼオンカですわ。きっとわらわのことも忘れてしまったでしょうがこれから、わらわの事を知っていただけると嬉しいですわ」

 

 扉から出てきたのは、強そうな人たちだった。そして、全員とも記憶には無くとも身体が反応する程度には、仲を深めたことのある人たちだったようだ。

 

 その証拠に無意識にまた涙が溢れ落ちていた。

 

 「あら、記憶を失っても泣き虫なままなのね~?よしよし、泣かないの」

 

 「フランカ…。はぁ…フォルトさん。辛かったんですね?記憶を失って…。でももう平気ですよ。私達は貴方の味方ですから」

 

 「なんで、だろ…?分かんない、でも…ありがとう」

 

 「…記憶はなくとも、身体の記録は消えてないみたいですわね?…きっともう会えないと思っていたから、安心して涙が出たのでしょう」

 

 「私も…もう、会えないと思ってました…。ですから、泣いてもいいと思います…。うぅ…」

 

 「…ふふっ、君が泣くの…?でも、そうだね。きっと、僕は最期に…みんなと会えないことを、悔いたんだね…」

 

 流れる涙に困惑しながらも心地よい感覚に身を任せる。固まった氷が溶けるように、僕の心のモヤは彼女達の暖かさに絆されて消えていった。

 

 そして、少しだけの会話を交わし改めて彼女達を見た。皆、僕より背が高いからリーチの差が目立つ。

 

 それに僕は元々、偵察や暗殺などを得意としていたらしいから、フランカと呼ばれた狐の彼女と正面から戦うとなると勝てないだろう。

 

 それに、リスカムと呼ばれた竜のような彼女の盾を突破するのも難しそうだ。

 

 その上、ジェシカとパゼオンカはかなり腕が立つ射手のようだ。きっと隙を晒せばすぐに撃ち抜かれるだろう。

 

 これは、勝つのは難しそうだ。でも、諦める訳には行かない。アーミヤのすぐ側で彼女の物語が見たいから。

 

 だから、今出せる全てをこの戦いで出そう。例え負けても利用の価値をドクターとケルシーに見せるために。

 

 


 

 「…ふぅ、ケルシー?…君は本当はフォルトに戦場に出て欲しくはないんだね…?」

 

 「何のことか分からないな、ドクター。私は彼の今の実力を計るために彼女達を集めただけだが?」

 

 「…そっか。分かったよ…でも、ここで実力を示したなら彼は次の作戦に必ず同行してもらう。これは、確定事項だ。君とアーミヤが警戒しているscoutに対抗するための唯一の対抗手段だからね。…ただ、私も何処か彼には戦場に立って欲しくはないと感じてはいる」

 

 「ドクター…それは、彼がまだ小さな子供だからか?それとも、彼の不安定さが戦場を揺るがす穴になる可能性があるからか?」

 

 「どちらとも…かな。それと、もう一つ…。まぁ、それは懸念点ってだけだけど…」

 

 「きっと、彼は記憶を失っただけじゃない…。まぁ私の目にはそう、映ってるだけかもしれないけどね」




めっちゃ遅くなりました。

理由は単純にスランプです。取り敢えず色んな作品に触れて回復してきたのでゆっくり再開します。

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