救いのために   作:ヒナまつり

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5話

 

 ロドスの訓練所、その一室で彼らは訓練をしていた。

 

 それは、ケルシーとアーミヤが龍門へ話し合いをしに行く間にフォルトの感覚を元に戻すためでもあり、ドクターが彼の実力を再確認したいからでもあった。

 

 「はぁ、はぁ…。次…!」

 

 「おう…遠慮せず来い!」

 

 フォルトがナイフを投げつけるがAceの盾が容易く受け止め、弾く。

 

 その隙を突くようにAceは距離を詰めようとする。

 

 だが、フォルトは体勢を崩しながらも反対の手からナイフを盾で隠せれない脚へ向け投げつけた。

 

 「フッ、甘いな…!」

 

 しかし、その刃はAceを傷付けることはなかった。

 

 Aceは、盾を振るう風圧でナイフを打ち落としたのだ。

 

 「…っ!燃えろっ!」

 

 フォルトのその一言で文字の刻まれたナイフが激しい焔へ変わる。

 

 それは、命令された通りにAceを燃やすため蠢く。

 

 「ほぉ、炎で視界を遮ったか。だが、狙いが分かりやすぎるんじゃないか?」

 

 Aceの瞳は不意打ちで炎を飛び越え矢を放ったフォルトを捕らえていた。

 

 「…でも、これなら、躱せないっ!…凍てつけっ!」

 

 「あぁ、確かにこれなら躱せないな?だがな、それなら氷を壊せばいいだけだ!」

 

 Aceは焦ることなく、絡みつこうとする氷をメイスで叩き割り、空中に浮くフォルトへ詰め寄る。

 

 だが、その動きは焔の後ろから飛んできた矢が爆発した為、止められた。

 

 「っ、視界を切った時か」

 

 「正解、だけど…なんで不意打ちなのに、それを受け止めてるの…?」

 

 「勘だな」

 

 おちゃらけたようにAceは答える。それに、フォルトは頬を膨らませながら不満を垂れた。

 

 「勘…。Aceって、僕と相性悪いよね…絶対」

 

 「あぁ、そうだな。だが、敵に俺のようなやつがいた時に相性が悪いから負けたなんて言ってられないだろ?」

 

 「むっ、その時はあのアーツ使えばいい」

 

 「そのアーツを使うことを許されたらそれでいいかもしれないがな…。そもそもアーツが自身の寿命を削ってることを忘れるなよ?」

 

 「ん…そうだね、じゃあ次は、勘でも防げないようにする…」

 

 「…いや、そこまで。少し休憩をしようか…君と話したいって人もいるからね」

 

 部屋の隅でフォルト達の戦いを見ていたドクターがそう言いながら歩いてきた。

 

 そして、その側には黒髪で大きな猫と白髪の小さな猫がいた。

 

 見た目は正反対の二人なのに何処か同じ気質を感じるその人達はフォルトへ近づいていった。

 

 それを見ていたAceは側に来たドクターへ怪訝そうな顔で声をかけた。

 

 「おいおい、あの二人と会わせるのはもう少し落ち着いた時の方がいいんじゃないか?あの二人は特にフォルトと仲が良かったんだぞ?」

 

 「しょうがないんだ。余り時間は残されてないから。それで、Aceから見てフォルトはどうだった?」

 

 「今は落ち着いているな。アーツを使う事態にならなければ優秀な兵士だ。だが、一つだけ懸念点がある」

 

 「死を見たときどうなるか分からないところ?」

 

 「あぁ、正解だ。ドクター、正直俺はフォルトを戦場に立たせるのはまだ早いと思っている。あいつはまだ記憶を失ったばっかりだ、戦場で咄嗟に正しい判断を出来る筈がない」

 

 「だけど、私達には彼が必要なんだろ?scoutが残したメモにそう書いてあったのを発見したのは君とケルシーだった筈だが?」

 

 「確かに俺達がフォルトの財布を回収した時に見つけたさ。だがな、あの内容を信じていいのか俺には分からない。scoutが、あいつがあの日フォルトを助けれた理由も、あいつが今回しようとしていることもな。ドクターだっておかしいと思っているんだろ?」

 

 「…確かに、私もそう思っている。だが、これが事実な可能性が1%でもあるならば私達は彼を戦場へ、彼のもとへ送り出さなければいけない。でなければ、ロドスもフォルトも共倒れになるかもしれないから」

 

 そのドクターの顔はAceが知る過去のドクター、冷酷な殺人マシーンになってしまっていた時とは違ってフォルトを思いやる顔であった。

 

 「…ふぅ、お前のそんな顔何時振りだろうな。…ドクター、フォルトとscout のことは俺に任せろ。お前はただ、この作戦で被害が一番低い方法を考えてくれ…な?」

 

 「…分かった。君に任せる、多分ロドスの中で一番彼らのことを知ってるのは君だろうし…君の助言は私にとって何度も助けになったからね」

 

 そのドクターの言葉を聞いたAceは過去のまだ殺人マシーンになってなかった彼を見た。

 

 そして、その影に過去の栄光を覗き見てしまった。

 

 それは、彼にとって忘れない出来事であり…後悔でもあった。

 

 だが、その感傷に浸る前にAceは前を向いた。もう変えられない過去よりも変化し続ける未来のために。

 

 「はっ、柄でもない。…ドクター、少し付き合ってくれないか?」

 

 「あぁ、いいよ。彼らも時間が掛かりそうだしね」

 

 


 

 僕は近づいてくる二人にどんな顔をすればいいのか分からなかった。

 

 それは彼女たちの纏っている雰囲気と僕の身体の記録から漏れでる感情からだった。

 

 それは、好きで大切な家族という気持ちと彼女達、特に白い小さな猫さんには弱っている姿を見せたくないという気持ちが混ざり合っていた。

 

 だから、必死に涙を浮かべないようにしていたし彼女達の言葉を受け入れる準備をしていた。

 

 だけど、そんな仮初の思いは大きな彼女に抱き締められた時に溶けて消えてしまった。

 

 「…君が生きてて本当に良かった。…全てを背負う必要なんてないんだから…私にも預けて欲しかったな。あはは、ごめん私らしくもないね、こういうのは。えっーと記憶がないんだもんね?私はブレイズ、フォルトの戦友だよ。また、よろしくね」

 

 悲しげな表情で僕を見つめる彼女の瞳を見つめ返して僕も漏れでる感情を曝け出した。

 

 きっと、それは記憶があった僕には出来なかったことだから。

 

 「…ごめんなさい、僕は…僕は皆に幸せになって欲しかったの。だから、皆に何かを…荷物を分けるのは、行けないこと…だってそう思ってた。だけど、だけど次は…僕の荷物…背負ってほしい。ブレイズなら、信頼できるって…僕の記録が、そう言っているから」

 

 ポロポロと溢れ落ちる雫をブレイズは拭いながら、満開の花のような笑顔を咲かせってこう言った。

 

 「フフ!…任せてよ!私はエリートオペレータのブレイズ、だからね!」

 

 「うん、うん!ブレイズ、頼りにしてる。…よろしくね」

 

 今さっきまでの悲しげな表情が嘘のように晴れ晴れした表情の彼女は後ろにいた白い小さな猫さんを僕の前まで連れてきた。

 

 猫さんは、少し俯いてその顔を見ることは出来なかったけれど、僕は彼女の気持ちを聞くために彼女の準備が出来るまで待った。

 

 どれぐらいの時間が経ったのか分からなかったけれど、彼女はその顔を僕に向けてくれた。

 

 垂れ下がった耳、涙を浮かべながら悲しそうに細める宝石の翡翠のような瞳。

 

 その全てが愛おしく感じた。そして、辿々しく呟く言葉に耳を傾けた。

 

 「…フォルト、私はロスモンティス。エリートオペレータのロスモンティスだよ…。私も、記憶をよく失くすの。それは辛くて、苦しくて…忘れられちゃった人も苦しそうで…。あれ、ごめんなさい、涙が…とまらないの。止まってほしいのに、この痛みが消えてほしいのに、消えてくれないの…」

 

 苦しそうに嘆くロスモンティスの身体を優しく抱き締める。

 

 ブレイズがしてくれたように、パフューマがしてくれたように。

 

 でもロスモンティスは更に声にならない涙を溢し続ける。溢れだした水が止まらないように、彼女の哀しみは止めどなく溢れていく。

 

 それを僕は受け止めた。ぎゅっと抱き締め返すロスモンティスの身体を受け入れて、頭を撫でる。

 

 きっと、ロスモンティスは僕の記憶から自身が失われた痛みが自分が皆に与え続けてきたものと同じだと気が付いてしまったのだろう。

 

 だから、僕に出来ることはその苦しみが解れるまで待つだけだった。

 

 それから数刻が経った頃にロスモンティスは、涙を止めて僕を見つめ直した。

 

 「ありがとう。フォルトは、変わらないね…。いつもいつも私に優しくしてくれる。辛いものを背負ってもそれを隠してまで。だから、今度は私がフォルトを守るよ。…だって私とフォルトは家族だから」

 

 「…うん、そうだね。僕らは家族だ。だから、一緒に歩んでいこう。ただ、守られてばっかりは…少し嫌だ。僕らは、家族なんだから、支え合いたい。ダメかな?ロスモンティス」

 

 その言葉にロスモンティスは少し驚いたような顔をして、また涙を落とした。

 

 だけど、それは嬉しさによるもののようで、そしてそのままロスモンティスは僕の頬にその小さな唇を押し当てた。

 

 「チュッ。にゃ。フォルト、嬉しい。私も支え合いたい。皆で、家族で一緒に歩んで行きたい。だから、勝手に枯れたら怒っちゃう。ずっとずっと一緒だよ…?」

 

 少し気恥ずかしいその言葉を噛み締めた。僕をここに繋ぐ鎖が増えることが、僕にとっては凄く嬉しかったから。

 

 だから、その想いに答えた。

 

 「…うん、分かった。ずっと一緒だ。ただ無茶はするかもしれない、だけど勝手には枯れないよ。だから、ロスモンティスも枯れないでね?僕もきっと、怒っちゃうから。君と、君を傷付けた人達に」

 

 ロスモンティスはその言葉を嬉しそうにメモしていく。ずっと、ずっと忘れないために。

 

 その健気さに、微笑んでいた僕とロスモンティスをブレイズは満面の笑みで一緒に抱き締めて来た。

 

 「フフ、私も一緒にね~?あ、でも私今回の作戦には行けないんだった…!?あ~もう!今からドクターとケルシー先生に行ってもいいか直談判してくる!」

 

 コロコロと表情を変えるブレイズが面白くて思わず声を出して笑ってしまった。

 

 それは、ロスモンティスも同じようでそれに少し不満そうに口を曲げていたブレイズも笑い出した。

 

 全員の笑い声が混ざりあう。こんな幸せな時間が僕に蓄積されていく。

 

 何もなくなってしまったと思っていたけれど、僕には皆がいたみたいだ。記憶がなくても、想いが消えても彼女達は、彼達は僕を見ていてくれる。

 

 そして、空っぽになった僕でもフォルトだと認めてくれる。

 

 それが、僕にとっては嬉しかった。

 

 あの日…起きた僕にとっては、見たもの全てが新しくて、勝手に溢れてくる想いが怖かった。

 

 皆の想いが怖かった。だってそれはフォルトに向けられているものであって僕に向けられたものじゃないと思っていたから。

 

 だけど、それは違うと皆が教えてくれた。

 

 だから、もう…過去を恋しく思うことはやめよう。僕はフォルトでフォルトは僕なのだから。

 

 そして、明日へ向かおう。皆が、アーミヤが望み描く明日へ。

 

 その為にも、一つ越えなければならない壁にケジメをつけよう。

 

 内側から囁き続けるこの、悪魔達とのケジメを。




皆さん!アークナイツのアニメを見ましたか!?
私は見てチェンとホシグマの語り合いがエモすぎて語彙力が消し飛びました。
いやーあれは相変わらず二人の関係性を察せられて良いですねぇ!
この作品では龍門の方々には余り日の目を当てられなかったので皆さんもアニメでよく見ていただきたいです!
極東スラングで何を言ってたのかも分かるのでね!
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