あーあ、ツイてないわねぇ。
作戦は完璧だった筈、なのにあいつが剣を地面に突き刺しアーツを使っただけであたしが置いた百余りの爆弾は炎すら立てずに溶かされた。
その上、保険で頼んでいたscoutの攻撃すらあいつは涼しい顔をして躱したわ。
あーあ、ほんっと嫌になるあたしの頑張った時間はなんだったのよ。
これならあたしはタルラの飼い犬になっていた方がマシだったんじゃない?
scoutに縋るフォルトみたいにねぇ?
「なぁW、これは作戦通りか…?」
「うっさいわねっ!作戦通りよ作戦通り!それよりさっさとあいつの首を取るっ…!」
その瞬間、あいつが手を振り上げた。その動作だけで何が来るか予測がついた。
だから、投げつけたオモチャを爆発させる。
それだけであいつのアーツはあたしを焼くことは出来なくなった。
だけどそれだけ。まさか、あたしの丹精込めた爆弾があんなに一瞬で焼かれるなんて予想外よっ!
scoutの矢もあいつを傷付ける前に焼かれて届かないしっ!
「あぁ、もう!これも全部フォルトが作戦通り動かなかったからよ!scout?!飼い主なら責任とってよね!」
「おいおい、無茶を言うなよっ!?俺だって自信満々に倒せるとかほざいてたお前に責任を取って貰いたいんだが!?」
「ふん、憐れだな。今になって責任を押し付けあうなど…我が炎は、貴様らの羽をすでに焦がしている。貴様らに勝ちはない。貴様らに明日はない。汝達は裏切りの代償を命で支払うのだ」
「うっわ、キッモい。聞いた?scout、居もしない群衆に話してるみたいよ?」
「だな。お姫様ならお姫様らしく淑女であって欲しいが…っ!?」
軽口を言っていたscoutは、タルラの接近に反応が出来なかった。
砕けた刃と血が舞う。
まさか殺されて無いでしょうね…?まぁscoutなら平気でしょうけど…っ!?
「…あんた、馬鹿力ねぇ?この龍女!」
振り抜いたナイフもオモチャもまるで効く気配がない。ただただ悪戯に消耗していくだけ。
まさか、タルラがここまでやるとは思ってなかったわ。
見誤ったのね、あたしが。
はぁ、あたしはここで死ぬのかしら。いえ、死ぬのね。
フォルトには悪いことをしたわねぇ。
このままじゃ、…scoutは私が殺したようなものね。ミーシャも、スカルシュレッダーも…あたしが甘くて、あたしの作戦で…殺した。
そして、それをフォルトへ見せてしまった。あいつは、その死をどう思ったのかしらね。
自分が助けた奴らが知らず知らずの間に死にかけてること、後悔したのかしら、それとも殺したアイツを恨んでるのかしら。
まぁでも、最後なら死よりも酷いものをプレゼントしましょ?
それなら、死も恐くないもの。
「それじゃあね、タルラ。scout、あんたなら逃げれるでしょ…?フォルトの為に行きなさいよ」
あぁ、あたしこんなこと言うキャラだっけ?まぁいいわ。
何でか分からないけど…あたしはフォルトに昔のあたしとテレジアの雰囲気を感じたの。
だから、きっとこんな変なことを口に出してしまうのよ。
「逃がすと思っているのか…?」
「だって、あんたはあたしと一緒に死ぬもの。それともなに?死んでからでも動けるのかしら?…それじゃあね、scout」
大きな火炎があたしとタルラを包んだ。大きな衝撃はあたしとタルラを吹き飛ばしてガラスを突き破りながらあたしは宙へ飛んだ。
ただ、予想外だったのはそのあたしを掴んで一緒に宙へ舞ってる奴が居たこと。
「…残念だが、W…お前にはやって欲しいことがあるんだ。簡単に死ねるとは思うなよ?」
「はっ、良いわよ。あたしはもうレユニオンのWじゃないもの。で…ここから助かる手段はあるのかしら…?」
「…まぁ、何とかなるさ」
「…あんた、バカなの?!それでも本当にエリートオペレーター!?あぁもう!捕まっておきなさいよ!」
「あぁ、頼りにしてるぜ?」
「…フォルト、行くのか」
アーミヤのスピーチを聞いてから医務室を出ようとしたところでフロストノヴァが話しかけてきた。
何処か憂いのある顔で、彼女の周りには雪が降ってるようだった。
「うん、行ってくる。…どうしたの?」
ちょっぴりと暖かい手が僕の頬へ添えられ、彼女の瞳が僕を見つめていた。
「フォルト、頼みごとがあるんだ。聞いてくれるか…?」
「うん、いいよ」
「フッ、せめて内容を聞いてから答えろ。悪いお願いかもしれないぞ?」
「フロストノヴァは、そんなことしないでしょ?」
「…はぁ、分かった。お願いと言うのは父さんの事なんだ。…きっと、父さんは私が死んだと思ってる。護符が割れてしまったからな」
そう言いながら見せてきた石の欠片には、切れてしまった綺麗な赤い紐がついていた。
ユラユラと揺れるそれは、何故か僕へ近づいて…僕とフロストノヴァに繋がった。
だけど、その先の彼女の父さんとは繋がらなかった。
「きっと、父さんはロドスを殺して…その名を背負ってタルラを止めに行く筈だ。そして、父さんは言葉なんかじゃ止まらない。頭が石みたいに固いからな。…あの人を止められるのは戦争だけなんだ」
「だから、フォルト。父さんがもし、ロドスと敵対する道を選んだなら、父さんを…パトリオットを殺してくれ。遠慮は要らない、というより…遠慮していたらロドスが負けるからな。フォルト、お願いしてもいいか…?」
その言葉には憂いがあった。彼女の本当の願いは違う筈だ。だけど、それを彼女は口にしなかった。だって…彼女が一番その願いが不可能だと知っているから。
「…分かった。でも、最後まで説得はする。…フロストノヴァ、本当の想いは…。いや、ううん…聞かないよ。それじゃ、行ってくる」
「…あぁ、生きて帰ってこい。私を置いていかないでくれよ?」
誤魔化すように冗談交じりに微笑む彼女は痛々しかった。だから僕は決めたんだ、どんな形であろうとこの不器用な家族を逢わせてあげるんだって。
「うん、それが…君の望みなら。…でも、フロストノヴァ…僕は理想を、追い求めたいし…君には笑顔でいて貰いたいな。…バイバイ」
「…卑怯だ。お前は、この荒んだ大地において理想なんてものは溶けゆく雪のように掴めないのにな…」
閉まる扉の音で彼女の最後の嘆きは聞こえなかった。だけれど、その色は…匂いはやけに僕の脳裏に写り込んだ。
移動都市を囲うように砂煙が舞う。周囲には他の記憶で見たオペレーター達がいた。
それに、アーミヤ、ロスモンティス、ドクター…ケルシーだって。
だから、恐くはない。僕は最後のscout小隊の一員としてscoutの意思とロドスの意思を背負って戦う。
ただ、それだけだから。
でも、何だかケルシーとドクターの間にモヤモヤが走っているのは、気になる。
何かあったのかな?
「フォルトさん、何かありましたか…?」
そう疑問に思っているとアーミヤが心配そうに僕を見つめていた。
アーミヤは、僕の感情の変化に敏感だ。彼女に、負担をかけないように…僕ももっとしっかりしないと。
「…いや、何でもないよ。それより、ドクターは…どうやって、あっちに移るの?」
「あぁ、確かに。私はこれの使い方は分からないし出来れば誰かに手伝って欲しいんだけど…」
ドクターは、ツールを興味深そうに見つめながらこちらを見てきた。
…でも、僕じゃドクターを抱えられないから、一緒には無理だろうけど。
「…私がサポートしよう。ドクター、君はあちらに潜入後の作戦でも立てておいてくれ」
「…あぁ、分かった。頼むよ、それでフォルトはこれ、使えるのかい?記憶を失ってから初めてなんだろう?」
「平気、記憶はなくても…身体が覚えてるから…ドクターだって、そうだったでしょ?」
「それに、もしダメでも私が手伝うから平気だよ、ドクター。フォルトは、私が守るから」
ぎゅっと優しくロスモンティスの手が触れる。その暖かさは僕の少しばかりあった緊張を解してくれる。
「わ、私もお守りします。ドクターも、フォルトさんのことも。誰一人死んで良い命なんて無いんですから…ね、フォルトさん」
な、何でだろう…ロスモンティスみたいにアーミヤの手も暖かい筈なのに、僕の心には恐怖が宿っているんだけど…?
「そ、そうだよね。僕もそう思うよ。…あっ、そろそろ…行く時間だね…?」
そう、怯えながら答えたら辺りを大きな光が照らした。
その光を反射させるのはとてもとても大きな船だった。
そして、その船には…幾つもの死臭と渦巻く暗い暗い夜が広がっているように見えた。
恐怖と絶望、それが雲となって日の光を遮っているのだろう。
だけど、その中心で僕を見つめる何かがいた。一番星かのように光るそれは、暖かな気持ちと決意を滲ませていて、懐かしい匂いがした。
「あぁ、きっと…これがscoutなんだね…」
思わず伸ばした手は砂煙すら手に取ることは出来なかった。
まるで、この先の未来を予測するかのように。
「…私がこんなことを言うのは珍しいかもしれませんが…皆さん、この光はきっと私たちに幸運をもたらしてくれます!」
アーミヤの言葉は、寒冷を癒す焚き火のように僕の心を温めてくれる。
大丈夫、僕たちなら、ロドスなら勝てる…そう信じさせてくれる。
だから、もう平気。この先に何があろうと…僕はアーミヤと背負った彼らの意思が、ロドスが側にあるのだから。
「フォルトさん、先に登攀したら小隊の皆さんと共に周囲の確認をお願いします」
「うん、分かった。scoutの代わり…ちゃんとする」
「フォルトさん、違います…。代わりなんて…」
酷く悲しそうな顔をするアーミヤを横目に僕たちは移動都市へ侵入した。
…アーミヤ、なんて言おうとしたんだろう?…駄目。今は戦場にいるんだ、いらない考えは捨てなきゃ。
「隊長?どうしたんですか?…まさか、敵が…?」
「…違う、少し考え事。大丈夫。ここには気配も、匂いもないよ」
「へぇー?やっぱり凄いね!そんな直ぐに分かっちゃうなんて!」
「…えっと、エリジウムだっけ…?君の配置はこっちじゃ、ないよ?」
白い髪に一部だけ赤い髪、そして戦場では鼓舞とかに使われる旗を持つ大きな男の人はスコーピオンと仲が良かったのか色んな記憶がある。
でも、その全てが彼はお調子者だって伝えてくる。
…少し残念な人、なのかな?でも、見たところ彼は優しい人みたい。
「いやいや、隊長に少し様子を見てくるように言われてね?それよりも、まさか百年に一人のイケメンと言われる僕を忘れていたのかい?!これは、一大事だ…隊長に報告をしておかないと…!」
「…」
「ちょっ、隊長?!いた、痛いっ!?分かりました、分かりましたって!…うぅ、容赦ないなぁ…フォルトも気をつけてね?僕達の隊長は気難しいんだ…って痛ぁっ!」
…ふふっ、暖かいな。彼の部隊は思いやりに溢れてるみたい。
あぁ、そういえば皆も僕が悩んでいたら、話しかけてくれたな。それに、今でも…僕の中で僕を守ってくれてる。
「各小隊、作戦位置についてください!これからの作戦では少しのミスも許されません。ですが、私は…私たちロドスならきっと乗りこれられると信じています!」
そして、始まった。僕の記憶を失ってから初めての任務が。
きっと、僕はこの日の戦争を生涯を掛けて忘れないだろう。
巻き込まれた幾つもの人に届く限りの救いをもたらし、幾つもの人から彼らの火を預けられたのだから。