任務開始から少し経ちアーミヤが別行動を取り始めた時、暗い中枢区域に黒い光が映った。
それは、悪意と怒り、そして少しの悲しみを糧に燃え、ゆらゆらとこちらに近づいていた。
そして、それらがレユニオンの兵士であることは彼らの身に纏う嫌な匂いで気がついた。
「ドクター…敵、こっちに来る。このままなら、10分後接敵する。数は15、それに軽装みたい」
「…凄いな、そんな正確に分かるのか…?」
「それが、仕事だから。それに、"視る"だけなら…この都市の全ては、見えるよ」
それは比喩ではなく彼らの籠める想いから出る匂いや光は僕の目には常に映る。
だが、それだけでは居ることは分かってもこちらに来る敵を視分けれないから一緒に音を聞いて聞き分けてるのだ。
「…フォルトは、索敵、偵察の分野ではロドスでも一握りしかいない程の実力の持ち主だ。それこそ、エリートオペレーターの候補に挙がる程にな。…ドクター、私は彼を君がどう扱うのかずっと見ている。だが、君がこの大地に起きている出来事を真摯に理解しようとしている限り私は君の行動になるべく干渉はしない」
ケルシーは、ドクターの事を鋭い目で睨んでいた。そしてその瞳には嫌悪と悲しみが混じっていた。…皆の記憶では仲が良かった筈なのに…一体何があったんだろう?
「…信用されてないみたいだ。ふぅ、全員指示に従って。対処するよ」
ドクターから流れる少ない悲しみの匂いを感じながら指示に従おうと動き出したその時…近くから激しい怒りの感情が流れ込んだ。
「あの人達が、ブレイズを、フォルトを傷つけ…そして家族を殺した敵だ!」
小さな子猫がそう叫ぶと、幾つもの刃が見えない何かで操られレユニオンへ襲い掛かる。
それは、虐殺に近かった。レユニオンの人々が嘆き呻きそして、血を撒き散らす。そこに救いはなくあるのは絶望だけだった。
「違う…こんなことは、違う筈だ…」
ドクターの小さな呟きが聞こえた。それだけで、僕は動くことが出来た。
だって、僕は…ロスモンティスが兵器であることを許したくはないから。
他の誰かがそう言おうとも…僕にとっては彼女は優しい子猫なんだから。
「…ロスモンティス、もう…平気。彼らには抵抗する気も、する術もない。これ以上は、やる必要ない」
ぼんやりと写る彼らの感情とロスモンティスの感情から、動き出す刃を見つけだし、薄く、広く…優しく彼らの手を包み込む。
そして、落ち着かせるように僕はそっと彼らに、ロスモンティスに目を合わせた。
「…暖かい。…ねぇフォルト、その人たちはフォルトを傷付けた。なのに何で守るの…?だって、フォルトが記憶を失ったのは、フォルトの家族が殺されたのは…その人たちのせいなんだよ?なのに…なんで…?」
ロスモンティスは泣きそうな顔で僕を見る。縋るように、理解が出来ないと嘆くように。
だから、僕は彼女へ心からの言葉を垂れ流した。嘘や偽りの一つもない、純粋な言葉でなければ彼女には届かないから。
「…彼らが悪い訳じゃない。いや、正確には…彼らも悪いけど…憎しみに憎しみを返しても、破滅が残るだけ。それに、僕は、ロスモンティスが…人を殺さないとしても、必要以上に傷付けるのは、嫌だ。君が、僕を家族を守ってくれてるのは、嬉しい。だけど、君が兵器に…怪物になることを、許しはしない。だって、君は、僕の家族で…ロスモンティスなんだから」
「…フォルト、私は…怪物だよ。皆、そう言う」
「まだ、怪物じゃない。君は、まだ怪物ではないよ。だって君は、人の苦しみを理解できる。そして、傷つけられた人のために、怒ることが出来るんだから。それに、こんなに可愛い…君が兵器なわけないよ…」
そう伝えてもロスモンティスは、納得が出来ないと首を振る。
彼女に流れる怒りも悲しみも…その全てが何処から流れているのか、今の僕には分からない。
だって、彼女の過去を知らないから…だからきっと、今の僕の言葉では彼女を救うことは出来ないのだろう。
だけど、一つだけ僕には出来ることはあった。今を生きる僕にしか出来ないことがあったのだ。
「…ロスモンティス、僕の目を見て…?僕は、此処にいる。生きて…君の側にいるよ」
彼女の側に行き、手を繋ぐ。繋ぎあった手からは暖かな感触が混ざりあう。それは、僕たちの鼓動で僕たちがまだ生きている証拠だ。
「君の家族も、今…誰かが死んだわけじゃない。皆、君の側にいる。それにね…僕の家族は、皆に見えなくても…ここに、僕の側にずっといる。だから、君が彼らを恨まなくてもいいんだ…」
「…うん、誰も居なくなってない…。フォルトも、アーミヤも皆、皆居る…。ごめんなさい、フォルト。迷惑かけちゃった」
「ううん、迷惑なんかじゃない。僕は…いや皆君に助けられてるんだから。謝らなくてもいいんだ、だけど…一つだけ約束して…もう二度と、自分を傷つけないって」
「分かった。でも、フォルト?私は自分を傷つけてないよ?」
「…傷付けてるよ。ずっと、ずっとね。…でももうそんなことは、させない。僕やアーミヤが側にいる限り、ね」
きょとんと頭を傾げるロスモンティスの頭を撫でて、僕はドクターへ振り返った。
ドクターは、少し嬉しそうにしながらも複雑そうな顔で僕たちを見ていた。
そして、何故か僕はその感情の揺れに懐かしさを感じていた。
僕とドクターは、何処かで会ったことがあるんだろうか?良く、思い出せない。皆の記憶にも霧が掛かってるみたい。
いったい僕の過去とドクターの過去に何があったの?
そんな疑問は突如として移動速度の下がったこの都市に消し去られた。
「これは…都市の移動速度が落ちていますね。ドクター、少し予想外の状況が起きたかもしれません」
「…そうか、ケルシー。少し予定を変更する必要があるようだ」
「ああ、今後もこの移動都市は何度か停止すると予想される。もしウェイが停止したタイミングで攻撃を仕掛ければ我々は奇襲のアドバンテージを失うこととなるだろう」
「…全員、先を急ごう。時間は余り残されてはいないみたいだ」
幾つかのレユニオンとの戦闘を繰り返しながら、僕たちは地上へ近づいていた。
だけど、突如僕の目には深い悲しみと共に禍々しい死の匂いが空を揺らしているのが写った。
「…ケルシー、これは…なに…?死が、空を覆ってる」
「…全員、防護装置を着用せよ。フォルトこれは、サルカズの古い儀式だ」
「儀式…?サルカズのアーツは特別なのか?」
「はい、ですがこれは普通じゃありません。先生の言う通り失われたはずの古代サルカズの儀式です」
「フォルト、アーミヤ。君たちなら祭壇の位置が見えるはずだ。きっとそこに彼はいる」
その言葉の通り、僕の目にははっきりと黒い黒い炎が上がっている星が見えた。
そして、その心に浮かぶフロストノヴァの残火と忌々しい傷跡が絶えず増え続けているのが見えた。
「彼が、パトリオット…。伝えなきゃ、早く。フロストノヴァは、まだ生きているって…出ないと、彼は…っぐぅ…!?」
激しい痛みが身体中を迸る。何が僕の中で暴れ、今すぐパトリオットの側へ走り出したいかのように。
何故かは分からない。だけど、そうしなければ行けないと内から悲痛な声が叫んでいるのだ。
「冷たいっ…これは…!?フォルトのリングに変化があった!アーミヤ、フォルトを見てあげてくれっ!」
「っ!フォルトさん、私はここに居ます…手を掴んでいますから。もう、大丈夫ですよ…」
その言葉の後、僕の中から叫ぶ声は取り除かれていく。きっと、この痛みをアーミヤが肩代わりをしてくれたんだ。
「ごめん、ごめん…アーミヤ…。もう、平気だから。…ドクター、僕どうなってたの…?」
「…詳しくは分からない。だが、あの冷たさは彼女の、フロストノヴァのアーツに似ていた。フォルト、君は彼女に何か託されたのか…?」
「約束を…しただけ。だけど、何となく理由が分かった。ドクター、早く行こう、彼女の…父さんの元へと」
そうしなければきっと、きっと後悔することになるって今、彼女に…フロストノヴァに教えて貰えたから。
(ずっと、ずっと…フロストノヴァは僕と一緒だったんだ。きっと、目覚めてからずっと。だから、彼女の想いも、匂いも強く感じ取れた。彼女の父さんが渡したお守りも、僕とフロストノヴァに繋がったのは…僕達が混ざりあっているからなんだね…?あぁ、でも少し…寒いや。フロストノヴァは、あんなに暖かかったのに…)
吐き出す息は白く空へと舞い、止めどなく降り続ける雪は、溢れてくる想いと共に降り積もる。
だけど、止まない雨も、雪もない。いつかは終わりが来るんだ。
そして、その終わり方を選べるのは、僕たちロドスだ。
だから、せめてその結末が皆に救いがあるように努力し続けなければいけない。
たとえ、日々増してくこの力にいつの日か押し潰されることになろうとも…今を、僕たちは生きないといけないのだから。
体調崩して何にも書けなくなってめちゃくちゃ遅くなりました。本当に申し訳ない。
というかアニメ、明日で最終話マジですか…?おかしい、時間の流れ早すぎるー!
これからもゆっくり不定期更新でやっていきます、というかとりあえずリハビリで本を読んだり、色んな文章書いたりするので更に遅れると思いますのでゆっくりアークナイツでもやりながらお待ちいただければ幸いです。