救いのために   作:ヒナまつり

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9話

 

 「この痕跡は多分チェンさんのものだと…思います。きっと彼女はここで止血したんでしょう」

 

 「そっか、うん…匂い覚えたよ。これで追跡できる」

 

 大量のガレージと貯蔵タンクがある倉庫エリアでアーミヤはその痕跡を見てチェンの安否を祈るその姿を見ながら僕はその痕跡に触れた。

 

 言葉ではなく意識するだけで操れるようになってしまった悪魔の力はそこからチェンの感情の残滓を引き出した。

 

 そこには怒りと悲しみ、そして龍門への深い愛が強く刻まれていた。

 

 きっと彼女もアーミヤのように、清い人なのだとそれだけでも感じ取れる。

 

 だからこそ、彼女にはタルラと一人で戦わせてはいけないとそう感じた。

 

 だってタルラと思われる星には黒い蛇と強く燃え続ける怒りが絡み合って巻き付いているから。

 

 「早く、合流しないと…ね」

 

 「はい、ですが無茶はしちゃ駄目ですからね?フォルトさん。唯でさえフォルトさんは傷つきながら戦いますが、今はロドスに戻ることは出来ないのですから。これは、約束じゃなくて命令です。分かりましたか…?」

 

 「うん、それにそれは何度も…言われたから。でも、いや…ううん、何でもない。…ドクター、あそこの倉庫…誰かいるよ。それに、scoutの匂いがする」

 

 「フォルトさん…?あっ、待ってください…!何を言おうと…?」

 

 きっと、僕の力が目が覚めてからどんどんと大きくなっていることはアーミヤには言わない方がいい。

 

 だってアーミヤは心配性だから。それにこの作戦は危険なものだ、余計な濁りがあるとアーミヤが傷付くかもしれない。

 

 だからこれは隠そう。今なら僕はアーミヤの目からも逃れられるから。

 

 「っ、フォルトさん…今の貴方は、scoutさんが連れてきた時に戻ってしまったみたいです…」

 

 その悲しみに満ちた言葉に僕は違和感を感じた…だって、彼らのscout小隊の記憶からそこの所だけ綺麗に空白になっていたことに、今気づいたのだから。

 

 それはまるで、誰かにその過去を認識することを拒まれているかのように…。

 

 だが、それについて深く考えようとした時、怒気を含んだ声が響いた。

 

 「ここはウルサス人の墓場よ!」

 

 そう叫ぶのは傷だらけで源石が生えてしまっているウルサス人の女性だった。

 

 「落ち着いてください…私達は中立の感染者検査組織です…。皆さんを救出しに来ました」

 

 彼女はアーミヤの言葉を聞いても、落ち着くどころか更に毒を剥き出す。

 

 その心には虚しさと怒りと悲しみが溢れ止めどなく言葉を紡ぐ。

 

 だけど、ふと僕を見ると彼女はその怒り狂ったような言動をやめ、僕に近づくようにと叫んだ。

 

 「…フォルト、気をつけて。彼女は何をしでかすか分からない」

 

 「分かった…行ってくる。それと、敵が近づいて来てる。ここの…倉庫に隠れてもいいか、聞いてくるね」

 

 何時でもナイフを取り出せるように意識をしながら彼女へ近づく。

 

 だが、予想外に彼女は僕に危害を加えようとはせず、手紙を渡してきた。

 

 「…あんたのことを見かけたらこれを渡すように言われてたの。ある、サルカズの傭兵から…。アイツは私達のために色々してくれたから…。」

 

 その手紙に触れた瞬間…強い感情の残滓が僕の目を覆った。

 

 暖かな愛情と黒く濁った後悔が混じり合い自身を呪い、僕を通して誰かを見ているそれは、scoutからの僕へ宛てた手紙だった。

 

 「そっか、ありがとう…。ねぇ、お姉さん…出来ればここの倉庫に少しだけ、僕達を入れてくれないかな…?」

 

 「…えぇ、分かったわ」

 

 彼女は、僕の顔を見て何故か、驚いたかのような顔をしてから落ち着いて僕達を倉庫の中へと案内してくれた。

 

 「それで、ごめんなさい…貴方達はロドス、よね?貴方達なら…この状況を変えられるって本当なの…?本当に、私達を助けてくれるの…?」

 

 縋るように彼女は、アーミヤへと泣きつく。その焦燥とした表情と痩せ細った二の腕から、既に何日もまともに食べ物すら食べれていないことが分かる。

 

 彼女は、既に限界を迎えていたのだろう。それでも精神を今保っていられるのはscoutのお陰なのかもしれない。

 

 そんなことを考えながら、僕は手にした手紙を少し離れた隅で読み出した。

 

 [フォルト、石棺への道でお前を待つ。]

 

 手紙にはその一言だけが記されていた。そして、その文字の下には何度も擦り消した文字の痕が幾つも残っていた。

 

 何れももう読むことは出来ないがその痕を撫でるとscoutの感情とその苦難を読み取れた。

 

 あぁ…きっとscoutは悩み苦しんで、覚悟を決めたんだろう。だから、僕はそれに答えないといけない。だって、彼と彼らと約束したんだから…もう二度と過ちは繰り返さないって、あの暖かで消え行く光の下で…彼女へ。

 

 そのぼんやりと浮かぶ記憶には、白い花と薄ピンクの何処か悲しげに微笑む誰かと、僕らscout小隊の姿が写っていた。

 

 彼女は、誰だっただろう…?凄く大切な記憶の筈なのに、酷く痛い想いだけが残っていた…。

 

 そう悩んでいる内にアーミヤは、彼女との話が済んだみたいでロスモンティスと共に僕の側へ歩いてきた。

 

 「どうしたの…?フォルト、辛そうな顔してる。何処か痛む?それとも手紙に酷いこと書いてあったの?」

 

 心配そうに僕を覗き込むロスモンティスの頭を撫でながら頭に残る記憶を振り払い、無理矢理笑う。

 

 彼女に少しも精神的な負担を掛けたくはないんだ。僕と同じく彼女も精神が不安定だとアーツが暴走しちゃう筈だから。

 

 「いや、何処も痛まないし、scoutきらただ石棺の道で待つ…とだけ書いてあっただけだよ。ちょっと考え込んでただけ、だから平気だよ」

 

 そう笑ってもロスモンティスの顔は曇ったままだった。それどころか余計に心配そうに僕を見つめる。

 

 …おかしい、前まではこれで平気だった筈なのに。

 

 「…フォルト。本当に…辛くないの?ウソはダメだってケルシー先生も言ってたよ…?」

 

 「嘘じゃないよ…大丈夫。僕を信じて?ロスモンティス」

 

 上辺から溢れる彼女に取り繕う言葉も霧のように彼女の心には届かなかった。そして、そんな様子の僕を見て口を閉じていたアーミヤも僕の心の奥隅を叩いた。

 

 「…フォルトさん、少し手を握ってもいいですか…?少しだけですから…」

 

 アーミヤの白く細い手がゆっくりと優しく伸びてくる。僕はそれに恐る恐る触れる…心の色を偽りながら。

 

 「…フォルトさん、私達には隠さなくていいんです。心の痛みも、悩みも。だって私達は家族なんですから…。だから、フォルトさんを戻してください、悪戯好きな悪魔さん」

 

 その言葉の後、黒い稲妻が僕へ走った。それのお陰で僕は僕の異変に気がついた。それと同時に頭の中で残念がる甘い声が響いた。

 

 …そうか、僕が色んな感情の残滓に触れて揺らいだ隙間を縫って僕の精神をゆっくりと蝕んでいたのか。

 

 それのせいで僕は、彼女達に心を隠さないといけないと思わされていたんだろう。もう、悪魔の力すら…うまく制御出来なくなったんだ…。

 

 でも何なんだろう?この都市に来てから僕の力は何かに呼応するのようにどんどん強まっていってる理由は…。

 

 「フォルトさん、フォルトさん…大丈夫ですか?もしかしてまだ、悪魔さんが?!」

 

 慌ててもう一度アーツを使おうと目を瞑るアーミヤを止める。

 

 「大丈夫、もう…平気。ありがとう、アーミヤ。少し変なんだ…僕のアーツが何だかこの都市に来てから。段々、強まっているの。今のも、それのせい。だけど、その理由が分からない…それが少し、怖い。…アーミヤまた、僕が変になってたら、手…握ってくれる?」

 

 「はい…必ず。でも、それは私だけじゃありません。ロスモンティスさんも、ドクターもケルシー先生だってそうしてくれます。皆さん、私もですけど…フォルトさんのことが大切ですから」

 

 「うん、私も、フォルトが辛そうだったら助ける。アーミヤと一緒に」

 

 「…ありがとう」

 

 二人にゆっくりと手を引かれながら外へと歩き出す。外には既にドクターや猫さん、ロドスの皆が立っていた。

 

 その光景は僕は一人じゃないんだと分かりやすく示してくれた。

 

 けれど、何処か心の底で一人であることを望んでしまう。皆を信じれないわけではない、皆と共に居たくない訳でもない。

 

 あぁ、そうだ。きっと…僕は信じれないのだ。自分自身を…。

 

 黒く濁った雲が流れる空を見ながら、僕はそう悟った。

 

 


 

 「ねぇ、それ何やってんの?きっしょく悪いんだけど」

 

 「これは、フォルトの封印を解除する儀式さ。確かに見た目は悪いがな」

 

 廃墟とかした民家の中でscoutは、自身の血を古く修繕後が残る財布へと流す。

 

 それを囲うようにフォルトの思い入れが有るであろう物品を並べながら。

 

 それはいかにも呪いの魔方陣のように淡く光続ける円の中にはあった。

 

 「へー?あんたって、儀式なんて出来たのね?それで、あんたの言ってた手伝ってほしい事ってそれなの?」

 

 「いや、これの後の事だ。きっと、これの直後はアイツは暴走するだろうからな、そのストッパーをお前にして欲しい。Wは、あの時のフォルトと深い関わりがあるからな」

 

 淡々と作業しながらscoutは、Wを見る。その面影に過去を思い出しながら。

 

 「ふん、確かにあたしはアイツと一緒に行動してたけど、仲は良くなかったわ。それはあんたも知ってるでしょ?だからその役目は子ウサギにでも譲った方がいいと思うけど?」

 

 「…いや、お前にして欲しい。お前らは何処か似てるところがあるからな。よし、これで準備が出来た」

 

 「あたしとアイツが似てる?scout…あんた、とうとう目もおかしくなったのかしら?はぁ、なんであたしはこんな面倒なこと受け持ったのかしら」

 

 Wのため息が空へ舞う。その瞳には、過去の彼との経験を写しながら。

 

 


 

 「パトリオット大尉、準備完了致しました」

 

 「そう、か。では、行け」

 

 「はっ!」

 

 重装の鎧と盾が動く度に音を立てる。その中心で、パトリオットは空を眺めていた。

 

 「来るか、ロドス。我が娘の敵よ」

 

 パトリオットの小さくも力強い声が響く。それは他の兵士には届かないが幾つもの擦りきれた後悔を乗せ、大気を揺らす。

 

 そして、彼はまた動き出した。もう、彼には止まるべき理由は、信じるべき君主も愛する家族も無くなったのだから。

 

 得てして彼らの道は幾つもの思想の元に集まり始めた。その道に続くのがどんな運命なのか知らずに。

 




気がついたら1ヶ月以上経っておりました。本当に申し訳ありません。

というか、最近ずっとこんな後書きですね…。取り敢えず禊としてアークナイツに課金して来ます。

それはさておいて、段々フォルトの過去も出てきました!取り敢えず8章辺り終わったら一旦ほのぼの話をしてバベル編でもいいかなー?って感じなので何時ものようにゆっくりとお待ちいただけたら幸いです。

また、感想及びお気に入り登録等していただけたら執筆が早くなるかもしれないので是非よろしくお願いします。

では、また次の話で
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