救いのために   作:ヒナまつり

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10話

   

          

 『最後のウェンディゴは、魔王悪魔の方舟の手によって死ぬ』

 

 サルカズの予言#■■■

 

 『我は見た 破壊され尽くし数多の都市を。我は見た 全てを食らい尽くさんとする滅びの渦を。我は見た 黒き指輪に付き従う人々の軍勢を。汝こそ悪魔の方舟─この大地の救いと破滅をもたらす者なり』

 

 サルカズの予言#■

 

 


 

 「居た。皆、援護を」

 

 そう呟き、廃墟を駆け抜け、空へ飛び出す。照準の先には、少人数の敵部隊が居た。

 

 「敵っ…!?」

 

 叫ぼうとするその隙に一番近くにいた伝令兵を撃ち抜き、反動を羽ばたいて受け流しながらリロードしもう一人も撃ち抜く。

 

 驚きから戻った他の敵兵は直ぐ様、通信で報告しようとするが僕の飛んできたビルから放たれる矢で射ぬかれ崩れ落ちる。

 

 「…次、行くよ」

 

 「了解!」

 

 そうして敵部隊が倒れたのを確認してから、また走る。

 

 ロスモンティスの行動がバレる前に全ての伝令兵を打ち倒す必要があるというドクターの指示に従いながら。

 

 そうして、幾つもの伝令兵を打ち倒した時…大きな音が響いた。

 

 思わず視線をそちらに向けるとジャガイモのようにビルを真っ二つに切り裂き、相手の拠点を破壊し続けるロスモンティスの姿があった。

 

 その周囲にいる彼らの驚愕の色を感じながら、その隙を撃ち抜こうとクロスボウを向けた時、懐かしい匂いとフロストノヴァの感情が溢れ出す。

 

 それは、喜びなのか悲しみなのか今の僕には良く分からない程、絡まり合う心でただただ締め付ける心の痛さだけが残る。

 

 だが、立ち止まることは出来ない。もう、彼と僕は刃を抜いているのだ。

 

 それにパトリオットは立ち止まらない。頑固で石頭な父さんは手の中に触れられ、目に見られる戦争の結果しか信じれないのだと、フロストノヴァの言葉が響き、彼の瞳が僕を貫いた。

 

 強大な体の中に強い光を覆い潰すような黒い泥々とした過去が写る彼の口が開かれた。

 

 「そうか…君が…これが運命だとでも…言うのか…?」

 

 その声は小さくか細いものだった。まるでガラス細工に触れる時のような繊細なその声をきっと聞き取れたのは僕だけだっただろう。

 

 だからこそ、ケルシーやアーミヤ達と語り合うパトリオットの言葉などすり抜け、僕はその言葉だけが反芻していた。

 

 僕と会うことが運命…?それは、どんな運命なんだろう?結末は…?そんな回り続ける頭の中に運命…それはパトリオットが抗ってきたものだと言う記憶が走り抜け、僕はアーツを解き放った。

 

 悪魔達の声と力が漏れだし、近くにいる皆を傷つけようと暴れだそうとする。だから、僕は皆から離れ、パトリオットと向き合う。

 

 それと同時にパトリオットの踏み込む音とケルシーの切迫した声が鳴り響く。

 

 「フォルト…!?駄目だ、そんな力の使い方をしてしまっては─!」

 

 「やはり…お前が…悪魔の…方舟か」

 

 悪魔達とケルシー達の通り過ぎていく声を無視しながら、僕はケルシーのあの警告を思い出し、心の中で謝罪をしていた。

 

 それは、アーミヤとロスモンティスと共に伝令兵を探していた時のことだった。

 

 ロスモンティスの精神が不安定になり、僕は落ち着かせるために色欲の悪魔の力を少し使ったんだ。

 

 それに何故か気が付いたケルシーは、直ぐ様僕達を離れさせて珍しく焦った顔で僕へ震える手で触れながらその言葉を漏らしたんだ。

 

 『駄目だ…フォルト、君のそれはもう、使っては駄目だ。そのままでは、君は…戻れなくなってしまう。フォルト、君は特別なんかじゃない、誰もを助けれる筈は無いんだ。だからもう、その力は使うな…。分かったか…?』

 

 不安と恐怖が混じり合ったその声がずっと響き続ける。その約束を僕は守らないと行けなかった筈なのに、また破ってしまったんだ。

 

 だけど、僕はもう一人じゃなかったんだ。僕の側には家族がいて、僕と共にフロストノヴァが在るんだから。

 

 だから、漏れでる全てを討ち滅ぼす悪魔の力を押さえつけ、切り裂かれる痛みに耐えながら僕は、僕の大切な人たちの力を取り出していく。

 

 一番に取り出せたのはフロストノヴァの冷たいのに何処か暖かい白い白い雪だった。

 

 その力は一気に広がり都市を、空を覆い尽くす。直ぐに辺りは白銀の世界へと移り変わった。

 

 「あぁ…綺麗だ」

 

 それは、誰の声だったかは分からない。だって僕の中にはフロストノヴァの彼女の歌だけが鳴り響いていたから。

 

 「これは…?あぁ…そうか、打ち破ったか…運命を…だが、フォルトよ、いや…ロドスよ、我は進軍する…!」

 

 爆発したかのように、走り寄るパトリオットに彼女が指示するままに腕を向ける。

 

 そして、その力を放った。それは熱を奪い、全てを凍らせようとする。

 

 だが、パトリオットは氷をなぎ払い、雪崩を盾で受け止め、幾つかの破片によって傷を負っても直ぐに再生させジリジリと近づいてくる。

 

 けれど、真っ白な雪と氷に覆われたパトリオットは、その最中に仕掛けた僕のトラップには気づかなかった。

 

 突然飛び出る氷の牙が彼の鎧の隙間を縫い正確にその肉体へ食らい付く。

 

 どろっとした血が雪と氷を汚すが、それでもパトリオットは立ち止まらない。彼は無理矢理突き刺さった氷を砕き、そしてお返しかのようにその矛を僕へ向けた。

 

 「抗ってみよ!」

 

 その言葉と共に赤い黒い渦を纏うその矛は全てを貫かんと僕へと突き進む。

 

 それは、彼が僕へ向けた試練なのだと感じ取り…僕は彼へ使えるだけ全ての力を込めそれを討ち壊そうとアーツを放つ。

 

 「…負けないっ─!」

 

 凄まじい雪と氷が彼の矛とぶつかり合う。視界は真っ白に染まり、ぶつかり合う音だけがまだ彼の矛が止まらないことを示す。

 

 僕は倒れそうになる体に無理矢理鞭を打ちながら、アーツを放ち続ける。血を吐いても、体が凍りつき痛くなっても…目を開くことすら難しくなってもただ、ただ…彼を打ち倒しフロストノヴァの元へ連れていく為だけに。

 

 そして叫ぶ力すらも使い果たし、倒れそうになった時…その瞬間は訪れた。

 

 急に視界が晴れ僕とパトリオットの中心に凍りついたその矛が落ちていた。

 

 「その程度か…確かに娘より…強いが…私はまだ立っている。お前は…もう終わりか…?」

 

 「…っ、ははっ…そうだ。僕は…もう、立ってることだけ…しか出来ない…。でも、でもね…僕は一人じゃないっ!」

 

 その言葉を叫んだ瞬間、幾つもののアーツがパトリオットへ放たれる。矛を失った彼は盾で、体でその攻撃を受け止めながらまた行進を続けようとしたが…その動きはロスモンティスとケルシーによって止められた。

 

 「Mon3tr、押し返せ! 」

 

 「っぐぅ…フォルトは、もう…傷つけさせないっ!」

 

 幾つものアーツとオペレーターの攻撃がパトリオットに襲い掛かる。

 

 けれど、パトリオットの体からどれだけ血が流れても、盾が軋んで使えないものになろうとも彼の歩みは止まらない。

 

 それは、彼が死ぬまでこの戦争は、彼の歩みは止まらないんだと証明するかのようだった。

 

 その光景が酷く酷く僕の心を締め付ける。今の彼は自分の命を使い捨て歩んでいるのだから。

 

 「もう…もう…止めてよ、父さん…」

 

 傷だらけでかろうじて彼の姿を視ることしか出来ない僕のそんな小さな声は誰にも届かなかった。

 

 そこで、やっと僕は戦争を知った。

 

 弱ければ食い尽くされ、愚かならドールとして踊らせられ…救いなんてものがない、そんな戦争を。

 

 流れ出る雫が雪を溶かして、赤い血が滲んで白を染めていくそんな中で、淡い淡い光が見えた。

 

 アーミヤだ…。そうだ、アーミヤなら…父さんを止めれる。きっときっと…助けてくれる。

 

 そんな儚い想いは、黒い黒い稲妻と揺れる彼女の感情によって消し去られた。

 

 彼女は…彼女は悪くない。フロストノヴァだって、父さんを救うのは諦めていたんだ。だって、彼は絶対に止まらないから。

 

 だから、それがアーミヤが取れる唯一彼の憂いを…終わらない戦争を終わらせる方法だったのだろう。

 

 でも、でも…僕は、甘い理想を諦めたくはなかったんだ。

 

 だから、羽ばたいた。それがどんな結末を生み出すものか理解しながらも…。

 

 「…っ!?フォルトさんっ?!だ、駄目ぇっ!!」

 

 「っ!Mon3trっ!彼を守れっ!」

 

 「…何故だ、何故お前は、そこまで…」

 

 大切な大切な人たちの声が鳴り響く。だが、その羽ばたきは止まらなかった。

 

 最後に映ったのは泣き叫ぶアーミヤが手を延ばす姿と、心臓を黒い稲妻に貫かれ、溢れ落ちる血と幾つもの飛び散った白と黒の羽だった。

 

 それでも運命は変わった。最後のウェンディゴは魔王には殺されず、悪魔の方舟は魔王によってその地に墜ちようとしている。

 

 だけれど、そんな結末を許さない人たちが居た。

 

 優しい匂いと、温もりが僕を包み込む。それは12個の光だった。魂だけとなっても、僕を守ろうと側に居てくれた家族は傷口に熔けて塞いでいき、流れ出た血の代わりに流れ込み命を循環させる。

 

 それと共に彼らが消えていくのが感じられた。もう、僕の手の中から離れて掴むことも視ることも出来なくなるのだと、本能で分かった。彼らは消滅するのだ…僕を生かすために。

 

 「これは…Scout小隊の皆さん…?皆さんの記憶が、流れてっ、消えていく…。あぁ…私は、私は…なんてことをっ」

 

 アーミヤの嗚咽とそれに寄り添うケルシー達に生き返った僕はなんて言葉を掛ければ良いのか分からず、ひとまず僕はパトリオットに振り返った。

 

 そこに居たのは、自分の心を押し殺してまだ抗おうとする彼の姿だった。

 

 本当に、石頭でどうしようもない人だ。きっと彼はこんな結末を望まないだろう。いや、信じないだろう。

 

 でも、こんな苦くも甘い結末こそが僕が手にしたかったものなんだろう。

 

 だって、僕は特別なんかじゃないから。救いなんてものを授けることは出来ない。それでも、幾つもの犠牲の先にもぎ取ることは出来るんだ。

 

 だからもう、「自分を殺したりしないで、父さん」

 

 崩れ落ちるように彼の元へ抱きつく。雪が溶けるような暖かさが僕を占め、人喰いの儀式が僕を喰らおうとする。

 

 だが、その術は更に強い暴食に喰われ消化される。もうこれで父さんの命が喰らわれる事はないだろう。

 

 これで、もう…父さんが死ぬ運命なんてものは消えた。

 

 そんな、安心が僕の瞳を閉ざす。きっともう、とっくに限界だったんだ。アーツを使い果たし死にかけたのだから。

 

 そんな薄れゆく意識の中でただただひたすらに優しく抱き留めてくれるパトリオットの愛情が痛い程に僕の心へ染み渡ってくる。

 

 「…あぁ、暖かいなぁ…」

 

 白銀の世界で、悲しみと血に染まりながらも…そこには幾つもの細い糸を辿って掴みとった救いがあった…。

 

 


 

 『最後のウェンディゴは、魔王の手によって死ぬ

 

 サルカズの予言#■■■

 




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