みんな、フォルトくんかわいいやったーって言ってね!
紙を捲る音とペンが走る音だけが鳴る仕事部屋で酷い眠気に思わず目を閉じてしまいそうになる。
でも、抗わなければいけない…。まだ、仕事はあるんだ─。
「あれドクター、寝ちゃった…?─お疲れ様。ゆっくり休んでね…?後は任せて─」
無理やり開こうとした瞼は優しい声と金木犀の暖かい羽毛に包まれ、意識を手放した─。
燃え、命が消えていく…。目につくのは見たことも感じたこともない地獄そのものだった。
その底で私を呼ぶ声と悲鳴や苦悶に満ちた声が聞こえる。
その声たちは私を責め立て、血に溢れた地獄へ引きずり込もうとする。
「ドクター、どうして…?」
「また、捨てるんだ。あの、駒みたいに」
「知らない…私は、それを知らないんだ。何故、何故忘れてしまったんだ…!きっと、その罪は忘れては、いけないことだったのに…」
知っている声で囁くそれは踠いても踠いても消えることはない。
それどころかどんどんと激しくなる。
やがて、私の手まで血に染まり…責め立てる声が私を殺そうとした時…船がやって来た。
その船には、一人のサルカズが暇そうにしていて…私に気がつくと直ぐに船に乗せてくれた。
その船には幾つもの部屋があり、そこには多種多様な人々が平和な航海を過ごしているようだった。
私はサルカズに案内され、一番奥にある豪華な部屋に案内されベットに座るように促された。
そして、彼から忠告を受けた。
道を見失うな、過去を求めるな…今を生きろと。
優しい瞳で…信じるように見つめる彼の瞳を無下にすることなんて出来なくて私はその気持ちに答えようと口を動かす。
だが、私の声は彼には届なかった。それでも、彼は必死に伝えようとする私の姿を見て安心するようにそこを離れた。
そこで、やっと私は気がついた。彼が…フォルトと瓜二つの武器を持っていることを。
これは、ここは…フォルトの船の中か…。本当に…君は何時でも他人のために…いや、家族のために力を使い続けるのだな。
─あぁ、ここは酷く…暖かい。痛みも争いも何もなく…全てを包み込む海のようで、大きな宇宙のようだ。
…また、眠るのなら…最後はここで寝たい…な─。
「─はっ!もしかして…寝てた?しっ、仕事はっ!?」
「んんっ、ドクター…急に動かないで?仕事は大丈夫、もう…終わったよ」
目を開いて一番に見えたのはフォルトの綺麗な黒い羽だった。
きっと、フォルトは寝てる私のために毛布として使わせてくれていたのだろう。
というか、仕事は終わってるだって…?嘘だ…まだあんなにあったのに。
「あっ、ドクター?急に動いちゃダメ。ゆっくり…ね?」
「あぁ、すまない。だけど仕事が…っ!?ほ、本当に…終わってる─?!」
「あ、信じてなかったの?…ドクター」
じとっと責めるように目を細めフォルトは私を見つめてくる。
咄嗟になんて返すか考えるがいい言葉が見つからず、必死に頭を回してると可愛らしい笑い声が聞こえてきた。
「ふふっ、ドクター…?そんなに、考え込まなくてもいいよ。そうだね、頭…撫でてくれるだけで、いいよ?」
そう言ってフォルトは少し恥ずかしそうに頭を差し出してくる。
ゆっくりとその頭に触れ、ゆっくり撫でると気持ち良さそうに目を閉じパタパタと羽を動かしてねだるように私にくっついてきた。
子供らしい少し高い体温と甘い匂いに少し高くなってしまう心拍数を隠すように撫でるのをやめて離れるように促すとフォルトは渋々離れていく。
だけど、ある程度離れた時耳元で呟いてきた。
「ドクター…次はもっとね?あと、しっかり休んでね。アーミヤには、注意しとくから…じゃ、バイバイ」
「あぁ、分かった…ってもういない?はぁ、気使わせちゃったなぁ」
酷く冷たい夢を見ていた気がした。…そして、暖かな何かに包まれたことも。
少し乱れている呼吸を整えながら、消えていく夢に想いを馳せる。
だけれど、寝起きの頭では長く続かなかった。
だから、ふと机の隅に落ちているそれに気がつけた。
赤い血に塗れた…白い白い羽に。
「…ごめんね。ドクター…また、気づけないところだった」
船内を歩きながらフォルトは、痛みに耐えながらゆっくりと息をする。
その瞳には、ドクターの隠れている星が映っていた。
そして、もう…見逃さないように、しっかり標をつける。
もう、過去のようにはさせないように…少し暗い廊下を血で汚しながら─。
「また、一人だ。…誰も見つけてくれない」
廊下の隅を独りでに彼女は歩いていく。騒がしい廊下の中、誰にも見つけて貰えない彼女は、暗い暗い闇の中を歩んでいく。
いつも、彼女は一人で…その痛みは日に日に増していく。
傷を負っても…悲しいことがあっても見てほしいと思わないと誰にも見つけて貰えない孤独は、刺のように突き刺さる。
だけど、直ぐ様その闇はキラキラ光る星に照らされた。
「あっ、マンティコア?どうしたの、何か…あった?」
フォルト、彼だけは何時でも彼女を見つけてくれる。傷だらけで帰ってきた時も、酷く落ち込んだ時も絶対に。
「…何でもない。フォルト、こそ。何かあったの」
だけど、彼の優しさが彼女をもっと醜くさせる。だって、彼の優しさは彼女だけのものじゃないのだから。
「うん、ちょっと嫌なことが今おきた。ねぇ、マンティコア?僕はね…もう見逃さないって決めたの。だから、話して?君の傷を」
深海から見上げた夜空のように綺麗な瞳がマンティコアの瞳を見つめる。もう逃がさないというかのように。
「な、なんで?…私なんかに、フォルトの時間を…使う必要ないよ」
それでも逃れようとするマンティコアの手をフォルトは優しく握った。
酷く儚いその軽い手はされど離れることのない鎖のようにも感じられた。
「マンティコア…なんかじゃない。マンティコアだから、使いたいの。でも、言いたくないなら…少しだけ一緒にいさせて?久しぶりに会えたから…一緒に居たいの」
諭すように伝えながらフォルトは少し近づく。その時、嗅ぎ慣れた好きな香りが彼から運ばれた。
それは、彼の誕生日にマンティコアがこっそりとあげたプレゼントであり友情の証だった。
「それ、使ってくれてるの…?」
「うん、僕もこの匂い…好きだから。そうだ、今度マンティコアに、僕が育てた子達の、香水渡したいんだ。きっと、気に入ると思うんだ」
「いいの…?きっと、他にほしい人が…」
「…マンティコア、君に貰ってほしいの。君のために…作るもの、だから」
少し恥ずかしそうに、けれど真摯に答えるフォルトの言葉に嘘はなかった。
だけど、その眩しいぐらい純粋な光がマンティコアにとっては見慣れないもので、憧れていたものだった。
だからこそ、また彼女の心に燻りが生じる。
こんな綺麗なものを、私なんかの汚れた人が求めてはいけないんだと…過去が責め立てるのだ。
けれど、彼はそんな汚れた手を気にせずに掴み取る。まるで汚れてなんかいないと証明するかのように。
だから、やっと彼女は傷だらけの旅を少し休むことが出来た。まるで夢のような暖かな船の中で。
「…嬉しい。ねぇ、フォルト…友達作りたい。いっぱい、作りたいの」
「…!そっか、じゃあいっぱいお話しする練習、しよ?そして、目指せ友達100人だ!僕も、協力するから…頑張ろうね!」
「うぅ…そこまでは、無理かも…」
それから彼らは色んな話をした。新たな趣味を作ってその趣味を持つ人と友達になろうだとか、同じ役割をもつオペレータと話してみようだとか。
だからだろうか…いつの間にか、騒がしいと感じていた廊下は…穏やかで暖かいと感じられた気がした─。
「あー!ドゥリンっ!フォルトが困ってるでしょー!羽から離れて~!」
フォルトの羽を布団のようにして寝ようとしているドゥリンをテンニンカが退かそうと引っ張る。
だけど、フォルトの羽を抱いているドゥリンは動じず眠そうな瞼を擦りながら答えた。
「ぐにゅ~?テンニンカこそ、フォルトの羽触りたいだけでしょ~?それに、私はフォルトから許可取ったもーん」
「嘘っー!ねぇ、フォルト?本当に許可しちゃったの!?フォルトの羽は大将軍の私が管理してるのにぃ!」
「…許可したよ?あっそうだ、こっちなら空いてるよ?」
可愛らしく怒るテンニンカに困惑するように首をかしげたフォルトは代わりに黒い羽をテンニンカに差し出す。でも、テンニンカは悔しそうに叫んでドゥリンを意地でも退かそうとする。
「うぅー!私は白の羽がいいのっー!ねぇ、ドゥリン~黒の羽の方行ってよー!」
「やだー。もう、私は…ねる─Zzz」
「あー!ドゥリンてば、起きて起きて~!」
「あぁ…喧嘩は駄目ですわっ!ここは間を取ってわらわのこの服とかはどうですか!?」
「やだ!」
「…うぅ、ではフォルトさん、わらわの上に座りませんか?床では少し冷たいでしょう」
「…ありがとう、パゼオンカ。…重かったら言ってね?」
フォルトを囲うように、騒がしく動き回る星を彼は愛おしいかのように見つめる。
それは、慈悲深き父のようで朧気な月のようだ。
だからだろうか、彼を見ていると目を閉じ、少し経ったら消えてしまうのではないか…と感じてしまうのだ。
それ故に、私は震える手を伸ばす。彼が消えてしまわないように、もう…人混みの波に拐われて再び大切な人を無くしてしまわないように。
そして、彼はそんな私の醜い手を簡単に掴み取る。小さな小さなその手で。
「グーレス…平気?あっ…泣いてるの?大丈夫、大丈夫…何処にも行ったりしないよ。だから、安心して…?」
何処までも優しく、付き添うように彼は共にいてくれる。
どんな思いを抱いていたって、感染者への、オリパシーの恐怖が私を包み込んで、彼のことを拒否したとしても…。
だから、私はその優しさに落ちていく…底のない沼のような深海へと。
だけど、大丈夫。ずっと、ずっと…彼は居てくれるから。
それに、最近は…他の人とも少しずつだけど接するようになった。
あのバカ…ブレイズのお陰で。だから、やっと自信を持って一人で歩めるようになった。
でも、やっぱり偶に彼の側に居たい気持ちが押さえれなくなる。
だから、彼の鈴のような声に答える。こんな醜い心を隠しながら。
「平気よ、私は貴方みたいに子供じゃないから。でも、そうね…少しだけこの羽は借りるわよ」
これは、進むための勇気を養う時間だといいわけを心の中で呟き、その暖かみに身を預ける。
フォルトは、そんな私の横顔を嬉しそうに、楽しそうに覗き込みながら羽で包み込むようにして私を抱き締める。
そして、甘い甘い言葉を囁く。
「ふふっ、グレース…?ゆっくり、ゆっくり…進もう?時間は、まだあるから」
少しまだ怖いオリパシーへの拒絶感も、やっと理解できた父さんの想いも…狂ってしまった母さんへの言葉も抱いて目を閉じる。
なにもしなくても、時は過ぎていく。今も過去も。だから、歩み続けなければならない。
でも、彼の側だけは止まることが出来る…きっと、彼は私の唯一の止まり木。
風に揺られながら、目を開く。
そこには幾つもの星が浮かんでいた。それは、人によって見た目が大きく変わる。でも、ここにいる人達には共通点があった。
それは、たった一つの小さな光が差していることだ。
幾つものクレーターや覆う黒く濁った大気があろうとも、絶対にその光だけは揺らぐことはない。
だって、その光は希望であり、この船に宿った願いでとあるから。
だから、僕はその光が少しでも大きくなるように動き続ける。
今日も明日もきっと、ずっと。
誰もが安らかに眠れるその日まで…。
この大地に蔓延る絶望からの─救いのために。
うひゃあー!お気に入り500人突破ですって!うぅ、嬉しすぎて死にそうです…!まさか、趣味で書いていた二次創作がこんなに色んな人に気に入られるとは…!これも全部アークナイツとこんな作品を読んで楽しんでくれる皆様のお陰です!
これからも、ゆっくりと進み続けるフォルトの旅路とそんな彼に救われ、脳を焼かれるオペレータ達を見ていただけると幸いです!
あ、あとアークナイツ6周年おめでとうございますっ!フェスまじで良かったです!特に二日目のライブは見所沢山なのでまだ見ていない方は消えてしまう前に見てみることをお勧め致します!そして、エンドフィールドもそろそろ始まるので皆様、是非是非やりましょう!
では、また。