救いのために   作:ヒナまつり

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11話

 

 ─ねぇ、●●●●?私はね、この大地に…この世界に生きる皆が、静かに眠りに着かせてあげたいって言ったわね。

 

 それは、貴方にだって私はあげたいの。

 

 貴方は今、両親と…村の人たち、そしてscoutにすら憎しみを抱いているのよね。

 

 殺したい?それとも痛めつけたい?でも、それに意味は…意義はあるのかしら。

 

 ─貴方は優しい子よ。アーミヤにだって、ケルシーにだってドクターにだって、寄り添って彼らの痛みを理解しようとしてる。貴方は気が付いていないみたいだけどね。

 

 ─もう、もう良いのよ。此処には…この船には貴方を傷つける人はいないの。自分自身を傷つけなくていいのよ。

 

 ここでは苦しまなくて良いの、抱え込まなくていいの。皆に頼って?

 

 …私は貴方を代わりゆく船にはさせないわ。記憶が消えても、人格すら揺らいでも、目的すら見失っても…此処には貴方を支える家族がいるのだから。

 

 ─だから、一緒に生きていきましょう?この船と共に、失敗作じゃなくて、ただ一人の子供として。

 

 


 

 長い、長い夢を見ていた。それはとても大切で忘れてはいけないことだというのに、今の今まで僕の頭の片隅にも残っていないものだった。

 

 でも、僕の頭にはそれ以降の記憶は砂嵐のようにノイズが走って見ることが出来なかった。

 

 それは、忠告のようで…それを無視しようとすると何故か酷く苦しく吐き気が襲ってくる。 

 

 だから、僕は閉じた瞼をゆっくり開けた。きっと今は、夢なんて見てる場合じゃないから。

 

 ─揺れている。白い炎が。燃え盛るように泣き叫ぶように。綺麗だったそれは、深い深い闇に覆われその輝きを失おうとしている。

 

 彼女は罪を懺悔するかのように、ただ言葉を漏らし続ける。

 

 周りにいるケルシーやドクター、ロスモンティスの言葉すら届かずに。

 

 「ごめんなさい、ごめんなさい─」

 

 何時もは戦いが終わるまで隠している涙を流し続け、綺麗な手を僕の真っ赤な血が汚し続ける。その度にアーミヤの瞳は揺れていく。

 

 このままじゃ、駄目だって分かっているのに…僕には彼女の傷を癒す方法が分からなかった。

 

 だから、ただただその震える体を抱き締めることしか出来なかった。

 

 昔、いつかやったように。だけど今では彼女の方が大きくて頭を撫でることが出来ず、頬を撫でた。

 

 「大丈夫…大丈夫だよ。アーミヤ、落ち着いて」

 

 「あっ…フォルト、さん。ごめんなさい、わたし…わたしが皆さんの、命をっ…」

 

 「ううん、アーミヤじゃない。皆はね…僕の我が儘に、答えただけ。僕が、無茶をしたから…そうなっちゃっただけなんだよ。アーミヤは、悪くない。だから、君が背負わなくていいの」

 

 「でもっ…でもっ─」

 

 アーミヤの揺れる目はやっと僕と合った。そして、妖しい光が浮かぶ。

 

 それは、アーミヤの精神を落ち着かせ、危ういその闇をどろどろと溶かしていく。

 

 僕はそれをこっそりと食べ、感情を分かち合うように抱き付く。

 

 溶け合ったアーミヤの苦しみも、僕の気持ちもぐちゃぐちゃになって、そこには僕達の熱だけが残った。

 

 「─っはぁ、フォ、ルトさん…?」

 

 「大丈夫、大丈夫だよ」

 

 その頃にはアーミヤの涙も、震える体も収まり周りの声が聞こえて来た。

 

 ケルシーやロスモンティス、ドクター達ロドスの心配する声。

 

 父さんと父さんの部隊が話し合う声、それ以外のレユニオンの兵士の動揺する声。

 

 まだ、戦争は終わっていない。ならば、僕はたった一つでも救いのために動かなければいけない。

 

 でなければ、でなければ…?どうなってしまうんだっけ?

 

 でも、でも…誰かを誰もをたすけないといけないんだ。それだけは確かなんだ。

 

 だから、立ち上がる。失った血のせいでふらつこうとも。

 

 痛みすら感じれないこんな身体でももう平気だって顔をしながら。

 

 「君は、馬鹿だ。何度、何度警告すれば理解する?君にも分かりやすいように私は話している筈だ。君のアーツは君を君では失くしてしまうのだと。なのに、何故まだ平気な顔をして立ち上がれるんだっ!君は今死にかけたんだぞっ!?」

 

 でも、ケルシーは直ぐ様僕が限界なのを見破った。そして、耳を後ろに倒しながら鋭い瞳で僕を睨む。そこに、愛を感じて、僕は真実を話すしかなかった。

 

 「…分からないの、ケルシー…。傷ついても痛くも、苦しくもないんだ…。だから、平気。どれだけ変わったって、きっと死んだって…苦しくないよ。でもね、皆が悲しむのは、酷く酷く痛いの…。ねぇ、猫さん…どうしたら…泣き止んでくれる?」

 

 それでも僕は酷く不恰好に笑った。笑顔は人を落ち着かせてくれるって、誰かに教わったから。

 

 だけど、ケルシーは顔を痛むように歪ませて、そっと僕を震える手で抱き締めた。

 

 「どうしたの…?あっ、もしかして…これでもう、痛くない?猫さん、もう泣かないでくれる?」

 

 「…あぁ、そうだ。フォルト、その痛みを大切にするんだ。それを失ってしまったら…きっと、君は君じゃなくなる。…フォルト、君の帰る場所はまだ…変わってはいないか?」

 

 「…うん、変わってないよ?ロドス、アーミヤの側…猫さんの側、ドクターの側…あと、ロドスの皆がいるところ」

 

 「なら、いいんだ。だが、フォルト…君に教えなければいけないことがある。何度も、何度もscout…いや皆が君に教えてきたことだ。これは、君が何回記憶を失ってしまっても、これだけは大切にしないといけないことだ。よく、聞いてくれ…そして心に刻むんだ」

 

 「死を恐れろ。誰かを守るためだけに死ぬな、それぐらいなら死んでも助けて生き残れ。使命を果たせ、理念を見失うな。そして…最後に絶対に帰ってこい。これが、君をscoutが君を戦場に向かわせる前にした契約だ。絶対に、片時でも忘れるな」

 

 ケルシーの優しくも鋭い言葉が僕の中に染み込んでいく。それは、幾つもの皆から貰った約束と言葉、想いと結びあってそして、僕の魂にあった緩んでいた鎖を締め付けていく。

 

 その時、何故か心臓の辺りから暖かい記憶が甦ってきた。

 

 『おいおい、こんな子供が戦場に立つって!?俺は反対だね!』

 

 『これは、決定事項だ。確かにこいつは子供だ。だが、俺達と変わらない。理念があるんだよ、こいつには…そして、それの証明の為だけに俺が作った基準をこなした。こいつは、戦士だ。○○○○殿下のために、命を捨てることも厭わないとさ』

 

 『でも、そんなこと言っちゃダメって…言われた。だから、scoutとけいやく?したの。でんかは悲しそうな顔してたけど』

 

 『子供を、未来を託す子を戦場に立たせるってのは、それほど罪深いものなのさ。だからな、フォルト… 絶対に守るんだ。例え何があったって生きることを諦めることだけはしないってな』

 

 『うん、やくそくじゃなくてけいやく。よろしくね、みんな』

 

 これは、確か初めてscout小隊の皆と話したときの記憶だ。…懐かしいな、もう…会えないのに、記憶だけはその暖かさを見失なわない。

 

 まだ、僕の中で皆は生きているんだ。触れあえなくても、魂すら消えてしまっても…ずっと、ずっと消えはしない。

 

 だから、僕も例え…死ぬことがあっても、誰かの心の中に生き残れる、そんな人になりたい。だって、一人は悲しいから。

 

 「猫さん、もう…大丈夫。契約は、絶対だから。…行こう?戦争を止めないと、父さんも…それが目的、だったんでしょ?」

 

 鎧の擦れる音と共に、傷を塞いで立ち上がった父さんに振り返る。戦意も殺意も仕舞い込んだその姿は大きな山のように優しいものに感じられた。

 

 「あぁ、だが…我々が、レユニオンではなく、ロドスとなれば、この騒動の矛先は、ロドスへ行くことになる。士爵、備えは出来て、いるのか」

 

 「あぁ、だがボジョカスティ…後で君たちには契約を結んで貰わなければならない。その上ロドスには君たちに嫌悪感を抱いているものが多数いる。それ故、誠実な態度を君たちには期待している。君が率いる兵士ならば問題ないと思うがな」

 

 「うぅ…えっと、それと、幾つか戦闘時に気をつけて頂きたい点があります。ロドスとして動く以上ロドスのやり方を遵守していただきたいんです。それが守れなければ、私達は貴方方を仲間だと認めれませんから…」

 

 「大尉っ!私は反対です!彼らはアレックスを、スカルシュレッダーを…彼らを殺した!」

 

 盾を持った兵士が叫ぶ。なんだか、その名前を聞いた瞬間、僕の胸にヒビが入った気がした。それは、届かない星に手を飛ばしてる時のような虚しさで、僕は下を見た。

 

 ポタポタと濡れる地面と何も掴むものはないのに空を切る手、それだけで僕が失った何かを少し知れた気がした。

 

 「…殺してない、僕らは…。多分、助けれなかった。僕が弱かったから…」

 

 「なんだと…?お前は、何を見た?彼らの最期を知っているのか!?」

 

 ずんずんと音を立てながら彼は近づいてくる。だけど、僕の失ってしまった記憶はうんともすんとも言わない。ただ、失ってしまった事だけを心が伝えてくるのだ。

 

 「…ごめん、僕は…記憶を失ってるの。でもね、手が、すり抜けた事だけ…覚えてる。離したくなかった筈なの。でも、すり抜けて、消えちゃった。そうだ、これ…もしかして、その人の?」

 

 何でか持っていないといけないと思って持ってきた、誰かの服の破片と少し壊れた仮面を見せる。それを盾を持った人は優しい力で掬い上げる。

 

 そして、ゆっくりと眺めて僕の手へ戻した。淡い青と苦い匂いを漂わせる彼は僕を見ながら何かを見いだしたかのように僕の手を握る。

 

 「…ありがとう。きっと、君は彼らの救いへとなった。後で、そこに刻まれた赤い言葉を読み取れ。そこに、失ったものが、ある筈だ。大尉、恐れながら私も彼らに付いていきます。貴方と共に」

 

 「…分かった。ありがとう、盾の人…。父さん、手…少し握って」

 

 そう言うと、ボジョカスティは優しく割れ物を触れるように僕の手を取ってくれる。その硬く荒れた手は暖かさと不器用さを教えてくれて…なんだか落ち着く。

 

 「…そうか。では、行くぞ。タルラはもう、既にこの事態に…気づいている…。士爵、道を案内しよう」

 

 「あぁ。…フォルト、君の行く道は酷く辛い道になる。だが、それでも…君は歩みを止める気はないか?その願いによって恩人が死のうとも、それでも…君はその道を歩むことを、止めないか?」

 

 真剣にそんなことを言ってくるケルシーに、ゆっくりと目を合わせて僕は震える声で答えた。

 

 「…うん。でないと、僕は…大切なものを、無くしちゃうから。これだけは、変えれないの。何があっても…変えちゃいけないの。だって…だって、そう…じゃないと、僕は…きっと、壊れちゃうから」

 

 遠い遠い、見ることも出来ない星が僕の頭ではずっと光っている。その星に、僕は惹かれたんだ。

 

 その星には、ずっと雨が降っていて。大きな海が広がっていたから、僕は舟になった。その星の願いを叶えるために。

 

 そして、今もその願いだけが回っている。僕の心の中で、清く暖かく、光り続けているから。

 

 僕は今も、動き続けている。本当は、怖い。僕が僕でなくなるのも、皆のことを忘れちゃうのも…でも、結局は同じなの。

 

 この願いが光がなきゃ、僕は…きっと僕じゃなくなるから。

 

 「僕は、僕が…フォルトで在るためには…これだけは、変えれないの。だから、猫さん?…信じて?僕と、あの星の願いが正しいことを…そして、離さないで…僕が僕である、この…心だけは。そうしたら、何処までも僕は、漕ぎ続けられる。例え、果てがなくても…救いがなくても。僕は、止まらないで居られるから。ね、船長」

 

 ケルシーは、酷く辛そうな顔をしながら驚いて瞳を閉じた。そして、ゆっくりと開いた。

 

 「やめてくれ、私は…ただの医者だ。きっと、きっと…君の船長は他に居る。その座を私は奪う気はない。だから、今は自由に進むんだ。沈まずにな」

 

 その言葉は、傷ついて摩り切れそうになりながら僕の耳に届いた。

 

 「そっか。じゃあ…どこに、いるんだろう」

 

 遠く、遠くにある光を眺めながら…僕らは歩き始めた。

 

 暗く淀みきった残酷な運命を。




うわぁぁー!?気がついたら前回からまた1か月経ってるっ!?速い、速すぎるよぉー!時間が経つの!

ということでお久しぶりです。話は進まないし投稿速度が亀よりも遅いヒナまつりです。
これも全部スピッキーのせいです。私は悪くありません!
あの声がずっと頭に残って口ずさんでしまうので遅くなりました!

ちなみにこれからどんどんアークナイツしていくので覚悟をしてください。まぁ、ドクターの皆さんでしたら咽び泣くだけかもしれませんがね。

では、こんな激遅二次創作を楽しんでくださる優しい読者様には感想と評価、お気に入り等も是非是非お願いし次の話を書いてきます。あっ、ちなみにパゼオンカの着せかえめっちゃ良いので皆さんも確認してみてください!
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