「──こちら〈潰し屋〉です。初めてのご依頼でしょうか? ……でしたら、初回依頼料は千円となります。……はい、こちらのサービスはご依頼者さまのお名前、ご住所が特定されないよう、私どもは細心の注意を払ってご依頼を遂行いたします。……はい……はい、弊社には専属の弁護士がおります。これまでの依頼で一度も訴訟、開示請求されたケースはございませんので、ご安心ください。……はい、どのように──作家を潰すか、といいますと……主に、私どもが匿名で作家の感想欄に〈つまらない〉などと書き込むことによってですね、すこしずつ作品の更新速度が落ちていきまして、しばらくして更新がほとんどされなくなる……という経過を辿りまして、作家を〈潰した〉とみなしますが、はい、さらに延長料金を払っていただくことが可能であれば、作品もしくは作家のアカウントが削除されるまで依頼を続けさせていただきます。また、〈作家を潰してしまった〉という罪悪感に苦しまれる方のために専属のカウンセラーがおりますので、ご希望の場合はぜひ、ご利用をお申しつけくださいませ」
油断も隙もない機械的な説明口調。とはいえ、感情を置き去りにしたわけでもなく、不気味なほどに親切だ。顔が見えずとも、口角を上げて、にこやかに、ハキハキと喋っていることが電話越しに伝わってくる。
相手にとって〈作家を潰す〉という行為は、ただの仕事であり、業務上のタスク、ノルマでしかないのだろう。
あるいは──この商売を考えた人間は〈作家〉への恨みつらみを抱えているのかもしれない。
倫理観が並外れた商売というのはたいてい、法外な値段を依頼者へと請求するものだ。だというのに、初回の依頼料は千円と非常に安価である。
銃が気軽に市場に出回るようになり、手に届く値段となれば人は容易く、銃を手に取る。
そんなケダモノの心理を読んだかのような商売だ。
間違いなく、この〈潰し屋〉とやらを始めた人間は平和ではなく、争いを望んでいる。
いや、表向きは依頼者の心の平安を守るためなのだろう。表向きは、だ。
しかし、もし、その依頼者が精神疾患を患っていたら? 認知能力および脳機能に問題があり、すべての〈作家〉を敵だと思い込んだら? あの世とはまた別の、地獄を生み出すことは間違いない。
さて。異常な〈潰し屋〉に電話をかけた、この〈私〉は正常か、それとも、異常なのか。
それを判断するのは私と縁のない赤の他人だ。
電話の向こう側、顔の見えない優しい女性の声が奈落へと誘い込む──
「……では、ご依頼、なさいますか?」