海というのはどのような艦船であれ、安全に通行することが可能な広い自然である。
だが、その海の中に潜む船がある。
それが潜水艦だ。
ドイツが第一次世界大戦にてUボートを送り出し通商破壊戦等を行い始めた事をきっかけとして今日まで発達してきた。
今や原子力を動力とし2、3ヶ月は水中にて戦闘行動が可能な潜水艦までもが建造され始めた。
その潜水艦は、相手国が保有しているだけでも脅威となる。
なぜならば、その潜水艦がどこの海域に潜んでいるか全くわからないからである。
潜水艦は文字通り水の中に潜る艦であるが、それゆえに隠匿性が極めて高い。
一般に海の航海においてはレーダーによって電波を飛ばしその電波の反射波を拾ってそこに何があるかを把握できる。
海上戦闘艦でもそれは同様のことだ。
だが潜水艦は違う。
海の中は極めて電波が通りにくい性質をもち、潜水艦が潜る深度まで電波を届けるには超長波程度の振幅が長い電波を発信する必要がある。
超長波は電波性質上にて直進性は超短波等には劣ることからレーダには不向きであり、それが潜水艦を海の脅威たらしめる要因となっている。
もしかしたらこの海域にいるかもしれない、本当はいないのだけれどもいるかもしれないという疑念が生まれる。
そういった疑念を持たせ、常に警戒させる事で戦闘へのリソースを奪う事ができるのだ。
USS Seawolf級原子力潜水艦 SSN-21はグアムはアプラ港へ寄港していた。
昨今の中国が不穏な軍事行動を見せている為、母港であるワシントンはバンゴール港を出航。
一度グアムに立ち寄り、太平洋に展開する
Seawolf艦長のエリザベート・クレッチナー海軍中佐はアメリカ海軍酒保にて副長であるカタリナ・ブッシュ海軍少佐とだべっていた。
副長とは艦長エリザベートの3期下の後輩だが、かつての乗艦であるオハイオで意気投合し、それから10年というそれなりに長い付き合いがある。なぜか異動するたびにどこかしらで一緒になるという変な運命力で引き合っている。
そんな二人だが、予定が繰り上がる可能性を考えソフトドリンクで場を濁していた二人であったが今回はそれが正解であった。
喧騒あふれる酒保の一角にはテレビが置かれ、とあるニュース番組が流されていた。
「んで日本に行った時にさぁ、本場のsushiを食べてみるといいぞぉ」
「しかしですなぁ、生魚は青臭いでしょう?やですわそんな物食べるのは」
「まぁまぁ、一度食べてみろよ。飛ぶぞ?今度横須賀に行った時にでも食いに行こうか。私が奢るからさぁ」
「奢りなら、まぁ・・・・・・っと艦長。なんかテレビでやってますよ。中国が大規模な演習を行う可能性がある、かぁ」
「・・・・・・」
「艦長?」
「予定が早まるかもしれないなっとそらきたぞ」
艦長のスマホがなり始める。
「はい、クレッチナーだ。
わかった、副長と居るから一緒に向かう」
「どうしました?」
「
「は?」
「行くぞ副長」
「ちょっと待ってください、会計してきます」
「頼んだ」
seawolfが係留されている桟橋に来ると、水雷長レナ・キングストン大尉が待っていた。
「お待ちしていました艦長、副長」
「艦長、こちらが至急の極秘命令書になります」
「ありがとう」
水雷長から封筒を受け取ったエリザベート艦長は命令書に一通り目を通す。
「・・・・・・乗員は揃っているか?」
「上陸許可を出したばかりですのでほぼ戻ってきていますが、まだ5名ほど戻ってきておりません。少なくとも1時間以内には戻るかと」
「了解した。すぐにでも出航するぞ、魚雷は満載しておいてくれ」
「すでにMk48を22本、ハープーン8本、MOSS6本、トマホーク12本を搭載するよう指示してあります」
「あいかわらず仕事が早いな。副長、乗員が揃い準備が出来次第出航するぞ」
「Eye captain」
その後、弾薬を全て満載し終え残りの乗組員も揃った頃。
「艦長入られます」
艦内巡視を終えた艦長は発令室へ入った。
艦長が入った発令室にはどこか緊張した空気が漂い始める。
「艦長、行き先はどこでしょうか」
「それについてはこれから話そう」
マイクを手にとります乗組員へ初っ端の説明をかける。
『私は艦長のエリザベート・クレッチナーだ。まぁ皆も知っていると思うがこのSeawolf艦長についてから3年は経っている。そして諸君らと困難な任務をともにやり遂げてきたと自負している。だが、今回の任務は今まで以上に厳しいものになりかねない。
皆も知っているとおり中国軍の動きが活発になっている。そのため我々Seawolfは当初予定していた海上自衛隊との合同訓練は延期し、東シナ海及び南シナ海にて哨戒活動を実施する。
もちろんその海域は、万が一友邦国である日本や韓国、フィリピンが攻撃を受け我らがステイツが交戦状態に入った場合、我々は矢面に立つことになる。その事を肝に命じておいてくれ。
以上だ。』
艦長がマイクを元に戻すと、航海長へ指示を飛ばす。
「ひとまず沖縄近海へ向かい、東シナ海へ進路を取れ」
「Eye captain」
「副長、私は仮眠をとってくる。後は頼んだ」
なおこの艦長はここ28時間ほど眠っていないのである。
死ぬ程疲れてるのは副長も承知していたし何より、そこまで寝ていないというわけではないのだ。
「Eye Sir」
『12月29日、朝のニュースです。昨日20時ごろ中国軍が台湾の金門島へ爆撃攻撃を開始し、沖縄県、広島県、神奈川県、岐阜県そのほか多数に弾道弾による攻撃を行った模様です。なお、防衛省によりますと弾道弾は全て撃墜したと発表しています。
日本政府はこの攻撃を受け、昨日未明に行われた緊急の閣議で自衛隊へ防衛出動準備命令を出す事を決定しました。
また本日臨時国会を開き防衛出動を採決する予定です』
『次のニュースです。アメリカはアメリカ軍基地に発射されたミサイルの攻撃を受け、中国を非難し東アジアの安全を確保するためにはいかなる手段をも問わないとし、報復としていかなる手段をも問わない姿勢を見せています。
また、アメリカ国防総省は〜・・・・・・』
「艦長入られます」
4時間の仮眠を終えた官庁が発令室へ入ると、一層緊張感が高くなっていた空気が漂っていた。
「ソナーコンタクトは?」
「ありません。が、悪い知らせが」
「何だ?」
すると、通信担当が艦長へ答える。
「
印刷された緊急電と指令書を受け取る。
| 発 太平洋艦隊司令部 宛 SSN21 Seawolf 艦長エリザベート・クレッチナー
何やかんやあって中国と戦闘状態に入ったよ
|
|---|
| 発 太平洋艦隊司令部 宛 SSN21 Seawolf 艦長エリザベート・クレッチナー
偵察衛星が山東に揚陸艦を含んだ戦隊の出撃準備を確認した。諜報員の情報より司令部はこの戦隊が台湾の高尾周辺に揚陸すると考えている。この戦隊より揚陸される軍は台湾陸軍において脅威となりうる。 なお、現在最も近海に存在する有力な原子力潜水艦は貴艦のみのため当該戦隊を迎撃せよ。
|
|---|
「・・・・・・艦の進路を変更する。台湾の南高尾近海へ向かうぞ」
「Eye canptain.
Bearing 260」
「Bearing 260, eye sir」
「ところで、艦長。指令には何と?」
「極めて重要な指令だ。皆にこれから説明する」
マイクを再び手に取る。
『艦長のエリザベートだ。我らがUSAはかの中国と戦闘状態に入った。ハワイ、グアムだけではない。その他の基地を攻撃し、同盟国を攻撃した。
そして今や、中国の食指はいよいよ台湾の本土に手を掛けようとししている。
よって我々は、台湾の高尾近海へ向かい、これを迎撃する事となった。普段の演習がなされていれば、我らに出来ない事は無い!
・・・・・・諸君らの奮戦に期待する、以上だ』
マイクを元の場所にかける。
発令室を見回すと微かに浮き足立っている。
それもそうだ、これが我々の初の実戦だからだ。
「しかし艦長。単独で中国の艦隊を撃滅せよとは、無茶にも程があります。空母打撃群の攻撃でも良いでしょうに」
「まぁ、そういうな。
中国の艦艇数は我らが合衆国海軍の総艦艇数では既に上回っているし長射程の対艦ミサイル陣地が多数張り巡らされている。
容易に艦隊を入れられる海域じゃないし、台湾海軍や空軍は中国に劣る。日本とも距離がありすぎるため航空優勢が取りにくいからな。
こうやって潜水艦で入り込んで攻撃するしかないと言うことだろう」
ただ、彼らの戦闘処女の解消は意外にも太平洋で経験する事となった。その時は全速で当該海域へ向かっている最中だった。
「艦長、潜水艦らしき音源を探知。
補足目標S1、Bearing 129、5nmi」
「音紋解析急げ、
「
『
その号令をきっかけとして皆それぞれの持ち場へ着き始めた。
発射管室では魚雷発射管に注水が開始される。
「魚雷発射管1から8番注水!」
「艦長、総員戦闘配置完了、発射管全て注水終了です」
「分かった」
「艦長、音紋解析終了。S1は改キロ級です。方位130、4.8nmi、深度100、速力約5knot」
「改キロ級か、静粛性が恐ろしく良いやつだったはずだな。ここで逃せばもう探知は難しいだろう」
その時、改キロ級より研ぎ澄まされた殺意が発射される。
「艦長、S1より魚雷発射音を聴知!」
「奴らやる気だな。
「
「
「
「
「1番魚雷発射、方位130!」
「航海長、深度500まで潜航、進路240、最大戦速」
「Eye captain、dive at 500,maintain240,Go ahead full」
「艦長、魚雷誘導ワイヤー破断しました!」
「構うな!一番発射管魚雷装填、ソナー、敵魚雷は!」
「探知不可能です!」
「速力そのまま、ノイズメーカー射出。やつのソナーを撹乱するぞ」
速力を最大とし魚雷のシーカー探知範囲から高速を利して艦自体を動かして外し、音を盛大に発生させるノイズメーカーにてソナーを撹乱、有線誘導を正確にさせず、かつカウンターで魚雷を発射し敵へ回避行動を強制させる。
「そろそろ良いだろう。速力1/3へ減速、ソナー敵を聞き逃すなよ」
それから約10ノットまで速力を下げ、耳を済ませる。
「1番発射管Mk48装填完了しました」
「分かった」
ジリジリと時間が過ぎていく。
1秒1秒が長く感じるようだ。
「艦長、S1らしき音紋探知。方位97、深度200、13ノット」
「敵魚雷は?」
「本艦より方位20、距離約2nmi」
「分かったほぼ交わせたか。敵魚雷の動向に注意せよ」
「艦長」
「どうした?」
「S1を魚雷が追走しています。着弾まで30秒」
「牽制で発射したつもりだったが、好都合だ。」
搭載数は合計48本、Mk48は22本しか積んでいない。つまりは数ヶ月もの間戦闘行動を続行するにあたり可能な限り弾薬を節約するというのがその意図であった。
「着弾確認、包囲94、深度200から沈降中」
「やった、やってやったぞ」
誰かが思わずこぼすが、艦長が釘を刺す
「気を抜くな、敵の魚雷がまだ生きている。敵魚雷自爆を確認後この海域を離脱、高尾を目指す」
「Eye sir」
それから5分後。
「敵魚雷自爆音を確認しました」
「よし、戦闘配置を解除、第一警戒配置へ。航海長、高尾近海へは?」
「方位240です」
「よし、方位240を維持、速力2/3」
「Eye captain」
海の狼は海中を進む。
台湾を、日本を、フィリピンを守りひいてはアメリカを守るため。
そのために海中に潜むのだ。
27/12/2027 18:53,台湾 高尾沖50nmi
海には様々な音がある。波であったり、海底から発生する自然な音であったり。
交易に勤しむ貨物船であったり、漁業をするための漁船がやって来たり。
だがその様々な音に紛れる船がいる。
美味しく平らげようとする無粋な者共を迎え撃つために。
「艦長S1コンタクト。貨物船です」
「この海域も既に危険であるのに、よく通るな」
民間船は通常戦災での被害は保険対象外が多いため、戦争により危険となった海は避ける傾向にある。が、まだその海域はまだ激化していないため、未だ通る民間船も多かった。
「ん?これは・・・・・・艦長新しい音源、S2・・・・・・少々お待ちください。さらに新たな音源、S3を探知」
さらに多数の音源をソナーが探知。最終的にS13まで探知したのだ。
「ここまで密集してると、敵水上艦隊だろうな。音紋解析を急げ、総員戦闘配置だ」
「総員戦闘配置!」
『総員戦闘配置!』
「S2、方位355、距離35nmi、2軸推進音。中国の駆逐艦です」
「目標がようやっとのこのこ来たようだな」
「S5、方位360、距離36nmi、2軸推進音。中国の輸送艦です」
「よし、全ての音紋解析終了後魚雷攻撃を実施する」
最終的に輸送艦7隻を角を駆逐艦4隻で固めフリゲート艦2艦を前衛として高尾へ着実に近いていた。
台湾側の対艦ミサイル攻撃は中国側ミサイルの飽和攻撃により沈黙させられており、迎撃は米軍原子力潜水艦1隻のみとなってしまっていた。
「S2、S5、S8、S10、S11、S12へ1番から7番発射管の各魚雷を各目標に1発ずつ割り当て、発射」
「
「
「
「
「shoot tube 1、Eye sir」
「
「shoot tube 2、Eye sir」
「
「shoot tube 3、Eye sir」
「
「shoot tube 4、Eye sir」
「
「shoot tube 5、Eye sir」
「
「shoot tube 6、Eye sir」
「よし、深度500まで潜航。ゆっくりと静かに潜るんだ」
「Eye sir」
艦長の号令でUSS”Seawolf” SSN21より発射された7本の魚雷は、各々オペレーターによる誘導により確実に向かって行く。
「艦長、着水音を探知。方位150、距離7nmi」
「遠いな。奴らはまだこの艦の居場所を把握できていないようだ。速度、目標深度このまま」
「艦長、着水音を探知。方位270、距離6nmi」
「1番魚雷、目標へ接近しています。シーカーOpen、1番魚雷S2を探知しました」
「目標、回避行動を開始、ノイズメーカーを射出したようです。魚雷迷走中です」
「有線誘導で確実に当てろ」
魚雷が探知してからは魚雷の自律誘導にて誘導するつもりだったが、厄介な音を撒かれて反撃を食らうと怖いからか、有線で確実に当てるつもりだ。
魚雷のアクティブソナーより探知された画像音響シーカーが捉えた映像をオペレーターが見て魚雷を誘導する。
魚雷の自律誘導では躱せたかもしれないが、人間の手が入るとたちまち凶暴な代物にとって変わる。
海の狼が反射した魚雷は鋭く、強靭だ。
「魚雷命中音をS2より確認!」
S2、すなわち054型駆逐艦が一発で吹き飛ぶ。竜骨が折れ、轟音をたてながら沈んでいく。
その後も見当違いの方向へ飛ばしてくる対潜ミサイルに探知されないよう上手く進路を取りながらも次々と護衛をしていた駆逐艦とフリゲート艦に魚雷を命中させていく。
その光景に恐れをなしたのか、揚陸艦が撤退の進路を取り始めた。
「艦長、揚陸艦が離脱を図っています」
「水雷長。ハープーンは装填終了したか?」
「7番発射管が装填終了していません」
「分かった。装填終了次第、目標へ一発ずつ割り当て、全弾発射せよ」
「艦長、1番から7番装填完了、諸元入力終了しました」
「ハープーン発射」
「Eye sir .
1番ハープーン発射」
潜水艦の発射管よりスリーブに入れられたRGM-84Jハープーンは深度150にて魚雷から発射された後海面へ向かい海面近くなるとロケットモーターへ点火。
一気に目標へ加速する。
その必中の矢であり敵を屠る銛は、揚陸艦を捉え、吹き飛ばした。
「艦長、すべての戦闘艦の撃沈を確認しました」
台湾を欲しいがままにしようとした不法者は、自由を志す海の狼により喉笛を噛み切られ、すべて海の冷たい底に海水浴させてやった。
「通信、次の定期連絡にすべての揚陸艦隊を撃破。東シナ海の哨戒へ移行すると連絡しろ」
「Eye sir」
USS”Seawolf" SSN21の戦いは終らない。平和が訪れるまで。
館長による訓示は戦闘海域離脱後だった。
大規模目標に単艦で挑みながらも全てを撃沈したという結果は、艦内の海兵が興奮気味になるのは仕方がないことだろう。
だが艦長は呟いた。
「まだまだ先は長い。無事公開を終えるには気を引き締めるべきだろう」
戦闘の興奮を鎮めるため、手にマイクを取る。
「皆、よくやってくれた。我々は台湾高尾沖にて揚陸艦を含んだ13隻を撃沈した。この戦闘は、潜水艦の恐ろしさを十分奴らに教えやったと考えている。だが我々は数で劣っている。まだまだまだ多数の戦闘を経験することとなるだろう。だが、次の戦いは今回のように上手くいかないかもしれない。皆気を引き締めるように。
以上だ」
鉄の鯨は、冷たい海中をゆく。