個性を借りた人との記憶がなくなっちゃう男の子がヒーローに 作:パッチワーカー
1年周期ってわけではないんですけど、結果的にそうなりましたね。
──前回は幸福な家庭環境から一変、両親と幼馴染の記憶をなくしヤオヨロと仲良しになってましたね。
家庭環境が悪ければ悪いほど、轟くんとの仲良くなれる確率が上がるので一概に悪いことばかりというわけではありません。
また、消くんのように恨み•憎しみを原動力にしてヒーローを志すと一定期間ではありますが、狂ったように鍛錬してくれるのでまあよきです。
···修羅場はデメリットしかありませんが···
今回はあくまでも試走です。別にどれだけガバろうが気にしません。
···おや、消くんに目を向けてみるとヤオヨロ家の車に乗ってどこか向かってますね。
──中学生かつお嬢様であるヤオヨロとの爛れた関係はNGすぎますが大丈夫でしょうか···?
まあヤオヨロ家の車に乗っているということは公認の仲の裏付けなので大丈夫そうですけど。
そうこう考えてると止まり、消くんだけが降りていきましたね。彼の部屋にでも着いたんでしょうか?
···車の中でも仲良く談笑してるところを見るに相当親密なんでしょうね。ヤオヨロが名前で呼ぶほどの仲なんですから予測はできてましたが。
会話の内容からもう筆記は終わってるみたいですね。
──降りていった先はアパートですかね?
すこしボロ目のアパートに物間の表札がありますし。
鍵を開け中を見てみますが、一箇所をのぞいてかなり整っていますね。
特に台所やテーブルといった食関係のところはとても清潔感があります。
ただ、一つ異常なほど散らかっているのは···彼の机ですね。見てみると、各ヒーローの個性や個性の優良度、そのヒーローのバックボーンといったものが自作の資料として、個性の種類別に分けられています。···そして、特に使うヒーローの個性やバックボーン、友人であれば話した内容や性格などが手に取りやすいところにあります。
気味が悪いほど綺麗に分けられてはいますが、何回も読まれている資料には血の跡やなにか液体を溢した跡が多く存在しています。
──おそらく涙ですよね。性格がストイックなこともあり、仲が良い人の個性までも特訓の対象としていることが容易に考えられます。限界まで鍛え、その度に仲が良かった人の記憶がリセットされ、また一から覚え直す必要があります。──それは、彼にとって耐え難い苦痛でしょう。
──というか、彼はどのような特訓をしているのでしょう?他者の能力を扱うのですから、色々な能力を動画で見ているのでしょうか?
···それとも使った分のその人の記憶が無くなりますが、どういう能力で扱い方はこうだ···と記憶できると仮定するならば、限界まで鍛えて、記憶が消えて、能力の使い方だけは残って、また一から覚え直して、のループになるのでしょうか?
資料にある血や涙の跡的に、後者なのでしょうね。
──あー、ほんと悲劇のヒーローですね。
ま、RTAの試走ですし、何でもいいんですけど。
さて、消くんがヒーローの動画を見始めたので、スキップしましょうか。
明日の実技試験も多分行けるでしょう。
スキップー!!!
──────
次の日、いつも通りの時間に起き、使うだろう能力について見ておく。
──勉強は大丈夫だった。実技も行けるだろう。
···けど、多分俺は何人かの記憶は消えるんだ。程度の差はあれど、自分の中から消えるのは怖い。怖いんだ、怖いはずなんだよ。
だから、手の震えはその恐怖のせいにした。
──────
「ハイ!スタート!!!」
辺りが震えるような轟音が響く。──いいな、その個性。目眩しみたいなことができるし、そこまで能力の使用量が多くならないのも良い。
「···はっ、本当に楽しいな」
ロボットがこちらを認識して襲いかかってくる。それがどうしてか楽しく感じた。こんな生活を送れるんだ、いくらでも能力を使える。
両手を前に出し、手の平を内側に向けて、お互いの
ビリビリッ!!
「電気は通るのか?」
ロボットの突撃をよけながら、電撃を浴びせる。
──なんだ、お前らそこまで強くないのか。そうなれば短期戦というより、長期戦になりそうな予感がする。
「···ごめん」
誰に向けた謝罪かは自分でも分からない。そんな罪悪感だけを持って、動けていない生徒たちを助けに行く。
パンッ!!
···頭の破裂音は必要経費だ。痛みもなんとかなる。ただ、この電気を扱っていた個性は誰のだろうか?頭の痛みが存在の大きさも物語っている。
──けど、涙は流れない。
それが気にならないほど、潰す、助ける、倒す、助ける···その繰り返しだ。
パンッ!!、パン、パンッ!、
どの破裂音、どの頭の痛みも俺の行動の妨げにはならない。足は動く、手も動く、頭も痛いが、考えることもできる。
──けれど、心の喪失感だけは俺に取り憑いている。
「捨てる」と決めたはずの交流を、友情を、尊敬を、楽しさを、悲しさを、感情の全てを、行動の全てを──彼女と母親以外の記憶を、
パンッ!!!
どこまでも自己中心的だと分かっているし、俺はこの在り方には納得している。けど、それでも心には自分を責める声が消えない。「俺/私のことを捨てたんだ」と顔の見えない亡霊が囁き、心臓を握られている感覚がある。
そんな感覚に気づかないフリをして、個性を
その人との
「プロミネンスバーン!!」
記憶上の彼とは比べ物にならない程度の威力だが、このくらいでアイツらは倒せるしい。パンッ!──結構強い個性だったな、おそらく
──それで、安堵するのは本当に気持ち悪く感じるなぁ。
──────
五大元素の全ての能力を扱える、植物や鉱石系も扱え、扱いが難しそうな特殊な能力も普通に扱える。
外から見れば、強個性にも程があります。しかし、そんな考えも個性を切り替えるときの顔を見れば消え失せるでしょう。
あんなに悲しそうな顔をして試験を受けている人を僕は見たことがありません。···ほんとに
けれど、撃退数、救助数ともに合格ラインを軽く越えています。思っていた以上に救助に熱心で良かったですが、個性を使うときの悲しい顔は命取りですね。
しっかり見ていないと気づかないレベルですし、頭の痛みと言えばごまかせそうですが、色々バレたとき面倒くさいことになりそうです。
まあ、これ以上見ていても何も情報は増えないと思うのでスキップです。
スキップ!!
──────
学校に行けば百ちゃんがいる、病院に行けば母親がいる。それだけでいい。
「どうされましたか?」
「あー、同じクラスになれたらいいなって思ってただけ。どちらにしても、仲良くしてくれると嬉しい」
「もう!消さんにそう言われなくてもこれまで通りいっしょにいますわ!」
それだけでいいのに、頭に心に募るこの気持ちはなんなのだろうか?
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