仮面ライダードゥームズギーツ 絃神島の金狐 作:究極の闇に焼かれた男
季節は真夏、日本国内に在る森―――
深夜の神社境内を煌々と燃える篝火が照らし、拝殿に射し込む淡い月光で彩る。
季節を忘れるほどに空気が冷たく張り詰めているのは社を包む結界のせいだろうと、少女--【姫柊雪菜】はそう思いながら広い拝殿の中央にて無言の状態で座っていた。
細身で華奢だが儚げな印象は無く、むしろ鍛えられた刃のようなしなやかな強靭さを感じさせるのは彼女の根が生真面目で、引き結んだ唇と瞳に宿る強い光のせいかもしれない。
関西にある私立中学の制服に身を包む彼女は、暖簾の向こう側に居る3人の人物へと視線を向けていた。
【三聖】―――政府の国家公安委員会内に設置された特務機関である"獅子王機関"の長老たちであり、いずれも最高位の霊能力者、或いは魔術師でありながら、彼らを取り巻く空気は静謐で威圧感を感じさせないと言う恐ろしさを持つ者たちである。
そんな三聖に呼び出された姫柊雪菜は制服の袖口を無意識に強く握りしめていると、暖簾の向こう側から声が発せられる。
「名乗りなさい」
口調は厳かだが冷たさを感じず、逆に姫柊雪菜が想像していたよりも若い声が聞こえて来る。
「姫柊です。 姫柊雪菜」
想像していたよりも若い声が聞けてきた事に驚き一瞬遅れて雪菜は答えは。
緊張で微かに声が震えている雪菜だが、暖簾の向こう側に居るどこか笑いを含んだ声のちょは構わず質問を続けてくる。
「歳は?」
「あと四ヶ月近くで十五になります」
雪菜が正直に答えた後も質疑応答は続き時間が流れて行き、それから少し経った後に本題へと入った。
「さあ、本題に入りましょう」
「はい」
「良い返事です。 先ずは、これを」
その言葉と共に御簾の隙間から一羽の蝶が現れ、音もなく羽ばたき雪菜の前に着地すると、蝶は一枚の写真へと変わる。
写真に写っていたのは、高校の制服に身を包む1人の男子生徒のもので、一つの手提げ袋を抱えながら公園内を歩いている様子だった。
だが驚く事に少年は片側の瞳を此方側に視線を向けており、明らかに隠し撮りしていたであろう人物の方を視認していると思える物だった。
「この写真は?」
写真を見て雪菜は率直に問い掛けていた。
「金月英澄というのが彼の名前です。 知っていますか?」
「いえ」
雪菜は正直に首を振る。 実際に初めて目にする顔で、その答えを最初から予想していたのだろう三聖の女は何の感慨もない口調でさらに訊いてくる。
「彼のことを、どう思いますか?」
「え?」
余りにも突然の質問に雪菜が一瞬だけ戸惑いつつも、正直に答えていく。
「写真だけでは正確なことは分かりませんが、おそらく武術に関しては精通している所か、戦い慣れていると思われます。 特に危険な呪物を身に付けている様子はありませんが、撮影者の存在や正確な位置を把握していると考えられます」
「いえ、そういうことではなく、あなたが彼をどう思うかと訊いているのです。 つまり、彼はあなたの好みですか?」
「は、はい? なにを……?」
予想外の言葉に雪菜は意味が分からないと言った表情をしつつも聞き返す。
「たとえば顔の良し悪しだとか、見た目の好き嫌いの話です。 どうですか?」
「あの…?わたしをからかってるんですか?」
長老たちの真意は分からないが、彼らの場違いな質問には悪意を感じる気がした雪菜は不機嫌な口調で聞き返し、床に置いている太刀に思わず手が伸びそうになっていた。
そんな雪菜の反応に暖簾の向こう側の女はどこか落胆した様子の息を吐き、
「では、第四真祖という言葉に聞き覚えは、姫柊雪菜?」
さらに唐突な彼女の質問に雪菜は小さく息を呑むと、まともな攻魔師ならほとんど誰もが、その名前を聞くだけで、しばし沈黙することになる。
「焔光の夜伯(カレイドブラッド)のことですか? 十二の眷獣を従える、四番目の真祖だと--」
「そのとおり。 一切の血族同胞を持たない、唯一孤高にして最強の吸血鬼です」
第四真祖、別名【焔光の夜伯】--魔族に関わりを持つ者であれば、その名を知らないということはあり得ない。 何故ならそれは、世界最強の吸血鬼の肩書きだからだ。
自らそう名乗っている訳ではないが、少なくとも世間はそのように認識している。 そして敵対しているはずの者たちでさえ、あえてそれを否定しようとはしない。 第四真祖はそのような存在である。
「ですが、第四真祖は実在しないと聞いてます。 ただの都市伝説の類だと」
「たしかに、公に存在が認められている真祖は三名だけです。 欧州を支配する"忘却の戦王”、"西アジアの盟主滅びの瞳”、そして南北のアメリカを統べる”混沌の皇女”--それに対しては第四真祖は自らの血族を持たず、ゆえに領地を持たない」
「だが、本来なら有り得るはずの無い第四真祖が実在しているとしたら……いや、正しくは実在していたとしたらどうする?」
暖簾の向こう側の女の言葉を引き継ぐように背後から男の声が発せられる。
いつの間にか背後に立たれていたと言う事実に雪菜が驚き、太刀に手を添えようとするも何故か体を動かす事が出来ずに居ると、男が雪菜の横を通り過ぎ、暖簾の向こう側に居る長老たちに一礼する。
「ご報告申し上げます。 調査の結果ですが、どうやら第四真祖は実在している事が判明しました。 ですが、さらに調べた情報によりますと第四真祖の行方意は知れず、その裏には件の人物が関わっている可能性が有るとの事。 それに加え、今回の対象は各領地の自治に勤しむ三人の始祖からは警戒と恐れを抱かれせる程の力を有している事が判明しました」
「そうですか。 これは早急に動かなければなりませんね……」
男と暖簾の向こう側の女の会話に雪菜が疑問符を浮かべていると、三聖に変わって男が雪菜に向けて口を開きはじめた。
「長話は終わりだ。 姫柊雪菜、君には東京都絃神市の人工島──つまりは魔族特区へと向かってもらう」
「え?」
「長老方が君を呼んだのは、先程見せた写真に写っていた金月英澄の監視及び抹殺だ。 これは極めて重要度の高い任務だ。 何より今回の相手は"全ての真祖を一人で相手取った上で、真祖を完全に殺す力"を有している男だ。 失敗した場合の被害は計り知れない」
「っ!?」
その言葉を雪菜は信じる事が出来なかった。
真祖は吸血鬼の頂点であり、殺すことなど不可能"とされている存在だ。 それを殺すことが出来る存在が居るとすれば、其れは即ち"世界を滅ぼす事が出来る"ということである。
「そんな人間が存在するなんて……有り得ません!」
「しかし残念な事に、この情報は間違いない事が判明している。 戦王領域に居る吸血鬼、【ディミトリエ・ヴァトラー】の名前は知っているだろう? 情報によると、そのヴァトラーが件の少年に挑んだ結果、完膚なきまでに叩きのめされたって話だ」
その言葉に雪菜はさらに絶句した。
何故ならディミトリエ・ヴァトラーは真祖に最も近いと称される吸血鬼で、それを叩きのめすことが可能な人間など到底信じる事は出来ないからである。
「そんな危険な人物を獅子王機関としては放置する訳にはいかないからな。 故に、本日付けで君には写真の人物、金月英澄に全力で接近し、彼の行動を監視するようにしてもらう。 これは既に決定事項であり、諸々の手続きは済んでいる。 あとは君が絃神島に在る彩海学園へと転入し、任務を遂行するだけだ」
その言葉と共に姫柊雪菜は下手をすれば世界の命運を賭けた任務へと赴く事となり、そして後に雪菜自身も予想していなかった展開の数々が待ち受ける事になるのだった。
一方その頃…
「ん? 何だか知らないけど、近い内に面倒事が舞い込んで来そうな予感が……気の所為か?」
「どうしたの英澄くん?」
「いや、何でもないから気にするな」
自宅にて不穏な気配を感じつつも、友人にして幼馴染の少女との食事を再開するのだった。
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