転生ゆうむす、あと三年   作:多部キャノン

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第十三話 エピローグ、イドナの顛末

その場の雰囲気と勢いで、私もみんなもなんだかおかしなことになってた気がする、そんな歓待式? から数日が明け。

彼らの無事を見届けた私たちは、颯爽と村を出る……ということもなく。

なんだかんだまだ村に滞在し、彼らのお世話になっていた。

 

ちなみにこの提案は彼らからのもので、迷惑をかけないかと心配だったが全くそんなことは気にしないで、と強く推されている。

というか、彼らは隙あらばイドナ村に永住させようとしてくる。

気持ちはとても嬉しいが、さすがに当初の目的も考えるとここに骨を埋めることは出来ない。

 

そして今、私は村の少し外れにある空き地で、ここしばらく続けているとある行動をしている。

これを始めた当初レクタに聞かれた「何をしてるの?」って質問に、私はこう返した。

 

「その……ちょっとやり残しと言うか……宿題を片付けたいな、って」

 

当然、こんな説明ではよく分からないだろうレクタだったが、その前に私の方も気になることがあり、レクタに尋ねる。

 

「ちなみに……レクタは、その。この先、これからどうするか、とか決めてたり……する? その、もし────」

「うん、あたしはこれからも村で、いちばん器用で、すごい仕事ができるようにがんばるよ!」

「……そうだね。うん、レクタなら出来るよ、なんだって出来る」

 

そんな彼女の、当たり前すぎる返事に。

私は、ほんの少し寂しさを覚えたことを自覚し、同じぐらいほんの少しの自己嫌悪に至る。

もしかして、もしかしたらレクタと一緒にこれからも戦っていけるんじゃないか、なんて夢みたいな期待を持ってしまっていたことに、だ。

 

(一緒に死線をくぐり抜けたらみんな仲間になるなんて……マンガだけだもんね)

 

もし、仮に一緒に旅に出るなんて言い出したら、流石に年齢的に危険だと諭さなければならない側のはず。

だから、こうあるべきだったと分かっているし、こうなることも分かっていたはずだ。

 

……それは、以前の彼女とマルティロとの会話を聞いたときから。

 

 

------------

 

 

少し前、私はレクタとマルティロが何かしらの会話をしようとしているところを目にして……思わず隠れて、様子を伺った。

というのも、これまで私はこの二人が喋っているところを見たことがなく……もし会話が始まった場合、一つ心配なことがあったから。

 

レクタと出会って、メナトロールの脅威を聞かされて。

倒そうと決意し命をかけたことに後悔は何も無い、が、少なくともマルティロはリスクを示し、意見としてはどちらかというと止める方向に傾いていた。

実際、色々な偶然も重なってなんとか倒せた、というぐらいのギリギリの戦いだった以上、マルティロの発言は何も間違っていない。

ただ、そうとは分かっていてもレクタからすれば、自分を救おうとする手を止めたすごくヤな大人、みたいに嫌っていてもおかしくはないんじゃないか、と考えたのだ。

 

せっかく大団円で終えられたと思ったのに、言い争いから仲違いのようなことになるのも、とても辛い。

だから私は少し様子を見て、悪い雰囲気に流れそうならなんとかフォローしなければ、と。

盗み聞きのようになって悪いと思いながらも、耳をすませることを選んだ。

 

そして、彼らの会話が届きはじめる。

 

「あ、マルティロさんっ。こんにちは。アッセロさんは一緒じゃないんですか?」

「ん? ああ、あいつなら考え事があるとか言ってたから、あてがわれた仮屋にいるかその辺どっかぶらついてるだろ。あいつに用事か?」

 

「……ううん、その、マルティロさんに少し、お話したいことがあって」

 

はじまった会話は、一番悪い方向にしていた予想よりはずっと穏やかな雰囲気で、ひとまず胸をなでおろした。

ただ、話がある、と続けたレクタの表情が真剣味を増したことで、私は聞き逃さないよう身を乗り出す。

 

「えっと、マルティロさんは……その、怒って、ませんか? あたしに……」

「怒る?」

 

(怒る……?)

 

予想していなかった話の切り出しに、マルティロの返しと私の内心で同じ言葉が浮かぶ。

 

「だって、あたしが巻き込んだせいで、アッセロさんあんなにひどい怪我をして……もしかしたら死ぬかもしれなくて……

だから、マルティロさん止めようとしてたんだって、あとになってすごく怖くなって……」

 

(────っ)

 

一方的に嫌うなんてとんでもない。

つらい経験を耐え抜いた少女は、私の浅い想像なんかより遥かに大人だった。

 

(すごい子だなあ……)

 

「……まさか。以前あいつにも言ったが、最後に決めるのは結局自分自身だ。

それであいつが助けたいって言ったんだから、俺に文句なんてねえよ。

ましてやお前の立場でそんなこと考える必要なんてねえ。黙って助かったのを喜んどきゃ、それでいいさ」

 

うん、やはりマルティロはそう返してくれるだろう。

たとえ命がかかったとしても、なんだかんだ最後に私の意思を第一に持ってくれるのは変わらないし、ましてやレクタに苦言など呈するはずもない。

 

「……それに、だ」

 

(ん?)

 

「聞いたぜ。お前も最後は、ナイフを握りしめて戦ったんだよな。『ぶっ殺してやる』、なんて啖呵まで切ったって話だぜ」

「あ……あはは……うん、なんとか、です」

 

(そう、それ! 分かってるねマルティロっ!)

 

レクタが振り絞ってくれた勇気、あるいは怒りに、一体どれだけ助けられたか。

あれのおかげでメナゴブリンを含めたゴブリンたちを倒せたし、メナトロールとの戦いを有利に運ぶ決め手にもなった。

 

「板挟みできつい状況だったろうに、よく頑張ってくれたな、ありがとうよ。…………ただ」

 

ただ、と少し雰囲気を変えたマルティロの声色に、物陰から手放しでうんうんと称賛していた私もその動きを止める。

 

「…………ただ、この成功があったからって、この先同じような……『殺す』って言葉を使うのは、出来ればやめといたほうがいい」

 

(────っ)

 

「口に出した言葉は思想になる。思想は行動になって、行動は生き方になる。生き方は……もう、人生だ。

わかりやすく言やぁ、強い言葉を使い慣れると、まだ若いお前の人生が狭いものに限定されちまう。

この先もバリバリ最前線で魔物を狩って暮らすって決めてるならいいかもしれねえが、まだそんな気があるわけじゃないんだろ?」

 

「ぁ……うん……はい……!」

 

何かを思い出したかのようなマルティロの言い含めにはっ、となって頷くレクタ。

レクタにかけられたその言葉は、無邪気に彼女の活躍を喜んでいた私の胸にもずしっと重く響いた。

 

 

ああ、マルティロの言う通りだ。

レクタの返事からして、彼女はおそらくこの先も村で生きていくだろう。

そんな彼女の生き方はもちろん、私の生き方……幸せを手にするための、これから先の旅路でも。

この教えは忘れないようにしよう、と強く刻み込む。

 

私の想いの源は最初から同じ、前世で憧れた、人を助ける超かっこいいヒーロー。

彼らに恥じない生き方を目指すなら、私自身の言葉とだって、真剣に向き合わなければならないだろう。

 

 

だって。

 

 

「『死ね』も『殺す』も、ヒーローのセリフじゃ、ないもんね」

 

 

そう、決意を新たにした私は、自分のやるべきことに再び向き合うことにする。

 

 

彼らはまだ何か話そうとしているようだが、もう心配することも、私が勝手に聞く必要も無い。

晴れ晴れした気持ちで私は、その場を離れていった。

 

 

「……マルティロさん、ありがとう。そういえば、アッセロさんのことばかり話してるけど、マルティロさんも村の人たちを助けてくれたよね」

「はっ、俺はアッセロのやつから依頼を受けただけだ。もらうもんもらった分の、最低限の仕事をだらだらやっただけだね」

「え、でもマルティロさん、受け取ったお金だって、もう────」

 

 

------------

 

 

あの戦いを終えてこの村で目を覚まして。

出来たこと、救えたことをたくさん褒められて、それはとても嬉しかったけど。

時間が経つにつれて、私の心中を満たし始めたのは、強い反省の想いだった。

 

(…………思い返せば、全然足りてなかったな)

 

最後、メナトロールに鋼一刀が届いた私は、その後もマルティロに状況を聞いて……もしまだ問題が起こっていたら、救うためのベストを尽くすつもりだった。

ただ、現実的に本当にもう一体敵が現れたりした時。

果たして本当に戦力になれていたか、と聞かれるとそんなわけないだろ、と返すしかない。

その時点でもう本当にギリギリのギリギリだった。

 

特に一番の問題は、助けようと決めたレクタが"あんな行動"を取るまで追い詰められた、ということだ。

もし私にもっと力があれば、もっと早くメナトロールを倒せていたら……

いや、それこそ最初のゴブリン退治の時点で、圧倒的な力を彼女に見せられていたら、どれだけ安心して任せられただろう。

 

「あーもう、本当にもっと、早く訓練や実戦しておけばよかった……!」

 

悔やんでも仕方ない、と何度頭の中で言葉にしても、もっとやれたはずって思いは消えない。

だから、少しでもその後悔を忘れるためにも具体的な対策を取っていきたい、と思うが。

では何から手を付けようか、というのが目下の私の悩みだった。

 

……そうして、考え込みながら村を歩いていると、前方からとある一人の男性が歩いてきた。

 

(……あれ、この人、たしか────)

 

顔自体には見覚えがある。

村長さんに歓待を受けた際に、遠巻きに見ていた村人たちの中に混じっていた人だから、村人の一人なのは間違いないだろう。

ただ、私に対して集まった中に彼は居なかった。

そしてそんな彼は今、ものすごい強張った表情をしながら、ずんずんずん、と私に向けて歩を加速してくる。

 

(え、なに、こわいこわい)

 

そう思っている間もどんどん距離が近づき、思わず身構えそうになったころ。

彼はそのままズササササっとおぼつかない動きで身を沈めたかと思うと、両手をついて額を地面にこすりつけてきた。

 

「────ぅ、ぁぁぁぁあぁ……! すまない、すまない……! アッセロさん、本当に、すまない……!」

「え、えぇ…………?」

 

そうして、まるで叩きつけたかのような彼の姿勢と言葉を向けられて、私が。

 

(ど、土下座って、この世界にもあるんだ……)

 

なんて、現実逃避じみた思考に追いやられ始めたころ。

 

「あ、ちょ、ちょっとおじさん!? 何してるの? アッセロさんこまってるって!」

 

マルティロとの話を終えたのか、おそらくとても助かるタイミングで村の少女、レクタが駆けつけ、落ち着かせた。

 

 

しばらく経ってようやく、泣きはらした目で立ち上がったおじさんは、自分が村の鍛冶師だったことを私に告白する。

メナゴブリンに奪われ、さらにそれをレクタが奪って刺した精巧なナイフも彼が作ったものだ。

そこまで聞けば、彼が私に感じていた罪悪感の理由も何となく分かる。

 

「おれは……あいつらに脅されて……言われるがまま作っちまった……あいつらのためになる胸当てを、死にたくないって、必死にっ……!

あんなもののせいで、あんたがヒドい目にあって……殺される寸前ってとこまでいって……勝てても、その時の傷がでかくて全然目を覚まさなくってっ……!」

「…………おじさん……」

 

「あんたが起きてみんなに褒められ、感謝されてるときはほっとして……でも、そのすぐ後に吐きそうなほど情けなくなっちまった……!

レクタのやつだって頑張ったって話なのに、おれだけが足を引っ張ってしまって……なんて、なんて詫びれば……!」

「そんな、こと────」

 

もちろん、私としてはそんなこと全く気にするはずもない。

他に選択肢も無い状況で、生きるために当然の選択をしただけの話で、勝手に罠にかかったのは私だ。

むしろ、変に逆らったことでもっと犠牲者が増えてましたって後から聞かされる方が困る話である。

 

ただ、仮に私が彼の立場だとしたら、こう言われて納得できるか、というと難しい。

……それに、レクタもそうだったが、このイドナ村の人たちは自分たちの技術力にしっかりとした誇りを持っている。

だからこそ、それを悪用させた自分を許せない、という気持ちが人一倍強くなるのだろう。

 

「……その、わざわざありがとうございます。私は全然大丈夫、です。……ただ……そうだな……えっと。

それなら一つ、私からお願いとかしてもいいですか?」

 

ちょうどいい、というのも変な話だけど。

今思いついた、私の問題解決のために協力してもらうことを、私は選んだ。

技術で起こった後悔は、技術で返してもらうのが一番彼にとってもいいこと……な気がする。

 

そんなわけで私がしたお願いに対し、レクタはどういうこと? と目を丸くし、おじさんは二つ返事で早速取り掛かる。

これで私自身抱えていた悩みの解決になりつつ。

あとはおじさんのトラウマが全て無くなるとまではいかなくても、少しは心の足しになったらいいな、と思った。

 

 

★★★

 

 

そして、今。

 

「ふぅーっ……ふん、ふん」

 

鍛冶師への願いにより手にしたモノを使い、村の外れの空き地で一人、彼女が言う"宿題"を連日進めていた少女、アッセロ。

彼女は今、汗だくになるほどの疲労感を覚えながらも、それをおくびにも出さないほど晴れやかな表情で自身の成果を確かめていた。

 

「よし……これなら、もう大丈夫そうかな……ただ」

 

ひとしきり満足そうに頷いた彼女は、次に少しだけ顔を曇らせて、今後のことに思いを馳せる。

 

「宿題も終えちゃったなら……そろそろ行かないと、だよね」

 

憂いの理由は、短い期間でたくさんの初めての経験をくれた……もしかしたら生まれたアカシャ村以上の愛着を持ち始めた、イドナ村。

彼女がそこを出る時が近づいているからだ。

 

「おぉーい、アッセ、アッセロ、さん!」

 

最初に伝えるのはレクタとして、どう切り出そうかと考えながら身支度していたアッセロの元へ、ちょうどそのレクタが走り寄って来る。

ただ、普段より慌てた様子だったことから異変を感じ、アッセロは身構えながら話を伺う。

 

「はあ、はあっ! 良かった、無事で。そっちは大丈夫、魔物とか、来てないっ?」

「え……まさか、また魔物が襲って来たの!? 何体っ? 村の人たちは、無事!?」

「え、ええっと……その、まあ……アッセロさん無事なら大丈夫っていうか……その一応ちょっと、来てくれる?」

 

妙に複雑そうな表情で先導するレクタに着いて。

アッセロもまた、慌てて駆け出していったのだった。

 

 

「それで、村の人は、魔物はどうなったの?」

「えっと、来たのはゴブリンが何体かぐらいで……アッセロさんたちにあてられた村のみんな、全員ものすごい勢いで武器持って走っていったら、魔物は背中向けて逃げ出しちゃったんだけど……」

「えぇ…………」

 

「一番先頭で全力疾走していた村長さんが、その、ギックリ腰になっちゃって……

その治療でてんやわんやだったり、暴れ足りないって人が武器を振り回したりして大変で……アッセロさんからも落ち着かせてほしいっていうか……」

「えぇぇぇ………………」

 

 

------------

 

 

頭を抱えながら話す彼女たちの声も遠ざかり、誰も居なくなった、村の外れ。

 

そこには今、アッセロが終え、残していった"宿題"の成果が、木にくくりつけられたまま風に吹かれていた。

 

くくりつけられているのは、彼女が鍛冶師にお願いし作ってもらった……メナトロールが使ったものと同じ胸当て。

その胸当てに苦しめられたアッセロの求めに応じ、短期間で三つ用意されたそれは、いずれも同じ箇所に傷がつけられている。

 

一つは、何度も同じ箇所に加わった衝撃により、摩耗するように砕け。

一つは、それよりも少ない消耗で、鋭く無駄なく砕け。

そして最後の一つは、一撃のもとに風穴を開けられ、後ろの木ごとえぐり取られていた。

 

無力への憤りから覚え直された新しい力、砕月。

その手応えを確かめるように柄を握りながら……彼女は明日へと駆け出していった。

 

 

 

NEW JOIN!

マルティロ

 

NEW SKILL!

鋼一刀

砕月

 

 

-災厄の日まで、あと約2年と11ヶ月-

 




これにて転生ゆうむす、あと三年は第一章完結となります
ここまで見ていただき、誠にありがとうございます
この後はこう、流れとか色々次第って感じでお願いします
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