転生ゆうむす、あと三年   作:多部キャノン

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第十五話 飛んで跳んで殴って

★★★

 

 

「はぁ……はぁ……っ! ぐ、く……! くそ……くそ……!」

「……ぅぅ……」

 

死屍累々、というべきだろうか。

 

薄暗いその空間で血まみれになったまま、残った男と女は荒い息をつく。

そして彼らに……少なくともその時の彼にあったのは、この修羅場でただ二人、まだ立てていたという安堵感ではなく。

抑えきれずに漏れ出した、果てしない激情、憤怒であった。

 

「やっぱり……ダメだった……分かってた、ことなのに……!」

「え…………?」

 

その感情に背中を蹴り飛ばされたかのように、彼は言う、言ってしまう。

 

「…………っ! なにが……なにが癒し手(クラーリー)だっ! 全然使えなかったじゃないか、ウソつき、ウソつきッ!

妹だってこの有り様だ!! こんなの信じたのが悪かったッ!! やっぱり、やっぱりお前は────」

 

 

★★★

 

 

「────ハッ!?」

「ふあっ!? ね、寝てませんっ! 起きてる! ごめんなさい!」

 

深夜、焚き火の前でぼーっとしていた私の耳に、突如飛び込んできた声。

びっくりして弁明みたいな言葉を発する私に、汗でびっしょりになった顔を向けたのは、起きてきたフラウデさんだった。

 

「なぜあなたが謝罪を……? おほん、その、少し嫌な夢を見まして……見張りをしてくださっているところを邪魔してしまい、申し訳ございません」

「い、いえそんな、大丈夫です。見張りも交代でやってるので……えっと、それよりフラウデさんの方こそ、大丈夫……ですか? 水とか、飲みますか?」

 

髪の青さにも負けないってくらいに青くなった顔で、なんとか頭を下げたフラウデさんに、突き出した両手を振りながら私は返す。

先ほど、御者の人がフラウデさんが癒し手(クラーリー)だとか聖女だとかを漏らしたあたりから、少し元気がなくなっているように思える。

もしかしたらお忍びで行動していて、聖女と言われていることは伏せたかったのかもしれない。

そう考えると見るからに田舎から出てきた、という感じの私たちに話しかけ依頼を出したのも、正体を知られていなさそうだから、と理屈も通る。

 

また、難しい顔といえば御者のカミングアウトを聞いてからのマルティロもそうだ。

 

「いや、まさか。そんなはずは……」

 

手を口元に持っていきながらぶつぶつと何事か呟く彼は、やはり今の状況が中々信じられないようだ。

確かに、癒し手(クラーリー)の情報が一つでもあれば、と思って王都に向かう道中で、癒し手(クラーリー)その人と出会って関われるなど、そうありえることではない。

 

だからといっていきなり態度を変えたり、仲間になってくださいなんて言えるほど、押しの強さもコミュ力も持ち合わせない私は、とりあえずそれまで通りの態度を続けることにした。

この先どうなるにせよ、まずは彼女からの依頼をしっかりこなしてこそ、だろう。

 

そういった経緯もあり、特に含むこと無く心配の声をかけた私に、フラウデさんは一瞬キョトン、とした表情を見せる。

そしてあれ、なにか変なこと言った? と私が思った次の瞬間には、にっこりと柔らかく微笑んだ。

 

「ありがとうございます、お水いただきます。……アッセロさんは、癒し手(クラーリー)なんだから自分に癒し(クラー)しろ、と言わないんですね」

「あ、そういえば……って、その力って精神的なものにも効くんですか……? そもそも癒し(クラー)って自分に使えたり……?」

 

私の疑問にふるふる、と彼女は残念そうに首を横に振る。

 

「それなら……ど、どうしよう……えっと……す、ストレッチとか────」

「────交代だ」

 

どうしたら気分が良くなるか、と無い頭からひねり出し始める私に、くぐもった声がかかった。

今も鎧に身をまとったその人物に、私は困惑しながら返す。

 

「あれ……もうそんな時間でしたっけ……? えっと、まだ大丈夫ですよ、見張り続けられます」

「き……お前は昼も一番よく戦っていた、早めに休んでいい。明日も護衛してもらう、我々のためでもある。……フラウデも、寝ろ」

「……わかりました。お願いします、ルブラ」

 

出会ってから一番饒舌に話している、ルブラと呼ばれた彼? 彼女? の発言は妥当なものだった。

それならお言葉に甘えて、とすでに横になったフラウデさんに続き、(とこ)へと向かう。

 

「っ?」

 

が、そのすれ違いざまに突然、肩をぐっと軽く掴まれる。

あれ、と思う間もなく兜に覆われた顔が私の耳元に近づくと、こう囁かれた。

 

癒し手(クラーリー)を、当てにはするな。アレは、みんなが思うような都合のいいモノじゃない」

「あ……えっ、と……」

「……フラウデにしてくれた心配には、感謝する。……おやすみなさい」

 

最後に、ひときわ穏やかな声色でそう話を切られると。

ルブラさんはそのまま無言で腕を組み、座り込んだ。

 

「……はい、おやすみなさい」

 

今これ以上話すことはない、とその背中は語っている。

そう感じた私は、それだけを伝えると。

思った以上に溜まっていた疲れに押されるまま、あっさりと泥のように眠ったのだった。

 

------------

 

「さて、今日は王都へ真っ直ぐ……ではなく少し寄り道して、オルド遺跡に行く、で……その……良かったんですよね、フラウデ様……?」

「はい、お手数おかけいたしますが、よろしくお願いします」

 

翌日の朝、昨日してしまった発言に彼なりに考えることでもあったのか、やけに気まずそうに予定を話す御者の人。

彼の言葉を気にしていないとばかりに穏やかに引き継ぎ、ふわり、と頭を下げたのはフラウデさんだ。

 

これは依頼を受ける際にあらかじめ聞いていた通りで、最近になって発見されたという遺跡を見ておきたい、という要望があったのだ。

 

(でも、何しに行くんだろう……やっぱり観光?)

 

最初は特に気にもとめていなかったが、フラウデさんが人を癒やす聖女、としたなら。

普通の人が寄り付かない遺跡というのは、あまりイメージが湧かない組み合わせだ。

生前読んだ小説だと、遺跡やら洞穴やらに封じられている邪気を払う聖女、なんてかっこいい話もあったが、まさかそういう力もあったりするのだろうか。

 

……いや、今のうちから護衛がそんなことを考えていても仕方がない。

初めて行く場所で、何が起こるか分からないんだからその分気を引き締めよう、と両手を握る。

 

「アッセロ。……あーなんだ……油断するなよ」

「うん、もちろん。分かってるよ」

「…………そうか」

 

そんな私に呼応したように、昨日から難しい顔を続けているマルティロからも警告が入ると、私はつとめて力強く返した。

マルティロの表情は残念ながら晴れなかったが、あとは働きで見せていくことにしよう。

そう改めて気合を入れ直しながら、私たちは遺跡へと向かうのだった。

 

 

------------

 

 

「────そろそろ、ですかね。遺跡は魔物のねぐらになっている可能性があるので、少し前で止まりますよ」

「ん……?」

 

馬車に揺られてしばらくしてから聞こえてきた御者の言葉に、私は思わず小さな声を漏らした。

 

「アッセロさん、何か気になられたことでも……?」

 

漏らした声を拾ったフラウデさんの声掛けに、私は慌てて「いえ全然、大したことじゃないんですが」と返す。

私が今覚えたのは、ほんの小さな引っ掛かりでしかなかったのだから。

 

「いや、その……街道っぽい道? から外れてそんなに時間も経ってないのにもう着くんだなってちょっとびっくりして……

最近見つかった遺跡って話だから、もっとすごい入り組んだ場所とかにあるのかなって……」

「ああ……まあ、外れてはいるんだから、中々見つからないこともあるだろ。そういうもんだ」

「そっかー」

 

地理だとか地名だとか、そういうのに特に興味を持たない自分の小さな疑問は、マルティロからあっさりと返ってきたそういうこともある、で霧散した。

他の二人も頷いているし、特に気に留めるようなことではないのだろう。

 

「うぅ~~んっ……!」

 

それなら、と私は移動で固まった身体をほぐすように伸びをする。

魔物がいる可能性が高い、ということで出番も近いかも知れない、と。

 

 

そう思った次の瞬間、馬車の外からドォンッという轟音が鳴り、肩が跳ね上がった。

 

「は、ひっ……! なん、なん、なんっだありゃぁっ……!?」

 

ワタワタと腰を抜かしたような姿勢で這いながら、馬車へと飛び込んでくる御者の人。

これまで現れた魔物への、落ち着いた態度との違いに異常性を察した私たちは、すぐさま馬車から出た。

 

(……なんだ……?)

 

最初に視界の先に映ったのは、二体の魔物。

目的地である遺跡の入口と思われる場所に陣取っていたのは、昨日も倒したばかりの人間の骨のような魔物、カラコ種だ。

が、そのうちの一体が両手に抱えているのは、昨日のような人から奪った剣ではない、おかしな文様が刻まれた大きな筒。

一体はその手に持った大筒をこちらに向け、もう一体は大筒を持った魔物の身体を、横から骨だけの手で支えていた。

 

シュールというかコミカルさすら感じられるその光景に、一瞬毒気を抜かれそうになるのを、直感からくる警戒心が遮る。

 

「あれは……まさかっ……!」

「備えろ、来るぞッ!!」

 

フラウデさんとマルティロの声が私の耳に入ると同時、大筒から打ち出された……おそらく透明? な何かが高速で飛来し私たちを横切ると。

少し後ろの岩山から、爆裂音が響いた。

 

「ッ!?」

 

ゾワッとした震えが背筋を撫でたのは、横切ったモノが発した風のせいだけではないだろう。

 

(なに、今の……!? 手で持つ大砲? それとも銃? 魔法……!?)

 

一体何だあれは、意味がわからない、今までこの世界で見てきたものと全然合ってない。

次々と浮かび上がるそんな疑問を無理やり呑み込んで、私はただ、眼の前に映る情報だけを見据え。

 

「アッセ────」

「────ッ!」

 

直後、私はマルティロの声が届く前に、眼の前へと全力疾走を始めた。

 

よほどの反動があったのだろう、大筒から何かを撃ち出した魔物は支えがあった上でも後ろに倒れ込んでいた。

そして一度目の轟音、二度目の射撃と、こちらを狙っただろう攻撃はどちらも外している。

 

(なら、今すぐ倒すのが一番安全だッ!)

 

魔物が扱いに慣れたり、こちらの運が悪かったりで狙いが定まり、犠牲者が出てしまう前に。

私は途中で数発撃たれるのを覚悟の上で、命がけの突貫をした。

 

「────ルブラッ!!」

 

そして、その判断で動いたのは私だけではなかったらしい。

気づけば鎧を着込んだままのルブラさんが、フラウデさんの声に押されるように私と並走していた。

私の全力疾走と同等以上の速度は、重そうな鎧を来ているとはとても思えない。

 

「シュゴロロロ……ッッ!」

 

距離を詰める前に体勢を整えた魔物は、即座に向かってきた私たちを見て、想定外だとあわてたように大筒を構えた。

二手に別れる形で迫る私たちのどちらかを狙い、撃退する算段だろう。

この時点で馬車にいるフラウデさんたちのリスクが減ったことを喜んだ私は、すぐさま自分が直面する窮地に、思考を回す。

 

(見てから避ける……いや、私にそんな俊敏さはまだ無いっ、なら、出来るか分からなくても、鋼一刀で迎え撃つ……やってやる、やってやる……っ!)

 

こわい、こわい、こわい。

一歩間違えたら、いや、たとえ間違えなくても力が足りなければ、私はその瞬間にこの世から消滅することになる。

そもそもあの速さに迎撃が間に合うのか、あの透明な何かは切れるものなのかすらも分かっていない、明らかに危険な賭けだ、と理性は歯止めをかける。

 

だけどここで自分たちがやらなきゃ、次にあの大筒が向けられるのはフラウデさんやマルティロだ。

そう心で唱えた私は、歯を食いしばりながら恐怖を抑え込み、魔物の一挙手一投足に集中する、と。

 

「っ、ルブラさんッ!」

 

魔物が構えていた大筒が、より脅威を感じたのか私でなく、走る鎧の方に向いたのを見て、思わず叫んだ。

 

 

瞬間、ドゴォンッと第三射が打ち込まれる音が耳を刺す。

自分に飛んでこなかった安堵など感じるはずもなく、私は重い鎧に身を包んだ被害者に、祈るような思いで目を向け────

 

「ッ!?」

「シュロッッ!?」

 

────軽業師、とはこういうものなのだろうか。

鎧を着たまま軽やかに、棒高跳びを棒無しでやったような姿勢でルブラさんは、宙を舞った。

大筒から打ち出されたモノはその背中をギギギ、と音を立てて掠めていく。

その華麗な光景に私は口と目を丸く開け、魔物も動揺の声を発した。

 

(す、ごいっ……! かっこいい!)

 

護衛のような立場にいながら魔物と戦っているところを見たことは無かったが、こんな体捌きが出来る人だとは。

アクションヒーローっぽさもあるその見事な動きに、思わず足を止めて拍手してしまいたくなる衝動すら芽生えた。

 

一方、迎撃も失敗し、反動でまたも崩れた魔物。

彼らは骨だけの姿でも隠せないほど動揺を見せ身を起こそうとしているが、間に合わない。

着地したルブラさんが、一瞬呆けていた私に先行し、魔物たちが再び構える前に肉薄したのだ。

 

「ウ、オォォォッ!」

 

(おおぉっ……!)

 

鎧越しに叫びながら迫るルブラさんを前に、大筒しか持たない魔物たちはもはやなすすべも無い。

あの体捌きで一体どんな攻撃を見せてくれるのか……先ほどまであった危機感は、まるでヒーローショーのトドメを見るような期待感に変わっていた。

もちろん、想定しない魔物の奥の手など万が一の事態に備えて、邪魔しないなりにいつでも対応出来るよう控えてはおく。

 

そうして、渾身の気合とともに放たれる、ルブラさんの攻撃が炸裂した。

 

「ウオォォォ!!」

 

ごすん、ごすん。

がしゃこん、がしゃこん。

 

(おぉぉぉ……おぉぉ??)

 

目を輝かせる私の前で、満を持して振るわれたのは……なんか、こう。

両手で上から、鎧の重さにあかせて何度も振り下ろす、技? 攻撃? 的なものだった。

多分あえて形容するなら……だだっこパンチというものが一番近いような気がする。

 

「ハァ、ハァ、ウオ、フオオオ!」

 

それでも鎧のおかげで殴られている方の魔物はちょっとずつ砕け、弱ってきているが。

眼の前を殴るのに必死なルブラさんは、もう片方に注意が向いていない。

そしてそんな彼らをもろとも撃とうとしているのか、魔物が大筒を向けようとしているのを見て。

 

(やばいやばいやばい!)

 

すでに寄っていた私は、再び湧いた危機感に押されるまま、即座に砕月を放つ。

身体をバネじかけのようにして打ち出す突きは、大筒を持った魔物を一撃で砕いたのだった。

 

「…………っ」

「……あ、こっちもですね、はい」

 

何度も腕を叩きつけながらその光景を見たルブラさんは、すんっと醒めたようにその動きを止めると、そそくさとその場を離れる。

いまだ致命傷に達していなかったのか、カラカラと動いていた魔物に、私は剣を振り下ろし楽にするのだった。

 

「…………」

「…………」

 

 

「お~い、無事かお前ら~!?」

「はぁ、ルブラっ、二人とも、はぁ、お怪我は、ありませんか!」

 

なんとも言えない空気にただ、沈黙していた私たちを救うかのように。

合流してきた彼らの声が、その場に響いた。

 

こうして、私たちはなんとか遺跡にたどり着いたのだった。

 

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