転生ゆうむす、あと三年   作:多部キャノン

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第九話 紫光またたく悪意

 

如何にも人が隠れていそうな、大きな木箱。

そこから弾け飛んだ食料を文字通り撒き餌に、なんとか放てた不意打ちの手応えを感じながらも。

地面に足をつけた次の瞬間、私は動き出す。

 

────理想を言えば、この奇襲で倒したかったのは当然、首魁のメナトロールだ。

が、鉱病により慎重さを備えた敵は迂闊に箱の前まで近づくことを選ばず、私が居た木の上から狙えたのは結局トロールだけだった。

 

ならば、次弾。

突然の奇襲でまだ体勢が整っていない可能性を信じ、着地と同時私はメナトロールのもとへ飛びかかる。

 

「なンだ、キサマ────ッ」

 

遠慮も容赦も遊びも一切しない。

何としてでも勝って生き残るため、私はここを勝負どころと再び切り札を叩きつけた。

 

「鋼、一刀ッ!!!」

 

父からもらい、マルティロの手ほどきで昇華した、私が外の世界で戦うための武器。

短い時間ながら、すでに何度も魔物の討伐に頼れたこの一撃は、今回もその役割を果たそうとメナトロールの頭に振り下ろされ。

直前に私がトロールを叩き切ったことで警戒を深めていたのだろう、機敏な反応で手に持った棍棒を差し込まれたことで、それと鋼一刀がぶつかった。

 

ガギィィンっと、甲高い金属音が鳴り響き、一瞬の膠着が訪れる。

 

「────グゥ、おォッ!?」

(か、たいっ……! 斬れなかったっ……!)

 

こちらの刀も折れこそはしなかったが、これまで頼ってきた鋼一刀が止められたことに、ほんの一瞬歯噛みする。

だが、その衝撃や感傷に使う時間は無いと私はすぐさま頭を切り替え、事前の方針通りの動きに入った。

 

鋼一刀を棍棒で受けたことで、無傷ではあるものの一瞬怯んだメナトロール。彼を"置いて"私は横っ飛びをすると、次の目標に向かってまっすぐに駆け出す。

 

(急げ、急げっ! マルティロに教えてもらった通りに!)

 

『最初にメナトロールを()れれば言うことはねえ。

だがその奇襲が上手くいかず、すぐに倒せないと思ったら、奇襲で相手が混乱してるタイミングで次に狙うのは────』

 

私が見据えたのは、メナトロールでなく、その後ろでまだ事態を飲み込みきれていないゴブリン群。

視界の範囲で武器を持った個体は複数確認できたが、その中でも一体、必ず倒しておきたい相手……それは。

 

(遠距離から攻撃してくる……つまり、弓矢を持ったゴブリンッ!!)

 

開けた場所で、これを野放しにすることの危険性をマルティロに教えられていた私は、相手が狙いを定める前にジグザグに跳ねるように距離を詰めた。

 

「ギ、ギッ……!?」

「鋼、一刀……っ! 二体、目ぇっ!」

 

混乱もある中、飛び回る標的に照準を定めきれなかったゴブリンを叩き斬った私は、即座に地面に落ちた弓を脚で踏み抜き、残骸を茂みの中へ蹴り飛ばす。

そして、その直後には奥に踏み入ったこの身が囲まれる前に再び走り、最初に戦いを始めた地点へと戻る。

手押し車の後ろにいるレクタを、背中で守る最初の立ち位置に戻れた私は、ここでようやく息をついた。

 

「────ぷ、はぁ! ハァッ、ハァッ、ハァッ、はぁぁ~ッ……っ!!」

 

……いくつかの想定されたパターンのうちの一つとはいえ、事前に決めていたこの一連の動き。

とにかく相手の息もつかせないまま行うため、自分にできる限界の速さを追求した私は、酸欠になりかけた身体を奮い立たせる必要があった。

 

バクバクと鳴る心臓に痛みすら覚えるのは、運動量以上に、細い綱の上を全力疾走させられているような緊張感によるものが大きいだろう。

こんな状態で、理想の流れとはいかずとも無傷でここまで来れたのは、奇跡に近い出来事なのかも知れない。

……だけど。

 

(上手く、行ってる……! 大丈夫っまだまだ身体も動く、やれる……!)

 

未だに、私の後ろで地面を凝視するように俯き、ふるふると震えるレクタ。

彼女に少しでも早く安心してもらうためと気合を入れ直した私は、息を整えながら一度、相手の様子を伺う。

奇襲を受けたとはいえ、初めて戦ったときにもゴブリンに侮られたような少女に、手勢を二体削られたメナトロール。

激昂し怒りのまま襲いかかるか、危機感に身体を硬直させるか……どちらにせよ、作戦らしい作戦も用意できないこの先、相手の出方を見るのは必須だろう。

 

そして、そんな私にメナトロールが見せた反応は。

立てた予想の、いずれとも異なるものだった。

 

「……く、グ、グ、ぐっ……! グブっハハハ! ヒ、必死、だナっ……?」

「…………」

 

メナトロールが向けた表情は、こらえきれないとばかりに漏らされた、嘲笑。

部下が倒されていることなど歯牙にもかけない様子で、ゆったりと私の元へと近寄る。

 

「あア、いイぞ……"こういウの"を待って、たンだ……さア、こい。部下には手ヲ、出さセない。相手ヲ、してやる」

 

(……っ!?)

 

 

一瞬、意図が測りかねたことで思考に空白が訪れる。

 

直前に見せた反応通り部下への執着があまり強くないなら、なおさら彼らをけしかけて消耗させてくると覚悟していたからだ。

やはり部下の損失を避けるため、自ら戦おうとしている可能性もあるが、もしそうでないとするのなら。

 

(まだ、侮られてる……侮って、くれている……!)

 

もちろん、"普通の魔物ではない"と散々聞かされた相手の言葉や態度をそのまま鵜呑みにするわけにはいかない。

ましてや武士道精神にのっとり正々堂々と戦ってくれるなんて欠片も考えるべきではないだろう。

前言をひるがえし周りの魔物を奇襲させてくるのはもちろん、回り込んでレクタを人質にされるようなことがあれば最悪だ。

そのあたりの警戒を欠かすことは無い。

 

しかしもし、油断や驕りが理由で本当に一騎打ちが出来るなら。

体力が残っているうちにメナトロール討伐の目がある流れは、願ったりかなったりだ。

過度に怯えて勝機を逃すのも正解ではない、と私はメナトロールとの一騎打ちに心を傾けながら、改めて目の前に近づく相手を見据える。

 

最初に斬ったトロールほどではないにしろ、ゴブリンも私も上回る体格。

鋼一刀を止めたほどの強度を持つ、手にした棍棒……表皮に浮かぶ鉱石とどこか似た雰囲気を醸すそれの一撃をまともに喰らえば、私の身体などバラバラに弾け飛んでもおかしくない。

もちろん、鉱病の特徴として聞かされていた紫の光も、事前の話通りだ。

 

……そして、初めて見たときから最も私の意識に強く残った特徴。

それは胸元に大きく刻まれた古傷と、傷を誇り見せつけるかのように異様な、まるで鋼のような盛り上がりを見せる胸筋だ。

実は、この傷に関しては事前にレクタから聞かされていたもので、初めて村を襲ったときから時折痛むようなそぶりを見せていたという。

正直、ここまで発達した胸筋だとは知らされていなかったので一瞬気圧されかけたが、それでも予定は変わらない、と気合を入れ直した。

 

(よし、相手は鋼一刀を警戒しているはず……それなら、まだ一度も見せていない砕月であの傷を狙えれば……!)

 

この戦いに臨むにあたって、増やす技として突きを選んだのは、この情報があったからでもある。

鋼一刀に及ばない練度でも、古傷に渾身の突きが直撃すれば十分な痛手となる。

さすがにそれだけで倒せるとまで楽観は出来ないにしても、鋼一刀とは別の脅威を感じさせられれば、格上相手でもチャンスを掴めるかもしれない……いや、掴めるはずだ。

 

そして。

 

(来たっ……!)

 

ズンッと威圧的な足音を立てて、メナトロールが私の眼前、間合いの中に踏み入った。

先程までの見下すだけに見えた表情はさすがに鳴りを潜め、私……特に、私が持つ刀に、寒気がするほど冷たい視線が送られる。

 

「ふっ……!」

 

その注視を逆手に取り、私は少し大きな動作で逆袈裟斬りの動きをフェイントとして見せ、あたかも本命かのように大上段の構えに切り替えた。

 

「────ッッ!!」

 

私の刀、つまり鋼一刀に意識を割いていたメナトロールは、半ば反射のように先ほどと同じ体勢で受けようと棍棒をかかげる。

その動きを待っていた私は、即座に全身に力を入れながら刀を引き、引き絞った弓になったようなイメージで身体をそらし。

 

渾身の突きを、撃ち出した。

 

「砕、月ッッ!」

 

かかげられた棍棒の下をすり抜けて、高速の突きがメナトロールに迫る。

 

────これは刺さる、当たる。

 

そう、半ば確信しながらも最後まで油断しないよう、楽になろうとする心を必死で抑える。

 

(油断するな、マルティロに言われた通り、これで倒せるなんて思っちゃダメだ、これでダメージを与えて、そこからが本番────ッ!)

 

そんな、内心の叫びに合わせるように強く、強く握りしめられた刀が。

 

狙い通り、悪鬼の急所に叩き込まれ────

 

 

ガキイィィンッ、と。

 

 

先ほど、鋼一刀が棍棒に受けられたときのようで、もう少し甲高い。

そんな、軽い金属音が鳴り響いた。

 

 

「…………へっ…………?」

 

メナトロールが、防御を間に合わせたわけではない。

他の部下が、私の刀とメナトロールの間にナイフを差し込んだりしたわけでも、もちろんない。

私が放った砕月は、間違いなくメナトロールの古傷に吸い込まれ皮膚を穿ち……そして、その下にあったナニかに、止められた。

 

一瞬、茫然自失となりながらの私の目に映ったのは、うっすらと裂けた皮膚から覗く銀色の物体。

 

「え!? な、なんでっ……む、胸っ、あんなのじゃ、無かっ……!?」

 

それと同時、背後から聞こえてきたのは、ここに来てからずっと恐怖に震え、俯いていたレクタの激しく狼狽する声だ。

 

そしてその言葉の意味と、今私の攻撃が通じなかった現実の理解が追いつく前に。

 

メナトロールの邪悪に染まった黒目が、喜悦にまみれた形に歪んだのが目に入る。

 

次に、強靭な右腕に握られた棍棒が、私の身体目掛けて全力で振るわれる光景が、スローモーションのように流れてきて。

 

 

(え、あっ)

 

 

────これ。

 

 

(私っ)

 

 

────────死。

 

 

「~~~~~~ッッッ!!!!」

 

 

本当の意味で、紙一重。

 

直前にマルティロの教えで警戒を引き上げていたことで、零コンマ数秒の差で。

この事態に反応できた腕が、迫る棍棒と私の間に、刀を差し込むことに成功する。

 

「がっ、あぁっっ!?」

 

────が、当然それだけでこの絶望的な衝撃を殺しきれるはずもなく。

私は肺の空気ごと漏れ出た悲鳴とともに、地面をゴムまりのように跳ね回った。

 

 

二転、三転。

 

混乱、動揺の極地にありながらも、私は芯から湧いてくるとてつもない危機感に押され、すぐさま体勢を直し立ち上がる。

立った後にようやく言語化できた危機感は、『今この瞬間に立ち上がらなかったら、多分もう二度と立てない』という根源的な恐怖だった。

そして、その予感は一つも間違っていない。

 

立ち上がった、ほんの一瞬のあと。

あまりの衝撃で麻痺していた、絶望の痛みが。

私の中から、こみ上げてきた。

 

「…………ぃっ……!」

 

 

(────い、たい、痛い!! イダイいだい熱いあヅいいたいいたいぃぃぃッッ!?)

 

 

刀越しに受けた自分の横腹を見て、"まだ存在している"と現実逃避じみた安堵を覚えたほどの、これまで経験したことなどあるはずもない、地獄の痛苦。

腹にドロドロに熱した釘を差し込まれたかのような耐え難い灼熱を感じると同時、背中からは氷柱(つらら)を突き立てられたような真逆の悪寒を覚え、脂汗が滝のごとく流れ出す。

呼吸しようとするだけで激痛が走るこの状況、肋骨の被害程度で済んでいたら奇跡、と。

経験のない私でもぼんやりと思えるこの事態を受け、私の脳は生存本能から痛み以外のことに少しでも傾けようと、すがりつくように思考を回した。

 

(な、んで……なんでっ……!? 倒せなかっただけなら、わかるっ、けど……! なんで古傷から金属音が……っ! それで、全然効かないなんてっ……!)

 

痛みで焦点の定まらない視線に、困惑が混じることに、メナトロールが気づいたのだろう。

メナトロールはすぐに追撃するでもなく、こらえきれないとばかりにグフッと嗤うと自分の胸元を皮膚ごとばりばりと掻いて、その中身を私やレクタに見せつけた。

 

「あ……あぁっ……そん、なっ、あたし……!」

 

皮膚の中から出てきたのは、ここからでも精巧に作られているのが見て取れる、銀色に輝く胸当てだった。

それを目撃したレクタの、悔悟の悲鳴を聞いた頃、私はようやく事態の理解が追いつき始める。

 

砕月を止められた瞬間にレクタが漏らした困惑と、今の声。

間違いなく、メナトロールが村を襲い、レクタが食料集めのために出た時点でこんな装備はなかった……

つまり、あんな異様に発達した胸筋にはなっていなかった。

 

メナトロールはこの短時間の間に、おそらくイドナ村が誇る精巧な装備に目をつけ……それを『身体の中に埋め込んだ』。

そして、この地に来てからずっと恐怖に震え、特にメナトロールをまともに見ることが出来なかったレクタはそれに気づかず。

砕月とぶつかった異音で思わず顔を上げ、初めて知ってしまったのだ。

 

(ぅ……ぁぁ……っ)

 

そこまで理解して、なお意味がわからなかった。

ただ古傷を覆うためなら、本来の使い方通り装備すればいい。

わざわざ皮膚を裂いて無理やり埋め込むなど、痛覚がまともにあるなら考えもしないし、仮に考えてもまず避ける手段だ。

 

それをこの短時間で実行し、あまつさえその傷がすでに塞がっているという、私の常識から大きく外れた生命力。

こうして騙すためだけに実行した……それこそ、レクタの村を襲った当初に見せていたという"痛むそぶり"すら演技だったかも知れない、鉱病持つものの悪意。

極めつけは、この場でこの事態に唯一気づける可能性があったレクタの視線。

数少ない希望だったそれを、縫い付けたように地面に固定させた、彼女を縛る圧倒的な恐怖。

その全てが、これまで培った私の理解の範疇外にある、おぞましいナニかでしか無かった。

 

(化け、物っ……!)

 

そこまで私の思考が追いついた途端。

痛みと混乱で麻痺していた……麻痺させることが出来ていたものが、腹の底からこみ上げてきた。

 

 

「ぅ……ぶ、ぐぷ、うぅ……うぅっぅううう~~~~~~ッッッ!!」

 

 

こみ上げてきたものは、恐怖。

嗚咽とともに必死に両手で口を抑え、せり上がってきた血の味が混じる吐瀉物をせき止める。

すえた匂いと味が口に広がる不快感から、全部忘れて吐き出したくなる本能に、歯が砕けそうなほど強く食いしばり、抗い続ける。

 

 

「お、おオぉオおぉッッ! きタッ、いいぞ、そレだッ! ドけゴブリンども前に出ルなァッ! ヨく見せロッ顔をぉ!」

 

 

そんな私を前に、これまでで最も喜悦にまみれた声色で、爛々とした悪意の目を向けるメナトロール。

その異様さもまた、私がせき止めようとする恐怖を後押しするものに他ならなかった。

 

 

────確信があった。

少量とはいえ、すでに指の間から漏れ始めている"これ"を、耐えきれず吐いてしまうことがあったなら。

その時点で私は、間違いなく心が折れて……二度と立ち上がることが出来ないだろう、と。

 

(耐えろ、耐えろ! 耐えなきゃ……これを吐いたら、本当の本当に人生が終わる……っ!! 私も、きっと、レクタもっ……!!)

 

「ゴバ、ゴバハハはハハァ!! そレだ、その顔ッ! どうしヨうモない恐怖に歪ンだ、肥溜めで溺レるウサギの顔ぉッ!

ニンゲンにソの顔をさセるタめに、オレは生キてイるんだッ!

コレが、こレこソがオレの幸福だァアァッッ!!」

 

狂気と狂喜に侵された声で、ゲタゲタと嗤い、叫び。

むき出しの感情に比例するように、身体から覗かせる鉱石の紫光を強く輝かせる。

 

「────っレクタぁッッッ!!」

 

「ひっ……!!」

 

突如、メナトロールは昂った感情の矛先を、おそらく私とは違う絶望で真っ青になっていた少女に向けた。

 

「お前ダ、お前ガやっテくれタッ! よクやっタ! ちょうドいイ具合の、自分ならなんトカなるト勘違いシた馬鹿な娘ヲ連れテきて!

そノくせ自分は震えテ目をソらしテ、肝心ナものを、オレの変異を見逃シてくれタッ!

おかゲで最高の表情ヲ見レたッ! やはリお前ハ見込んだ通り、最高ニ使えル道具だっタぁ!」

 

「……ぎっ、ぐっ、うぅ、うぅぅうぅ~~ッッ…………!!」

 

バキンッ、と音がなるほど歯を食いしばった、悔悟の表情でうめき声をこぼすレクタ。

そんな彼女を見て満足そうにした直後、私に向き直ると、メナトロールは改めて距離を詰めてきた。

 

(まだ、だッ…………!!)

 

痛みと吐き気をこらえながらもギッと眼と手に力を込め、私はメナトロールを睨むように見据える。

重圧で押しつぶされそうな心に今も必死に抗えているのは、私がまだマルティロの教えを、希望を手放していないからだ。

 

(『お前が魔物とまともに渡り合えるのは、鋼一刀があるから。だから刀は何があっても落とすな、手放すな』……守ってる、まだ、守ってるよ、マルティロッ……!)

 

そう、棍棒から私を間一髪守った刀はまだ折れてはいないし、派手に地面を転がった今も取り落としてはいない。

そして、何より。

 

(私が今瀕死なのは演技、じゃないっ……だから、メナトロールも油断して近づいてきている……なら、あと一発……なんとか、なんとか鋼一刀が決まりさえすればっ……!)

 

数日とはいえマルティロの訓練を経た今なら、疲れ果てて脱力した状態でも半死半生の身でも、鋼一刀を撃つことは不可能じゃない。

そこで元凶のメナトロールさえ討伐できれば風向きも変わる、変えられるはずだ、と。

 

「────ッッッ!!」

 

溺れそうな恐怖と絶望の中、ほんのわずかな勝ち筋に希望を見出し、メナトロールの挙動に目を凝らした。

 

「────っ、…………いヤ」

 

が、突如。

 

一言だけ漏らすと、私の姿を楽しみながらズカズカと歩み寄っていたメナトロールは、ピタッと足を止める。

そのまま、左手を顎の下に乗せると、さらに表情の歪みを深め。

大きな声で、言い放った。

 

「こコは……違ウな。────ゴブリンどモぉッ! もうイいぞ、お前ラがこいツをやレッ! 簡単ニは殺スなよッ! ゆっくり、確実にっなぶリ殺しダぁッッ!!」

 

「────ッ」

 

 

"メナを冠する魔物の、底なしの悪意には気をつけろよ"

 

 

最後に一番強く念押しされた、マルティロの教えが。

 

 

どこか遠い言葉のように、頭に響いた。

 

 

 

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