連邦生徒会長に脳を焼かれて色々あったカヤちゃんが、また色々あってFOX小隊とRABBIT小隊の面々とシャーレに所属してキヴォトスの世直し的なことをする
という電波を受信したので書き始めました。
前日譚なので短め。
前日譚:誰かの
かつて自分は、『超人』に憧れていた。
そうなりたいと望んでいた。ずっと自分は優秀だと思っていた。幼い頃から、大抵のことはこなせた。誰もが自分のことを優秀だと、天才だと褒めた。だからこそ、自分は特別なのだと。選ばれた人間で、才能の持ち主なのだと。そう思っていた。
あの人に、出会うまでは。
今でもずっと脳に焼き付いて離れない。きっと、生涯それは消えることのないだろう記憶。淡い水色と桃色の長髪に、大きく。気高い背中と純粋無垢な笑顔。初めてだった。自分よりも優秀で、強くて。自分と心から向き合ってくれて、叱ってくれて。手を伸ばしてくれる人と出会ったのは。
どんなことにおいても、及ばなかった。その人は自分より遥かに早く物事が出来てしまうし、周囲の誰からも信頼され頼られていた。その人の背を追い始めた時、憧れた。自分も、あのようになりたいと。だが同時に思ってしまった。負けたくない、もっとあの人に自分を見てほしいと。
自分の価値を証明すれば、より優秀であることを証明すれば。あの人に届くほど、自分が超人であれば。きっとあの人は自分をもっと見てくれる。そう思い、いつからかがむしゃらに努力した。
ある時のことだ。キヴォトスのとある地区で、大規模な凶悪犯罪が発生した。
ある危険な複数の生徒と、その生徒の下に集まった不良集団による大規模な犯罪。それは、連邦生徒会への復讐という大義名分のもと実行された。
その鎮圧のために、自分は出動した。背を追う、その人。連邦生徒会長と共に。
地獄だった。現場はそう例える他なく、報告されているキヴォトスの住民の被害は甚大だった。
かなりの数の負傷者に重症者。間違いなく今までのキヴォトスの中でも、最悪レベルの犯罪だ。そんな中、当時の自分は思っていた。今思えば、とんでもない場違いなことを。
『ここならば、自分が優秀であることを証明できる。あの人に見てもらえる』と。
自分と真正面から向き合ってくれたのは、連邦生徒会長だけだった。だから、もっと見てほしい。自分を知ってほしい。当時、愚かにもそんなことを考えていた自分はただ全力で事件の解決に動いた。
数に物を言わせた不良達が、襲いかかってきた。
一人余すことなく、鎮圧してみせた。
事件の首謀者の側近。幹部であろう生徒が、大量の兵器を持ち出し、それを市民へと向けた。
その生徒も制圧し。兵器は全て鉄屑に変えた。
自分に向けられる武器を、暴力を、殺意を。その全てを捻じ伏せて叩き潰した。その時の『想い』だけに忠実に。ただ単騎で駆け抜け、そうして。 事件の首謀者の内の一人も、捻じ伏せた。
気がつけば、息が上がっていた。気にすることもなかったが、終わった後に見てみれば自分の現場用の連邦生徒会制服も、持っていた武器もボロボロだった。
自分が出すぎたことに気がついたのもその時だ。慌てて前線の防衛ラインまで戻ると、そこには自分と同じように服も装備もボロボロで。それでも、いつものように笑顔を向けてくれて。心配してくれる連邦生徒会長が居た。
ああ、これでもっとあの人は自分を見てくれる。そう、思った時だ。
――『あ、あの! 助けてくれて。守ってくれてありがとう!』
突然のことだった。
連邦生徒会が構築した防衛ライン、そのすぐ後ろには住民の避難所と救護施設が設置されていた。そこから自分に向かって走ってきたのは、小さな。まだ中等部に入ったばかりくらいの、ヘイローを持つ子供だった。
その子供は、傷だらけで。見れば、恐らく救護テントで治療されたような包帯も巻かれていた。
咄嗟に怪我のことを言いそうになった。だが、それはその子供の。感謝の言葉によって打ち消された。
――『怪我はしたけど、みんな無事で避難できたよ。みんな、お姉ちゃん達が守ってくれたお陰。だから本当に、本当にありがとう』
――『こんなものしか贈れないけど、どうか受け取ってください!』
そう言われ、怪我人の少女から差し出されたのは。小さな、小さな折り鶴だった。
呆然とした。頭の理解が追いつかなかった。その場でどれだけ放心していたのかも、わからない。それでも、ただひとつ理解できたのは――自分の瞳の奥が熱かったということだ。
自分は、ただあの人に見てもらいたい。ただそれだけでこの現場を。戦場を駆け抜けていた。故に、今思えば本当に愚かだと思うが住民のことは目に入っていなかったのが事実だ。
その時の自分の身体は震えていた。瞳の奥が熱く、滑稽なほどにその時は理解できなかった感情に自身が耐えられなかった。
そうして。その言葉を受けて、その子の笑顔を見て。ゆっくりと、まるで繊細なガラス細工に触れるように、震える手でその子の手に。折り鶴に触れた瞬間。
世界に、色がついたような気がした。
受け取った折り鶴を大切に両手で包むようにして、ただその時の自分は膝をついてその時の感情と衝撃に打ちのめされた。
尊厳も、普段己を優秀な人間だと豪語する自分も、あの人を追うことを考える感情も、何もかもその時はなく。その時わけもわからなくなっていた自分に対して、あの人は言った。
――『あなたが守った笑顔だよ。だから、胸を張って』
背中を追った相手にそう言われ。そうして、自分の中に込み上げたそれが何なのか理解する。
命を懸ける理由を知った。
特別であることの証明でもない。超人であることでもない。あの人に見てもらうことでもない。
自分は、誰かの明日と笑顔を守りたいのだ。そのために、誰かに手を差し伸べられる人間に。誰かの盾となれるようになりたいたのだ。
そして、このキヴォトスの無辜の民に対して悪意を向ける相手の。笑顔と未来を奪う相手の、『悪の敵』になりたいのだ。