「先生、先日の資料まとめておきましたよ。それから、これはユウカさんから頼まれている資料です」
「ありがとう。……うーん」
「どうかされましたか。む、もしかして書類に不備でもありました?」
「ああ、違うよ。連邦生徒会の制服を見慣れてたから新鮮だなって。そっちもよく似合ってると思うよ、FOX小隊……おっと、ここでは小隊ではなかったね。ユキノ達と居ても違和感がないと思う。その髪型も、なんというか……服装も相まって、すごくカッコイイと思う」
「ふふ、煽ててもコーヒーとケーキくらいしか出ませんよ?最近また良い豆が手に入ったので。私のイチオシです」
「け、結構たくさん出るね……」
『後でお持ちしますね』と言うカヤの服装と髪型は、いつもと違っていた。いつもは三つ編みにしてアップでまとめている髪は解かれ、腰ほどまである桃色の髪を後ろでまとめてポニーテールにしている。そして、白地に紺色の襟と袖に赤いスカーフ。一見ただの典型的なセーラー服ではあるが、このキヴォトスにおいてその服装はある部隊を指し示す。
FOX小隊。キヴォトスにおいてもトップクラスの部隊であり、現在休校中のSRT特殊学園における精鋭部隊である彼女達と同じ服装だったのだ。
カヤがこの服装に変わっているのには理由があった。それは、シャーレの不知火カヤは連邦生徒会の防衛室長である不知火カヤではないからだ。シャーレに所属する以上、あくまでもその間はシャーレの部員として扱われる。つまり、ここでは役職も経歴も何も関係はない。
先生にとっては、シャーレの部員は等しく生徒だ。無論、キヴォトスの他の自治区の生徒達も同じではあるが。
よって、ここに居るのはただの不知火カヤという生徒である。防衛室長でもないのだから、連邦生徒会の制服を着ている必要もない。むしろ、着ていると他の生徒達の中で浮くだろうと考えて着替えを決めた。
そしてどんな服装にするかと考えた。現場で使用している任務用の制服は、防衛室指定であるから連邦生徒会の服である。生徒会のロゴまで入っているのだしそれでは駄目だろう。ではヴァルキューレのものはどうかと考えたが、もしヴァルキューレの制服を着て、向こうの友人であるカンナに見られた時の顔を考えて辞めた。さてどうするか、と唸っているところに現れたのが、FOX小隊のニコだった。
ニコはファッションに対しての知識もある。そう思い、相談してみた所。次の瞬間肩を掴まれて『カヤちゃん。ちょっとお時間いただきますね』などととてつもない威圧感のある笑みで言われ。同時、普段の装備としてつけている咽頭マイクで他のメンバー。ユキノ、オトギ、クルミへと連絡。ものの数十秒でニコのところに全員が集まった。
そこから全員にまるで連行されるような形で連れて行かれたのは、なんと防衛室。現在防衛室の総括を任せている副室長からは『室長にFOX小隊の方々!?緊急事態でしょうか!?』などと言われたがそんなことはない。そのままなんでもないことを伝えたニコ達に奥の備品保管室へと連れて行かれ、何故備品室の配置を全て理解しているのか問い質したくなったが、慣れたような動きで奥まで行ってニコが持ってきたのが現在着ている制服である。
カヤとしてはツッコミどころ満載であった。特に、どうしてサイズピッタリのFOX小隊の制服が防衛室に保管されていたのかということだ。意味がわからなかった。咽頭マイクやイヤーマフをはじめとした、FOX小隊の標準装備も一式揃っていた。本当に意味がわからず戦慄した。
そのまま着せ替え人形のように着替えさせられ、着替えた後にはもう自棄になっており、FOX小隊が現場でも使用する制服を着てそのままの髪型では違和感があったので、するり、と髪を解いて自分もかつて連邦生徒会長と現場に出ていた頃の髪型に変えた。着替え、髪型を変えて防衛室のオフィスに戻れば歓声が上がった。どうやら評判が良かったようなので、この格好にすることにした。
なお、この時ニコと副室長が満足げにサムズアップしていた。
「まあ、この格好は正直現場でも動きやすいです。……というか、私の武装用の専用ホルスターまで用意されてたんですが用意周到過ぎませんかね」
「カヤの武装って、その腰の?」
「ええ、私の大切な。 ……大切なものです。身体の一部と言ってもいいくらいです」
そうして、カヤが机の上において先生に見せてくれたのは、銀色の2丁拳銃だった。全長は320mmほどのかなり大きなもので、ヴァルキューレなどで採用されている拳銃よりも1.5倍以上大きい。フレームやグリップもカスタマイズされており、グリップには連邦生徒会のエンブレムと、その下に『Sagittarius』という銘が刻まれていた。
「元々私は、あまり装備には拘りがなかったんですよ。支給品の装備でも品質に問題はありませんから、いつもそれを使っていて。でも、どうにも私はよく支給品の装備壊してしまうんです。その度にリン代行にはよく怒られてました。『またですか?』と。知ってますか先生、代行って怒ると本当に怖いんですよ」
「あはは……そんな感じはしてたかな。それで?」
「ある時、会長が言ったんです。『多分、装備がカヤちゃんについていけてない。だからよく壊れるんだと思う』と。では私が装備に合わせるしかない、そのためにどうするかなんてことを考え始めたら翌日、会長に連れられてあるガンスミスの所に連れて行かれました。そこで色々と試射をしたりして、その後会長と同じことを言われました。 ――それで、後日そのガンスミスの手で完成したのがこの銃です」
思い出すようにして話をするカヤは懐かしそうに。だが、何かを望んでいるようにしていた。
「いつも頑張ってくれているから、そう言われてある日突然大きな箱を渡されて。中を開けて驚きましたよ。貰って良いのかと聞けば、『すごく頑丈に作ってもらったから是非使って。それにこれでリンちゃんに怒られなくて済むね!』なんて言うんですよ。 ……これは、私と会長の繋がりなんです。大切な、大切な絆なんです」
「大切な人なんだね、連邦生徒会長は」
「今会ったら色々と怒鳴り散らしたいですが。 ……でも、そうです。大切な人なんですよ」
呟くようにカヤは、『会いたいです』と呟いた。
恐らく本人は無意識のうちに出た言葉で、それが言葉として出たことに気がついていない。だが。消え入るような声でも、確かに先生には聞こえていた。その、懇願するような言葉が。
「おっと……そうでした。色々話し込んでいて忘れる所でした。 先生、私に御用があると聞いていたのですが?」
思い出したようにカヤはそう言って、机の上に置いた2丁の拳銃を腰のホルスターへと収納した。
「あ、そうだ。危ない危ない。私も忘れるところだったよ……。実はカヤに見てほしいものがあるんだ。これなんだけど」
「ふむ?手紙ですか。差出人は ……ッ」
「カヤ?」
「――ああ、いえ。随分と、懐かしい所から手紙が来たなと思っただけです」
カヤが先生へと一瞬見せたその表情は、哀愁と後悔だった。
その手紙には、三角形に太陽を思わせるロゴが刻まれた印が押されていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……アビドス高等学校、ですか」
時間は既に夜に入ろうとしている頃。シャーレの屋上で、空が暗くなるのを眺めながら、右手にはヴァルキューレ警察学校の友人であるカンナからプレゼントされた、ステンレス製の蓋付きマグカップを持ちながらそう呟いたのはカヤだった。
彼女の表情はあまり明るいとは言えなかった。その理由は、少し前に先生から見せてもらった手紙と、まずは意見がほしいと言われた案件だった。
――『わぁ……すごいねカヤちゃん!えへへ……私ってドジだから、いつもああいった人達に絡まれちゃって』
――『なら、いつかアビドスにも遊びに来てくれると嬉しいな!今はもう、砂祭りとかもやれてないけど……でも、いいところなんだよ!』
――『うん!私は大好きなんだ、アビドスが!それに最近、すごく出来のいい後輩が出来てね!いい子で、きっとカヤちゃんとは仲良くなれるよ!』
ガンッ、と。音がした。それは屋上にある高耐久安全柵からのもので。
それは、カヤの拳がそれに打ち付けられた音だった。
彼女の拳は、震えていた。
「何が『超人になりたい』ですか。……先輩を助けられなかったくせに」
救えなかった。
自分はあの笑顔を、自分を見ようとしてくれた人の未来を救えなかったのだ。
愚かしいにもほどがある。優秀だと豪語し、偉ぶって調子に乗り。
『まあ任せてくださいよ!そのうち、このゆくゆくは超人になる私が助けに行きますよ!』とまで言った自分は、その太陽のような笑顔を持つ人を。先輩を救えなかった。
「ユメ先輩ッ……!」
梔子ユメ。彼女の件が伝わってきた時。血の気が引いた。
それが伝えられたのは、己の目指すものを見つけ、自分を見つめ直し。目指すもののために再出発を始めた頃だった。当時、我を失ってその情報を伝えてきたリンに掴みかかった。『冗談にしては度が過ぎていますッ!』と叫んで。だが、真剣な眼で自分の名前を叫ばれて。理解した。それは、現実なのだと。
更にカヤへ追い打ちをかけたのは、彼女の。ユメの発見状況だった。行方不明となり、その33日後に砂漠の中で発見されたというものであった。
誰かの明日と笑顔を、未来を守れるようになりたい。そう望むようになり、最初に失ってしまったその光が、梔子ユメだった。
「カヤ、ここに居たのか」
「……ユキノさん」
屋上の扉から現れたのは、七度ユキノ。FOX小隊のリーダーであり、今は己とともにシャーレの所属となっている人物だった。
「どうかしましたか。何か依頼に問題でも?」
「いや、シャーレへの依頼については特に問題はない。ニコやモエ、それからミレニアムのユウカ……だったか。彼女にも手伝ってもらい、依頼については順調に処理されている。すごいな、ユウカは。流石ミレニアムのセミナーというだけあって、書類の処理速度が早い。ニコもモエも大喜びしていたぞ」
「他の自治区の生徒と仲良くするのはいいことです。SRTはその特性上、かなり閉鎖的でしたから。 それで、どうしてここに?」
「先生が心配していた。どうにも、カヤの様子がおかしかったから見てきてほしいと言われてな。 ――アビドスの件か?」
「はあ。リン同様、付き合いが長いとどうにも見透かされてしまうことが多いですね。 まあ、そうですね。先生から話は?」
「聞いた。手紙についても、どうするかカヤに意見を求めていることも」
「……そうですか」
普段、厳格で生真面目な彼女の表情は心配するようにしていた。
そして、隣まで歩いてくると。
「それで、心は決まったのか」
「元々決まっていますよ。ただ……昔のことを後悔していただけです」
優しい日々が、温かい希望がそこにはあった。故に、時には歩みを止めて過去を振り返ろう。
だが、かけがえのないその光を、日常を守るために。確かにそこにあったもののために、前を向こう。
振り返り、突き進む。そんな矛盾したとも言えるそれを受け入れ、信ずると決めたのだ。
過去も、現在も、未来も。等しくそこに誰かの笑顔と輝きがあるなら。
すべてを受け入れ、歩んで征こう。
「あえて、聞いておこう。今回の件、私達で対応してもいいと思っている」
「ふふ、気を遣ってくれてるんですか?優しいですね、ユキノさんは」
「私は、別にそういうわけでは」
「そのツンデレっぽさがかわいいんですよねえ、ユキノさんは」
そんなことをカヤが言えば、ユキノの持つプライベート用のスマホからは『わかる、わかるよカヤちゃん!』と強制的に通信に割り込んでそう告げるニコの声がした。それを聞いた瞬間、ユキノは『うっ、うるさい!私はそういうんじゃない!それから勝手に私のスマホに強制介入するな!』と顔を赤らめながらも慌てていた。
「先生への意見は、決めています。多分、ニコさん達も聞いているでしょうから今お話します」
告げる。
後悔はした。過去は振り返った。
そこに、確かに温かい光があったことを、不知火カヤは絶対に忘れない。
「アビドス高等学校への支援は、私と。そしてミヤコさん達4人を連れて向かおうと思います。ユキノさん達には、シャーレの業務と有事の際の準備をお願います ――どうにも、今のアビドスはきな臭いんですよ」
既に日が暮れた空を見上げ、太陽のような笑顔を持っていた相手のことを心に。カヤは強く、そう告げた。
『Sagittarius』
連邦生徒会長があるガンスミスに依頼して制作したカヤの専用装備である2丁の特殊拳銃。現場ではカヤはかなり激しい武器の使い方をしていたので、『すごく頑丈でカヤちゃんの動きについていけて高威力なのがいい!』と依頼した相手に頼んだ。依頼された側はかなり無理難題だと思ったがなんとか完成させた。特殊なマグナム弾を使用する。
・カヤちゃん
通常時の銃撃戦は二丁拳銃と体術で戦うスタイル。シャーレに所属してからはFOX小隊の制服を着て髪型をポニーテールにしている。不知火カヤ(臨戦)。
454カスールカスタムみたいな銃を2本持ちながらガン=カタしてヤンマーニしてくる。という呪文でどれだけの人に伝わる方は不明。元祖ウルトラトンチキも入ってる。
・ユメ先輩
カヤが救えなかった、温かさを向けてくれた光。
その痛みを彼女は忘れることはないだろう。
・ユキノ
カヤに続く最高戦力の一人。真面目で厳格な性格だが、ミヤコ達をとても大切に思っている。自分の性格を理解しているので、オフの時にどうやったらRABBIT小隊の面々と仲良く出来るだろうかとFOX小隊の他の三人に相談したことがある。
【あとがき】
ロングヘアカヤちゃんもポニテカヤちゃんもいいぞ。脳内でFOX小隊の服と装備にポニテのカヤちゃんを変換したら臨戦カヤだった。ただこのカヤちゃん1番も2番も攻撃スタイルで攻撃型と超攻撃型だぞなんだこれ。
閑話休題。
アビドス行きはカヤちゃんとRABBIT小隊の面々です。後数話したらアビドス編突入の予定。FOX小隊は原作みたいなことになってない上にカヤちゃんがカヤちゃんなので、かなり万全の状態。ユキノの眼のハイライトも消えてなくてインタビュー受けてた時みたいな眼をしてます。
感想・評価などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。