――『皆さんの期待に添えず、このような結果となってしまいました。本当に、申し訳ありません』
SRT特殊学園。連邦生徒会長が失踪し、SRTについての議論が重ねられて、ある決定が決まったその翌日。
SRTの全校生徒は学校の体育館に集められていた。そして、最前列の演台に上がり、事の経緯を細かく説明し。最後に頭を下げたその相手に対して、自分を含めて誰もが最大の敬意を払っていた。そしてそんな頭を下げた防衛室長に対して、全員が姿勢を正し。最大の感謝と敬意を示すように敬礼を送った。
過酷な状況にも決して折れない、強い信念と厳格な規律に憧れた。
どんな悪人をも一撃で制圧できる、圧倒的な力に憧れた。
悍ましい敵の前でも揺るがない、大胆な勇気に憧れた。
いつまでも変わらない正義に憧れた。
憧れと羨望、目標を持って自分はSRTに入学した。
本来、自分はヴァルキューレ警察学校に進学するつもりだった。しかし、FOX小隊の。尊敬する先輩達の姿を見て、憧れた。憧れて、SRTへの入学試験を受けることを決めた。
SRTはキヴォトスの中でも、極めて特殊な学校だった。そして、その門が狭いことも承知していた。並大抵の努力では、その憧れには届かない。だから自分は、より努力した。そうして、厳しい学力試験と実技試験を乗り越えて、晴れてSRTの一員となることが出来た。
入学後、暫くして嬉しくも驚いたことがあった。憧れの存在に。その部隊の部隊長である先輩。ユキノ先輩に声をかけられたのだ。どうやら、入学試験の実技試験を裏で監督して見ていたのが先輩だったようで、その時は『入学おめでとう。期待している』と激励された。
そうして、小隊を組むまでに至る友人達とも出会った。ポイントマンのサキ。電子戦や後方支援を担当するモエ。スナイパーのミユ。4人で小隊を組んでからは、尊敬するFOX小隊の先輩達にもよく指導してもらった。いつか、先輩達のような『正義の体現者』となるのだと、夢に見ていた。
だが、そんな自分達の『正義』は消されそうになった。
危険視されたのだ。その力が強すぎるから、という理由で。自分達は、誰かを守るために正義を追い求めていたというのに。
納得ができなかった。出来るはずもなかった。
政治的な理由で、自分の
――『SRT特殊学園の力が、なんのためにあるか理解していますか? 私は、学園の閉鎖には断固反対ですよ』
数日前、中継される連邦生徒会の会議映像。俯いて、どうすればいいのかわからなくなっていた。正義とはなんなのだと考えていた自分達に聞こえたのは、凛とした声のそんな言葉だった。
桃色の髪に糸目、小柄な身体。その人物を自分達は知っていた。否、SRTの学生ならば知らない人間は居ないだろう。それどころか、このキヴォトスにおいてもその名前を知らない人間は少ないだろうというその人は。防衛室長、不知火カヤ。
そこから防衛室長の猛反論が始まった。何故反対なのか、閉鎖した場合のリスクはこうだ、様々な論点から徹底的に反論し、その日の会議では完全にその場を支配していた。そして、その映像を見ていた時。一緒に中継を見ていたFOX小隊の先輩達が『ああ、始まった』というように呆れたように。だが嬉しそうにしていたのを見た。
討論が繰り返され最終的に、危険視されるために対応は必要だという意見に纏まった。そして室長は、そうであるならという視点で更に意見を押し通した。その結果、SRTの閉鎖という話は撤回。休校という形になった。
自分はその背中に、FOX小隊の先輩達に向ける憧れとは別の何かを見た。SRTを、自分達の正義を全力で守ろうとしてくれたその背中に。胸の中が熱くなった。
集会が終わった後、駆け出していた。
驚いたようにして何か声をかけていた友人達を置いて、ただ駆け出した。
行き先は決まっていた。連邦生徒会のヘリが待機する屋上のヘリポート。そこに向かって、ただ走った。
屋上に到着し、思いっきり扉を開けた。バタン、という大きな音とともに身を乗り出せば、自分を歓迎したのは向けられる銃口だった。
「ミヤコ!? ――どういったつもりで此処に来た」
視界に入ったのは、待機中のヘリに乗り込む寸前という防衛室長。そして、その護衛をしている先輩達だった。
感情のままに走ったが、そうだろう。突然突入するように屋上に現れる相手がいれば、護衛として警戒するのは当然だ。
任務中でもあるユキノ先輩からは厳しい視線を向けられて、感情のままに動いたことを反省するが。それでも、これだけは伝えねばならないのだ。だが。任務中の先輩達は本気だ。ニコ先輩も、オトギ先輩も、クルミ先輩もいつもの優しげだったり、人懐っこい雰囲気は鳴りを潜めて、鋭い視線で自分を見ていた。それに威圧されて、思わず言葉に詰まる。
そんな時だ。
「全員、銃を下ろして下さい」
「防衛室長? ですが」
「下ろしなさい。 ……いいんですよ。彼女が月雪ミヤコさん、でしょう?」
向けられていた銃口が降ろされて、先輩達の雰囲気が、普段のものへと切り替わった。
そうして。銃を下ろすように指示をした防衛室長が、自分に対して歩み寄ってきた。
「どうして、私のことを」
「普段、ユキノさんからよく聞いていましたから。すごく自慢してるんですよ、あなたのこと」
『し、室長!』という声が聞こえて見れば、ユキノ先輩が恥ずかしそうにしており、それに対して弄るニコ先輩達が見えた。
「私になにかご用でしょうか。大丈夫、ちゃんと聞きますから落ち着いて。一度息を吸って」
そう言われ、深呼吸して。
伝えたいことを、伝えた。
「私達の正義を守ってくださって、ありがとうございました!」
目の前で、防衛室長の眼が見開かれていた。
それは、驚いているようで。何かを思い出しているように見えた。
「ミヤコさん。私は、守るべきものを守っただけです。 ……もっとも、理想の結果は得られませんでしたが」
「それでも、防衛室長は私達の信念を。希望を守ってくれました。感謝しかありません」
「ふふっ、そうですか。私は、守れたのですか。 ――ミヤコさん。ひとつ、聞いてもいいですか?」
「は、はい!」
向かい合う防衛室長は、そして問いを放った。
「あなたの正義とは、なんですか?」
「私の、正義。ですか?」
「そうです。あなたの、あなたの心に秘める正義。それを教えてはくれませんか」
考える。己にとっての正義とは何なのか。
定められたものではなく、自分が目指したもの。
そうなりたいと、望んだものが。一番最初にあったはずだ。
「誰かを、守りたいと思ったからです」
「……ほう」
「中学の頃に、私は見ました。小さな子が不良に虐げられているのを。助けを求めるその子に対して、誰も手を差し伸べようとしなかった。見て見ぬふりをしていた。だから、私が立ち向かいました。その時は怖くて仕方なかったけれど、それでも。 ――その悲しみや痛みを、無視することだけは出来ませんでした」
そうだ。それこそが、自分自身の
誰かの悲しい涙をなくすために。不条理な力の前に傷つく誰かを助けるために。
「誰かの笑顔のために。誰かの悲しい涙をなくすために。そのために力が必要ならば、私は迷わずその力と武器を取る。それが私の信念であり、正義です。私の、誰にも譲らない心です!」
「そうですか……ああ、確かに。これは、ユキノさんが自慢したくなるのもわかります。 その心を。想いを大切にして下さい。ミヤコさん」
「防衛室長……?」
満足した、というようにして。そのまま防衛室長は先輩達に向かって。
「ユキノさん、彼女。私にくれませんか?」
「絶対に駄目だ。私の大事な後輩だぞ」
「えぇー……いいじゃないですか。私、すっごくミヤコさんのこと欲しいですよ」
「FOX小隊全員がストライキを起こすぞ、それでもいいのか」
普段使いのような言葉遣いになるユキノ先輩。そして、『RABBIT小隊の危機……守護らないと!』『横暴には屈しない!後輩を渡すなー!』『リン代行に連絡しよっか?』などという言葉が聞こえてくる。
「ストライキとリン代行への連絡は困りますね……。怒ると怖いんですよ、リン代行。ついこの前怒られたばかりなので、報告されると不味いですね。仕方ない、諦めましょう ――ですが」
まるで『見つけた』というように防衛室長の糸目が開かれた。そして、悪戯っぽい笑みを口元に浮かべて。
「ユキノさん。彼女と、それから彼女の小隊を例の話に加えるというのはどうですか?実力も才能も素質もある。きっと、いい経験にもなると思うんですが」
「……それについては、私は賛成だ。だが、いいのか?」
「いいもなにも、是非にと思いますよ。 ミヤコさん。とりあえず、なんですが。聞いてもいいですか?」
「え、ええと。なんでしょうか」
「もし。貴女の、貴女達の正義と信念のために。私やFOX小隊と旅に出ませんか? なんて言ったらどうします?」
願ってもないことだ。また先輩と、そしてあの防衛室長と共に居られるのなら。
問われたその問いに対しての答えは決まっていた。
「防衛室長やFOX小隊の先輩達と……私達が。き、きっと他のみんなも喜ぶと思います!若輩者ではありますが、よろしくおねがいします!」
「はい、じゃあ決まりですね。詳しいことは後日、ちゃんとした場でお話しましょう。 ……うーんいいですね、ユキノさんも昔はあなたみたいな感じだったんですよ。信じられないかもしれませんが」
「カ、カヤ!くっ……FOX小隊、こいつの口を塞げ!」
「んー?ごめんねユキノちゃん、通信機の調子も耳の調子も悪くてよく聞こえないよ」
「昔のユキノの話?懐かしいね。1年生の時の夏季訓練の時のことは当時伝説に――もごっ!」
「あの一瞬でクルミの口の中にラージサイズの栄養ブロックを3本も叩き込んで口を塞ぐなんて……私達くらいじゃなきゃ見逃しちゃうね」
そのまま、まるで友人同士でのやり取りをするようにして騒がしくなる先輩達。
そんな先輩達を見て、少し驚いたが――全員が、とても楽しそうだった。
「ち、ちゃんとそれ全部食べてくださいねクルミさん……!く、くくっ……!」
無理やり口の中に栄養ブロックを押し込まれ、『なんのことだ?それより開発部の新作ブロックは旨いか?』などと言われてるクルミを見てカヤは面白おかしそうに笑っていた。
落ち着いた防衛室長は改めて自分を向く。
そうして。続けて言われた言葉に自分は驚いて。これから先の道のことを夢想した。
「さっきも言いましたが、いい経験になると思いますよ。私達でも、これからのことは想像がつかないんですから」
それが誰かの笑顔を守るためなら。
自分が目指したいと思った先へと向かえるのなら。
その旅路は、どんな苦難があっても歩み続けられると確信していた。
誰かの笑顔と、己の正義。そして――仲間達や大切な人がいる限り。SRT、否。月雪ミヤコの心は揺るがない。
・ミヤコ
先輩達とカヤちゃんに魂を焼かれた正しい光狂い。FOX小隊で一番好きなのはユキノ。SRTが閉鎖されてない上に、自分達の正義のためにシャーレ。先生が尽力してくれたことを知っているので、原作のように大人嫌いではないし、カヤに対してのように自分の信念を貫かせてくれる場所を示してくれたことに感謝している。
年上の先輩に褒められるのが好きで、何かと頑張り屋。オフの時ユキノがかなり甘やかしている。
【あとがき】
RABBIT小隊が一行に加わることになったサブストーリー。カヤちゃんとしては、RABBIT小隊の潜在的素質が高いことはわかっていたので、経験を積ませるという理由でもシャーレへの出向に連れていきたかった。その話をしたらFOX小隊には喜ばれた。
次回あたりでPV風次回予告みたいなのやってアビドス編に突入します。
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