とても励みになっております。
「なるほど、そんな莫大な借金が……。カヤ、聞いていいのかわからないけど、連邦生徒会でそのことについて把握はしていたの?」
突然アビドス高校に現れた人物達を見て、対策委員会のメンバーたちはただ驚いていた。シロコだけは、既に説明などを受けていたのか、落ち着いた様子ではあったが。
まず、シャーレの先生。連邦捜査部シャーレは、生徒会長失踪後に瞬く間に話題となった部活動だった。その噂はすぐにキヴォトス中に流れたのもあるが、つい最近も別のことで話題となった。各自地区から寄せられる依頼に対して真摯に取り組んでくれることから、その評判はかなり高く。猫探し、街の掃除、宅配便の配達などの手が足りないからという理由で依頼されることから、不良やヘルメット団が起こす問題に対しての対応。そういったことの解決を積み重ね、知名度は高い組織だ。
そして。そんなシャーレがつい最近別のことでも話題となった。それが、SRT特殊学園の生徒と、防衛室長である不知火カヤのシャーレへの加入である。その報道はその日キヴォトスを大きく揺るがし、騒ぎとなった。
SRT特殊学園。それも、かつてカイザーコーポレーションの不祥事の取り押さえや違法な大量破壊兵器の生産工場の制圧など、報道されているだけでも多くの難事件を解決してきたFOX小隊と、加えてそのFOX小隊が直々にシャーレへの『出向』に選抜したという、数名の生徒のシャーレへの加入。それだけでも連邦生徒会がシャーレという組織をどれ程に重要視しているものなのかというのは世間に対して伝わった。
それを行ったのが不知火カヤである。SRTの精鋭がシャーレへと加入するというだけでも騒がれたが、更に激震を起こしたのが防衛室長である不知火カヤが『防衛室の業務を、副室長に引き継ぎ室長代行としての権限を与える。自らはシャーレへと出向し、先生の力となる所存である』と緊急会見で告げたのだ。
当然というべきか。会見は大騒ぎとなり、多くの質問が飛び交った。特に、クロノススクールの生徒からの質問は熱が籠もっており、主な回答はその生徒に対してのものとなってはいたが。
カヤが会見で告げたことを要約すれば、
『自分がSRTの生徒を連れてシャーレに出向するのは、SRT休校によってキヴォトス各地の有事に対しての対応が困難となっているためである。かつて発生した『D.Uの大災厄』と呼ばれた事件。あのような事件が起こらないよう未然に防ぐために、もしそういったことが起こった場合に迅速に対応するためでもある』
『シャーレの理念とは、SRT及び防衛室の理念に沿うものである。そのため、今回の件については治安維持を目的とした防衛室判断と捉えてもらってもいい』
『但し、自身及びSRTの生徒はシャーレの任務や依頼遂行においてはそれぞれが学園や生徒会所属ではない『シャーレの部員』として扱う』
『今回の件については、連邦生徒会執行部会議において協議済みであり、生徒会長代行である七神リン代行の承認を受けている』
それだけの戦力をシャーレに加入させることに対しての質問もあった。要するに、SRTの時と同様危険視する声だ。だが、そんな質問は既に生徒会執行部会でも出ていた。カヤは、
『SRTが休校となったのは、責任を負うべき立場である連邦生徒会長が不在であることが大きな問題だった。だが、シャーレにおいてはその存在が明確化されており、緊急時の対応規約も存在している。責任の行方については、シャーレの先生も承諾済みである』
と回答。
そこからシャーレに対する危険視や不安に思う意見は少なくなっていった。というのも、些細なシャーレへの依頼に対してFOX小隊やSRTの選抜生徒、つまるところRABBIT小隊に不知火カヤが来てくれたという内容の投稿がSNSで波紋を呼び、それと同じような投稿が幾つもあったからだ。
ある中等部の学校は、射撃訓練の指導を依頼すると、そこにやってきてくれたのはFOX小隊だった。彼女達は楽しそうにしながら真剣に、真面目に依頼があった学校の生徒達に射撃訓練をしていたという。
ある海辺の学校では、今年はとにかく漁獲量が多く生徒だけでは手が足りないと依頼を出した。そこに来てくれたのは、ミヤコを始めとするRABBIT小隊の4人だった。その現場では、依頼が終わった後にその学校の生徒と楽しそうに海産物をバーベキューで食べる姿があったという。
悪質な不良達に恫喝され、子供に危害を加えると脅され運営資金を巻き上げられていたある孤児院は藁にも縋る思いでシャーレへと依頼を出した。そしてそこに現れたのは不知火カヤだった。不良を鎮圧し、それを引き取りに来たヴァルキューレのカンナへと引き渡した後。今までのことがあって、未来に対して絶望しか見えず『全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ』と思っていた子供たちへとカヤは言った。
『パンを焼く、花を育てる、何かに夢中になる。なんでもいい。どうか前を向いて。悪者が来たら、何度だって私が。私達がやっつけましょう。あなた達の未来が笑顔であるように、シャーレがその道を作りましょう』
そんな各々の姿が、口頭で。噂で。SNSで波紋を広げた。
当然、その話題はアビドスにも伝わっていた。アヤネが手紙を出したのも、その話を聞いたからだ。
シャーレは話題になってから何かと忙しい部活だ。無理かもしれない、というダメ元で手紙を送った。そうしたら。来てくれたのはシャーレの顧問である先生。そして、不知火カヤと噂の精鋭小隊だった。
現在、アビドス高校の対策委員会の部室はかなり大所帯となっている。というのも、対策委員会のメンバーに加えてシャーレの先生、ミヤコ達4人、そしてカヤも室内にいるのだ。
到着後、シロコが事情を話そうとした所でなんと間の悪いことにヘルメット団が襲撃を仕掛けてきた。だが、ヘルメット団からすればタイミングが最悪だった。その場にいるのは自分達が知るより遥かに大きな戦力だったのだから。加えて、弾薬についても輸送機で運んできたものや先生がクラフトチェンバーによって準備していたものもあったため、潤沢の状態。
カヤはミヤコ達に経験を積ませる、という目的もあったため戦闘に手は出さなかった。だが、先生の卓越した戦術指揮のもと動くアビドス高校対策委員会にRABBIT小隊を相手にして戦える相手がどれだけ居るかと考えると、キヴォトスでもそう多くはないだろう。そのままヘルメット団を退却まで追い込んだ。
そうして現在である。
カヤとRABBIT小隊の各々は改めて対策委員会のメンバーへと自己紹介し、軽いアイスブレイクの後、先生が本題を切り出した。
つまるところ。アビドスの借金についてである。
「……カヤ?」
「――ああ、すみません先生。少し、考え事を。大丈夫ですよ、シャーレの権限で連邦生徒会の情報を同意の元確認することは出来るので、お答えできます。まあ、防衛室副室長が許可したということにしましょう。後で話は通しておきますので」
先生が感じたのは、違和感だ。妙な歯切れの悪さに、返された言葉の違和感。
だが。それについて考える暇はなく、すぐに彼女から言葉を返された。
「まず、お答えできるとすればアビドスの莫大な借金については連邦生徒会は把握していませんでした。ですが、アビドスの砂塵災害による被害の深刻化の相談は、確かに受けていました。 ……といっても、それについて担当していたのは数年前の話で、相談を受けていたのは『生活環境室』だったと思います。当時はその相談を受けて、当時の生活環境室長の指示でアビドス市街地に対する砂塵災害の対応が行われた、と記憶しています」
「その、借金について相談はなかった。ということ?」
「防衛室では把握していませんでしたね。財務室……アオイさんならなにか知っているかもしれませんが。ただ、私の今の立場的に話せるかは怪しいですね。私、彼女にはあまりよく思われていないみたいなので」
「これだけ莫大な金額であれば、騒ぎになったり議題として上がったりはしないのかな?」
「先生。連邦生徒会と各自治区の裁量権についての資料はご確認されてますよね」
「それは勿論。確か……連邦生徒会は各自治区内、および自治区同士の協議・自治区と企業や団体で行われる事項については、自治区の裁量権が認められ連邦生徒会は特記事項の場合を除いて関与しない――ああ、なるほど」
先生は気がついた。つまり、生徒会と自治区での権力の分離だ。連邦生徒会が全権利を保有していれば、ありとあらゆる自治区の裁量権を含む全てを保有しているということになる。そんなことになれば、連邦生徒会の独裁政治の完成である。だが、キヴォトス全ての自治区と学園を完全に掌握し、統制することなど並大抵のことではない。加えてそんなことをしてしまえば、各自治区から反旗を翻されるのは目に見えている。
だから権利と裁量権、統制を分けた。それぞれの自治区には裁量権があり、統制権がある。自治区内部での出来事や自治区同士での事については連邦生徒会は殆ど関与しない。関与するとすれば、自治区から行政委員会に提出された案件が連邦生徒会で処理され、対応という結論になった場合である。
今回の場合、砂嵐についての災害の案件は報告されていたが、借金については案件として採択されていない可能性が高かった。また、金銭的なやり取りは自治区と自治区。もしくは自治区と企業の間で行われる上に報告義務もないのだ。
「ふむ……アヤネさん、でいいのでしょうか?」
「え?は、はい!なんでしょうか不知火防衛室長!」
「そこまで緊張しなくてもいいですよ。後、今の私はシャーレの不知火カヤですのでもっと気軽に呼んでください。 ……今から独り言を言います」
「え?は、はい」
「シャーレとしては、アビドスの現状を聞いて色々気になることが出てきました。これは、シャーレとして生徒会に確認しなければならない案件ですね? もしかしたら、連邦生徒会に問い合わせたら、防衛副室長や財務室長に連絡が行くかもしれませんね。 ――おっと、こんなところにスマホが。ああっ、手が滑って間違って友人の連絡先を押してしまいました!」
わざとらしくスマホを取り出し、わざとらしくカヤは操作を間違えたというように通話の発信ボタンを押した。
「ああ、もしもしリンですか?ちょっと聞きたいことが――」
『カ、カヤ……?とても嫌な予感がするんですけど何ですか? というか貴女、今アビドスの筈ですよね?』
「そのアビドスのことで聞きたいことが。シャーレとしての連邦生徒会への問い合わせです」
『はぁ……ああもう面倒です。連絡を受けたのは防衛副室長、ということにしておきますから』
「考えることは同じですね」
『あなた、あの子に絶対何かお礼したほうがいいですよ……。ああでも、あの子は貴女の指示だと言えば喜々としてそういうことにしそうですが……』
「ええ、ちゃんとお礼はするつもりですよ。 ――さて、ちょっと公にできない話をしましょうか」
電話先の人物に察しが付いたアヤネとノノミは驚いていた。そして、ホシノもだらけたような表情をしていたが、バレないように真剣な眼をしていた。
悪い笑みでカヤが電話をしたのは、生徒会長代理であるリンだったのだから。
・連邦生徒会の不介入
ゲヘナには万魔殿、トリニティにはティーパーティー、ミレニアムにはセミナーがあるように各自治区を統括する存在があり、自治権が認められている。基本的に特例やシャーレ、SRTを除いて、連邦生徒会は不介入である。
・シャーレの活躍
カヤとFOX小隊、RABBIT小隊が加入後破竹の勢いで送られていた依頼を処理した。その結果として、D.Uだけではなく各地へと赴くこととなり、依頼主もまさかSRTの生徒や不知火カヤが来てくれるとは思いもしなかったし、なんなら想像もしないようなごく普通の生徒としての一面を見れたこともありシャーレの評判が一気に上がった。
流石に基本的に書類仕事を手伝っているユウカだけでは回らないようで、近々ミレニアムから極めて優秀な助っ人が来るらしい。
・孤児院の子供たち
少し前に、とある自治区から逃げてきた子供たちを心優しい院長が匿っている。D.U地区にあり、施設自体も連邦生徒会認可の支援団体である。子供たちの傷が深かったが、カヤの助けに来た姿を見て希望を少しづつ持てるようになった。
子供たちを連れて逃げてきた生徒が、内密にある情報をカヤとリンに齎した。
なお、その生徒は戦い慣れた才能を買われてヴァルキューレへと入学しており、カンナ局長の懐刀と言われている。
【あとがき】
カヤがちょっと曇っていたのは過去のことについてです。災害関係で当時、相談に来ていた人物は一人だけです。そしてカヤは、その人を救えなかった。
そして困った時のリンちゃん。なお、リンちゃんはその度に嫌な予感もしててるし胃に穴が空きそうになってる。でもちゃんと答えてくれるし根回しや準備もしてくれる。健気である。
苦労人ではあるが、カヤがやろうとしていることを知っているしそれがなすべきことだとも理解している。カヤもまた苦労をかけていると思うので、ちゃんと合間に感謝も伝えてるし定期的に依頼先のお土産を持っていっている。
拙作では、追々と加わってくる部員を除いてメインになる人物を決めています。
通称、世直し御一行。
シャーレの書類関係の助っ人を2人と外部のサポーターとして防衛室副室長ちゃんとリンちゃん。そしてメインの人物をカヤちゃんを入れて10人にしています。カヤちゃんにFOX小隊が4人、RABBIT小隊が4人、合計9人。一人足りませんね?
実はあと一人、一行に加わる生徒が居ます。
カヤちゃんやFOX小隊、RABBIT小隊相当の生徒……一体何者なんだ……。
後々出てきます。
(2024/8/31追記)
物語の速度についてアンケートを設置しました。というのも、推定ですがひとまずエデン条約の完結までの本筋の内容で少なめに見ても文字数が30万字を超えます。恐らくサブストーリーや幕間など含めるともっと行く可能性があります。時計じかけの花のパヴァーヌも、第二章まで想定しているので結構長いです。更にエデン条約はそれより長くなる見通しです。
なので、進行速度的にどんなものなのかなと思ってアンケートを設置しました。参考までにご意見をいただければなと思います。
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