とても励みになっております。
不穏な影が見えてくる回。
「なるほど……これは、面倒ですね」
アビドスにやってきた初日の夜。時刻は0時に近くなろうかという頃、カヤはそんな言葉を輸送機。スカイレイダーの中で呟いた。
現在、輸送機はロックを掛けて外からは入れないようにしてある。初日の疲れもあったのか、ミヤコ達や先生がすでに休んでいるのは確認済みだった。
自身の持つ、主に作戦遂行用として使用するスマホ型のデバイスには、リンからの資料が送信されていた。それを一通り確認しての、『面倒』という言葉だった。
幾つかの資料をデバイスを通じて空間投影し、それを一通り確認して更にカヤは苦い顔をする。
アビドスの状況は、極めて厄介な状況だった。
嫌な予感はしていた。だからこそカヤはリンを通じての財務室、アオイへの確認や防衛副室長に動いてもらっての確認だけではなく、ある友人へも連絡していた。それが、ヴァルキューレ警察学校の局長であるカンナである。
加えて、FOX小隊にも連絡して動いてもらったのだが。カンナからも、FOX小隊からも齎された情報は決していいものではなかった。
「もし、そうだとすると ――そこまでやりますか、カイザー」
カヤはそのまま通話用のツールを起動すると、専用回線。この作戦用のデバイスと同じものか、同じタイプのデバイスでしか使用できない回線を使用してある人物へと連絡することにした。
「……夜遅くに申し訳ありませんね。まだ学校ですか?」
『今何時だと思っているんだ。 ……少し厄介なことになっていてな、まだ学校だ』
「むむ……そうですか。少し、お願いしたいことがあったのですが忙しいならこっちでなんとかします」
『待て。言うだけ言ってみろ。 ……今は局長室だ。他の生徒ももう居ない。何を話しても大丈夫だ』
「では。 ――例の、アビドスの件ですが」
電話の先で、『はぁ……やっぱりか』と相手が呟くのが聞こえた。
カヤが連絡したのは、尾刃カンナ。現在のヴァルキューレ警察学校の公安局長であり、『狂犬』とも呼ばれる人物。その実力も高く、ミヤコ達くらいであれば手玉に取られてしまうほどにその実力は高い。
『私もそのことで調べ物をしていたところだ。今日送った情報に加えて面倒な情報がある。聞くか?』
「手元においしいコーヒーでもあれば、気分が紛れたかも知れませんね。 ――ええ、お願いします」
『この前貰ったコーヒーを今飲ませてもらっているよ。いいコーヒーだな、これは。 ……さておき。まず結論だけ先に。カヤ、お前が調べろと言った生徒達だが……アビドスを去った後、行方不明になっている』
「……なんですって?」
カヤはカンナへとあることを頼んでいた。それは、公安局で確認できる犯罪履歴や住民記録の確認といったものだ。自治区内部のことや自治区同士のことについては連邦生徒会は基本的に不介入である。だが、キヴォトスで暮らす以上、住民票などの書類は必要となる。それは一般的な生徒でも、住民でもだ。車や戦車、ヘリなども免許が必要であり、そのデータは公安局で管理されている。もっとも、これらについては無免許で非合法のものを使用する不良も多いが。
そんないわば、公的な住民データ各種。そして犯罪記録についてカンナは頼まれて確認していた。そして、ある違和感に気がついた。最初はD.U地区の学校へと転校したと記録がある生徒に対しての確認中だった。カヤからの依頼が送られてきたのは午前中。それを確認したカンナは、昼前からのD.U地区のパトロールなどのついでに、その生徒の所在地を確認してみた。
そこに、その生徒は居なかった。
どういうことだ。そう思い聞き込みをしてみたら、『キヴォトスの外へと引っ越したらしい』という情報を得ることが出来た。そして次に見てきた相手は、『遊び歩く子だったけど、ある日を堺に帰ってこなくなった』と近隣の住民が告げた。
その次も、そしてその次も。理由は様々だが、共通しているのは『忽然と姿を消している』という点だった。
『キヴォトスの外になると、流石にどうしようもない。だが、D.Uだけでここまで不審な失踪をしているのは妙だと思ってな。……嫌な予感がして、万魔殿と正義実現委員会。マコトとハスミにもオフレコで聞いてみたんだが』
「……結果は」
『マコトは最初、いつものようなふざけた口調だったが――何かを調べ出した瞬間、空気が変わったよ。あれは、本気のあいつも何かに気がついたな。ハスミも最初は怪訝そうにしていたが、調べてくれた。随分と調べた結果に慌てていたよ。 全部最悪のジャックポットだ。試しにあたってもらった数名のトリニティとゲヘナの転校した生徒。その全員が同じように、様々な理由で登録されている所在地に居ない』
「なるほど。口封じ、だけにしては事が大事過ぎる。 ……もしそうなら何か他にも理由がありそうですね」
『これが今までわからなかったのは、多くの自治区内部で起こっていたことやごく普通、よくある理由でそうなっていたというのが大きいだろう。加えて……消えているのは、カヤ。お前が言った条件に該当する生徒だけだ。『過去にアビドス生徒会に所属しており、相応の権限を保有していた生徒』。 ――つまり』
「生徒会長か、副会長。その全員が忽然と姿を消している」
しかも、行方がわからなくなっているのは揃ってアビドスを去った後の話だ。
まるでアビドスに居る時では都合が悪い、というように。
『そうだ。だが、こっちも試しに数人調べたが、過去にアビドスに所属していた一般生徒は、登録されている住所で普通に暮らしている』
「別の資料から、現在のアビドスの情勢や地権情報についても情報が入っています。……明らかに怪しいのはカイザー。ですが」
そう、おかしいのだ。
現状の情報から最も怪しいのはカイザーコーポレーションだろう。だが、そうするとどうしてもおかしな点が出てくる。行方不明の生徒、この件についてもしカイザーが何か関わっていたのだとしたらここまで巧妙に行う理由が不明だ。
口封じをされる、ということは何か伝えられると不味い情報を持っていたということも考えられるが――
「別の何者かが、まだ居る」
『……同感だ。そしてもし。もしそうなら。 ヴァルキューレの公安局長としては見過ごせない』
事態は想定していたより厄介のようだった。
そう考えたカヤは、今のアビドスの状況のためにあるものが必要だと判断した。
それは、法務執行権。つまり、犯罪を犯した相手を逮捕する権限を持つ存在である。
今の自分やミヤコ達、そしてユキノ達は介入権を持っていても、執行権を持っていない。
つまり、犯罪を犯した相手を逮捕するにはその自治区の治安維持組織か、ヴァルキューレのような組織の力が必要になる。だが。アビドスに治安維持組織は存在しておらず、そういったことはアビドス高校の生徒で行っている。
「カンナさん、お願いがあります」
『予想はついている。言ってみろ』
「あなた、最近お休みとってませんよね? ――特別休暇を連邦生徒会で許可するので、ちょっとアビドスまで旅行なんてどうですか?そこで偶然、シャーレと会うなんてことがあるかもしれませんね?」
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「おはようございます、先生。昨日は良く眠れましたか?」
「おはよう、カヤ。うん、ぐっすり眠れたよ。しかしすごいね、軍用というか、最新鋭のテントは本当設備が充実していて驚いたよ」
「まあ、今回許可を頂いて設置したのはSRTでも使用している拠点設置用のものですからね。快適だと思いますよ」
先生としては、本当にこれがキャンプ仕様の施設なのかと驚いた。空調はある、電気も通っている、眠るのは寝袋かなと覚悟していたが、ちゃんとベッドもある。貯水タンクも設置されているので、飲料もあればシャワーもある。といっても、個人用のシャワーがあるのは指揮官用のテント。先生が寝泊まりしているテントだけだが。流石に生徒が使用するものと一緒にするのは不味いだろう、という判断で別で設置を行っていた。
加えて、警備面も完璧である。屋上にはサーチアイと呼ばれる索敵型のドローンに加えて、狙撃型のタレットが設置されている。更に、キャンプ施設周辺には襲撃者を感知した場合自動的に作動する、ミニガンを搭載した重装型オートマトンが3基配備されているのだ。もし侵入者があれば即時全てのドローンが起動、周辺情報を先生やミヤコ達、カヤの持つ作戦遂行用のスマホ型デバイスに情報が送られるようになっている。
なお、ホシノが一通りしっかりと完成した後のグラウンドのキャンプ設備を内心本気モードで精査していたのだが、最終的にいつもの調子でミヤコ達に『うへぇー……これ無理だよぉー……』と言っていた。
「今日から本格的にアビドス高校での活動をしていこうと思うんだけど ……カヤ、アビドスの地図ってデータで持ってたりする?」
「地図ですか?はい、持っていますが」
「買い物ができる場所の確認がしたいなー、と……」
「あぁ……。食材、ですか。 うちの開発部が作った最新の保存食、お口に合いませんでした?」
「いや、おいしかったよ。保存食なのかってびっくりしたくらいに。 ……でもね、カヤ。私はまあいいけど、ちょっとこれは保存食のラインナップと言うか、内容があまり生徒向きではないような気がするよ。味もちょっと濃い目だしね」
「作戦遂行中や補給が得られない長期作戦中のことを考慮すると、どうしてもそうなっちゃうらしいんですよ。私も改善点だとは思っていますが……」
「後、これは贅沢だけどやっぱり野菜とかが欲しいね。魚とか牛肉とかハムとか、それから硬いパンとか。そういったのが多かったから。野菜も持ってきているものがあると思うけど、そこまで多くないでしょ?」
「アビドスにはそこそこ滞在する予定でしたからね、鮮度が落ちやすいものは補給班が控えたようです」
「正直、保存食とは思えないくらい美味しいんだ。でも、野菜とかも確保できたらもっとおいしい食事になるかなーって。ほら、折角立派な調理器具まであるし」
「うーん……今回の依頼、ミヤコさん達への現場での経験を積ませるということも踏まえて保存食多めにしていたんですが。やっぱり駄目でしたか」
「ラインナップ的には、本当に長期的な補給のない任務向け、だね。今回はそこまで張り詰めたものじゃないし、それにこの保存食だけだと士気にも関わらないかな?」
「そうですね。わかりました、折角ですしアビドスが産地の野菜とか色々買い込みましょう。 ……ええっと、地図データを先生の所に送信して おや?」
「どうかした?」
ふと。端末を操作するカヤの目に留まったのは、ある飲食店だ。アビドス高校周辺で食材が買えそうな場所をピックアップしていると、地図アプリの上に表示されている飲食店のデータが目に入った。
気になって、その飲食店の情報を調べてみる。そんな様子が気になったのか、先生はどうかしたのか、と声をかけてきた。
「ああ、いえ。ちょっと評判がものすごくいい飲食店を見つけたもので」
「へえ、なんのお店?」
「『柴関ラーメン』……ラーメン屋みたいですね。ふむ、これは――」
「……カヤ。食事の話をした後になんてものを見せるの。これじゃ、お腹すいちゃうよ」
「う……確かに、これを見るとお腹が空きますね」
お店の料理の写真などを掲載しているサイトを見れば、そこにあるのはなんともおいしそうなラーメンの数々。塩、醤油、味噌、豚骨。各種の味を揃えており、トッピングも充実。特に人気なのが醤油ベースの店名と同じ『柴関ラーメン』。580円とリーズナブルな価格でありながら、俗に言う二郎系の味を楽しめるのだという。大盛りや特盛も存在しているが、初めての人やそこまで食べない人にはおすすめできないとのこと。どうやら、味はとてもいいのだが、量がとんでもないようだ。
「ラーメン、食べたいね」
「一応、持ってきた食料にはありますが……インスタントですからね。これを見てしまうと」
「ミヤコ達って、こういうの好きだっけ」
「好きですね、あの子達は。よく訓練の後にお腹をすかせてユキノさんの奢りで食べに行っていたみたいですから」
「――私はラーメンが食べたい」
「奇遇ですね先生、私もです」
ちらり、とお互いを見てカヤと先生は頷いた。買い出しも必要なのだし、それには人手も要る。ついでにラーメンを食べるのもいいだろう。
ついでに。おいしそうにラーメンを食べるミヤコ達や自分達の写真を、シャーレの雑談用チャットルームに貼ってやろうと決めた。
・姿を消した過去の役職持ちのアビドス生徒
ごく自然に、騒ぎにならないようにひっそりとその姿を消していた。
連邦生徒会、ヴァルキューレが手を尽くして調べても詳細について掴むことは出来なかった。
ただ、失踪前にその生徒達は何かしら挙動不審な行動をしていたという。
・カヤちゃん、感づく
言っていないだけで、カヤちゃんは今のアビドス自治区の地権情報などを知っています。そこから怪しいのはカイザーだと睨んでいましたが、どうにもカイザーだと姿を消した生徒というのが腑に落ちない。
裏に潜む『邪悪』について、感づいたようです。
・カンナ局長
基本的にシャーレは犯罪者に対しての行政執行権利を持たないので、カヤちゃんが制圧した犯罪者などをよく引き取りに来るのが彼女。凶悪犯や一般のヴァルキューレ生徒にはあまり任せられない相手が多いので、必然的にカンナ局長が呼ばれる。
昔からそういったことをよくやっている、かつ修羅場も多くくぐり抜けてきたお陰で実力はかなり高め。ミヤコ達4人くらいであれば手玉に取れる。
好きなものはおでんとコーヒー。好みがカヤちゃんと似ているので、よくコーヒーを送ったり送られたり、おでんの屋台で駄弁ったりしている。
【あとがき】
お休みが取れて添削が進んだので、続けて投稿しました。
最後の一人はカンナ局長ではありません。シャーレは介入権を持っていても、執行権を保有していないので犯罪者を捕縛する力を持つ存在が必要になります。アビドス高校が治安維持を担当していますが、現状のアビドス高校に風紀委員会などの行政機関は存在していないため、カヤちゃんが諸々の理由で呼び寄せた。なお、休暇理由というのは本当。ついでにカンナ局長に休めと言った。
感想・評価などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。