「遅い時間まですまねぇな、セリカちゃん。もう暗いから気をつけて帰りなよ」
「あはは、ありがとう大将。それじゃ、また次のバイトの日に来るわね」
時刻は既に夜の10時過ぎ。本来ならばもっと早く帰っているのだが、セリカは先生達との食事の後、大将が店を閉めた後にも翌日の仕込などの準備を手伝っていた。そうしていれば、時間は夜遅い時間になってしまっていた。
大将に挨拶をして、そのまま帰路につく。その途中に考えることは、今日のことだった。
「――楽しかったな」
楽しかった。騒がしくも、笑顔が溢れていたあの時間が。最初は対策委員会のメンバーだけではなく、先生達も来たことには驚いたが、それでも。やはりああいった時間はとても楽しくて、幸せなものだ。
借金は莫大だ。問題だって山積みだし、学校として自治区のことも考えないといけない。だが、それでもいまの対策委員会の面々とならなんとかやれそうな気はしていたし、それに。あの先生や、不知火カヤが手を貸してくれるならもっといい方向に傾くかも知れないとも思っていた。
「よし、明日も頑張ろう! ……って、あれ?」
ふと。足を止める。自宅への帰り道、いつも通っている街中に目をやれば、そこは真っ暗で。そして、時間が既に遅いとは言え人気が皆無と言ってもいい状態だった。
「昔は、まだここにも人が居たのにな……もう最近はここに人は居ないんだ。そういえば、治安も悪くなってるってニュースで言ってたっけ」
アビドス自治区における、砂漠化の進行。それは市街地にも少なくはない被害をもたらしていた。年々それは酷くなっていき、アビドスを離れる住民も少なくはない。そして、住民が離れたことにより放棄された建物はヘルメット団やスケバンなどの不良や犯罪者集団に利用されることが多い。特に、そういった建物が多く隠れ蓑としてもってこいのアビドスではそれが顕著だ。
本来、こういった問題の自治区を統括する学園。つまるところ、アビドス高校がなんとかしなければならないのだが、今のアビドスにはそこまでの余力も生徒も居ない。本当にやるべきことは山積みだ、そう思っていた時だ。
「アビドス高校の黒見セリカだな?」
「……なによ、あんた達」
突然、ヘルメットの集団が現れた。咄嗟にライフルを構えるが、セリカはそこで気がつく。
囲まれている。それも、恐らく10人近い人数だろう。
「大人しく武器を捨てろ。そうすれば痛い思いをしなくて済むぞ?」
「ふざけないでよ……あんた達がいつも学校を襲って、それでこっちがどれだけ迷惑してると思ってんの!?」
「そうか。 ――撃て」
その言葉の直後。周囲の建物の暗がり、そして発砲を命じたリーダー格と思われるヘルメット団の横に居た数名から自分に向かって射撃が開始される。急ぎ近くの遮蔽物に隠れて応戦するが、
「っ……。数が多い。7,8……いや、やっぱり10以上居る」
出来るだけ冷静になってセリカは目視で確認できるヘルメット団と、マズルフラッシュで確認できる数を大雑把に確認する。その数だけで恐らくは10名。
数では圧倒的に不利だ。加えて、暗がりで確認できない相手もいる。
だからなのか。セリカは焦ってしまった。
「このっ……! あっ!」
数を減らさなければジリ貧になる。そう判断したセリカは、遮蔽物から無理に攻めに転じて姿の見えているヘルメット団へと狙いを定めた。だが。それが不味かった。暗がりの建物の上、そこに狙撃手が居たのだ。
銃を構えた瞬間、狙撃手により手に持っていた銃、『シンシアリティ』が弾き飛ばされると同時。足を撃たれた。そうして、その場で動けなくなってしまう。遮蔽物に隠れている状態ではなく、銃は弾き飛ばされて無手の状態、しかも足を撃たれて、ヘイローのお陰で欠損や出血はないものの、それでも痛みですぐには動けない。
「目標を無力化、捕らえろ」
そんな言葉が聞こえた。
最悪の状況。このまま捕まってしまうのか、そう思った時だ。
「あがっ!」
「うわぁ!」
「かはっ!」
突然鳴り響いたのは、自身の後ろから発せられた3発の銃声。
その銃弾は、自分も確認できなかった暗がりに隠れているヘルメット団に直撃したのか。建物の影から悲鳴が聞こえ、後ろに下がっていくような足音が聞こえた。
「寄って集って一人の学生を集中砲火とは、感心しないな」
目前のヘルメット団、そのリーダーが明らかに狼狽えるのが見えた。
そして。自分も振り返り、助けてくれたと思わしき存在を確認すれば。
「うそ……なんで……?」
目を見開いた。なぜなら、その人物を自分はよく知っているからだ。
特に、最近はニュースなどでもよく見る人物であり。
このキヴォトスにおいては、ある異名で知られる人物。
「――公安局長、尾刃カンナ。何故ここに」
「そんなことはどうでもいいだろう。それよりもお前達……ヘルメット団ではないな?」
どういうことだ、とセリカは思う。服装も、そしてその象徴的なヘルメットも間違いなくヘルメット団のものだ。
対してカンナはそのまま『第17号ヴァルキューレ制式拳銃』を構え、暗がりの建物の上を一瞥した後、リーダー格の相手へと言葉を続けた。
「狙撃などと考えるなよ。もう既に2名居る狙撃手の位置は把握している。 ……暗視スコープにサイレンサー、ご丁寧にマズルフラッシュまで消している。それに、先程聞いた銃声、私の聞き間違いでなければあれは正規のPMCなどに配備されるアサルトライフルの音だ。ヘルメット団が持てる装備には私には思えない。 ――まあ、いい。どちらにしても、今の状況を公安局としては見過ごせないな」
カチャリ、と。カンナが銃を構えた瞬間相手が狼狽えた。
「ヴァルキューレにはシャーレのような介入権はないが、緊急時の市民に対する防衛措置と犯罪者に対する法務執行権が認められる。お前達を捕まえて、ゆっくりとお話させてもらおう。 ――『狂犬』の名を、一度は聞いたことがあるだろう?」
『狂犬』。その名前はセリカでも知っている。世間的にカヤのことを『英雄』と称する人間が多いように、同じく多くの人間はカンナのことを『狂犬』と称する。
数多くの事件を昔から解決してきており、荒事慣れしていると同時、恐ろしい審問官としても知られている。その実力も高く、SRTのFOX小隊。ニコ、オトギ、クルミのレベルに匹敵するとも言われており、最近では荒事の作戦に対してSRTの生徒と協力して鎮圧にあたったとも報道されていた。
事実、カンナの実力はそれほどまでに高い。SRTの中でも特に抜きん出ており、ヒナやツルギ、ホシノといったレベルの相手とも戦えるユキノとまではいかなくとも、現場においてFOX小隊のニコ達と連携が取れるほどには実力があり、また現場も経験してきている。
「……不味いか。 やれ」
「何を…… なっ!?」
瞬間。カンナは駆け出した。聞こえてきたのは、上空、遠方からの投擲物の音。
Flak41改。アハト・アハトなどの名称でよく知られる高射砲の発展機である。
少なくとも、生徒一人に対して撃ち込むような代物ではない。
そうして。その狙いは――今動けないセリカだった。
「――え?」
「くそっ!」
呆然とするセリカのもとに走り、そのまま横にするように抱えると急いでカンナは離れた場所の遮蔽物に隠れる。同時、すぐさま拳銃を構え直し、応戦の準備をするが。
「撤退した、か。 ……しかし、なんだあいつらは。装備といい、練度といい。ただの生徒ではない」
再びカンナが応戦の準備をすれば、先程まで居たヘルメット団の一団は姿を消していた。
内心で毒づいた。あまりにも手慣れすぎているのだ。セリカを襲った時といい、戦い方といい、撤退の判断にそのために意図的にFlak41改で動けないセリカを狙ったのもそうだ。明らかにヘルメット団の動きではない。
正直、名目上ではあるが休暇でアビドスに来たのは正解だったのかも知れないとカンナは思った。やはり、カヤの言うように何か得体の知れないものが動いているのではないのか、そう感じざる得なかった。
「あ、あの!」
「ん?ああ、すみません。無事ですか?足を撃たれていたようですが、動けそうですか?」
「えっと、なんとか……。あの、本当にありがとうございます。 その、尾刃カンナ公安局長、ですよね?どうしてアビドスに……」
「まあ、休暇というやつです。連邦生徒会からいい加減休めと怒られまして。 ――それより、アビドス高等学校の生徒とお見受けしますが、先程の襲撃者に心当たりは?」
「それが、まったく。私もいきなり襲われて」
「ふむ……。ともあれ、このまま一人で帰すのは危険です。本官が自宅まで送りましょう」
「えっ!?こ、公安局長にそんなことをさせるわけには」
「怪我をした市民を放置するなど、公安局の人間としては出来ませんよ。ご自宅はこの先の住宅街ですか?なら、お気になさらず。私も休暇中はあそこの管理住宅を滞在先として借りていますので。どちらにしても行き先は同じです、ついでですよ、ついで」
「なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな……。その、本当にありがとうございます」
「お気になさらず、痛みがあるようならゆっくりで構いません。それでは、行きましょうか」
セリカを護衛する形でカンナは警戒しつつ住宅街へと足を進める。
同時、彼女に気が付かれないようにポケットのスマホを操作していた。
そうして連絡をした先は。カヤ、そして防衛室副室長だった。
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夜も遅い時間の防衛室。そこには、まだ複数人の生徒の姿がある。
防衛室とは即ち、キヴォトスの治安維持の要である。その要は決して休むことはなく、常に交代制での稼働体制を敷いていた。
緊急時の対応もあることから、シフト外でも防衛室に寝泊まりする生徒も多い。そのためか、防衛室の休憩室は他の部署のものより充実しており、仮眠室も個室として多数完備でそれぞれに浴室なども完備。加えて、連邦生徒会の食堂へのアクセスも容易でありコンビニも近く配達食までも利用できるという、下手をすれば所属するそれぞれが自宅に帰るよりこっちのほうが快適なのではないだろうかという程だ。
「……んー、ちょっと不味いかなあ」
「室長代理、どうされました?緊急事態ですか?」
「うん、ちょっと不味い事態かも。 ああ、もう勤務外だし普段通りでいいよ」
「じゃあ、普段通りで ――それで、さっきから真剣にスマホ見てるけど。カヤ先輩から? リリィちゃん」
「ううん、カンナ先輩から。カヤ先輩にも連絡行ってるみたいなんだけど、ちょっとこれ、ボクとしても……防衛室としても無視できないかな」
"
彼女は一言で片付けるなら、万能の天才である。だが、その才能の中でも誰もが恐れ、不知火カヤも認めたのが総合指揮能力だった。その能力は、規格外の戦術指揮能力を持つシャーレの先生と模擬戦を行い、大凡勝率4割を叩き出すほどの怪物だった。
そんな彼女は、カンナの緊急連絡の内容を見てあまりいい表情をしていなかった。というのも、防衛室としても不味いことになりそうな予感がしているからだ。
「今データ送ったんだけど、どう思う?」
「……なに、これ。明らかに不良が持っている装備じゃないよ? これをたった一人の生徒の捕縛を目的として使用した? おかしい、おかしいよ」
「同感。ただ、ボクがもっとおかしいと思うのはその裏。だって、アビドスだよ?言葉悪いけど、この狙われた生徒も特に有力者の関係者とかそういうこともない。そういう方向なら、十六夜ノノミを狙うはず。でも、そうじゃなかった」
「彼女が狙われた理由、ってこと?」
「うん。あくまで想像だけど、彼女を狙った理由は……彼女が居なくなれば、アビドス高校を最も効率よく崩せると判断したから。じゃないかな」
「と、いうと?」
「そうだね……集団を成立させ、士気を維持するために必要なものの中で最も大事なことのひとつって何だと思う?色々あると思うけど」
「え?うーん……指揮官とか、補給線とか、後は ――高い士気を維持して、集団を鼓舞できる存在」
「うん、大当たり。 それだと思うんだ、ボクは」
リリィは思う。もしかすると、犯人は意図的にこのセリカという生徒を狙ったのではないのかと。では、狙った理由は何か。現在持ち合わせている情報から考察して、もし金銭的な理由ならノノミを狙うはずだ。指揮官を潰すならホシノだが、まずこの線はありえない。
とすれば、後のメンバーから最もアビドス高校という存在を崩しやすいのは何処か。そして自分なら、何を狙うか。そうして行き着いた結論が、士気を維持する存在だった。
黒見セリカがそうであるなら、彼女を狙った理由も納得がゆく。そして、もしそうならこの襲撃者、その裏にいる相手は相当に悪辣な相手だと思った。
「残念なことに、防衛室は自治区に対して介入できない。……でも、シャーレからの要請があって、かつそれが有事であると判断される場合は別。ユキノ先輩達も当然動いてると思うけど、こっちもできることはしておこうか」
「オッケー、じゃあもうちょっと頑張ってから仮眠室に行こうかな」
「ごめんね、助かるよ。 ――それじゃあ、とりあえず執行部隊の準備書類をお願いできるかな」
「任された。リリィちゃんは? ……まさか、カヤ先輩のいつものパターンみたいに現場に行くとか言わないよね?」
「それこそまさかだよ。まあ、その気持はあるけど。 私は、根回ししておこうかな」
ニヤリ、と。彼女は何かを企んでいるような悪い笑顔を浮かべた。
・セリカ誘拐回避
誘拐を目論んだのはヘルメット団ではありません。もしここで連れ去られていた場合、行方不明が確定してバッドエンドでした。無事カンナによって阻止された。
・防衛室副室長 2年生 "
募集風性能:【★3 STRIKER FRONT/サポーター】
固有武器:『アンタレス』(SMG)
『えへへ、先輩!もーっとボクのことを褒めて下さい!』
『探してる相手がいるんだ。ボクの、大切な人。 ――本当の名前も知らない
トリニティ出身。知る人間からは『
ある事情で自主退学した所をカヤちゃんに拾われた。背は160cmほど、紅玉色と琥珀色のオッドアイで、プラチナブロンドの長髪をサイドテールにしている。一人称は『ボク』。
なんでも人並み以上にできる万能の天才で、特に指揮官としての才能が規格外。シャーレの先生とシミュレーション設備で模擬戦をして、勝率約4割を叩き出した正真正銘の化け物。カヤからもその指揮能力を認められており防衛室室長の後継者の最有力候補とされている。前線に立つ時は、両手にSMGを持ち、カヤの戦い方を模倣して会得した動きをして戦う。
基本的に副室長としての立場から、仕事では私情を挟まないようにしているが自身の出身先であるトリニティについてはあまりよく思っておらずあからさまにその方面の話題は避ける。過去にトリニティ上層部と何かあったのか、プライベートではティーパーティーや正義実現委員会の話になると特に嫌な顔をする。
財務室のアオイとは親しい友人同士なのだが、カヤのことになると話が白熱してよく口論している。具体的には『この前ボクは先輩に褒められましたしー?』『はっ、私なんてこの前先輩と一緒に食事しましたよ?』などと程度の低い争いである。二人揃って妄信的なほどにカヤちゃんが大好き。
【あとがき】
リリィちゃんも最後の御一行メンバーではありません。リンちゃんと同様サポート担当。
彼女はストレートに言うとバッドエンドルートで虚無の眼をしてトリニティを去ったハナコみたいものです。背景的に言えば、あのバッドエンドのハナコの心情に加えてトリニティに失望するほどのあることがあった。退学して何もかもどうでもよくなっていた所をカヤちゃんに拾われた。今では忠犬系ボクっ娘天才美少女指揮官である。分かる人がいるかは不明だがその才能を例えるなら、イレギュラーが効かない上に慢心も油断もないルルーシュ。ついでにスザク程ではないが戦闘技能もある。
ホシノやシロコ同様オッドアイ。保有する『神秘』のクラスとしては彼女達と同等。名字から元ネタを察する人も居るかも知れない。トリニティ編の最重要人物の1人。そういえば紅玉色というか、赤色の眼の子が居ましたね。
『アツコ同様、ベアトリーチェがどんな手を使ってでも手に入れたい存在』
セリカの誘拐については、事前阻止されました。実行したのはヘルメット団ではない別の何者か。生徒の生死について特に何も思っておらず、まあ捕まえて何かに使えそうなら使い、私兵を持つ存在。一体何者なんだ。
そろそろ主要メンバーが揃うので、改めて紹介ページに諸々まとめる予定。
感想・評価などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。