その日。カヤは先生に許可を取り別行動を取っていた。
ブラックマーケット。連邦生徒会ですら簡単には手を出せない無法地帯。だが、カヤにとってはよく馴染みのある場所だ。
昔からよく連邦生徒会長に連れられてブラックマーケットに出入りしていた。時には任務として、時にはプライベートとして。カヤとしては、確かにブラックマーケットとは無法地帯である。だが、それは必要悪であると考えている。
そもそもブラックマーケットというものが出来てしまったのは、今のキヴォトスにも責任があるのだ。各自治区の学校を追われた生徒や不良、その中には望まずして。生きるために違法に手を染めた者も居たはずだ。そういった生徒を生み出したのには、自治区と連邦生徒会にも責任がある。
同時。今のブラックマーケットは1つの流通の要である。確かに違法で危険なものについては取り締まる必要があるだろう。無視できないこともある。だが、今のブラックマーケットはキヴォトスの住民に対しての需要を満たしている。住民によって許容され、それが必要なものであると受け入れられている以上、それは必要なもの。必要悪であるのだ。
ありとあらゆるものを連邦生徒会が管理し、流通の全ても連邦生徒会と法、そして企業が管理する。そんな
そんな無法地帯にある、ブラックマーケットには似つかわしくないような和風の建物。周囲を囲む巨大な塀に、厳重なセキュリティが敷かれた正門、その前には重装備で警備する黒いスーツ姿にテンガロンハット、二足歩行の兎の姿をした住民。
そこは。このブラックマーケットにおいては知らない人間が居ないというほどの存在が住む場所だった。
「そいじゃ、
「すみませんね、組長さん。今回の件含めて、本当に感謝してます」
「なぁに、気にすんな。 ……俺等は前にカヤの嬢ちゃんと会長さんには命救われてる。その恩もそうだが、此処を。ブラックマーケットを自分の庭のように走り回り、その存在を否定することもないお前さんの頼みとあっちゃあ、断る理由もねえよ」
和装。着流しを着た、背は2mはあろうかという、左目に傷があり閉じている兎の獣人。任侠を重んじる彼は知る者からは『
キヴォトスは銃社会である。ヘイローを持たない存在が銃撃を受ければ、いくら多少頑丈な住民と言えど命に関わる。そんな世界で、百鬼夜行に伝わる『刀』という刀剣を片手にキヴォトスを駆け抜け、数々の伝説を打ち立て。遂にはブラックマーケットの事実上のトップの一人にまでなったのが、彼である。
一度抜けば、一撃必殺。その身は瞬時に距離という概念を消失させ、刹那の後にあるのは刀が鞘へと収められる音だけ。
そんな言い伝えがあるほどの人物とカヤが知り合いなのは、連邦生徒会長とカヤが自ら首を突っ込んだ過去の出来事に関係していた。
大きな背を向け片手を振りながら退出する彼を見送ると、カヤは『さて』と告げて。目前に座る相手に対して向き合った。
「さて、こうしてお会いできて嬉しいですよ。 ――狐坂ワカモさん」
「……流石の私も、ちょっと驚くことが連発しすぎなのですが。かの防衛室長様に呼び出されたと思ったら、あのお方からの話も伝えたいと言われて。それで連れてこられたのが、あの灰色兎様の邸宅とは。本当、人生何があるかわかりませんね。 ……ああ、私のことはワカモで構いませんよ。あなたは連邦生徒会ですが、あのお方に認められているお方ですし。私も適当に呼ばせてもらいます」
「ふふ、かの七囚人である貴女にお褒めいただけるとは光栄ですね、ワカモさん」
「……どの口が言いますか。その気になれば、貴女を止められる存在はこのキヴォトスにはそう居ないというのに。それで、隠れていた私を見つけ出してこんなとんでもない場所にまで呼び出して。ただ雑談、という訳ではありませんね。なにより、あのお方から私への話がある、というのが一番気になります」
ワカモとしても、ここ最近驚くべきことが多すぎた。少し前に矯正局を脱獄し、その際に先生と出会い心奪われて。陰ながら先生の活躍を情報として聞いていた矢先、厳重にセキュリティを敷いていたはずの自分のスマホに送られてきたのはなんと防衛室長からのメッセージ。しかも、そこには先生からの話もある、ということではないか。
最初は自分を捕縛するための罠ではないのかと疑った。だが、そのメッセージは『シャーレ』の名義で送られていた。シャーレである以上、不知火カヤは防衛室長ではない。その権限もない。ましてや、自分の端末に対して介入できるということは居場所も特定されている可能性が高い。悔しいことではあるが、あの不知火カヤがその気になれば自分は逃げることは出来ない。にも関わらず、わざわざ会いたいとまで言ってきたのだ。
「さて、では先に先生からの預かりものをお渡しします。どうぞ」
「あのお方……先生からの預かりもの、ですか?一体何を ――ッ!?」
目を見開いた。手渡されたシャーレのロゴが入った封筒の中を見れば、そこには一通の手書きの手紙。そして、書類が入っていた。
それは、先生からの手紙と、シャーレへの加入届の書類だった。
「――お手紙、拝読させてもらいますね」
「ええ、どうぞ」
心を寄せる相手。先生からの手紙に最早心が踊ることを隠せず、一言断るとそのままワカモは手紙へと目を通した。
そこには、色々なことが書かれていた。自分の身を案じていること、自分は生徒の味方だから何かあればすぐ相談してほしいということ、最初にあった時は驚いたが悪い生徒ではないと思っているということ、他にも色々なことが書かれていた。そのどれもから、先生が自分に対して寄り添ってくれている、一生徒として想ってくれているということは理解できた。
そして、最後には。
「なるほど、私をシャーレに。ですか」
シャーレについての話と、もしよければシャーレに来ないかということが書かれていた。シャーレは生徒の所属や役職、経歴に一切関係なく加入させることが出来る。そして、先生の指示の元依頼や業務を遂行することになるが、同時にシャーレの庇護下にも置かれるということになる。
シャーレの力は絶大だ。連邦生徒会であろうと、その存在に口出しはできない。しかも、今のシャーレには出向という形で不知火カヤやSRTの精鋭が居る。加えて世間的にも評価されているシャーレは、今やキヴォトスにおいては絶大な信頼を得ている。
先生は魔性の人誑しでありお人好しであり、生徒のことを信じ抜き守り抜かんと誓う狂人でもある。そんな彼から見て、ワカモという生徒は理由もなく大量破壊行為をするようには見えなかった。だからこそ、手を伸ばしたい。力になりたいと想ったのだ。
「本当、あのお方は人誑しです。一度言葉を交わしただけなのに、こんなにも真剣に思っていてくださるなんて、そんなことをされたら私はっ……!」
狐面の下で、一雫の涙が零れ落ちた。
言葉に詰まる。
先生は絶対に裏切らない。そんな確信のようななにかがあったからだ。
先生ならば、どんなことになっても自分を信じてくれる。自分の手を引こうとしてくれる。
それがどれだけ嬉しいことか。
裏切り、蔑み、見放し。そうされる痛みはよく知っていた。
知っているからこそ、何もかも壊してしまえと思っていた。
なのに。そんな自分に手を差し伸べ、信じてくれる存在が現れた。
ああ、あの一目惚れは間違いではなかった。
先生に心奪われたのは、先生が真に如何なる時でも自分の味方で居てくれると思ったからだ。
――ならばこそ、自分は先生の味方になろう。例え全てが敵になったとしても、全身全霊を懸けて先生の味方であろう。
「先生は貴女の味方です。 ……そして、私も貴女の味方であるつもりです」
「それは、どういう」
「ワカモさん。失礼を承知で、貴女が百鬼夜行に居た頃の事を調べさせてもらいました。あの勘解由小路家と並ぶ良家の令嬢で才色兼備の才媛だった。同時に、高い指導者としての素質に戦術・戦略などの指揮官としての極めて高い適性の高さから、有望視もされていたようですね。ですが、ある時を境にそれ以降の貴女に関する記録が完全に抹消されている。私でも追うことが出来ないほどに、ね」
「……他の自治区の。それも他人のプライベートに首を突っ込むなんて、随分といい性格をしていますね」
「失礼を承知で、と言いましたよ。 ――これは推測ですが、貴女は裏切られた」
瞬間。ワカモが動いた。
並の生徒では目視できないほどの動きで、傍らにあった愛銃、『真紅の災厄』を片手で掴むと同時。取り付けられている銃剣の切っ先を座ったまま涼しい顔をしているカヤへと向けた。その狐面の下に、明確な怒りを顕わにして。
「――あなたに、何がわかるんですか」
仮面の下にあったのは、怒りと、そして悲しみだった。
「わかりませんよ。ですが、これだけは言い切れます。シャーレの部員は、誰一人として貴女を裏切らない。そして先生は貴女を信じ抜くでしょう。……私達もまた先生を信じている。先生が信じる貴女を信じるには、それで十分ではありませんか?」
「ッ……。まったく、自分で言うのもおかしな話ですが、盲目という言葉を知っているでしょうか」
自分は先生に対して一目惚れして心を奪われた。そんな自分が言うのもおかしな話だが、この涼しい顔をしている人物は何を言っているのか理解しているのかとワカモは思った。
だが。そんな無茶苦茶なことを言いながらもその眼は真剣で。『信じることにそれ以上理由が必要なのか』というように、まっすぐに自分を見ていた。
信じてもいい。シャーレと、先生ならばもう一度信じてもいい。そんな気持ちをワカモは抱いた。なんて出鱈目な理由だろうか。だが、カヤの言うその理由には自分を納得させるだけの力があった。
先生を信じている。確かに、理由としては出鱈目だがそれで十分だった。
「先生を。……貴女方を信じていいんですね?」
「私の。不知火カヤの名に誓ってもいいですよ、私達もまた先生が信じると決めた貴女を信じる。そして、絶対に裏切りもしなければ、時には力にもなりましょう。 ――シャーレに加入した時点で貴女は部員であり、仲間なのですから」
おかしな話だと思う。
かの防衛室長であり、英雄、『悪の敵』が自分のような矯正局に入れられていた生徒を信じるなどと。
でも。
きっと、嘘をつかれることもない。
裏切られることもない。
信頼という想いを汚されることもない。
彼女達はきっと先生と同じように、どうしようもなく人誑しで。お人好しなのだ。
そう、思わせてくれた。
ならば、もう一度。
「私をシャーレに入れると、面倒なことになりますよ。先生も貴女達も、それを理解しているのですか」
「まあ、煩い人達は居るでしょう。ですが、私が黙らせます。だって、今後の貴女を信じていますから」
「依頼先に私が行くと、いい顔をされないかも知れませんよ。依頼を撤回されることもあるかも知れません」
「それを言ってしまえば私もそうですよ?何かと良くは思われてないのは知ってるので。どれだけ私が会長とヤンチャしていたと思ってるんですか。そんなもの、今後の働き次第でなんとでもなります、私やFOX小隊、RABBIT小隊がそうでしたから」
「……わかっているのですか。私は狐坂ワカモ、『災厄の狐』ですよ。どれだけの破壊工作や活動をしてきたと思っているのですか」
「ですが貴女はどうあれ一線を越えていない。私がどれだけ不良や犯罪者、このキヴォトスを脅かす存在の『悪の敵』として存在し続けていると思っているんですか。破壊した主力兵器や武器、不思議な決戦兵器や叩き潰した常軌を逸した存在なんて一々数えてませんよ。私のほうがある意味災厄ではないですか?」
「そんな考えになるなんて、頭がおかしいのではないですか……」
本当におかしな相手だ。自分がどんな存在か理解していて尚、こちらに手を伸ばそうとするのだからお人好しもいいところだ。
だからこそ。
「少し、お待ち下さい ……はい、これでいいでしょう。記入漏れ、ありませんよね?」
「ふむ、問題なさそうですが ――そういうことと受け取っていいですか?」
何を今更と思う。
その気にさせたのは、先生。そして、貴女達部員ではないのか。
この胸の想いと、シャーレを信じてもいいと思ったそれは。
――嘘ではない、自分だけの本物なのだから。
ワカモはそのまま被っていた狐面へと手をかける。そして、それを外してみせた。そこにあったのは、呆れたような眼で。だが決して嫌そうにではなく、期待するような笑みを口元に浮かべる、このキヴォトスの何処にでも居るような普通の少女であり、生徒だった。
「……ふふっ、信ずると決めたのですから仮面は必要ないでしょう。先生に感じたこの胸の想いを、そして貴女達に感じた信ずるという想い。それを信じてみたいと私は思います。 ――私は、狐坂ワカモ。シャーレの一員としてこの力が必要な時。それを先生と、シャーレのために振るうと誓いましょう」
『災厄の狐』としてではなく『狐坂ワカモ』という生徒として。
信じ、共に歩んでみるのもいいだろうという想いを胸に、ワカモはそう宣言した。
・募集風生徒紹介:ワカモ【神楽】
スタイル:【1】前衛型【2】指揮官型
【1】【★3 STRIKER MIDDLE/アタッカー】
【2】【★3 SPECIAL BACK/サポーター】
シャーレ所属後のワカモ。所属前までは狐面で顔を隠していたのだが、狐面を外し素顔を見せるようにしている。彼女曰く、シャーレの『狐坂ワカモ』としては、多くのものに対しての仮面をかぶる必要など無いとのこと。なお、戦闘時に本気になると何処からともなく狐面を取り出し、以前にも増して苛烈で攻撃的な『災厄の狐』という仮面を被る。その力は、ただ想いを寄せる相手と信ずると決めた存在達のために振るわれる。
FOX小隊を参考にして2本目の
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元々使用していたものに変更はほぼなく、内部構造を調整してより高威力・長距離射撃が可能となった。また、取り付けていた銃剣はシャーレの依頼の特性上などの関係から、常時付けっぱなしというのが問題と思われたため改造が施され、百鬼夜行で過去に回収され、厳重に防衛室が保管していたある鉱物(百鬼夜行で危険視されていた『殺生石』と呼ばれる特殊鉱石)を素材とした刃に変更。銃の先端に極めて軽い素材で作られた収納部を取りけて、トリガー付近のスイッチで展開と格納が出来るように改造が施された。収納部を取り外して、そのまま収納式の近接用の短刀としても使用可能。
実銃のモデルはKS-23M。そのカスタムモデル。近距離戦闘においてる立ち回りを考慮して、カヤにソードオフショットガンをオーダーした所、防衛室の開発品保管庫から引っ張り出されたのがこの銃。それをワカモ向けに調整して完成した。カラーリングは白基調に黒いラインカラー。彼女の持つ『真紅の災厄』と対のカラーリング。
23口径という大口径と、様々な戦況を想定されるため多くの専用弾が作成されておりその場に応じて弾種を切り替えが可能なのが大きな強み。その口径でありながらソードオフモデルという暴れ馬のような銃だが、ワカモはこれを使いこなしており片手での射撃を可能としている。接近戦の際は、右手には銃剣を展開した『真紅の災厄』かその短刀部分、左片手にはこの『白天狐』を使用する。状況によっては、右手の武器を拳銃に変更することもある。
実銃のモデルはグロック18。防衛室の生徒に標準配備されている拳銃で、セミ・フルオート射撃が可能。セカンダリや携帯武器としての色が強いが、緊急時の対不良や暴徒制圧を目的とするために配備されている。ワカモはプライマリ装備での対応が難しい時の選択肢という理由で、拳銃でありながら制圧力に優れるこの銃を選んで使用している。
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【あとがき】
※シャーレ主要メンバーが揃ったため、タグを追加しました。
兎の組長は、シャンフロの某カシラが刀持ったイメージと言って伝わるかは不明。刀一本でキヴォトス駆け回ってた生ける伝説。
御一行最後の一人はワカモです。なお、ゲーム風性能としては周年記念相当。そのうちまたページは作る予定ですが【1】はミドルレンジからSRとSGで制圧しながらリロードの隙を拳銃速射することで臨戦ホシノのように消している。EXスキルも超攻撃的なスキル。【2】はサポート型、大円形範囲範囲の生徒全員を『制圧戦術指揮』という特殊状態にする。
彼女のバックストーリーについても絆ストーリーから考察して捏造しました。恐らく、『信頼』や『裏切り』が関係してるんじゃないかなあと。
先生がひと目見たときに悪い子ではない、というのと別の何かを感じ取って、ずっと気にかけていた。カヤちゃんとしても、戦闘技術・破壊工作・カリスマ性・指揮官適正などと、オールラウンダーとして極めて高い才覚の持ち主である彼女に対して、ワカモが問題を起こし始めた当初より『なにかおかしい』と感じていた。というのもあって、先生とカヤちゃんの意見が一致してシャーレ勧誘に動きました。
原作と比べてヤンデレではあるんですが、そこそこマイルドなワカモにはなっています。例えるなら、アズールレーンの大鳳くらいのヤンデレ具合。びそくの世話焼き大鳳とかアルバコアとの絡み……いいよね……。先生に対してのラブ勢が関わってきたりしない限りは基本的に人畜無害。それどころか信用している同僚とは普通に会話するし後輩は気に掛けるなどして世話焼きである。
ワカモのヤバイ所は、総合的にかなり高い戦闘能力に加えて、心理戦や破壊工作、指揮官適正などどれもがとんでもなく高いというオールラウンダーであるということ。拙作では純粋な実力面においてユキノがホシノやヒナなどのレベルと単騎で張り合える規格外というだけで、彼女を除けばとてつもない逸材です。
正式所属という形でシャーレの仲間となったワカモのこれからの旅路にご期待下さい。まだそこまで書いてないんですが、プロット上だと百鬼夜行編の最重要人物。