カヤが一度アビドスを離れ、ブラックマーケットに行っている時。その日、先生達と対策委員会の面々は部室に集まり、会議をしていた。
定例会議での議題は、アビドスの借金返済のための方法についてだった。今回はカヤが不在だが、先生とRABBIT小隊の面々も同席しており、会議へと参加することにしていた。
のだが。会議の進行を務めるアヤネは、話し合いが進むにつれて頭を抱え、ため息が多くなっていく。というのも、アビドスの面々から出た案が問題だった。
まず、セリカからは『胡散臭い商品を売って大儲けする』。これはマルチ商法やねずみ講と呼ばれる悪質なものの一つであり、即座に却下された。そんなものに騙されそうになっていたセリカを見て、本当に大丈夫なのかアビドスと先生達は心配した。
次に、対策委員長であるホシノから出たのは他校のスクールバスをバスジャックするという方法。これも却下された。論外であり、犯罪である。そんなことをすれば、最悪自治区同士の紛争に繋がりかねないことを理解しているのかとアヤネが突っ込んだ。
続けて、アヤネが嫌な予感がする中でシロコから出たのは銀行強盗。なんと既に計画は立てていたようであり、その計画は精密に練られていた。それを聞いていたRABBIT小隊からも思わず感心の声が上がるほどの精密さであったのだが、これも却下。そもそも犯罪である。
最後に出たのは、ノノミからの意見であり。スクールアイドルをやるというものだった。至極真っ当な方法だが、収益性が安定しないのと、そもそもの話として博打に近い。準備のための予算というのも、相応に必要のためこれも難しい。
結局のところ、対策委員会から出た案は全てアウトだった。そこでアヤネは助けを求めるようにして先生とRABBIT小隊の面々を見た。
「う、うーん……私はちょっとすぐには出てこないかなぁ。ミヤコ達はどう?」
「そうですね……。では、私から。観光事業の復興、というのはどうでしょうか?」
どうやらミヤコには大雑把ながらある程度のビジョンがあるようで、それを見てアヤネは『ミ、ミヤコちゃん……!』と目を輝かせた。
「この前ホシノ先輩達も少し話していましたが、アビドスの観光事業って今どうなっているんでしょうか。アビドスは砂による災害が酷い地域だとは聞きますが、先輩の一人からは、一部の客層から観光地としては有名だと聞きました。先日の砂漠のオーロラなんていうのは、結構有名らしくて。先輩も『見に行きたいね~オーロラ見ながらのキャンプとか最高だよ~』と言ってました」
続けて、『じやあ次は私ー』とモエが手を上げた。
「幾つか浮かんだんだけどね、まず聞きたいのが……アヤネ、アビドスってさ。過去にミレニアムとかから調査班とか来たことある?つまり、砂こそビジネスになるんじゃないのかなってのが1つなんだよね」
興味深い話だった。その話に全員が食いつくようにしてモエを見て、彼女は思わず『うわ、食いつきすごいね』と言った。
「先生、ガラスの原材料って何か知ってる?」
「え?確か……珪砂や石灰とかで、砂に含まれる成分が――ああ!」
先生がそこまで言って、全員が気がついた。
ガラスとは、日常品から軍用装備まで、他にも工芸品などにも使用されその用途は多岐にわたる。加えて、強化ガラスや特殊ガラスといったものの需要は大きく、そういったものを作るためにはより良質な砂に含まれる成分が必要となる。
最近では、新たに発見された砂に含まれる成分を使用しての防弾ガラスや軍用装備に使用されるガラス、工芸品への利用なども注目されており、人々の生活には欠かせないものとなっているのだ。
「私気になってんだよね、確かに市街地周辺とか市街地に積もってる砂だと品質があまりよくないかもしれない。でも、郊外の砂なら、外部の影響をそこまで受けずに純粋で高品質な砂なんじゃないかなって。だから過去に環境調査とかがアビドスに入ったことあるのかなって聞いたんだよ」
「なるほど……ホシノ、そういったものを記録はあるの?」
「んー……少なくともおじさんが知る限りはない、かな。一度セイント・ネフティス社がなにか調べてたらしい、っていう話は聞いたけど多分環境調査じゃない。そして多分モエちゃんが聞きたいことだろうけど、ミレニアムが介入したことは一度もないね。自治区の裁量の問題があるから、干渉できないってのが理由だと思うけど」
ホシノの推測はあたっている。各自治区には裁量権が認められ、多くの権利や自治区の管理についてはそれぞれの学校に帰属する。各自治区に対して連邦生徒会が特例を除いて干渉できないように、他の自治区もまたアビドスに対しての政治的な干渉などは簡単には行えないのだ。そうなれば、仮に対象がアビドスで、アビドス側に防衛能力が認められず一方的な侵攻だった場合。侵攻をした側の自治区に対して連邦生徒会が条例に基づく執行部隊の派遣を行うことになる。
だからこそミレニアムもアビドスについては完全に把握していないのだ。もっとも、この話を聞いてアビドス側が許可をすればすぐにでも飛びつきそうであるが。
「……先生、ちょーっと電話していい?」
「えっと、誰に?」
「ユウカ先輩に。いやシャーレの部員としてはあんまりよくないんだけど、ユウカ先輩のことは信用してるし。話しても大丈夫かなって」
「私の独断では決められない、かな。ホシノ、今の件について専門家……ミレニアムのセミナーの早瀬ユウカって子に話してみたいんだけど、どうかな。彼女もシャーレの部員で、信用できることは保証する」
「ミレニアムかぁ……おじさんも接点無いんだよねぇ。みんなはどう?」
すると、少し全員が考えた後。それぞれから賛成するし、先生が言うなら信用もする。と返答があった。それを確認して、先生はモエに許可を出す。しばらくの間、電話のコール音が響いて。
『もしもしモエ?どうしたの?アビドス方面に暫く依頼で行ってるんじゃなかったっけ?』
「あ、ユウカ先輩どうもー。実は、ちょっと内密で話せたらなってことがあって」
『……シャーレとして?それとも、セミナーの私として?』
「んー……実は両方なんだ、先輩」
『はあ……いいわ、かわいい後輩の頼みだもの。それで、どうかした?』
モエは先程の話についてユウカへと告げた。すると、彼女は興味深そうに。考えるようにして。
『自治区の境界を超える話だし、確かに内密な話ね……。 ――モエ、スピーカーに出来る?一応こういうことは、ちゃんと現地の学校の人と話しておきたいの』
モエが了承し、端末をスピーカーモードにすると、そのままテーブルの上に置く。
『えっと……聞こえてるかしら?初めまして、アビドス高校の皆さん。私は早瀬ユウカと言います。ミレニアムサイエンススクールのセミナー……生徒会の一員で、シャーレの部員でもあります。よろしくお願いします』
「アビドス高校3年の小鳥遊ホシノだよ~ごめんねえ、いきなり自治区を超えるような話をしちゃって」
『かなりグレーですが、シャーレとしてお聞きした、ということにしておきますのでご安心を。結論から申し上げますが、過去にミレニアムがアビドスに対して環境調査を行った記録は私の知る限りありません。一応、より正確な情報を知ることは出来ますが……。その、まだシャーレに加入していない生徒に確認することになりますので……。でも、信用はできる相手なんです。先生にも加入についてのお話が行っているかと思うのですが』
「えっ?わ、私に……?」
『はい。既に私が同席して現在シャーレ本部の代理統括をしている、ユキノ先輩との面談を終えたのですが……。連絡、行ってません?』
大慌てで先生がシッテムの箱を起動し、メールボックスを確認する。そういえば、アロナから『重要案件があるので、ちゃんと確認してくださいね先生!』と言われていたことを思い出す。昨日はヘルメット団への対応などで慌てており、確認をしていなかったようだ。
「ごめん、ちょっと昨日慌ててて……今確認したよ。生塩ノア、ミレニアムのセミナーの子だね。ユキノのメールには問題なしってあるから、私が承諾するだけだったね。ごめんね、この後ですぐ承認書類は送るから」
『先生、お忙しいのはわかりますが書類の確認は……まあ、むしろ先生にはもう少し休んで下さいと言いたいですが。 ――ともかく、今確認します。ノアーちょっといいー?』
電話先でユウカが誰かと話す声が聞こえる。暫くすると、電話に戻ってきたのだが、それはユウカの声ではなかった。
『立て続けに申し訳ありません。ミレニアムサイエンススクール、セミナーの生塩ノアです。先生、それからSRTの皆さんにアビドス高校の皆さん、はじめまして。代理総括のユキノ先輩からは、既に仮加入許可を頂いておりますので、これからシャーレの一員としてお力になれたらと思います。よろしくお願いします』
「うん、よろしくねノア。それで、早速なんだけど。ユウカから話は聞いてるかな」
『はい、先程伺いました。私は過去のミレニアムが行った調査などの記録を全て覚えていますが、過去に一度もミレニアムがアビドスに対して環境調査の名目で干渉したことはありません。かつてのアビドス高校が他校の追従を許さないほどの力を持っていたのもありますが、話に聞く災害が酷くなってから更に他校との関わりが希薄になったというのもあります』
「なるほどね。ちなみに、モエからの話はどうかな?言いにくいかも知れないけど、キヴォトスでも最も技術力のあるミレニアムとしてはどう思うのかなというのは私も気になるところかな」
『正直にお話すれば、すぐにでも飛びつきたい程ですね。アビドスの砂に価値があるのではないのか、というのは実は今のセミナーでも何度か話題になることはありました。ですが、先ほどお話ししたように他の自治区への一方的な介入は、条例違反です。流石のミレニアムも執行部隊の派遣というのは避けたい事態です。 ……ですが、前例のない環境調査。それだけでも価値のある話ですが、それによってアビドスの砂の価値が認められた場合、その価値は計り知れないと思います』
その言葉と同時。先生のシッテムの箱にはメールの着信があった。メールの主はユウカだ。しかも、シャーレの名義での送信である。そしてその内容は、ある添付データと。『誰も居ない所で確認して下さい、アビドスの地権情報です』というものだった。
『ガラスというのは、あらゆる所で用途があるものです。特に最近のミレニアムで作られるドローンや装備については、より品質の高いガラスや特殊ガラスが必要になることが多く、実を言えば供給が足りてないですしより高い品質のものを求める声も多いです。なので、ミレニアムの生塩ノアとしては、是非アビドスとは提携を結びたいところですね』
『間にすみません、ユウカです。私も、ミレニアムの早瀬ユウカとしてはノアと同意見です。今回の話は、ひとまずシャーレの話ということでここだけのお話にします。ですが、可能であれば余裕ができた時にでも今度は自治区の学校同士ということでお話をさせていただければと思います。勿論、アビドスにとって利益のある方向にするつもりですし、その会談の場を設けるためであれば個人的にも。そしてミレニアムとしても協力は惜しみません』
「うへぇ……なんか、すごい話になったねえ」
とんでもない話なのだ。ユウカやノアの話を要約すれば、『前向きにアビドスとの提携を検討したい。そのためにあらゆる協力をミレニアムとして惜しまない』ということだ。それがミレニアムの生徒会から出た、ということはつまりそれはミレニアムの総意とも取れる。
「んー……でも、生徒会長さんはどうなの?いくらセミナーの二人が賛成してくれていると言っても、生徒会長の合意がなければ無理だよね」
『そうですね。ですが、会長もおそらくこのお話は興味を示すと思います。それから……もしカヤ先輩がシャーレとして関わっていることを知れば、協力は惜しまないでしょう』
「ん?それってどういうこと?ユウカちゃん」
『私も詳しくは知らないんですが、会長とカヤ先輩はとても仲が良い友人だそうで……。いや、私もあの会長に友人って驚いたんですが』
『ユウカちゃん、事実でもそれは言っちゃダメですよ、私達が入学した頃は本当に血が通っているのかも怪しい冷血鉄仮面の合理主義者でネーミングセンスだけは人らしさがあるけれど壊滅的な会長が、どうにもあの件の後から人らしくなったなんて、心の中で思うくらいにしておかないと』
『ノ、ノア……私そこまで言ってない……』
『あら?ふふ、口が滑りました』
電話先でユウカが苦笑いしているのが聞こえる。どうやら、セミナーとして生徒会長には思うところもあるらしい。
『ともかく、その点については大丈夫だと思います』
アビドスにとっての光明が見えた。現時点では正式なものではないが、ミレニアムがアビドスに協力的であるというのも大きいだろう。
観光事業に産業、その復興と発展はアビドス復興の一歩になる可能性が見えた。
となれば。まずアビドスでやらなければならないことは、目下の問題の解決。そして、アビドス高校の地盤を安定させることである。そうして落ち着けば、ミレニアムとの協定も見えてくる。対策委員会の各々は光明が見えて活気づいていた。
ただ。なにか複雑そうに、困ったようにしているホシノを除いて。
・リオ会長
カヤちゃんの友人の一人。とある一件の後、堅物で合理主義なのは変わらないものの、生徒の持つ光や可能性に目を向けるようになった。また、随分とアクティブになりトキを連れ歩きミレニアムの様々な部活などに顔を出すようになった。
その結果、トキもリオとの関係は極めていい方向に傾いたし友人もたくさん増えた。
ユウカとノアからオフレコでということでアビドスの話を聞いた時はとても乗り気だった。未だ行われたことのない調査ということで、研究者としての血が騒いだのか『私が行くわ』とまで言った。ついでにヒマリもどこから聞きつけたのかその話を聞いて乗り気だったのだが、彼女については却下された。曰く、『アビドスの環境で体力が持たないので駄目です』とのこと。
【あとがき】
多忙+体調不良で日が空いてしまいました。私は元気です。
この話を書いていて思ったのは、そういえばアビドスメンバーとミレニアムのメンバーの絡みってあんまり無かったよなあと思いつつ書いてました。どんどん色んな自治区の生徒同士やシャーレの部員と自治区の生徒を絡ませていきたい所存。
ともあれ。ミレニアムがアビドスの味方につきました。
この話とは別になんですが、同時投稿でご一行全員が揃ったので紹介用のページを作りました。全員分で大体1万5千字くらい。拙作の1話あたりが大体4~5千字くらいなので、これだけで3~4話分ってなんだこれ、結構行きましたね。人物紹介って後書きでしかしてなかったので、一度纏めてみるかというのが作成に至った理由でした。
さて、ゆっくり休んでいる中。布団の中でひらめいたことがありまして。ホシノとゆるキャンのなでしこの中の人って一緒なんですよね。雰囲気もどことなく似ている。そこで頭の中に閃いたのが、『あびキャンΔ』。Δはアビドスのモチーフらしくピラミッド、文字のごとくアビドスでキャンプするだけの話を閃いたので大絶賛合間に書いてます。なお、キヴォトス各地でゆるくキャンプするだけの『ぶるキャンΔ』なんてのも思いついた。
ゆるキャンΔはいいぞ……。
アウトドアはいいぞ……。
実際、本編が大分真面目なお話が多いので幕間とかでギャグ路線とか日常の話を沢山書けたらなあと思ってます。アンケートにも沢山の方にご回答頂いてありがとうございます。結果から申し上げるなら、見事に割れた。つまり全部添削してさっさと上げろということですね?できらぁ!それぞれの話のタイミングを見計らって、全部挟んでいきます。
感想・評価などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。