カヤちゃんが征く!   作:無名のカヤ推し

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アビドス編の本筋の話ではないので、幕間としました。
かなり重要なフラグとかの話。



幕間:『あまねく奇跡が始まる、その先で』

『……ナ ――ロナ。 アロナ?』

 

「ッ……!?す、すみません先生!」

 

 

 ある日のこと。先生の持つシッテムの箱の中に存在する、管理AIであるアロナの様子がおかしかった。最初に先生が感じたのはちょっとした違和感で。ただ、それは日を追うごとに明確なものになっていった。

 

 アロナはよくシッテムの箱の中の世界。荒廃した教室のようなイメージのような場所で居眠りをしていることがある。よく『いちごミルクぅ……』だとか、『カステラもいいですが……えへへ、もう食べられません……』などと寝言を言うこともある。

 

 そんな時は大抵、先生の言葉で目覚めて大慌てするのがパターンだ。しかし、最近先生が感じた妙なそれは、少し違っていた。

 

 どこか上の空で、呼んでもぼーっとしていることがある。その視線はどこか遠くを見ているようであり、表情にはある感情が浮かんでいた。

 

 

 先生が感じ取ったそれは、『安堵』であり『切なさ』にも見えた。

 

 

『アロナ、最近アビドスのこととかで色々と無理を言ってたからね……。大丈夫?ちゃんと休めてるかな』

 

「お気遣いありがとうございます、先生。大丈夫です!スーパーアロナちゃんは今日も元気いっぱいです!」

 

 先生に心配され、アロナは慌てて笑顔を作るとそう返してみせた。しかし、ごまかしたその表情は先生には気が付かれており。相変わらず先生は心配そうな顔をしていた。

 

『私は生徒皆の先生だけど、生徒(こども)の味方でもあるつもりだよ。当然、そこにはアロナだって含まれる。余計なお節介だったら謝るけど、何か悩み事とかかな?最近、ちょっとぼーっとしてるような感じがして気になって』

 

「あ、あはは……先生にはなんでもお見通しですね……」

 

『私は積んでる仕事があるからこうして居るけど、本当は今日はお休みだし、みんなはアビドスの面々と一緒にお出かけ中。今だけはアロナだけの先生だよ? ……なんて。って、アロナ?』

 

「わ、私だけの先生……私だけの先生……はわわわわわ……」

 

 アロナとて女の子である。そして、先生のことが大好きな一人の生徒でもある。普段、全ての生徒のためにと東奔西走している先生が、冗談半分と言えどそんなことを言えば流石のスーパーAIである彼女としても、その処理が追いつかず。もとい、感情が大混乱したうえで暴走して自分でもよくわからないことになってしまう。

 

 顔を真赤にして、目は俗に言うぐるぐるお目々状態。先生に呼びかけられても暫くの間何やら混乱して、錯乱状態のような言葉を発していた。

 

「コ、コホン。取り乱してしまいました。 ……実は、悩んでいるのは事実なんですが、それがなんなのか。どうしてなのか。というのが私にもわからないんです」

 

『というと?』

 

「……なんでしょうかね、これは。安心?安堵?それに、どうしようもなく胸を締め付けられるような、痛み?でしょうか」

 

『ふむ。それは、どんな時に感じるの?』

 

「あの生徒さん……不知火カヤさんについてのことを見ている時、でしょうか」

 

『カヤを?』

 

 自分でもわからない。どうしてんなことを感じてしまうのか。どうして、あの不知火カヤという生徒を見ている時。彼女の今までの活躍や歩んできた足跡を知る度に、どうしようもなく安心して。そして、例え難い痛みを感じるのか。

 

 これが何なのか知るために、気がつけば彼女について調べていた。世間的な評価や活躍、連邦生徒会でなければ知り得ない情報や、様々な自治区な残されているデータ、情報の断片。歩いてきた足跡。そんなことを調べるうちに、彼女がどんな人物なのかというのは十二分に理解できた。

 

 

 

『キヴォトスの英雄』 『悪の敵』

 

『連邦生徒会最高戦力』 『天霆(ケラウノス)

 

『連邦生徒会のトラブルメーカー』 『コーヒーヲタク』

 

無辜の民(だれか)の笑顔の盾』 『触れざるもの(アンタッチャブル)

 

『モモフレンズヲタク』 『ブラックマーケットの悪ガキ』

 

 

 他にも様々な呼称がされていた。

 そうして、その中には。

 

 

 

        ――『連邦生徒会長の後継者』 

 

 

 

 そんな言葉もあった。

 

 だが。記録を調べると、どうやらその呼ばれ方をされるのを本人は『英雄』と呼ばれることと並んで特に嫌っているようだった。そして、その言葉については彼女本人は明確に言葉を返していた。

 

 それは。『自分は、会長ほどの超人でもなければ会長には及ばない』『私は縛られるのが嫌いなんです。だから、そういうのはリンのほうが性に合ってますよ』というコメントだった。

 

 

「先生。先生から見て、不知火カヤさんという生徒さんはどんな生徒さんですか?」

 

 

 様々な情報をアロナは見た。だが、先生からの評価というのはまだ聞いたことがなかったと思い、その疑問をぶつけてみた。

 すると、先生は少し悩んだようにして。

 

 

 

『……大切な生徒の一人だよ。でも、強いて言うなら』

 

「言うなら?」

 

『――きっと、私と同類だと思う』

 

 

 ふざけたような言葉ではない。同類、その言葉は趣味や趣向が似ているという意味ではないとアロナは理解する。

 何故なら。先生のその時の表情は困ったような笑みを浮かべており、それでいて真剣だったからだ。

 

 

『カヤがユキノやミヤコ達の入部届を持ってきた時にも言われたんだ、『先生は私と同類です』ってね。……私も、カヤに対して同じことを感じたよ。カヤは私と同類で、どうしようもなく似た者同士だ。 ――自ら望んで、生徒(こども)無辜の民(だれか)のために地獄に征く、狂人だよ』

 

 

 不知火カヤは狂人である。それは、先生も。そして彼女の最も親しい友人の一人であるリンもよく知っている。

 

 どれだけ傷つこうと、誰かの笑顔がある限り何度だって立ち上がる。

 どれだけ強大な敵であろうと、勝ち続けてきた。

 光を見失った人々のために、自らが道標となり道を示し続けた。

 

 

 それが、どれだけの痛みと苦痛、絶望を伴うことか。

 狂人でなければ、それを成すことなど不可能なのだから。

 

 

 ――報われる必要などない。自分は望んで、自ら地獄の道を征くのだ。

 

 

 その信念と共に、ただ誰かの笑顔と輝き。キヴォトスの平和のために、彼女は在り続けるのだ。

 

『本当は、カヤにはそんな地獄を歩いて欲しくないよ。でも……きっとカヤは私と同じだ。だから、言っても聞かないだろうし、似た者同士だからわかるよ。誰かの輝き(明日)と笑顔を守ること。それは、きっと彼女にとっては命を懸けるに値することなんだ。私もそうだから、理解できる。 ――せめて、今日みたいな束の間の休息が、彼女に一時でも安寧を与えてくれるといいと思ってる』

 

 

 先生からの不知火カヤという生徒に対する評価。それを聞いたアロナの中で、再び例えがたい何かが現れた。靄のかかったようで、何なのかわからないそれは、今までよりもずっと強いもので。間違いなく最も大きなもので。

 

 

 

 

 

     ――『カヤちゃん』

 

 

 

 

『……アロナ?今、何か言ったかな?嬉しそうにしてるけど、私の回答には満足してくれたかな』

 

「へ……?は、はい!ありがとうございます、先生。先生から見てのあの生徒さんがどんな方なのかというのは、よくわかりました」

 

 

 今、自分は何か言っていたのだろうか。そうアロナは思う。

 

 口元に笑みを浮かべて、無意識に何かを言っていたのだろうか。だが、それがなんなのかわからないし、先生にも聞こえていなかったようで知るすべはない。スーパーOSたる知能をフル稼働させてもわからなかったため、きっとたいしたことではないだろうと結論付けて胸の奥へと片付けることにした。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『ふふ、お疲れだね。カヤちゃん』

 

 

 夢を、見ていた。

 

 

 

 夢だと断言できる。

 何故なら。現実で今、その声を聞くことは叶わないのだから。

 

 だからこそこれは夢だ。だが、夢だとしても。

 なんて、優しく暖かくて。残酷な夢なんだろうか。

 

 

 ――『かい、ちょう?』

 

 

『どうしたの? 今のカヤちゃん、寝起きみたいな顔にまるで幽霊でも見たみたいな顔を混ぜたような、変な顔してるよ?』

 

 

 あり得ないのだ。会長は、現実に存在しない。

 "自分に託して、そうして姿を消したのだから"。

 

 ああ、でも。夢なら……少しくらい、気を緩めてもいいだろう。

 

 気がつけば。自分は駆け出していた。駆け出して、自分より遥かに背の高いその相手。憧れた相手へと抱きついて、俯くようにして胸へと顔を埋めた。

 

 

『わ、わわっ。どうしたのカヤちゃん?珍しく甘えん坊さんだね』

 

 ――『私だって、甘えたいこともあります』

 

『……うん、そうだね。どう?最近は』

 

 

 ――『大きな目的のために、旅を始めました。今まで見えなかったものがたくさん見えるようになって、忙しくしています』

 

『そっか……それは、疲れもするよね』

 

 ――『沢山の問題が見えてきました。……でも、それ以上に。沢山の人と出会いました。自治区の中の見えなかった想いや願い、それにも触れることが出来ました。きっと、これからも沢山の人と出会って、沢山の願いや想いに触れて。そうして、歩き続けると思います。先生や、仲間達と共に』

 

 

 言いたいことは沢山ある。連邦生徒会長が失踪した理由、現状のキヴォトス。連邦生徒会で唯一その理由と真実を知る彼女からすれば、吐き出したい感情は山程にあった。だが、それを堪える。なぜならば、まだ何も成していないからだ。

 

 

 いつか戻って来る、かつて憧れたその相手が。その時にキヴォトスを見て、安心してくれるようにするために。

 

 

 問題は山積み、見えなかった問題は次々と出てくる。シャーレとしての依頼や仕事もこなさないといけない。先生も自分も、ついてきてくれる仲間達も休む暇など殆ど無い。だが、その山積みのそれを解決していくことでこの場所が。キヴォトスがよりよいものになると信じている。

 

 

 ふと。自分の意識に目を向ければ、ぼんやりとしているのが理解できた。夢なのに、本来居ないはずの相手はとても暖かくて。耳にはまるでそこに存在しているかのような、生きている証の鼓動が聞こえてくる。それらに安堵して、夢だと言うのに意識が落ちていく。

 

 

『ごめんね、色々押し付けて』

 

――『本当、ですよ。でも……わかってます。会長が何をしようとしたのか、理解してます』

 

 

 憧れた相手は、キヴォトス(世界)を存続させた。

 ならばこそ。その世界と人々の守護者たる『守りし者』は、自分達がならなければならない。

 

――『いつか、戻られたら覚悟してくださいね。本当……色々と、大変で――』

 

 

 

 大変なのは事実だ。だが、それは自分で選んだことだ。

 誰かの笑顔と輝き(明日)のために望んで地獄の道を征く、それが自分の選択であり覚悟だ。

 

 あの日見た、小さな笑顔の花こそが己の根源(オリジン)

 守り抜くと誓った。そのためならば、是非も無し。

 

 

 『悪の敵(不知火カヤ)』という鏖殺の雷霆は、そのためならば愚かしいほどまでに無敵なのだ。

 

 

『うん。流石に……カヤちゃんやリンちゃん、みんなに怒られる覚悟はしておこうかな』

 

 

 安堵からか、意識が薄れていき、身体から力が抜ける。

 そんな自分を、会長はただしっかりと抱きしめてくれた。

 

 

『――私は世界(キヴォトス)には居ないけど。でも、ずっと見守ってるよ。約束するよ、『あまねく奇跡の始まり』。その先で、ちゃんと私は戻ってくるから。だからどうか、先生とみんなを。そしてキヴォトス(世界)をお願い、カヤちゃん』

 

 

 『まったく、仕方のない人ですね』と。かつてのように、カヤは呟いた。そう呟いた口元には笑みを浮かべ、彼女は意識を手放した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「カヤ……カヤ?」

 

「んん……?なんですか、人が気持ちよく寝ている時に……」

 

 

 意識が覚醒していく。見慣れた場所。シャーレ本部のオフィス、そのデスクで目を覚ましたカヤは、眠そうに欠伸をした。

 

 シャーレ本部に休みの日はない。常に様々な自治区から以来や相談が届いており、直接シャーレに赴いて相談しに来る生徒だって居る。緊急事態や有事の際にも対応は当然必要であり、常に明かりはついたままだ。

 

 そんなシャーレ本部で、シフト体制で業務を現在行ってくれているのは、アビドスの依頼へは赴かないこととなったFOX小隊の面々に、ミレニアムから正式に部員となってくれたユウカやノア。そして業務の部分だけで言えば、流石に負担が大きすぎるということで部員ではないが、連邦生徒会の信頼できる人間が手伝いに来てくれている。

 

 連邦生徒会からの助っ人は様々だ。防衛室の副室長であるリリィや非番の防衛室の生徒、体育室長でもあるハイネが外回りの合間に来てくれたり、体力自慢の体育室の所属生徒が来てくれることもある。他にも、リリィの親友だというトリニティの守月スズミという生徒や、時たまゲヘナの羽沼マコトが現れることもある。

 

 

「ああ、ユキノさん。おはようございます。んん……3時間ほど眠っていたみたいですね」

 

「おはよう。って……いや、そうではなくてだな。どうしてここに居る?今日は休みだと、ミヤコから聞いていたが」

 

「それはあの子達の話ですよ。私は休みでもやることが山積みです。ミヤコさん達についてはまだ一年生なんですから、ちゃんと遊ぶ余裕くらいあげないと」

 

「……はあ。先生にしても、お前にしても。もう少し休んでほしいんだがな。どうせ休めと言っても聞かないだろうが、仮眠するなら休憩室で休め。向こうならベッドもある。にしても、随分と幸せそうに寝ていたな。思わず写真を撮ってしまったぞ?さて、まずはシャーレのグループチャットに送信することからだな」

 

「ユキノさんといいリンといい本当どうしてそんなむごいことするんですか!? ……大体、私の寝顔なんて需要があると思えませんが」

 

 実はあるのだ。特に、防衛室の室長代理であるリリィと財務室のアオイには特に。

 

「冗談だ、冗談。写真は撮ったがリリィに送るくらいにしておこう。……何か良い夢でも見ていたのか」

 

「あの子、私のそんな写真で喜ぶとは思えないんですが……。そうですね、いい夢でした。きっと、いい夢だから熟睡できたのかもしれませんね」

 

 カヤは敢えて夢の内容を言わなかった。だが、ユキノはその表情から、安心できる夢だったのだろうと理解すると『そうか』とだけ返した。

 

「とりあえず、数件だけ重要な報告があるが、後にしたほうがいいか?」

 

「いえ、大丈夫です。眠ったお陰で、随分とスッキリしましたから。 ……コーヒーでも淹れましょう。私のお気に入りの豆、まだこっちにあったと思いますから」

 

 手慣れた手付き、そして機嫌もコンディションも良さそうにコーヒーを2杯分淹れると、片方をユキノへと手渡す。彼女もまた、『いただこう』と返して受け取ると、流石というべきか。コーヒーにはとにかくうるさいカヤが気に入ると言うだけある、その味に舌鼓を打った。

 

「まずは、そうだな。幾つかあるうちの、一番重要な話からしよう。数日前、ミレニアムでリオと会ってきた」

 

「……例の計画ですか?」

 

 コクリ、と。ユキノは頷いてみせた。

 

「彼女も散々に悩んだようだが、決めたようだぞ。彼女、最近はトキを連れて随分とアクティブに動いているらしいからな。 ――要塞都市エリドゥの建設計画を大幅に変更。自分の計画と推測についても、ヒマリとトキには打ち明けた上で、例の計画を推し進めることにしたらしい」

 

 ユキノは告げた。誰のかの持つ光や善性、それにも目を向けるようになった調月リオという生徒の計画を。

 

 

「――『PROJECT:Wonderland(不思議の国計画)』。生徒の持つ光と善性、それを信ずるようになったリオは、その計画を実行に移すとのことだ」

 

 




■アロナの違和感
 カヤを見ていると感じるらしい。決して不快なものではないのだが、それの正体がわからない。

■連邦生徒会長
 カヤちゃんには全て話している。
 拙作では、原作がどうなるかわかりませんがフラグ成立済み。

 ――『あまねく奇跡の始まるその先で、彼女はいつか必ず戻ってくる』 

■リオ
 アリスの存在も知っているし、正体も知っている。何ならケイのことも知っている。その上で、信じてみることにしたようだ。先生と、『名もなき神々の二人の"王女達"』のことを。


■あとがき
 時系列的にはアビドス編の途中の話なんですが、アビドス編には直接的に関係のない話なので幕間としました。かなり重要なこと色々と言っている話。後書きで何も書けない。

 次回からアビドス編本編に戻ります。
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