「んー!おいしいね、このラーメン!」
「うん、そうだね。色々勘違いされちゃったみたいだけど、ここの大将のご厚意には感謝しか無いね」
柴関ラーメンのブース席。アビドス陣営の面々がいる場所からは幾つか離れた席で、便利屋68の面々はそのラーメンの味に舌鼓を打っていた。
色々と勘違いや行き違いはあったものの、ここの大将の善意で、580円のラーメンを4人で分けるつもりだったのが、それぞれがお腹いっぱいになるほどの特盛のラーメンを食べられている。大将曰く『手が滑った』ということで、現在金欠であり食事にも苦労していた身からすればありがたい限りだった。
ただ。ラーメンが美味しいのは事実だが、頭の中では別のことに対して最大限の警戒をしていたのが、カヨコだった。
(……あの制服と学生証は、アビドス高校のもの。さっき少しだけ見えたけどアビドス高校以外の生徒が居た。ということは、あの子達がSRTの生徒。そしてあの大人が先生、か。 ――でも、不知火カヤが居ないのはまだ幸いだったかな)
しかし、カヨコとしては最大限の警戒を敷いていた。かつて、自分が『改まった場』によく行っていた頃の情報で知っている。SRT特殊学園の生徒の強さ。そして、不知火カヤという『英雄』がどれだけ規格外なのかということを。
SRT特殊学園の生徒は、普通の学園の生徒とは違う。特殊作戦及び、キヴォトスにおける有事の際にそれを解決するためのカウンター。一人ひとりの生徒が他の自治区の生徒と比較しても比較にならないほどに高く、SRTのおける一般生徒数名の小隊規模は各自治区の執行機関や風紀委員の実働部隊にも匹敵すると言われている。
そうして。先程見た数名のSRTの生徒。その生徒達を見ただけでカヨコは察する。勝てない、と。培ってきた経験と直感、それが告げているのだ。あの相手は、簡単に勝てる相手ではないと。
無邪気に、楽しそうに食事をしているように見えたが、カヨコは気がついている。先程自分達が入店した瞬間、既にあの生徒達は行動を起こしていた。アル達は気がついていないが、入口側を見ることが出来る生徒。長く白い髪の少女が、一瞬だけ此方を一瞥したのを。
(あの一瞬で取れるだけの情報を取られたね、間違いなく。――制服からの学園の情報、人数、ッ……最悪、武器種まで確認された。それに、多分相手に感づかれてるのに気がついてるのは私だけだ)
カヨコの推測は当たっている。店の入口を見れる席に居たミヤコは、アル達が入店してきた瞬間即座にその制服を確認。取れるだけの情報を、師であるユキノの教えに基づいて瞬時に取れるだけ取った。同時、カヨコは見えない位置に居るため気がついていないが、即座にサキ、モエ、ミユへとアイコンタクト。傍らの
更には頭の中での簡易的な状況対応プランの作成。最優先事項を先生の安全の確保、同列として依頼主であるアビドスの面々の安全確保だが、先生にはヘイローがなく自分達のように戦闘能力があるわけでもない。よって、最優先に安全確保すべきなのは先生として状況を設定して数パターンのプランを作成していた。
今のカヨコ達はあくまで客である。よって、何事もなく……とは言い難いが、幾つかの誤解も重なって、更にはアビドス高校の面々とちょっとした交流があるという場面もあり、現在ラーメンを食べている状況である。
「でも、本当美味しいね。もし近場にあったら頻繁に通いたいくらい」
「そうね、ラーメンだけじゃなくサイドメニューも豊富だし、トッピングの価格も良心的。『柴関ラーメンご注文の方に限り、下記トッピング無料!』っていうのもすごいわね。えーっと……なんて言うのかしら?ラーメンの呪文、みたいな?」
「例えば、『アブラナシヤサイカラメマシニンニクスクナメ』みたいなやつだねアルちゃん。ここ、柴関ラーメン注文なら無料で野菜とカラメはマシマシまでオッケーみたいだし、今度来る時はそれがいいかなー私は」
「はむっ……はふっ……お、おいしいです……わ、私なんかがこんなおいしいもの食べていいのでしょうか……」
「ハルカ、あんたはもっと食べなさい。……ほら、おかわりよそってあげるから」
「あ、ありがとうございますカヨコ課長!」
自分達はこの後、あのアビドス高校、そして先生とSRTの生徒と戦わなければならない。依頼を受けてしまった以上、今更キャンセルするということも出来ないし、何よりもアルが今回の依頼に際して有り金を叩いて傭兵まで雇ってしまったのだ。
数的には、こちらが有利だろう。だが、相手はアビドス。そして、あの不知火カヤが居ないとはいえ、間違いなく報道されていた、選抜されたというSRTの生徒。
カヨコはFOX小隊を知っている。キヴォトスにおいて最強の部隊のひとつであり、それぞれがSRTという精鋭の中でもトップレベルの実力者。そして――『
そんな彼女と、その部隊員が選抜したという生徒だ。それを考えれば、先程の直感は間違いないだろうと思った。
ともあれ。アビドスについての情報が手に入ったことはいいことだが、色々と考えないといけないことが出来た。
カヨコはため息をつくと、ひとまず今はこのおいしい食事を楽しもうと気持ちを切り替えて、再びラーメンに舌鼓を打った。
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アビドスの面々と先生達、そして便利屋68が偶然の邂逅を果たしたその後。アビドス高校に帰還した後、ミヤコは先生。そしてホシノに空き教室の一室に来てもらっていた。
それは。あることを相談するためだった。
「……先生、単刀直入に聞きます。今後、アビドス高校に対してヘルメット団以外の勢力。他の自治区の行政機関からの攻撃や、他自治区の生徒による攻撃があった場合、どう対応するべきがご指示を願います」
「それは、どういうことかな」
「ホシノ先輩に来ていただいたのは、それに関係しています。 先輩、先程のゲヘナの生徒。どう思われましたか」
「んん?どうもなにも、こんな遠い所までラーメン食べに来るなんて変わった子達だなあって思ってたよ?」
「――いつでもご自身の武器に手を伸ばせるようにしていたのに、ですか?」
「……うへ。よく見てるね、ミヤコちゃん」
「師がとても優秀な方なので。事実、私達もそれぞれがあの時何かあった場合はすぐに対応できるようにしていました。 ……まあ、何事もなく終わりましたが。ですが、アビドスがこの状況で、ゲヘナから生徒が観光でもないのに訪れるなんておかしくはないですか?それに、あの方達は先輩達との会話で『仕事』でアビドスに来たと言っていました」
「その仕事っていうのが、アビドス高校に関連してのもの。ってミヤコちゃんは推測したのかな。考えすぎじゃないかな?大将も言ってたけど、過去にゲヘナの生徒がわざわざ集団でラーメン食べに来たこともあったみたいだし、それと同じかも知れないよ?」
「入店早々、最安値のメニューを確認してましたよね。完全に金欠状態でわざわざアビドスまでラーメンを食べに来ますか?それに、あの言い方は完全に店のことを知らないような言い方でした。 ……実は引っかかったので、シャーレ本部に確認を取りました。そしたら、伝えた生徒に該当する生徒がゲヘナで見つかりました」
「シャーレの権限でも、基本的には一般生徒の個人情報やプライベート、自治区がそれぞれで管理する
ミヤコは自身のスマホ型端末を机の上に置くと、空間投影機能を使用して数枚の資料を先生とホシノへと見えるようにして展開した。
それを見た二人は、それぞれ異なった表情をしていた。先生は困ったような、ホシノは警戒するような眼でそれを見ていたのだ。
「連邦生徒会への問題生徒や不良生徒についての情報提供。シャーレの権限で閲覧させてもらった所、そこにあるゲヘナ自治区の項目の中にこれがありました。『便利屋68』、所属はゲヘナ学園。非公認の部活動で、度々ゲヘナ自治区などで問題行動が見られ、該当自治区の風紀委員会からもマークされていました。ゲヘナでの問題行動が目に余り、風紀委員会だけではなく万魔殿にも目をつけられ、現在はブラックマーケットを拠点として活動しているらしいです」
「……私としては、出来るだけ穏便に事を進めたいんだけどね。ミヤコ、その方面で済ませられる可能性は?それから、仮にミヤコの推測が当たっていたとして、アビドスに襲撃を行う可能性はどんなもの?」
「襲撃の可能性は高いと考えています。穏便に済ませられるかは……なんとも言えません。ですが、話し合いをして帰ってくれるともあまり思えません。 ……大きな問題は、彼女達が不良やヘルメット団という訳ではなく、ゲヘナ所属の生徒であるという点です」
そう、ミヤコ達にとっての問題はそこだった。
ホシノ達はアビドス高校の生徒である。よって、仮にゲへナ学園の生徒と交戦しても、自治区同士の出来事として対応や処理ができる。だが、ミヤコ達は別だ。シャーレは、あらゆる自治区に対して介入できて必要な場合戦闘行為を行使することが出来る。だが、それは決してノーリスクという訳ではないし、部員という立場においては確認しておかなければならないこともある。下手な武力衝突は、シャーレの裁量上問題はないが最悪シャーレの評判にも関わるのだから。
「先生、先生のお気持ちは理解できます。ですが……現在の私達の依頼主はアビドス高校です。 総てに手を伸ばすことも、救うことも出来ない。どうか、ご理解下さい」
相手が明確な敵対の意思を見せている時、それを話し合いで納めることは困難だ。何故ならば、結局のところ争いとは正義と正義のぶつかり合いである。相手には相手の目的と大義名分、正義があり、此方にもある。その折り合いがつかない以上、最終的に判断されるのは依頼主の意向と先生の判断だ。
「……わかった。ただ、やれることだけはやりたい。もし今回の場合、他校の生徒が襲撃してきた場合、交渉は行いたい。それでもし駄目なら。私の立場として、交戦を許可するよ」
「私達としては、第一優先は先生の身の安全、同列でアビドス高校の皆さんの安全です。確認させて下さい、もし交戦となる場合。シャーレに定められる『標準交戦規定』に従う範囲で武力を行使します。 ホシノ先輩も、それでいいでしょうか」
「まあ、私達もアビドス高校を渡すわけにはいかないからね。 ……こうしよう。恐らく相手と話し合いの場に出るのは、おじさん達アビドス高校だ。とりあえず私が対策委員会委員長として、最初に話をしてみるよ。出来るだけ相手のことを知ろうとはしてみる、時間をかけてね」
含みのある言い方だった。それを聞いて、先生はうまく理解していないようだったがミヤコは更に真剣味を強くした。
「おじさん、ちょっとだけ真面目な話するね。想定は防衛戦、最前線には私達とミヤコちゃんにサキちゃん。交渉が決裂した場合は、まあ追い返すくらいまででいいかな。流石に他校の生徒を捕縛して尋問なんてしたら問題だし、先生も反対するだろうし」
「先輩や対策委員会の皆さんが時間稼ぎをしている間に、相手の狙撃手の有無や兵器の有無、全体戦力の分析を行う。決裂した時点で、先輩はなにか合図を送る。それと同時、狙撃位置のミユとスナイパータレットによる狙撃と、先生の護衛と兵装指揮のモエが即座に動き、私達も交戦に移る。ということでいいですか」
「うん、それでいいよ。ミユちゃんの最優先ターゲットは、相手の狙撃手かな。もし居ない場合、個人の判断で指揮官か特殊兵装持ちを狙う方向で」
「夜間の奇襲に対する対策はどうしますか?私達が交代で哨戒しますか?」
「んや、必要ないと思うよ。もしアビドス高校の制圧が目的なら、対策委員会が全員居る時にそれを制圧して学校を占拠する必要がある。夜間は私達は居ないし、多分攻めてこない。それに……あの防衛陣地とセンサー郡にオートマトンとタレットを超えるのは奇襲部隊じゃ無理だよ。おじさん色々想定してみたけど、センサーを無力化しないと絶対に何処かのセンサーに引っかかる。あのセンサー類ってジャマー対応されてるし、もし無力化されれば容赦なくアラート鳴ったよね。まず無理だよ」
「わかりました、ではその方向で対応します。先生も、それでよろしいですか」
交戦にならないのが一番だが、それは難しいだろう。
先生はため息を付いて、仕方ないといった表情で。
「わかった、その方向で任せるね。 ……ああ、そういえば」
方針については纏まった。止むを得ないが、武力衝突は考慮すべきだ。
そして先生は、ふと。先程カヤから来ていたメールのことを伝えなければと思った。
「カヤから連絡があってね。後数日は戻れないらしい。それから、部員がまた一人増えることになった」
「この前のセミナーのノア先輩、ではないですよね?一体誰が……増えるということは、先生が承認されたということだと思いますが」
「今の時点では内緒にしておこうかな?カヤからも、そのうち会えるので名前は秘密でって言われてるから。 ――そうだね。ちょっと不器用なだけの、すごくいい子だよ」
先生だけが見えるタブレット端末の画面には、『狐坂ワカモ』と表示されており。
そこのメモ書きには、一連の業務手続きの後『RABBIT小隊の4名補佐官および戦闘指揮官・指導官として配属予定』と書かれていた。
■カヨコ
他の便利屋メンバーは何も思ってないがとてつもなく不味いと思っている。カヤちゃんが現地入りしていることをまだ知らないが、この時点でSRT一年生のヤバさに感づいて焦ってる。
■ミヤコ
ホシノが自分達より遥かに早く警戒を強めて、瞬時に武器に手を伸ばせることを確認していた。ミヤコの中ではこういった緊急時や戦闘時の動きから明らかに只者ではないと感づいている。なお、先輩大好き系後輩なのでホシノには懐いている。
■ワカモ
アビドス現地入り準備中。
【あとがき】
カヨコからすれば、この時点でとてつもなく不味い予感がするので依頼を断りたいが、既にアルが引き受けてしまっているし今のアビドスの戦力について感づいているのが自分だけになので頭抱えてるし焦ってる。それはそれとしてラーメンはとてもおいしかった模様。
そして原作とはちょっと違う、『吹っ切れ完全武装覚醒ワカモちゃん』がシャーレとしてアビドス現地入り準備中。現時点でのご一行では、戦闘力ではカヤちゃんとユキノを除くと最高戦力。例え方がコアすぎるかもしれませんが、『常時全盛期の性能で両解放覚醒吐き状態のフルクロス』。つまるところコノシュンカンヲマッテイタンダー!
基本的な仕事は、自由に動ける生徒としてその都度の依頼でカヤちゃん同様確定枠で参加しながら、先生の護衛と先生&先輩組の補佐。そしてミヤコ達後輩組の現場での指導や指揮官兼補佐官を担当します。
単純な戦闘力ではキヴォトストップレベルではないんですが、準トップレベルの上にカリスマ性や心理戦に指揮能力、工作能力。状況把握や集団運用、戦闘以外での能力が全て極めて高いため総合能力ではキヴォトスでもトップレベル。
先輩枠なのでミヤコに懐かれるしそのうちユキノみたいなことになる。