カヤちゃんが征く!   作:無名のカヤ推し

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Episode14:かっこよかったよ、ゲヘナの『ハーフボイルド』ちゃん

「……それで。私を捕まえてどうする気?悪いけど、依頼主については話すつもりはないよ」

 

 正直に言えば、カヨコは冷静を装っているが混乱していた。

 武装解除され、戦場のど真ん中で放置されたと思ったら今度はオートマトンに拉致されてアビドス高校の前。軍事キャンプ内のテントに運ばれた。

 

 そこに居たのは、1人の大人。いかにも優男と言った風貌の先生と、二人の生徒。アヤネとモエだった。

 

 特にカヨコから見て、モエのほうは気の抜けたような空気を纏っているが、違う。いつでも先生を守れる立ち位置、しかも恐らくすぐさまウェストホルスターの拳銃を抜けるのだろうと判断していた。そうして、彼女もまたSRT。少なくとも並大抵の生徒ではない。仮に自分が此処で万全の状態で暴れようとしたとしても、制圧されるのは予想がついた。

 

 

「別に、どうこうするつもりはないよ。ただちょっと、私が話したかっただけなんだ」

 

「は、話?ええっと、それだけのために指揮の中枢に私を呼んだの?」

 

「そうなるかな」

 

「……変な大人だね。でも、さっきも言ったけど悪いけど依頼主については」

 

「それについては聞かないよ。君達も依頼を受けて、いわば仕事としてのことなんだろうから。だから、今から話すことは仕事のことではなくただの座談、世間話だ。その中で、もしかしたら君が欲しいかもしれない情報もあるかも知れない」

 

「はあ……わかったよ、先生……でいいんだよね?どちらにしても私の武器は取り上げられたまま。足も治療してもらったとはいえまだ痛みはある。それに、状況からして抵抗する気もないよ。ただ、教えてほしいんだ。今の校門前の状況を」

 

「わかった。 ――モエ」

 

 『はいはーい、暫くしたら消すねー』とモエが言って携帯型デバイスを操作してカヨコに見えるようにして画面を空中投影する。

 そこには、リアルタイムの交戦状況が映し出されていた。

 

 

「やっぱり、練度が違いすぎる。あの三人と後方支援が絶対的に崩せない ――負けだね、これは」

 

 俯瞰して見る光景だからこそよくわかる。状況は絶望的だ。自分が離脱していることもあるが、指揮系統が壊滅して傭兵たちはまともに統制された動きができていない。アルやムツキ達も混乱している所に追撃されて、立て直す暇を与えてもらえない。

 

 詰んでいる。映像を見て、悔しさとともにカヨコはため息を付いた。

 

「それで。先生は何が聞きたいの?」

 

「うーん、そうだね……。実は私は、ゲヘナやトリニティについては資料で簡単に読んだくらいでよく知らないんだ。だから、そうだね。ゲヘナについて教えてくれないかな?」

 

「ゲヘナについて? ふふっ……本当、変なことを聞くね、先生。そうだね……先生は、ゲヘナについて何処まで知ってる?」

 

「良く言えば自由な校風、ストレートに言えば無法地帯、かな。ゲヘナは連邦生徒会にある程度協力的で、自治区の犯罪データとかを送ってくれてるとは聞いたことがあるね。それを見させてもらっても、やっぱり問題発生の頻度はかなり高い傾向にあると思うけど」

 

「うん、そうだね。先生の認識で概ね間違いないよ。 ――でも、数年前のゲヘナはそうじゃなかったって言えば、信じる?」

 

 カヨコの眼は真剣だった。どういうことだと思いつつも先生はモエへと視線を投げてみるが、『自分も知らない』というような首を横に振っていた。

 

「ところで先生。聞いていい?」

 

「何かな」

 

「不知火カヤは、此処に居ないの?」

 

「カヤはちょっと用事があってね、今は居ないんだ」

 

「……随分と正直に答えるんだね。正直、私が一番警戒していたのは不知火カヤだった。いいの?簡単に情報を話しちゃって」

 

「構わないよ、別に隠すことでもないしね。私からもいいかな」

 

「ええ、どうぞ」

 

「さっきの……昔のゲヘナは違った、というのはどういうこと?」

 

「……それは」

 

 カヨコが言葉に迷ったようにした。だが、すぐに先生の目を見て、『まあ、先生は知っておいたほうがいいのかもね』と呟いて。

 

 

「どうにも、先生と話していると絆されちゃうな。……先生、それからそこのSRTの子とアビドスの子も。これから話すことはあくまで昔話、そんな話をただの雑談として心の奥に仕舞っておいてくれるかな」

 

 二人が動揺しつつも頷いたことを確認して。

 

 

「数年前までのゲヘナは、力と暴力が支配していた。強者がすべてを手に入れ支配し、弱者は奪われる『鉄拳政治』が行われていた。私は昔、その時代のゲヘナの生徒会に居たんだ。 ……その政治を行っていた暴君は『雷帝』と呼ばれていた。そして、その雷帝は一度だけ、彼女の。不知火カヤの逆鱗に触れていたんだ」

 

 カヨコにあったのは、恐怖。そして畏怖だった。

 

 もし、不知火カヤを止められるとすれば今は居ない連邦生徒会長だけだ。その力は決して消えることのない光であり、弱き人々の希望であり道筋であり。そして、彼女の敵。邪悪にとっては絶望そのものだ。

 

 言葉通り、悉くを滅ぼすその力に慈悲はない。そうして、その力は。『天霆』は一度だけ加減はされていたものの過去のゲヘナに対して振るわれた。その結果、『雷帝』は甚大な被害を被った。

 

 そうしてその後、様々な経緯はあったが『雷帝』は失脚。現在の万魔殿、そして風紀委員会がゲヘナを統治するようになり今のゲヘナへと姿を変えていった。

 

 

「そうだね……。正門前の状況が終わるまで、話せないこともあるけど言える範囲で昔話をしてあげるよ」

 

 

 そうしてカヨコが語ったのは。『恐怖と支配の国が、自由と混沌の国になるまでの物語』だった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「はい、おしまい。――まだ続ける?もし続けるなら、おじさんも無事は保証できないよ」

 

 

 正門前の戦闘はほぼ決着がついていた。見渡せば、武装を放棄して両手を挙げる傭兵たちや、ボロボロになって横たわり、荒い息をしながら空を見上げて居る傭兵たち。瓦礫を背にして座り、交戦意思を放棄する姿勢を見せている者も居た。

 

 便利屋68の面々も追い込まれていた。ハルカはミヤコとサキにより武装解除され拘束されており、ムツキも普段持っている色々なものが詰まっているバッグや武器を取り上げられ、オートマトンに囲まれる形で拘束されている。

 

 そうしてアルはといえば。真正面にはホシノ、その後ろにはシロコ達対策委員会のメンバー。頭にショットガンをつきつけられる形で、完全に追い詰められていた。

 

「こんな、筈じゃ……」

 

 50名近い傭兵。加えて、便利屋の面々。それを動員したアビドス高校への襲撃は四半時という短い時間で終了した。結果は、アビドス側の損害はほとんどなし。対して、便利屋側は壊滅状態というものだった。

 

「依頼主については言うつもりはないんでしょ?でも、なんでこんなことをしたか、くらいは聞かせてくれてもいいんじゃないかな」

 

「……言えないわ。だって、そんなのハードボイルドじゃ」

 

「そっか。あんまりこういうことしたくないんだけど、私達もアビドスを守るために必死なんだよね。君が喋らなくとも、他のお仲間にお話を聞くことだってできるし別にいいよ」

 

「――どういう意味よ、それ」

 

 

 恐ろしいほどの威圧感を放つ睨みだった。そんなことは絶対に許さない。というようなその眼を見た対策委員会の面々は思わず一歩下がりたじろいだが、ホシノは涼しい顔でアルを睨み返した。

 

 

 当然、ホシノとしてはそこまで乱暴な手段を取るつもりはない。だが、情報は必要だ。今のアビドスを取り巻く状況を知るために、どんな些細な情報でも必要だった。だからあえて、ホシノは揺さぶった。無理にでも吐かせる。こう言えば、人情のある相手なら動くはずだ。

 

 そういった悪者のような役割を後輩達にさせたくはなかった。やるのなら自分でいい。そう思い、ホシノはそうするつもりはない演技といえど、アルへと迫った。

 

 

「私達はヘイローがあるといっても、不死身なわけじゃない。それにヘイローが壊れなくとも苦しむ方法なら幾らでもある。――そういえば、君のお仲間が1人校内に運ばれたね」

 

「あ、あななたちッ……!どうしてそんな非情なことを!」

 

「『アウトロー』で『ハードボイルド』、と言ったのはそっちだよ。秩序に囚われないということは、自由であると同時に全ての責任を背負うということだよ。つまり、余計な感情はなしで非情な無法者ってことだ。そっちがそのつもりなら、こっちもその気で行くよ」

 

「や、やめて……。カヨコに。ムツキに、ハルカにそんなことしないで。社長は私よ!やるなら、私にやりなさいッ!」

 

「よく言ったね。覚悟はできてるってことだね?いいよ、君のその覚悟に免じて他の子達の無事は保証してあげる。私は、アウトローかもしれないけどハードボイルドじゃないからね。それくらいの情はあるつもりだよ」

 

 演技にしてはやりすぎだ、そう思ったアビドスの面々が動揺し。シロコが何かホシノへと言おうとした時。

 

 

『そこまで、ホシノ。もう十分だよ』

 

 

 シロコの言いたい言葉が聞こえた。それは、装備しているインカムからで。そう言ったのは先生だった。

 

 

『本当にそれをするつもりなら、私はそれを止めるよ。生徒(こども)にそんなことをさせるわけにはいかない。情報が必要なら、私が交渉のテーブルに着くよ』

 

「……うへ。優しいね、先生は。 ――いやあ~中々いい演技だったでしょ?おじさんがんばっちゃったよ~」

 

 にへら、と。いつものように気の抜けた雰囲気をまとい、シロコ達のよく知る口調となったホシノは銃を下げた。

 

 そうして、再びアルへと一歩近づくと彼女にだけ聞こえるように、言った。

 

 

 

 

 ――『ハードボイルドと豪語する君は薄っぺらかったけど、仲間のために私を睨んだ君は本物だと思ったよ。かっこよかったよ、ゲヘナの『ハーフボイルド』ちゃん』

 

 

 

 

 ポカン、と。唖然とするアルだったが、その後。正門から歩いてくる姿を見て、驚きと同時に安堵した。歩いてきたのは、先生とモエにアヤネ。そして、足を治療されたカヨコだった。

 

 

「カヨコ!無事だったのね!」

 

「うん、まあね。――じゃあ先生、約束通り」

 

 すると、先生は頷いて。『全員武器を降ろして』と指示をした。

 

「これでいいかな、カヨコ」

 

「ありがとう。先生」

 

「そういう約束だからね。 ……できれば、次は友好的な関係でありたいね」

 

「それは社長次第、かな。まあ……私からも色々話してみるよ。今回はいい勉強になったよ」

 

 話を終えたカヨコがアルの下まで歩いてくる。状況について混乱していたアルだったが、そこに開放されたムツキやハルカも合流してくる。

 

 

 

「ここまで。傭兵の人達も、撤収していいよ。契約通り、報酬はちゃんと振り込んでおくから」

 

 傭兵の生徒達も動揺していた。時給での雇われの身ではあったが、戦果は壊滅的だった。相手に対してまともに打撃を与えることも出来ず、返り討ちという有り様。成果を出していない以上、報酬は見込めないと少なからず思っていたからだ。

 

 にも関わらず、報酬が確約されている。複雑な気持ちではあったが、これ以上まともに戦っても勝てる気はしなかったし、なにより依頼主がそこまででいいと指示しているのだ。傭兵の生徒達は各々が息を整えると、撤収していった。

 

 

「カヨコ、どういう事……?」

 

「依頼は失敗。でも、その報酬以上のものを先生と取引できた。……少なくともマイナスではないよ、社長」

 

「依頼主のことは」

 

「話してないよ。というより、私達も依頼主については素性を知らないでしょ。 ――帰ろう、社長。それに、大事な話もある」

 

「大事な話って。それよりカヨコ、本当に無事なの?足の怪我とか。な、何か本当にされてないのよね?」

 

「されてないし、むしろ治療してもらったよ」

 

 困惑しているアルだったが、状況としてはいい方向だろう。カヨコは無事、アビドス側は追撃を仕掛けるつもりもない。依頼に失敗はしたが、これ以上戦闘を続ける意味もなければ状況が見えない彼女でもない。

 

 

「……わかった。撤退しましょう」

 

 

 そうアルは告げ。撤退するとともに、一体カヨコがどんな話をしてきたのか戻ったら確認しなければならないと思った。

 

 

 




・雷帝
 カヤちゃんをブチギレさせた一人。悪の敵認定したので本気でカヤは敵対していたが、途中で連邦生徒会長が仲裁した。

・ゲヘナ上層部
 連邦生徒会に対しては協力的。自治区の治安情報や重要指名手配生徒の情報を流してくれている。カヤちゃん本人個人としてはヒナとは最低限の面識しかないが、万魔殿、特にマコトとはそれなりの友好関係。

・戦力差
 原作と比べてホシノが若干本気モードかつ、要塞陣地に加えてSRT1年生。加えて開幕指揮の中枢でもあるカヨコが戦闘不能かつ連れ去られたので無理ゲー。




■あとがき
 年の瀬となりました、皆様今年も拙作をお読みいただき誠にありがとうございます。最後の更新から少し間が空きました、とにかく年後半の多忙で忙殺されていました。その関係で下書きみたいなものは書けても添削とか諸々が追いつかず、結局年末休暇になっての更新となりました。

 来年こそはもう少し更新速度を上げていきたい所存。実際、書きたいところとかお見せしたい物語とかはたくさんあるんです。時間が欲しい。

 さて。アビドス編もそろそろ後半戦が見えてきます。当初20万字くらいでなんとかならんかとか思ってたんですが、後日談含めると25くらいは行きそう。
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