「結論から言うよ、社長。アビドスと敵対する依頼は今後全て断ったほうがいい」
便利屋68の面々がブラックマーケットの事務所へと戻り、一息ついた後。話を切り出してそう告げたのはカヨコだった。
彼女の眼は真剣そのものだったが、アル達としては詳しい委細について確認したい思いで居た。
「それは、カヨコ。あなたがあの……シャーレの先生と話した内容についてと関係があるのかしら?」
「あるね。まず、断ったほうがいい理由だけど。今のアビドスの戦力を見たでしょ。あれは、正直自治区の行政執行部隊でも無理だと思うよ。練度、装備、戦術。どれを取っても勝てない。風紀委員、ヒナ直属の精鋭部隊と本人を連れていければってレベルだと思うよ。 それから、先生と話して確認できたことがある。やっぱり向こうには不知火カヤが居る」
その言葉でアル達3人の表情が変わる。それは、焦りであり驚きだ。
不知火カヤ。その存在と敵対するということがどれだけ恐ろしいのかということを少なくともアル達も理解している。少なくとも、カヤ単騎で見ても便利屋で相手取れるとは到底思えない。
SRTの新入生ではあるが、あのFOX小隊が選んだという精鋭の一年生。並大抵ではないアビドス高校の戦力もそうだが、特にホシノの戦闘力。そこにシャーレからの支援に加えて要塞化されている陣地。そこに不知火カヤである。
どうやっても無理だろう。そう少なくともアルは判断していた。
「実はね、先生に正門での戦いの映像を少しだけ見せてもらったんだ。映像を見てよくわかったよ。SRTの生徒達とそれからあの最前線に出てきていた桃色の髪の盾持ちの生徒。この子達だけは別格だ。特に、盾持ちの子は多分一番ヤバイ。……それは、社長もなんとなくわかってるんじゃないの」
「それは……」
そう。アルは間近で見ている。ホシノの一切の容赦なしの威圧を。例えあの時は演技だったとしても、その威圧感は本物だ。
恐ろしかった。真正面からぶつけられる言葉と命を握られているような感覚。そんな中で自分は、仲間のことで憤り。相手を睨み返すことしか出来なかった。
「もし依頼のことで納得がいかないなら、わかりやすい言い方がある。 ――割に合わないよ、この依頼は」
正直な所、それがカヨコの本音でもあった。
割に合わないのだ。依頼主からのオーダーは、アビドス高校への襲撃。その上で何らかの成果。例えば、相手の戦力を削いだり、相手を壊滅させること。だがそれがオーダーなのだとしたら、あまりにも割に合わない。仮にシャーレの加入がなかったとしても、カヨコは桃色の髪の生徒。ホシノの威圧感と戦い方を見て、それでも難しいと判断していた。
「今回の報酬の10倍、いや100倍積まれても割に合ってないよ。途方もない大金を積まれたとして、シャーレと。不知火カヤと戦える?客観的に自分達の戦力を冷静に分析して、その上でできることとできないことがある。それは、わかるよね」
「……ええ、わかるわ。私も本音で話すけど、あの戦力には私達ではどうやっても太刀打ちできないわ。それに、不知火カヤが居るとしたら尚更ね。 ……はぁ。残念だけど、今回は依頼失敗。傭兵もあれだけ雇っちゃったし、完全に大赤字ね」
「社長、話は終わってないよ。言ったでしょ、マイナスにはなってないって」
その言葉に対して、アルも。そして近くで聞いているハルカやムツキもどういうことだ、というような顔をしている。結果から見れば依頼は失敗、大赤字の損失は間違いなく。当面の間は自分達は食費にも困る状況で、事務所の維持費も厳しいのだ。
「社長。前に言ってたよね。 私達はアウトローだから、どんな相手からの依頼も報酬次第でスマートにこなす、って」
「それは、確かに言ったわね」
「その言葉に偽りはない?」
「無いに決まってるわ!報酬次第でどんな依頼もスマートに成功させる。それが私達の目指すアウトローでハードボイルドというものだもの!」
ふふん、と。ドヤ顔で言い切ったアルに対してカヨコは不敵な笑みを浮かべた。それを見たムツキは『あー、なんかカヨコちゃん悪い顔してるなー……』と思ったという。
「じゃあちょっとこれを見てくれる?」
「何かしら。って……タブレット端末?にしては分厚い上にフレームにラバー加工までされてるけど……」
「うっわ!?カ、カヨコちゃんそれ明らかに軍事作戦用の特殊端末だよね!?でも、なんか見たことないデザインのような……ん?なんか裏面にロゴがない? ――連邦生徒会!?」
「ど、どうしてカヨコ課長が連邦生徒会の端末を……ま、まさか。本当の姿は連邦生徒会からのスパイだったんですか!?」
『そんなわけないでしょ、ハルカ』。とため息を付いて。カヨコは画面を見えるように、テーブルの上に置いた。
情報量の多さに完全にフリーズしているアルを他所に。カヨコは言った。
「秘密保持とか色々規約はあるけど報酬は今回の襲撃の依頼よりも遥かに多い。加えて、成果次第で追加報酬や引き続きの依頼もあるし、依頼遂行にあたり物資の支給もある。 ――連邦生徒会の防衛室から、私達便利屋68に正式な依頼の提案があったと言ったらどうする?」
数秒の沈黙の後。アルはすぅ、と息を吸って。
「なななな、なっ、何ですってーーーーーーー!!!???」
そう叫んでしまったが、それは無理のないことだろう。
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「そっか、後数日はかかるんだね。わかったよ、カヤ」
『申し訳ありません、先生。……それから、便利屋68についての采配、ありがとうございました。ああいった自由に動けて、そこそこ実力がある生徒というのは私も協力者として欲しかったのです』
便利屋68への防衛室からの秘密裏な依頼をしたのはカヤだったが、その提案をしたのは先生だった。先生としては、正門での戦闘風景やカヨコとの会話から彼女達が優秀であることは見抜いていた。そして、様々な価値観や風習に囚われず多くの自治区で活動可能な人材であると判断していた。
そうして、先生はそういった人材をカヤが欲していることも知っていた。いくら今回同行しているミヤコ達や本部で依頼と、別の頼み事をお願いしているFOX小隊が調査・戦闘・特殊作戦などあらゆる面で優秀であると言っても所属はシャーレだ。彼女達はシャーレとして動く限り、そのシャーレという制約に縛られる。自治区への介入は、即ちその自治区の上層部にも知られるということになる。
だからこそカヤは欲していた。シャーレの部員としてでなく活動可能で、情報を集められる人材を。そうして、有事の際にあらゆる制約に囚われず動くことの出来る人材を。便利屋68はその全てを満たしていた。加えて、そういった優秀な人材はいくらでも欲しいとも思っていた。
彼女達は報酬次第で大抵のことはやってくれるのだという。ならば、先生の提案通り囲い込んでしまえばいい。彼女達が要注意生徒としてピックアップされているのはゲヘナだけである。連邦生徒会のデータベースにも載っているが、それを確認できるのはシャーレの権限のある部員か連邦生徒会の人間だけである。
だからカヤは、あることを調べて欲しいという依頼を防衛室からの依頼ということで提案した。それはフットワークの軽い、彼女達にうってつけの任務だったのだから。
「私としても、便利屋の皆は優秀な子達だなと思ったからね。 ……ところで、カヤ。カヨコとは知り合いだったりするの?」
『カヨコさんですか。……そうですね、顔見知り程度ですが昔関わることがあったので。まさか、便利屋になっているとは思いませんでしたが』
カヤはカヨコを知っている。というのも、数年前にあるゲヘナの一件で顔を合わせていたからだ。その頃の彼女は、改まった場に居る生徒といった認識だったが。先生から送られてきた映像や、聞かされた話から今の彼女のほうがずっといい顔をしているなと思った。
『こんな形でまたお会いするなんて思いませんでしたが。 ……さて先生、色々とご報告すべきお話があります』
「それは、シャーレとして?それとも」
『大変言いにくいんですが、両方です。状況は芳しくなく、どうにも嫌な感じがするんです。ですが、最悪の中にも希望はある、といったところでしょうか』
はぁ、と。電話先のカヤがため息を付いた。
その直後先生のシッテムの箱に送られてくるのは、幾つかの報告書と資料だった。
『状況の話からしましょう。まず、アビドス自治区の現状についてですが……土地の地権の8割をカイザーコーポレーションが保有していることが裏取りを含めて判明しました。現在、カイザーの持ち物でない土地はアビドス高校と、アビドス中央市街地の中央区、それから小区画の砂漠地帯と旧オアシスのみです』
「……なるほど。残りの2割は?」
『これについては、まだ調査中で。しかも私も何故そうなっているのかわかりませんが……。もう2割の保有者はセイント・ネフティス社。ノノミさんのご実家です』
「どうしてノノミの実家が……カヤ、現時点でわかっていることは?」
『ある情報源から、ネフティスが保有している権利について、カイザーが買収を試みたことがあったようです。ですが、ネフティスは断固としてその話を受けようとしなかったそうです。そして、この保有する土地に関して、手放すつもりもないが干渉するつもりもない。そういった姿勢を取っているようです』
「どういうことだろう。大半の土地を持つカイザーからの取引を断り続けて、でも特にその土地で何かをするわけでもなく保有を続けている? いや、待って……その保有している土地に人は?」
『先生、恐らくお察しのとおりです。ネフティスが保有しているのは、現在アビドス自治区においてまだ住民が残っている区画です。また、市街地区画の他には旧オアシスや一部の砂漠地帯が保有区画となっています。加えて、土地の扱いはアビドスとされています。ただ妙なのは、土地の保有者はネフティスの社長ではありません。限りなくトップに近く、事実上社長とともに経営を担っている理事長。その人物が土地を保有していることがわかりました』
「……このことについて、ノノミは知ってると思う?」
『恐らく知らないと思います。私もこの情報を手に入れたのは、まあかなり秘密裏というか。普通のルートではありませんので。どんな意図があるのかはわかりません。ですが、状況だけ見ればネフティス。この理事長はアビドスの敵ではないように思えます』
わからないことだらけだ。だが、ネフティスがその姿勢を取り続けている限り、アビドスに対して優位に働くのも事実だろう。アビドス高校以外すべての土地がカイザーに買収されている場合、定例会議で出た資源調査などが難しくなる。だが、一部とはいえ砂漠地帯やオアシス。加えて住民の居る市街地の権利がアビドス側にあるとすれば、全く問題なくミレニアムとも提携することが出来る。
「今のこの事態を、その人は予測していた?どこまでを? もし、全部だとしたら……いや、そもそもそうだとしたらいつから? 一体、何者なんだその理事長って人は」
『わかりません。私も、底が知れない人物だと思いました。……ともあれ、この方は敵ではないと考えていいでしょう。実は、こんなものが送られてきまして。信じ難いのですが、別件でネフティスについてFOX小隊が調べている所、SRTの特殊回線を突破してこれが送られてきました』
その言葉に対して先生は思わず驚愕した。FOX小隊が使用している特殊回線は、その分野に詳しくない自分でも尋常ではないと感じるほどに強固なセキュリティが施されたものだと記憶していたからだ。
現在、FOX小隊は自身の頼み事で別の自治区に対しても動いてもらっている。彼女達はこのキヴォトスにおいてもトップレベルの実力者であり、特殊作戦においてのプロでもある。正直に言ってしまえば、先生もカヤも彼女達の扱うセキュリティを突破されたり、行動を察知するのはそれこそ今は敵対する理由もなく友好関係にあるミレニアム。そのトップであるリオやヒマリレベルでなければ不可能だと判断していた。
具体的にはアロナが若干引くレベルでのセキュリティ。それが突破された。それは、少なくない動揺を先生とカヤへ与えていた。
「ちょっと信じれないけど、確認するよ。 これは……!? ――なるほど。わかったよ。 私は、このメッセージを信じてみることにする」
『……では、動きますか?』
「そうだね。今の話は全部秘密にして、アビドスのみんなと相談の上で……ミレニアムとの協定を進めていいと思う」
カヤから送られてきたのは、あるデータメッセージと画像だった。
そこには、
――『お嬢様を、よろしくお願いします』
そのメッセージに添えられていたのは、幼さの残るノノミと、もう一人。執事服のようなものを着た、長身、隻眼の人狼のような人物の写る写真だった。
・アビドス陣営ととその裏で動く存在
原作と比べて、かなりアビドス陣営は安定しています。先生とシャーレの介入によってというのもありますが、ミレニアム側が乗り気なのと、ネフティスの一部が裏で動いているのもあって、カイザーが直ぐにはアビドスに対して詰みの状況を作れない状態です。ですがカイザーもそれで終わるわけもなく今後どうなるんでしょうか。
・カヤちゃん、人材マニア
防衛室は万年人手不足。キヴォトス全土から送られてくる連邦生徒会案件、それも荒事から災害関係まで諸々の処理をしながら時には最前線に赴くこともあるため要求される人材の敷居はかなり高い。そんな事情もあって人手はいつも足りてないので、カヤは優秀な人材を見つけたらすぐ捕まえようとする。リリィはそれで人材ハンティングされた。
・ネフティスの偉い人
FOX小隊の秘匿回線突破するすごい人。キヴォトスの一般市民同様、動物の姿(人狼)。ヘイロー持ちではないがスーパーキヴォトス一般市民。理事代表の傍らノノミの教育係兼お付きのようなことをしていた。現在は親元を離れているノノミのことをいつも気にかけているとかなんとか。イメージはゼンゼロのライカンさん。