「なるほどなァ……俺等の見通しがちょっと甘かったか」
屋敷の中へと通された後、先生とカヤ、ホシノは応接間へと通された。流石に全員、という訳にはいかなかったため、ミヤコ達は屋敷内を灰色兎の部下に案内してもらったり、敷地内にあるという『工房』を見せてもらうこととなった。
事情を先生より聞いた屋敷の主、灰色兎は巨体の前で腕を組むと苦い顔をした後ため息を付いた。
カヤは『信用していい』と言ったため、先生とホシノはすべてを話した。今のアビドスの状況、アビドスに存在する莫大な借金に、現在ミレニアムと協力しようとしていることを。
「どこから手を付けるか……そうだな、まずこれは俺等の個人的な意見だ。まあ、そういうつもりで聞いてくれや」
「是非、お願いします」
「まずそうだな、アビドスの復興に向けた事業と言ったか。ミレニアムとの提携、これは至急やったほうがいい。単純にアビドスの防御体制を一変出来るからだ。まあ確かに、アビドスの人間からすれば余所者は信用できないかもしれねえが相手がミレニアムなのであれば信用してもいいと思うぜ。それに、セミナーの役員二人からは言質を取ったんだろう?なら問題はねぇ」
「中立のシャーレとしての懸念点は、現状としてあまり力のないアビドス高校に対して、ミレニアムが提携を理由として介入してくる可能性は考えましたが……」
「ミレニアムならそれはねえな。それに、もし問題アリならカヤの嬢ちゃんが反対したろうよ。ミレニアムってのは、学術や研究を重んじる自治区だ。そして同時に、契約やルール、規則といった決まり事には特に厳しくもある。それに反するということは、ミレニアムが最重要視する『理』に背くことになるからな。それに、今の向こうのトップと言えば……リオの嬢ちゃんだろ。あの子がアビドスと契約したとして、それを反故にしてなにかするなんてことは考えられねぇな」
「ミレニアムの現生徒会長とカヤが知り合い、というのは人伝で聞きましたが……カヤ、実際の所どうなの?」
話を振られたカヤは『まあ、問題ないですね』と一言返して。
「彼女と私は親しい友人同士ですが、リオさん……現ミレニアムの生徒会長は、仰るように規則と契約、何より秩序を重んじる人間です。正義感が強く、自治区のことを誰よりも考えている立派な人物ですよ。人間としても侵略なんてことをするような相手でもなければ、彼女の本質は合理主義と契約です。むしろ、アビドスと友好的な関係を取るほうがメリットが大きいと判断すると思いますよ」
「なるほどね……ホシノとしては、どう?ミレニアムと提携するって話は」
「まあ……本音を言うと複雑だし、まだ他の自治区を信じられないって気持ちは少しあるよ。でも、先生やシャーレのみんなのことは信用してる。ミレニアムから来てくれてる部員の二人だって、話してみた感じ悪い子には感じなかった。それに、カヤちゃんがそこまで言うってことはよっぽどな人物なんでしょ?」
「アビドスにとっての利益には必ずなる、そう断言できますね」
「……うへ。言い切っちゃうのか。わかったよ、ならおじさんもミレニアムを信じてみることにするよ」
第一の主題。アビドスとミレニアムの提携については、外部からのアドバイスも考慮した結果進めるという方向で話がまとまった。
続けて、というように灰色兎は『さて』と言って。
「そいじゃ次はデカい問題に取り掛かろうか。先生、あんたの話していた違法部品と、そしてアビドスの借金についてだ。加えて……アビドスの地権問題についてもだな」
その言葉に対してホシノは目を見開いたが、すぐ察したようにしてため息を付いた。『やっぱりバレていたのか』というようにして。
「先に断っておくが、俺等が地権について知ってるのは立場柄だ、恐らく知ってるだろう先生やカヤの嬢ちゃん達に聞いたわけじゃねぇ。それも踏まえて、俺等しか知らない情報も話す。なにせ、この問題はブラックマーケットの存続にも関わる問題だからな。 ――ちょいと今回の件は、かなり厄介なことになってる。そのつもりで聞いてくれ。特に、そこのホシノといったか、嬢ちゃんは特にだ」
「……どういうこと?」
ホシノの目が鋭くなった。相手が生ける伝説だろうと物怖じせず、その鋭利な刃物のような眼は灰色兎を見つめていた。
「ホシノの嬢ちゃんよお、あんた……知ってただろ?今のアビドスの地権情報について」
「ッ……。それは」
「俺等はブラックマーケットの頭張らせてもらってそこそこに長い。裏の人間だから知ってることもある。悪いが、今回は緊急事態だ。先生にも話させてもらうぞ」
ホシノは何か言いかけたが、すぐに目を閉じて。仕方ない、というように頷いた。
「先生も悪いが、この場の話は心に留めておいてくれ。他の子達には、ちょいと重すぎる話だ」
「……わかりました」
そいじゃ、と前置いて。
「違法パーツの流通と問題、その犯人は凡そ掴んでる。ほぼ間違いなくカイザー・コーポレーションだろうよ。そいで、アビドスの大半の地権を保有しているのもカイザーだ。だがな、奴等は攻めあぐねてる。その理由は幾つかあるが……大きな理由は、アビドスの地権を掌握しきれないことにある」
「……どういうこと?だって、アビドス高校と市街地、それから旧オアシスの一部の土地以外は全部カイザーが保有してる筈」
「その現在アビドス側の土地が、学校を除いて本来の保有者はセイント・ネフティス社であり、ネフティスが秘密裏に所有権をアビドス高校に書き換えていた、としてもか?」
唖然とした。なんだそれは。そんなこと、初めて知った。
今、アビドス高校が保有している土地は元々はネフティスが保有していた?では、何故?
ネフティスはアビドスから撤退したはずだ。なのに、どうしてそんなことをするのか。
「なんでネフティスがそんなことをしたのか、なんてのはわからねぇ。だが、結果としてそのお陰でアビドスは守られている。カイザーだって、表立っては真っ当な方法で土地を手に入れている以上『理』には逆らえない。もし、不法に市街地やアビドス高校に侵攻した場合、それはそれに反することになる。そんなことをすれば、
カイザーが手をこまねいている理由の1つはこれだった。アビドスの地権を完全掌握できない以上、無理には動けない。ましてや、仮にアビドス高校の対策委員会が正式な部活動でなかったとしても、ネフティスが保有している土地の権利を理由にして侵攻を阻止できる。
莫大な広さの土地の保有するのはカイザーだ。だが、ネフティスはその中でも確実にカイザーにとって致命傷となる部分を的確に射抜いていた。そうしてそれは、かつてノノミの執事であり。ボディガードを務めていた、ネフティスのトップの一人がその事態を読み切って仕掛けた防衛策でもあった。
かつて。その子供らしい笑顔と想いに心を救われた。計算高き狼の、せめてものアビドスという土地への手向けだった。
「本当、恐ろしい男だぜ。セイント・ネフティス社、理事長の計算高き人狼サンはよ。あいつは敵にしたくねぇな。頭の出来じゃ絶対に勝てねぇな」
まるで今の現状、そうなることを予測していたような対応に根回し。徹底した隠蔽。相変わらず現状追い込まれてているのはアビドス高校だが、もし起死回生の一手があれば。逆にカイザーを食い殺せる。それこそ、神を屠る魔狼のように。
そうして、今の状況だからこそできることがある。
「話を戻そうかね。今の状況で打てる一手、それがミレニアムとの提携だ。アビドスは現状、アビドス高校以外に市街地・旧オアシス・砂漠郊外の一部の土地を保有している。これがもし、全ての土地がカイザーに取られていたら提携は不可能だったが、アビドスとしての土地が残っているならそうじゃねえ。――ここから反撃できるぞ、それはカヤの嬢ちゃんもそうすべきと思っていたことだろう」
強く、カヤが頷いた。
そう、アビドスの反撃はここから始まる。始めることが出来るのだ。
「恐らくはカイザーが考えてたシナリオは、復興という名目でかなり前からアビドスに対して圧力をかけて、借金をさせ。そしてその借金のカタとして土地を奪うことだったんだろうよ。何故アビドスの土地を狙っているのか、というのはわからねえ。今回のようにミレニアムと同じで研究価値を見出したとか、投資のためという訳でも無いだろうよ。何かのためにアビドスを手に入れようとしているのは明白だったが、それがネフティスによって阻まれた。さて、この状況から出来る反撃の手段として……俺等も、悪い大人らしい手段を取らせてもらおうと思う」
そうして。灰色兎は和装のポケットにあったスマホを取り出すと、何やら連絡を行った。
「……ああ、俺等だ。例の件、動いてくれや。そうだ、揺すれば20%は取れるだろうよ」
何やら不穏なワードを話した後、電話を切った。
「なあ、ホシノの嬢ちゃん。取引しねぇか」
「取引?一体何の……」
「カイザーの保有しているアビドスの土地、その内2割以上を俺等がぶん取ることになると思うんだがな」
「なっ!?い、一体どうやって!?そもそも、そんなことをして何のメリットが――」
「あるんだよ、だから取引をしたい。恐らくこのまま行けば、資源関係の利権はアビドスとミレニアムの両校が実権を握ることになるだろうよ。技術ではミレニアムには敵わねぇ。だから俺等は、別の事業に目をつけようと思ってな? 今回の件が片付いた暁には、アビドスの観光事業と地元事業に産業をウチの組の傘下……ああ、勿論真っ当な企業だから安心してくれ。そこに噛ませてほしいのよ」
彼は任侠を重んじる善性な人物である。そして今回、灰色兎は協力してくれているがその全てが慈善事業という訳ではない。当然、彼としても目算あっての提案だった。
アビドスの現状、ミレニアムとアビドスの提携による資源調査から今後注目されるだろうと踏んだ将来性、ならば今後、もしアビドスがいい方向に傾いた場合、手を伸ばす企業や自治区は出てくるかも知れない。
自治区については問題ないだろう。ミレニアムが牽制すれば、まず並大抵の自治区は手を出せない。だが、企業がフリーだ。彼としての良心の目線から言えば、このまま改善へと向かってもまたカイザーと同じように悪い考えを持つ企業が出る可能性もある。利益的に考えるなら、今のうちに手を付けてお互いに利益がある関係を取っておけば、今後企業は手を出しにくくなるだろうし自分達は利益を取ることも出来る。
「理由は2つだ。打算と、それから個人的な親心ってやつだ」
「……それは?」
「打算としては、投資しても間違いなく元が取れるし利益にもつながると確信しているからだ。親心としては、まあ……ブラックマーケットが抱える問題が関わってくるな。此処はな、いろんな生徒サンが流れ着いてくる。その中にはやむを得ず流れてきた子も居る。此処は無法地帯、ブラックマーケットだ。明日の食い扶持なんてのは、結局のところ自分で探さなきゃなんねぇ。だが、戦うことが苦手だったり荒事が好きじゃない生徒サンも当然居る。逆に言えば、そういった生徒サンは真っ当な仕事に向いていたりする。要するに、そういった此処で生きようとしている子達に居場所と仕事をやりてぇのよ。もしアビドスでの事業が成功すれば、その子達の生活ももっと豊かになるし、生きる余裕も出てくる。ウチの組としてもアガリが入ればそれはいいことだ。な?利益しかないだろう?」
要するに、人材の斡旋である。ブラックマーケットに住む生徒としては、将来性が見込める仕事にありつける。そして組としてはその利益が取れる。対してアビドスのメリットはなにかといえば、各種事業による自治区の復興。そして、もうひとつ大きな。可能性ではあるが、メリットが存在する。
「そしてもし、アビドスの現状がいい方向へと軌道に乗れば。アビドス高校の復興も出来るだろうよ。ウチの生徒サン達は、まあそれぞれ個性はある。いい子たちばかりだが色んな事情で学園を辞めている。もし、アビドスでの事業に携わって、アビドスがいい場所だと感じてくれれば……新しい、次世代のアビドス高校の生徒にだってなるかもしれねぇ」
結局のところ、自治区の力の強さとは一例として。生徒数イコール力なのだ。現状のアビドス高校は5名、次の世代。つまり、アヤネやセリカの次に続く世代が居なければ、アビドス高校は現状のままだろう。仮に、ホシノが卒業してOBという形でアビドス高校に携わっても、生徒数という問題が改善されないことには次世代に繋げないのだ。
その解決への糸口というのは、まさに理想であり。そして破格の取引でもあった。
「お節介でもう一つだ。これはまあ、取引には関係ねぇ。最終的には先生かカヤの嬢ちゃんに動いてもらうことになるだろうからな。 ……あんたらの借金の話だ」
「――どういうこと」
無視できない話題だった。現在のアビドスの借金は、9億近い莫大な金額である。それはずっと前からの生徒会から続いている問題でもあり、自分達が今必死になんとかしようとしている問題でもあったのだから。
■ネフティスの人狼さん
カイザーが地上げのようなことを始めた時、何かの狙いがあってそうしていいることは予測していた。将来的に今のアビドスのようになることも。最初は別の目的でカイザーを潰す予定だったが、ノノミがアビドスに進学したことで目的を変えた。
■次世代へと繋ぐ
結局のところ、借金問題が解決しても生徒数が増えなければアビドス高校の存続は難しい。現在のメンバーがOBとして関わっても現状維持のままである。なので次世代に繋ぐ必要があったのだが、ホシノにとって提案されたものはそれを可能にする破格の取引だった。
■ミレニアム
実はアクティブになったリオが『私が行くわ』と動こうとしたがトキに羽交い締めにされて止められた。結局、提携が結ばれた際にはセミナーとC&Cから一人づつ生徒を派遣することで折れたのだが、実は『ビジネスチャンス、超ビジネスチャンスじゃないですかぁ!私も行きますからね!』とお金大好き資本主義のとある部の部長も同行しようとした。リオと同じくトキに止められた。
■あとがき
まずはアンケートへのご協力、ありがとうございました。内容を拝見しましたが、最終的に模擬戦と休日の話がほぼ同票でした。なので、
両方の幕間を挟む……?できらぁ!
という結論になりました。正直予想外です。大絶賛お蔵入りファイルの山から引っ張り出して加筆中。
流れとしては、今のブラックマーケットの話が落ち着いてから模擬戦→休日という流れを想定しています。休日の話はアレです、アビドス編の休日話といえばホシノの大好きなあそこです。そこにRABBIT小隊達と遊びに行く感じの話の予定。