「本当に助けていただいてありがとうございます!」
学園の知人には内緒でブラックマーケットへと赴いて、その結果として下手をすれば不良に誘拐されていたという事態になっていたかもしれない少女。阿慈谷ヒフミは勢いよく頭を下げて、お礼を言った。
とにかくヒフミは驚いた。自分が大好きなモモフレンズ。そのレアグッズがブラックマーケットに流れたという情報を手に入れて足を運んでみたら、そこで助けられたのは他の自治区。しかも、ヒフミとしても珍しいと思う自治区の生徒だった。
アビドス自治区。かの自治区については、ヒフミもよくは知らない。かつてキヴォトスにおいてトップクラスの力を持っていた自治区であり、現在はその規模は縮小。あまり他の自治区とは関わり合いにならないようで、最近の情勢など全く知らなかった。
助けてくれたのはその自治区の学園に所属する生徒だ。そして、最近話題になっているシャーレ。まさかシャーレとこのような場所で遭遇するとは思わず、しかも助けてくれたのはキヴォトスでは知らない存在が居ないほどの相手。不知火カヤと、自分でもその名前を知っているSRT。エリート校の生徒だった。
「いや~でも驚いたよ。まさかブラックマーケットでトリニティの生徒さんを見ることになるなんてね~。割と無法地帯だし危ないところだけど、どうしてここに?」
「え、えーっと……実は探し物がありまして。ただ、限定品と言いますか……もう販売されてないもので。でも、最近ブラックマーケットにそれが流れたという情報を入手して……」
ホシノが問いかければ、ヒフミは目を泳がせながら答えた。『探し物?』と、ホシノが首を傾げれば、ヒフミは苦笑いしながらスマホを取り出してある写真をみせた。
「えーっと……これは?お、おじさん最近の流行りはよくわかんないなぁ……」
「これはペロロ様です!実は100体しか生産されなかったという、『アイスを食べるペロロ様ぬいぐるみ』がブラックマーケットに流れたという情報を得たんです!」
ホシノは思う。確かに自分は最近のこういった流行りには疎いが、最近はこういう、なんといえばいいのか。奇抜なものが流行っているのかと。思わず『う、うへー……そうなんだねー……』としか言えなかった。少なくとも、ホシノからはその画像のぬいぐるみが、無理やりアイスを口に詰め込まれ、目が飛び出てあらぬ方向を向いている変な鳥にしか見えなかったからだ。
「ふむ……モモフレンズですか」
スマホの写真へと視線を向け、そう呟いたのはカヤだ。思わずホシノはカヤを見た。それはどうやらSRTの生徒たちも同様だったようで、少し驚いたようにカヤを見ていた。彼女たちからしても、これが最近の流行りだとは到底思えなかったからだ。だが、ヒフミの見せた写真のSNSの画像はなんと5000以上の拡散に、二万以上の『グッド!』のマークが押されている。それだけ知名度があるのだということだけは理解できた。
「ご、ご存知なんですか不知火防衛室長!?」
「ええ、私もまたモモフレンズをこよなく愛する一人ですから。後、今の私は室長じゃないですし、もっと気軽に呼んでくれると助かります」
「ご、ごめんなさいええっと……不知火先輩?あの、ちなみにどのキャラクターが好きだとかは……」
「私はウェーブキャット推しですね。実は、私も後輩……今の室長代理にモモフレンズを勧められてそれでハマったんですよ。わかります、わかりますよヒフミさん……モモフレンズの、しかも推しの限定グッズともなれば、なんとしてでも手に入れたいですよね……!」
「わかっていただけますか不知火先輩……!」
うんうん、と二人は頷いているがそれを見ているアビドスの面々やRABBIT小隊の面々からすればなんともいえない表情をしていた。今回、ドローンを介して状況を見ているアヤネとモエも複雑そうな表情である。ノノミだけはどうやら彼女もモモフレンズファンのようで、同意するように頷いていたが。
「こんなところで同好の士に出会えるとは思いませんでした。……ヒフミさんはペロロ推しでしたね。ならば、これをお見せしましょう」
「はわわわわわ!?そ、それはッ……!五段重ねアイスを手にしながらスキップするペロロ様ぬいぐるみ!?な、なぜそれを……確かそれは、10体しか制作されず、しかも非売品で出回ることは未だに一度もない伝説の超レアグッズ……!」
「実は、私もあるグッズを探しているんです。安全帽子をかぶった、『ヨシ!』という感じの顔をした現場ウェーブキャット巨大ロングぬいぐるみなのですが、中々見つからず……。もしあれが手に入るなら、この写真のペロロぬいぐるみをトレードに出してもいいと思うくらいには欲しているのです。噂では、トリニティに全部で10体あるうちの1体が流れたと聞いているのですが、見つからずでして……」
「うーん……私もトリニティでは、それが流れたという話も聞いたことがありませんね……。もしかしたら、先輩と同じくウェーブキャット推しの人に大切にされているのかもしれませんよ」
「それならそれでいいのです。推しを大切にしてくれるというのは、同じ推しを持つ者として喜ばしい限りです。無論私も、モモフレンズは大好きなのでこのペロロぬいぐるみは大切にしていますよ。今はシャーレに出向中ですが、D.Uにある自宅で毎朝モモフレンズのぬいぐるみが並ぶ光景を見れば、その日のやる気も出るというものです。 ……そうだ、これなんてどうですか?」
そうしてカヤがスマホをスワイプさせて別の写真を見せる。すると、ヒフミが一歩後ろに下がるほどに驚くと、再び食い入るようにしてその写真を見た。
「こ、これは……!まさか自作ですかこれ!?」
「はい、防衛室の手先の器用な人員……うちの副室長が趣味で作ったらしい、1/50スケール、フェニックスペロロSPEC2のレジンアート。『劇場版モモフレンズ ペロロ、虹の彼方に』の名シーンを再現したものです。あまりの完成度の高さと凄さに、特殊防弾ガラスケースに入れて防衛室に飾ってあるんですよ」
「はわわわわわわわ……!あの映画の、質量のある残像を大量に展開して相手を撃破するシーンは最高でした……!防衛室……まさかモモフレンズファンの楽園……?」
「実際、モモフレンズ好きは多いですねウチは。ふふ、万年人手不足なので同好の士であるヒフミさんならばいつでも歓迎しますよ?まあ、そうでなくともオフィスまで来てくだされば防衛室の人員が趣味で作った諸々を置いてある展示室をお見せしますので、是非機会があれば来てください」
なお、この時ヒフミは最終的に冷静になったものの『防衛室……いいところなのかもしれない……』と思ったという。そして余談ではあるが、未来で彼女が『防衛室っていいところなんですよ!』と、とある『お友達』に言ってしまい、そのお友達の心情がズタズタに乱されるのは別の話である。
「多分ですが、ヒフミさんの探しているものはこのお店に行けば見つかると思います。 ……モモフレンズのことについて色々と語り合いたい気持ちはありますが、ひとまずこれくらいにして」
ヒフミへとカヤは何か場所の書かれたメモを渡すと、コホンと咳払いをした。
「立場上一応言わないといけないので言いますね。……今トリニティは色々面倒な事になっていると思います。そんな中、生徒として無防備な状態でブラックマーケットをうろつくのはあまり褒められたものではありませんよ?」
「う……ご、ごめんなさい」
「立場上言っただけですよ、シャーレ所属とはいえ防衛室の人間がこういった事態になって注意喚起もなしじゃアレですから。ただ、一人で歩くのは本当にいただけませんよ?今後は、ご友人と一緒に歩かれるのをおすすめします。ひとまず、今日はよければ私達が同行しましょうか?」
突然の提案にヒフミは目を見開いて驚いた。それはそうだろう。相手は不知火カヤ、キヴォトスにおける有名な相手であり、しかも彼女が同行するということは必然的にSRTの生徒やアビドスの生徒も同行するということになる。
「い、いえそんな申し訳ないですよ!」
「でも、お連れの方は居ないんですよね?流石に一人で引き続き歩くのはオススメしませんよ。いくらブラックマーケットには独自の治安組織があるとはいえ、無法地帯であることには変わりありませんから。……そうだ、ではこうしましょう。ヒフミさんの探し物や買い物を手伝うので、私達のことも手伝ってもらえませんか?」
「探し物、ですか?助けていただいた御恩もありますし、私で力になれることでしたら協力します!」
◆ ◆ ◆
「違法武器についての噂話、ですか? ……うーん。知っていると言えば、知っています」
シャーレ一行の目的である、違法武器の調査とヒフミの探し物と買い物。そのために歩きながら、カヤはヒフミと雑談な感覚でトリニティ方面における噂話について聞いていた。
連邦生徒会やシャーレには、日々莫大な情報が入ってくる。だが、その情報は全てというわけではない。信憑性の低い情報や未確認情報については、多くは流れてこないのが実情であり。特に、噂話のような生徒の間で話されるようなことは、その自治区の人間でなければ知っていないことが多い。
だからカヤはそういった噂話をヒフミに聞いてみたが、それは大当たりだった。
「シャーレの皆さんやアビドスの方々だからお話しますが、実は私。ええっと……ティーパーティーに知り合いが居まして」
「それ、話して大丈夫なやつですか?ティーパーティー、つまるところトリニティの生徒会が関わることでしたら、自治区の重要案件の可能性もありますし話さなくても大丈夫ですよ」
「ああ、いえ。そんな大げさな話ではなくて、本当にただの噂話ですから大丈夫です。結構たくさんの生徒も知っているみたいですし」
「ふむ……なら、お聞かせいただいても?」
「実は、さっき話されていた違法武器というのはトリニティでも噂というか……問題になっているんです。違法弾頭を使用可能で、高威力。でも、暴発などの発生で使用者にも怪我を負わせるというもので、それを使用した不良生徒が問題を起こすというのが多発していたんです」
カヤは内心で舌打ちした。ヒフミの話から、どうやら違法武器の流通は既に多方面の自治区に流れているのは間違いないだろう。ブラックマーケットを中心として、姿の見えない何者かが各自地区に違法武器や兵器を流通させている。
となると、これは放置できない問題である。この件については、連邦生徒会の役員と、代行であるリン。そして、防衛室の副長であるリリィへと報告すべき案件だと思い、事態はあまりよくないものだとも考える。
「でも今のところ、その違法武器が原因で大きな事件が発生したりということはまだないんです。というのも、ある生徒が不良生徒を片っ端に制圧しているからです。制圧した生徒が受けるちょっと変わった『お仕置き』から不良生徒の間では、その生徒がある意味恐怖の代名詞になっているみたいで、犯罪率が下がったという話も聞くくらいで」
「……もしかして、守月スズミさんではありませんか?」
「ご存知なんですか!?」
「ええ、まあ。私の後輩繋がりと言いますか、未来のホープと言いますか」
守月スズミ。それは、カヤも知っている名前である。現在の防衛室長代理であるリリィの親友にして、カヤの見立てでは、ワカモにも並ぶあらゆる戦況に対応でき、指揮能力持ちの極めて有能な生徒である。
スズミの生い立ちを知っているからこそ言えることだが、確かに彼女の実力なら正直並大抵の生徒では太刀打ちできない。それこそ、数を揃えようとも無意味だ。戦況の不利を彼女は技能や戦術でひっくり返してしまう。
なお。彼女の行う『お仕置き』だが、カヤも知っている。そして防衛室長代理のリリィは、昔やんちゃをして親友からそれを受けたらしいのだが、そのことを聞こうとするとガタガタと震え、仕事が手につかなくなるほどに怯えていたのだがそこまでのものだろうかとカヤは思った。スズミ曰く、『ただいい音楽を聴いて心を入れ替えたり反省してほしいだけ』とのことらしいが。
「……? ええっと、とにかく彼女のお陰で、最近では違法武器の噂は聞きますが犯罪率は逆に下がり傾向らしくて」
「まあ、彼女が居ればそうなりますね。ところで、その違法武器の案件について自治区の正規部隊。トリニティなら正義実現委員会などは動いたりは?あー……噂の範囲でいいですよ」
「その、これも噂ですし私もよく知らないんですが。……大きく動くことはない、らしくて」
「なるほど。……まあ、時期が時期ですからね」
それ以上ヒフミは語らなかったが、カヤとしては察しはついた。恐らく、エデン条約が関係しているだろうと。
現在、トリニティはかなり不安定な状態にある。それは、失踪した連邦生徒会長が残していた『エデン条約』という存在が理由でもあるが、カヤは知っている。それとは別で理由があることを。
それに関係するのは自分の後継者として目をかけている後輩であるリリィだ。ハッキリ言ってしまえば、彼女に対してトリニティが残してしまった傷は、カヤも重く見ていた。連邦生徒会防衛室の役員という立場としても、一人の先輩としての立場にしても。トリニティのやったこと、正確には起こしてしまったことは許しがたいことでもあったのだから。
エデン条約、そして。真実を知るからこそ言えることだが、『トリニティ、そしてアリウスの真の統率者』に見限られたこと。それによってトリニティは現在、世代交代したティーパーティーや現在のシスターフッド、救護騎士団によってなんとか保たれているものの不安定な状態だった。
……対して。ゲヘナはといえば、犯罪率は依然高いものの、その中枢である統制機関。万魔殿や風紀委員会は堅牢に機能していた。それは、普段道化を装っているが、現在の実質的なゲヘナの支配者であるマコトの手腕が大きかった。
間違いなく、『エデン条約』は一悶着あるだろうとカヤは考えていた。頭の痛い話であるし、そうなった時間違いなくリリィはその騒動の重要な立ち位置になる可能性が高い。本当のことを言えば、もう彼女をトリニティには関わらせたくないと思っているのだ。
はぁ、と。内心でため息をついていた時だ。
「……ん。カヤ先輩、あれ見て」
「どうしましたかシロコさ―― 全員伏せて、静かに」
近くの物陰や茂みへとそれぞれが身を隠す。そして、その視線の先には。
「……あれって、いつもウチに来てる集金車、だよね?」
ホシノがそんなことを呟いた。
■カヤのモモフレンズ推し
副室長と同じウェーブキャットが推し。極稀にあるかないかというレベルでの丸一日休暇は自室で巨大抱き枕ウェーブキャットをもふもふしながら本を読んだりしている。
■ヒフミ
防衛室にモモフレンズファンが多いせいで割と本気で興味を持ってしまった。後に度々防衛室に楽しそうに向かう(展示室の見学やモモフレンズトークをしに行ってるだけ)姿が目撃される。
■ティーパーティーのとある生徒
後にヒフミによって心情が滅茶苦茶乱されることになる。未だにリリィの件を引きずっている。連邦生徒会と話してリリィと会う場を作って謝ろうとしているが全て断られている。
■マコト
拙作では超有能でカヤとは友人兼協力者。『雷帝』騒動の時に色々とあった。普段はふざけたような態度で道化を装っているが真面目モードになるとゲヘナの支配者になる。それはそれとしてリリィのゲヘナ転入について歓迎すると同時に胃を痛めている。
■トリニティの心をズタボロにされて曇った生徒達
現在の生徒会トップに各機関幹部に治安維持機関上層部と大打撃。実はリリィはスズミ以外ではサクラコとはモモトークで連絡を取り合っている。
■リリィ
友達の
本当は立場的にも血筋的にも才能的にもアリウスとトリニティの統率者にもなれた。尚本人は嫌がる様子。ゲヘナ所属になってからは仕事も学生生活も楽しそうな日々を謳歌している。
■あとがき
臨戦アリスとケイがやばかった。最新エピソード部分なんてまだ手を付けていないのですが脳内では絆パワーであと一歩まで追い込むも力尽きそうになった臨戦アリスとケイの前に
???「忘れるなよ小娘共。 ――それが勇気だッ!」
と黒い改造軍服みたいな服装に腰に帯剣して銃も持ってる愛と勇気と人の輝きが大好きな魔王みたいな生徒が援軍に現れる展開をイメージした。勝ち確である。