カヤちゃんが征く!   作:無名のカヤ推し

40 / 53
牡蠣にあたりました、地獄です。

地獄の中でも周年ガチャは回しました。アリスとケイのメモロビで多少回復しましたが地獄です。おのれ、許さん……許さんぞマルクトと陸八魔アル。

ちょっとだけ未来の話。原作で言うアコがやらかすあたりの話。


幕間:惜日の『空亡』

「――ふむ、大方問題なさそうですね」

 

 D.U地区にある連邦生徒会、防衛室が管理する研究開発所。その中に存在する装備をテストするための射撃施設には一人の少女の姿がある。

 

 濡烏のような黒と、真紅の長髪に同じような色合いの着物に近いと言っても差し支えのない改造制服にブーツ。一見知るものが見ればそこまで変わっていないようにも見えるが、以前のワカモと違っている点があった。

 

 彼女の素顔を知るものはほぼ皆無と言ってよかった。故に、彼女を判別する材料とでも言うのか、『災厄の狐』として認識されていたトレードマークでもあった狐の面は身につけておらず素顔のままで。そうして、その素顔の彼女は何かが吹っ切れたような。清々しい顔をしていた。

 

「しかし、確かに装備の調整をお願いはしましたけど……まさか新装備まで用意して下さるのは予想外でしたね。 ――とんでもない暴れ馬ですけど。でも、私は嫌いじゃありませんね、この子は」

 

 武装名、『白天狐』。白基調に黒いラインカラー、今回同時に改良が施された彼女の持つ『真紅の災厄』と対のカラーリングであり23口径という大口径のカスタムされた散弾銃。『真紅の災厄』でカバーしている中距離以上とは別、主に近接距離に対しての立ち回りを視野に入れた武器であり、近接戦もさることながら、室内戦などの閉所戦闘でもその能力を大いに発揮する。

 

 

 ワカモがカヤを通じて、先生からのシャーレの勧誘を受け。そうしてそれを承諾した後、カヤからワカモへ早速の依頼。というよりは、シャーレでの役職についての話があった。

 

 

 

 それが、『RABBIT小隊の教導官』である。

 

 

 RABBIT小隊。その存在はワカモも知っていた。FOX小隊の選抜した、彼女達の後継者とも言われる部隊にして、SRTの休校騒動の後、カヤやFOX小隊と共にシャーレに所属した部隊でもある。そんな少女達の教導を任せたいと言われたのだから、それはもう驚いた。

 

 しかしカヤとしても理由があった。まず第一に、ワカモの他人に対する教導の能力が常軌を逸していたということ。キヴォトスにおいていわばテロリストとして指名手配されていた頃の彼女の他人に対しての影響力。つまるところカリスマ性や人心掌握術、戦術指揮などの能力はとてつもなく高く、その頃からカヤも彼女のことを警戒していた。恐らく現場での教導という面においては、FOX小隊すら上回るだろうとさえ感じていたほどだ。

 

 第二に、今の現状では常にFOX小隊とRABBIT小隊を共に行動させるというのが難しいことだった。FOX小隊はキヴォトスにおいて最強の部隊の一つと言って差し支えなく、部隊長のユキノに至ってはカヤにも匹敵する実力者でもある。しかし、だからこそ彼女達にしか任せられないような任務もある。シャーレに所属してからはそれが顕著であり、RABBIT小隊とは別行動で任務に当たってもらうことも多い。

 

 基本的な基礎は既にRABBIT小隊は叩き込まれており、後は必要になるのは現場での経験という状態でもあった。しかし、現場での経験を積むにおいてそれをサポートする人間は必要になる。とはいうものの、FOX小隊はつきっきりになれない。カヤとて、別行動する場合がある。そこでワカモである。

 

 加えて、彼女自身の戦闘能力も極めて高い。恐らくカヤの見立てでは、FOX小隊でもユキノでなければ彼女は抑え込めない程に。一度シャーレ加入の承諾をしてから行った互いに純粋な戦闘技術と銃撃戦のみの全力の模擬戦においても、敗北しているもののユキノの息を切らせる程にまでは追い込んでいた。

 

 高い戦闘能力に、豊富な現場での経験。他人に対する常軌を逸している教導能力。それをカヤは高く評価したからこそ、願い出たのだ。 

 

 そうして。ワカモとて、それが嫌なわけではなかった。

 

 

「……また、後輩に何かを教えることになるとは。なんとも不思議な縁ですわね」

 

 

 そっと。テーブルの上に置かれた二丁の内、『真紅の災厄』に彼女は触れる。そこには、彼女の表情や心情の変化同様に今まで存在しなかったものが存在している。それは、紫色の花のアクセサリーだった。

 

 

 

    ――『身共もいつか、先輩のようなえりーとになりたいんですの!』

 

 

 

 かつての後輩から贈られたそれに触れてズキリ、と。心が痛んだ。

 

 だが、それでいいのだとも思う。これは自分が背負うべきで、向き合わなければならない痛みなのだと。自分は、どんな理由があれ、かつて大切にしていた後輩を傷つけ、拒絶し、遠ざけたのだから。

 

 奪われ、裏切られ、傷つけられ、蔑まれた。今は既に家とも絶縁状態で、学籍も自主退学という形を取ったが当時はその関係の重責もあった。そんな中起こった事件で、自分自身は壊れてしまった。

 

 人とは一度壊れると脆いもので、誰の声も自分には届いていなかったのだと思う。そうして自分は、また過ちを犯した。自分の味方になってくれていた大切な後輩に対して疑心暗鬼になり、信じきれず。傷つけ、否定してしまった。

 

 百鬼夜行を辞めてからの自分は世間の知る通りだった。素顔を隠し、破壊活動を繰り返し。かつて自分がそうされたように、不良やテロリストを扇動し利用したり。そこに善悪の区別はなく、ただ自分の行き場のない感情を吐き出すようにして破壊活動を繰り返した。

 

 その結末が、FOX小隊との戦いでの敗北。正確には、七度ユキノとの戦いでの敗北だった。そうして矯正局へ収監されたが、色々あり脱獄。最終的に防衛室所属の生徒としてシャーレに出向して今に至る。

 

 

 

「……ちゃんと、謝らないといけませんわね。でも、まだ心の整理が全部ついていなくて。もう少しだけ時間を下さいな。  ――ユカリさん」

 

 

 『先生』に心を奪われたのは間違いではなく。シャーレから伸ばされた手を取ったのは正しかったのだと思う。誰のものでもなく、自分自身の心としてそう言い切れる。もう一度他人(だれか)を信じてもいいと思わせてくれた。『先生』は自分と正面から向き合ってくれ、シャーレは自分を仲間として受け入れてくれた。そうして、この世界の『英雄』もまた、言い過ぎだとは思ったが『不知火カヤ(悪の敵)の名に誓って、あなたの味方です』とまで言い切った。

 

 百鬼夜行は嫌いだ。戻りたいとも思わない。家だって今後も自ら絶縁を続けるだろう。きっとこの先はかつてあの英雄の言っていたように『いや本当防衛室って万年人材不足で。このまま働きません?OBとして将来的には私と働きません?』という言葉通り、連邦生徒会で働くのも悪くないと思った。もしそうなれば、元テロリストが防衛室で働くなど中々に不思議なことになるだろうが。もっとも、あの部署には様々な。自分も驚くような経歴の持ち主が沢山居るのだが。現在の室長代理がいい例だろうと思った。

 

 

「ふふ……新しく自分を始めてみるのもいいかもしれませんね」

 

 『災厄の狐』というテロリストとしての自分はもう居ない。

 そうして、かつて『空亡』様と呼ばれていた自分ももう居ないのだ。

 

 ただのワカモ。狐坂ワカモとして、自分だけの道と自分の信じるものを見つけ、それを信ずるのもいいだろう。

 

『テスト中に失礼します、ワカモ先輩』

 

「む……どうされました?リリィさん」

 

 考え事に耽っていると、突然武装とともにテーブルの上に置いていたスマホが振動した。発信してきたのは、つい最近知り合ったこれまた後輩にあたる熾羽リリィ。現在の防衛室長代理にして、不知火カヤも認める後継者とも名高い防衛室のエリートの一人である。真面目で人懐っこく明るい性格。かつての後輩を思わせる素振りから、懐かしくもすぐ打ち解けられた生徒の一人である。

 

『ちょっと面倒なことというか想定外なことになりまして……今日、夕方にはアビドス自治区に向かわれる予定だったと思うのですが至急向かっていただくことは出来ますか?』

 

「装備は調整済みですし問題ないですわね。……面倒事ですか?何があったか伺っても?」

 

 通話を続けつつも、すぐにワカモはテーブルの上の装備一式を身に着け、いつでも動けるように準備を進めていく。

 

『まだ確定ではないんですが、ゲヘナの風紀委員会の部隊が不穏な動きを見せていると報告がありました。かなりの数、大部隊と言って差し支えのない数の生徒がアビドス自治区方面へと移動しているのが確認されました。パトロール、にしては不審過ぎます。このまま行くと、アビドスとの自治区境界線を通過することとなります』

 

「穏やかではないですね、それはつまるところ自治区間の協定違反ですわよ?境界線超えならば、今は力の大きくないアビドスに対してなら言い訳は通るかもしれませんがもし戦闘行為に発展などすれば――」

 

『はい、明確な他自治区に対しての侵略行為とも取れます。……そして残念ながら、報告にあった部隊の規模や装備からしてその可能性が高いと判断します』

 

「……なるほど、厄介事ですわね」

 

『連邦生徒会、及び防衛室は自治区間でのやり取りについてあまり口を挟めません。そうして現状がグレーラインである以上、執行部隊の派遣も厳しいです』

 

「アビドスにはシャーレが滞在していますが、恐らくはシャーレとアビドス高校がゲヘナ風紀委員と戦闘になる可能性が高い。そういうことですね?」

 

『お察しのとおりです。カヤ先輩やミヤコちゃん達……RABBIT小隊が敗北するとは思ってませんが、状況と数が数です。なので、先輩にも万一に備えて現地に向かって頂けないかと』

 

「状況は理解しました。今、お話しながらゲヘナの部隊よりも早く現地に到着できるルートも算出しましたわ。A型装備強襲ビークルであれば確実に到着できますわね」

 

『状況が状況です、有事用のA型兵装のビークルですが『シャーレの備品』ということで処理して手配します』

 

「迷惑をかけますね。……しかし、リリィさん」

 

『はい?どうしましたか』

 

 

 

 

「……もし戦闘になった場合。全員倒してしまっても構わないのでしょう?」

 

 

 

 電話先でリリィは戦慄すると同時、呆れたようにして溜息を吐いた。一見、俗に言うフラグのような台詞にも聞こえるがリリィには理解できる。この先輩には、それが可能なのだと。ましてや、『以前より強い』のならば尚の事だ。

 

『自治区間においての侵略行為に対して、防衛側の自治区が行使する武力は防衛行為としてみなされることが多いです。今回のケースであれば、アビドス高校の依頼を受けてアビドスで活動しているシャーレの部員はシャーレの規則に則りアビドスの戦力としても扱えます。そうして、先輩はシャーレの部員です。……やりすぎないように善処していただけると助かります』

 

「ふふっ……わかりましたわ、『善処』しますわ」

 

『本当にお願いしますね!?やりすぎるとボクにも仕事が飛んでくるんですよ!?い、今はただですら仕事が大変な時期なんですから行き過ぎた自治区間の抗争案件なんて来たらボク倒れますよ!?』

 

「安心して下さい、そうならないようにします」

 

『ぐ、具体的には』

 

「……ちょっとゲヘナの方とお話するだけですわよ?えぇ、それは穏便に。ちょっとカヤさんと私でお話してくるだけですわよ?」

 

『それは安心ですね。向こうの心情とか胃痛は知りませんが』

 

 この二人に『お話』されるとどうなるのか、リリィは察して思わず相手に同情した。そうして、そうなった場合間違いなくその案件が飛んでいくだろう万魔殿のマコトと風紀委員長のヒナにもだ。少なくとも、今回の件はヒナの指揮ではないとリリィは読んでいた。

 

 

「――新装備の実戦テストには丁度いい機会かもしれませんね。それに」

 

『それに?』

 

「私としても、早く先生やこれから教導するかわいい後輩達に会いたいので」

 

『あー見える。見えます、状況予測するまでもなくミヤコちゃん達がどんどん人外になっていく姿が想像できます不思議ですね!』

 

「ええ、FOX小隊に負けないほどの逸材になるように育ててみせますわよ?」

 

『FOX小隊の先輩たちにカヤ先輩、ワカモ先輩ってRABBIT小隊かなり英才教育じゃないですかね……。コホン、ともあれ』

 

 電話先で息を吸い、真面目な空気になるのを感じたワカモもまたそれまでの雑談ムードを中断して真剣な眼になる。

 

『状況については既にシャーレへも通達済みです。現状、グレーラインな以上シャーレも迂闊には動けません。ですが、もしもの場合シャーレの規則に則り、シャーレの部員としての行動の全を許可するとカヤ先輩、そして先生から通達を受けています。 ――ゲヘナ風紀委員会の大部隊、もしこれと戦闘に発展。自治区間の抗争における防衛戦に発展する場合相手を無力化、撃退して下さい』

 

「指令を受理致しました。それでは、現地に向かいますわね」

 

『心配は無用かと思いますが、ご武運を』

 

 通話が切れる。さて、とワカモは呟いて。

 

 

「惜日は済ませました。……これからは、未来(あした)へと進む番です」

 

 

 いつの日か、何もかも吹っ切れた自分が心の整理をつけてかつての後輩へと謝るために。そうして、シャーレの部員として、新しい仲間とともに歩んでいくために。口元に笑みを浮かべると、ワカモは訓練場を後にしてアビドスへと向かうことにした。

 

 




■【臨戦】ワカモ
 狐面を外した素顔ワカモ。実力は大体人物紹介ページの内容通りのスペック。『真紅の災厄』と新装備である『白天狐』を片手でそれぞれ器用に扱う。シャーレ御一行における武をユキノとするなら知はワカモ。助さん格さんポジの一人。黄門様はカヤちゃん。また、先生専属のボディガードとしての任務も務めている。ユキノ同様後輩に甘く世話焼き。

■ユカリ
 昔ワカモの最も可愛がっていた後輩だった。ある事件が原因でワカモが百鬼夜行を去ることとなり、それ以降絶縁になっている。ワカモとしては今となっては傷つけたし謝りたいと思っているが心の整理はつけたい模様。

■花鳥風月部のとある人物
 心が折られてボロボロになっていたワカモを一種の『怪異』として利用できないかと画策したが、その結果暴走したワカモにヘイロー破壊手前まで追い込まれるもののなんとか撤退に成功。後に、『あれは『怪異』などいう枠に収まらない存在』『(そら)であり、(から)の器でもある神に最も近い存在の一種』と一人ぼやいた。その空の器が満たされることがあれば、最早自分達では抗うことは許されないだろうとも感じた言う。

■あとがき
 拙作におけるワカモのモチーフは、『神に最も近い狐』と『空亡』。簡単に言えばトンデモ存在。とてつもなくヤバイ。下手したら百鬼夜行滅びてました。しかし同時に、途方もなく優秀だったこともあり百鬼夜行の統率者としても期待されていたし神聖視されていた。だが、ある事件が原因で姿を消し、自主退学。現在は色々吹っ切れたようで、心の整理をつけながら防衛室所属にしてシャーレの部員として楽しくやっている様子。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。