カヤちゃんが征く!   作:無名のカヤ推し

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SubStory:最果ての星は、誰か(笑顔)を守り抜くために 【中編】

 地獄を見た。

 

 紛れもないそこは、文字通りの地獄だった。

 

 そこには秩序も法も存在せず。恐怖と絶望、悲鳴が世界を支配していた。燃え盛る炎、それに身を焼かれながら藻掻く住民。建物だった残骸からは、生徒や住民の身体の一部が見えていた。赤い液体や、かつて生きていた。既に肉塊でしかない何かと共に。

 

 ほんの数時間前まで日常と穏やかな空気が流れていたそこは、一瞬で地獄に成り果てた。

 

 そうして。その地獄を創り出した張本人達は、さらなる地獄を創り出す。そこでは住民の、生徒のあらゆる尊厳が踏み躙られていた。まるで、玩具のように。ただ愉しむための演出のように。奪われ、嬲られ、吐き気がするほど邪悪な方法で生命が凌辱されていた。

 

 悲劇と地獄というのは無情であるからこそのものなのだ。救いの祈りは届かず、広がり続ける炎はあらゆる生命と希望を焼却する。本来あったはずの日常は融解し。祈りは届かず慟哭と共に生命は潰える。

 

 

 

 ある住民の子供は、首に爆弾をつけられて逃げる住民を追うように命令されていた。

 それをすれば、兄妹は見逃すと言われたのだ。

 

 爆弾は爆ぜ、子供と逃げる住民はただの物言わぬ肉塊となった。

 

 

 

 

 遊びにやってきた筈の生徒は、一緒に笑顔を向け合っていた友達と命の奪い合いをさせられていた。そこに笑顔はもうない。絶望したかのような顔で涙を流しながら、互いに銃を向けあった。

 

 勝った方を生き残らせてやる、そう言われたのだ。

 

 そうして片方のヘイローがその輝きを失う。残った方は、ただ涙を流しながら『ごめんなさい』と謝り続けた。

 

 それを見世物かのように見ていた者達は、ただ嗤っていた。そうして、約束を守る気などなく更なる地獄に生き残った方を突き落とした。

 

 

 

 

 

 ありとあらゆる、残酷な方法で生命の輝きが踏み躙られ、凌辱されていた。

 絶望は薪となる。燃え盛る炎海と更なる絶望(じごく)のために。

 

 

 

 

 

   ――そこは、紛れもなく地獄だった。

 

   ――その災禍はどこまでも悍ましく、底無しの絶望そのものだった。

 

 

 

 

 

 その地獄を自分はただ走った。生命を奪おうとする略奪者から逃げるために、一緒に逃げてきた住民や、小さな生徒達と。

 

 戦えるのは自分しか居なかった。恐怖で頭がおかしくなりそうになりながらも、ただ逃げた。

 

 中には怪我をしている住民や生徒も居た。そうして自分だって、無傷ではなかった。

 そんな状況で追いつかれるのは時間の問題だった。だから、意を決してある行動に出た。

 

 連邦生徒会の構築する防衛ラインまではもう一直線だった。しかし、追いつかれてしまえば全員おしまいだろう。道中見てきた。見てしまった、数々の末路やもっと恐ろしいものが待っているかもしれない。

 

 

 ……だから。自分は恐怖と絶望を押しのけて、行動に出た。

 

 

 戦えるのは自分だけだった。道中拾った、物言わぬ生徒だった何かの近くに落ちていたアサルトライフルとハンドガンではあるが武器を持つのは自分だけ。住民と小さな生徒を先に行かせて、自分はここで追跡者を迎撃することにしたのだ。

 

 なんでそんなことをしたのか、なんてのは当時わからなかった。

 

 恐ろしかったはずだ。逃げたかったはずだ。それでも――怪我をしている住民や、震えながら自分の手を握ってきた小さな生徒達。それを思い出すと、その選択だけはしたくないと不思議と思えた。

 

 住民に決意を告げ、小さな生徒の手を握り『お姉ちゃんは大丈夫、だから行って』と安心させるように微笑みながら告げる。本当は、自分だって怖くて仕方なかった筈なのに。それを悟られないように、精一杯の気持ちで伝えた。

 

 炎の海を、逆方向へと走る。横目に見えるのは、地獄の象徴。踏み躙られた生命だったもの。自分もああなるのかもしれない、そう思うと怖くて仕方なかった。それでも、自分は選択したのだ。逃げるのではなく、抗うことを。

 

 けれど、自分も手負いだった。利き腕からは血が流れており、激痛で意識も飛びそうだった。そんな状態で、この絶望(じごく)を創り出した相手に対抗できるはずもなく。僅か数刻で地を這うことになった。

 

 上から向けられるのは、複数の下卑た視線と愉しむかのような声。自分でどうやって愉しんで生命を奪おうか、そんな声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 ――力が欲しいと願った。

 

 ――こんな絶望(じごく)を、理不尽を許せるはずがないと思った。

 

 

 

 

 

 しかし、自分にそんな力はない。現にこうして地に伏している。

 住民とあの子達は、逃げれただろうか。どうか、無事でありますように。そう願った。

 

 

 

 そして。ああ――もし、もしも願えるのだとしたら。

 

 

 

 『誰か、助けて』

 

 

 

 

 叶わないだろう願いを口にして、覚悟を決めて目を伏せようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『――そこまでです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次瞬、訪れたののは終わりではなく。

 

 轟音。そうして、眩いほどの刹那の光。それはまるで、『雷霆』のようで。刹那に自分を囲んでいた絶望を一網打尽にした。

 

 

 

 吹き飛ばされた追跡者達は立ち上がることはなかった。遠目で自分の末路を眺めようとしていた他の追跡者達は、突然の事態に身構える。しかし、その表情にあったのは動揺と、皮肉にも『絶望』だった。

 

 

 地に伏せ、顔を殆ど上げることも出来ない自分が見たのは、倒れる自分の前に見えた姿。

 その小さくとも、気高く雄々しい背中を生涯自分は忘れることはないだろうとその時思った。

 

 その背中が雄弁に告げている。『もう大丈夫だ』と。絶望は、今宵の地獄はここまでだと。

 ゆえに、悲劇はこれにて閉幕。これより始まるのは、『英雄譚』(サーガ)なのだ。

 

 

 押し寄せる絶望をその『雷霆』の如き存在は粉砕していく。

 遠ざかる背中を見て、絶望が希望へと変わっていくのを感じた。

 

 

 そうして、思ったのだ。思ってしまったのだ。

 まるで、『英雄』のようだと。

 

 

 

 強くなりたい――理不尽に抗うために。

 強くなりたい――絶望に大切なものを奪われないために。

 強くなりたい――誰かの笑顔を、生命を守れるようになりたい。

 

 

 

 ――『英雄』(あなた)のようになりたいと。少女は願ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

    ◆     ◆     ◆

 

 

 

 

「はい、チェックメイト」

 

「ま、参りました……。チェスには自信があったんですが……。しかし、どんな盤上ゲームでもお強いんですね、リリィ先輩は」

 

「ボクより強い人がいる、なんて言ったら信じるかな?」

 

「まさか、居るんですか?」

 

「うーん、というより特定の条件だとボクが負け越しかなあ」

 

 DU地区連邦生徒会本部。内部にある来客用の応接間には現在、二人の影がある。どちらも少女と言っていい年齢であり、現在。というよりは、ここに来てからは様々な盤上遊戯に興じている。とはいうものの、片方の少女が全敗しているのだが。

 

 ふふん、と全勝して得意げにしている連邦生徒会の制服にプラチナブロンドの髪をを左側でサイドテールにしている少女は現在連邦生徒会防衛室の室長代理を任されている、熾羽リリィ。そうして、薄金色の髪を右側でサイドテールにしている少女は『天刻ミヤ』。本日の客人であり、ある目的のために連邦生徒会までやってきた人物でもある。

 

「シミュレーション上では勝率4割。どれだけ策を巡らせても、大抵一手先を行かれて負ける。いや本当よくわからない人だよ先生は。他のゲームではボクの圧勝なんだけどね」

 

「先生、というと……最近話題のシャーレの先生、ですか?」

 

「うん。悪い人じゃないんだよ?むしろ、底無しのお人好し。指揮能力はカヤ先輩にお墨付き貰ってたから自信があったんだけど、先生見てるとまだまだかなあって思えるね」

 

 此度の来客である少女、ミヤは緊張の極致に居ると言っても良かった。

 

 天刻ミヤ。三大高ほどの規模ではないがキヴォトス屈指の名門でもあり、お嬢様学校でもある『オリュンポス総合学園』中等部3年生であり元生徒会長。そうして、実家は総合流通メーカーとしても名高い、『アレキサンド・クロックワーク社』。つまり、社長令嬢でもあるのだ。

 

 世間的に見れば超お嬢様でエリートコースを約束されたような人物が現在連邦生徒会に来ているのには理由がある。もっとも、本人としてはまさかそこで自分の尊敬している先輩の1人に会い、目的の人物が到着するまでの間対応してもらうことになるとは思わなかったのだ。

 

 彼女は、不知火カヤに憧れている。過去の経験から、自分もああなりたいと望んだ。生半可な覚悟ではなかったし、明確な理由や目的もあった。『あの時のような理不尽と絶望から誰かを守りたい』『あの人のように、誰かの希望になりたい』。そう考えたからこそひたすらに彼女は努力した。貪欲に知識を学んだ、強くなるために研鑽を積んだ。全ては、あの日見た背中に追いつきたいと願ったためだ。

 

 だからこそ知っている。その憧れた存在が、自分の室長としての後継者として選んだという現在目の前にいる人物を。

 

「今更だけど、対応がボクでごめんね。ちょっとリン先輩は物凄く忙しくて、FOX小隊の先輩達も別件で任務中だから、今回の件で対応できるのがボクくらいしか居なくて。基本的に今ボクはずっと防衛室に詰めてるから、あまり最近は現場に行くこともないんだよね。後、たまたま今日は非番だった」

 

「い、いえ!そんなことないです!って……え?ず、ずっとですか?」

 

「うん、ずっと。もう防衛室で過ごしてる時間のほうが長いから、次期室長特権で部屋一つ貰って私物は全部移したからずっと家にいると言っても過言じゃないね。ちゃんとお仕事はしてるよ?家で仕事なら在宅ワークってことになるのかな。部屋出て3分以内には防衛室だよ。そういえば、進路希望はSRTで同列に防衛室を希望してくれてたんだっけ?歓迎するよ。……ウチ、万年人手不足だから」

 

「お忙しいのは聞いていましたが、ちょっと予想以上だったというか……。お休みなのに制服なのは……?」

 

「うーん……もうこれが私服的な?最近お休み滅多にないから落ち着かないんだよね、私服着ても」

 

「それちゃんと休めてるんですか?」

 

「大丈夫大丈夫、防衛室はアットホームで風通しのいい所だから。実際意見通りやすいし設備は大抵のものもあるし、なんならもう寝泊まりしてる生徒も居るからね。後働きすぎるとカヤ先輩に怒られて残業つけろって言われる。SRTに進学しても実習扱いでウチに来れるから待ってるね。 ――っとごめん電話だ」

 

 連邦生徒会は本当に今は大変なんだなとミヤは実感して苦笑いしていると、リリィのスマホが鳴った。彼女は一言断ると電話に出たのだが、すぐに疲れたように溜息をついた。

 

「また……?いい加減しつこいなあ。何度も会う気はないって言ってるのに。ボクがゲヘナに転入したって話流れてから一気に頻度が上がったって?まあそれはそうだねえ……。何処に行こうと、あの人には関係ない話の筈なんだけどね。 ――うん、非番で居ないってことにしといて。実際そうだし。ごめんね、うん。じゃあまた明日ね」

 

 疲れたようにして電話を切るリリィ。そうして、『ああ、ごめんね』と言った。

 

「ちょっと面倒な相手からのアポ取れないかって電話があったらしくて、その対応だった。さて、そろそろだと思うんだけど――」

 

 すると、今度は応接室の扉がノックされる。そうして入ってきたのは、白い長髪に赤い瞳と連邦生徒会防衛室の制服。そうしてその上には、白い、肩に連邦生徒会のエンブレムが入ったコートを羽織っている、真面目そうな生徒だった。

 

「失礼します。室長代理、防衛室にシャーレの方々が到着されたそうです」

 

「うん、了解。って……今は非番だからいつも通りでいいよ、スズミ」

 

「あなたは非番でも私はそうじゃないんですが……」

 

「いーいーのー!次期防衛室長のボクがいいって言ってるからヨシ!」

 

「リリィ……あなた段々とそういうところカヤ先輩に似てきてますよ……」

 

「えっ、本当?いやあ嬉しいなあ」

 

「褒めてないです。……さて、それでは行きましょうか。カヤ先輩達がお待ちです」

 

 

 そうして、その時はやってくる。

 会うのは、あの地獄で救ってもらって以来になる。

 

 

 自分にとっての英雄にして憧れ。その相手と会うためにミヤはここに来た。

 それが果たされる時がやってきたのだ。

 

 




■事件記録『DUの大災厄』
 数年前にDU地区で発生した、キヴォトス史上最悪レベルと言って過言ではない凶悪な無差別テロ事件。カヤにとってのはじまりの日でもあった。

 主犯格生徒は異様なヘイローを持っており、犯行に同調した生徒達も極めて残忍かつ残虐な者達だった。犯行は『連邦生徒会への報復』という大義名分で行われ、甚大な数の住民の死傷者及び、ヘイローを破壊された生徒が出た。そのため連邦生徒会は極めて残忍かつキヴォトスの平和を脅かす存在と断定、執行特務部隊の派遣及び主犯格及び相手勢力の生徒の生死を問わないという異例の命令を出して事態の解決に動いた。この事態は連邦生徒会長が直接最前線に出なければならない程の事態であり、彼女が最も信頼していたカヤも連邦生徒会長と共に最前線へと出動。事態の鎮圧及び、執行を行った。

 その結末は、執行対象勢力の主犯格を含む全生徒の執行処理という結末となった。何故対象の生徒達があれほどまでに残忍かつ凶悪化していたのかは不明であり、大義名分として掲げられていた『連邦生徒会に対する報復』というものについても不可解なことだらけであった。裏で糸を引く者がいるのではないのかとも疑い、連邦生徒会・SRT・ヴァルキューレが総力をあげて調査を行ったが有力な情報は得られなかった。

 この事件によりDU地区は甚大な被害を被り、住民・生徒だけではなく事態の解決に動いた連邦生徒会・SRT・ヴァルキューレの人員にも死傷者こそ出なかったものの、前線に復帰できないほどの怪我を負う者も多く居た。そのため、事件後暫くの間は組織の再編や立て直し、DU地区の復旧などに追われ、他自治区からの要請に対応できない事態となった。

 その事件を忘れないために、犠牲となった生命を忘れないために被害にあった公園には再建された後、慰霊碑が建てられた。
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