翌日。アビドスの面々がアビドス高校に到着すると、既に要塞陣地化されたグラウンドでは何か作業をした後なのか、RABBIT小隊の面々とカヤ、先生が居た。校舎側の一部のバリケードと障害物が撤去され、ある程度のスペースが確保されたそこにはヘリが着陸するためのものにされていた。
アビドス高校のメンバーには既にモモトークで通知されていたが、少し前から話があったミレニアムからの調査員と、そのボディガードになる生徒が今日到着するのだ。
到着を待つ間、まだ姿の見えないのはホシノだ。どうにも昨日のことで嫌な予感がするカヤは、アヤネに『ホシノさんはどうしましたか?』と聞けば、『ミレニアムの方々が来るので、来る時に先輩の家を覗いたんですがまだ寝てましたね……』と返された。どうやら、まだホシノらしくぐっすりと寝ているだけのようだと思い、昨日のことはきっと杞憂なのだと言い聞かせる。
暫くすると、遠くの上空からヘリの音が聞こえ始めた。見れば、そこには複数の武装を搭載しており、側面にミレニアムの校章が描かれたヘリが存在しており。それは、アビドス高校へと近づきやがて造ったスペースに着陸した。
結局、ホシノが来ることはなかった。
「やっほー!カヤちゃんにごしゅ……じゃなかった。先生!」
「ちょっとアスナ先輩いきなり……!こ、こんにちは先生。それにカヤ先輩も」
ヘリを操縦していたのは、ミレニアムサイエンススクール三年の一ノ瀬アスナ。先生が着任時にミレニアムに挨拶に行った際、学園内を案内していたため面識がある。そして、カヤとも深い関わりがある。
彼女は、天才的な直感と恵まれた幸運の持ち主だった。しかし、そんな幸運の持ち主の彼女でも、ある身体の異変だけは防げなかった。彼女風に言うなら、これもとても幸運なことだったのかもしれないが、たまたま彼女がカヤに自分の違和感のようなことを雑談感覚で話したことがあった。
それを聞いたカヤは血相を変えた。すぐにネルのもとに連れていき、その症状がとある深刻な可能性に繋がるかもしれないと話すとそれはもうネルは大目玉だったし心配もしたし焦った。いくらリーダーシップがあり、精神的にも強く、キヴォトスにおいてもトップクラスの彼女といえど医療知識については専門ではない。結局、最終的にはカヤの関係者である連邦生徒会の『保健室』の室長に治療に当たってもらい、今は一部の症状を除いて快癒。しかもその症状も、身体に害もなければ出れば休まないと不味いということを示すサインのようなものになっているので、いわばリミッターとして機能している。
今の彼女は、持ち前の才能と幸運を十全に発揮できる状態なのだ。余程その才能を酷使しても、疲労感や眠気が強く出るくらいのものなのだ。そんな万全の彼女は、ミレニアムにおいてNo.2の戦力であり。並大抵の相手では手が付けられない程の存在なのである。
そうして、調査官兼交渉員としてやってきたのはユウカだ。彼女はミレニアムの生徒会であるセミナーの一員であり、シャーレの部員でもある。そして、今のアビドスのことについて十分理解している存在でもあるのだ。だからミレニアムの生徒会長であるリオはユウカを派遣することを決めた。そして、アビドスとの提携については前向きであり、全権をユウカに委ねてもいたのだ。
「お二人が来てくれて心強いですよ。しかし……アスナさんは随分と本気の装備ですね」
カヤが見て驚いたのは、アスナの装備である。服装こそミレニアムの制服姿ではあるが、彼女の愛銃である『サプライズパーティー』は、ちらりと確認できるだけでも拡張マガジンにアンダーレールにはアタッチメント式のショットガンの最新モデル、グリップとストックにもカスタムが施されており完全武装状態。更に、彼女は肩に掛ける形でガンケースを携帯しており、銃をもうひとつ持ってきていたのだ。
「部長と会長がね、完全武装で行けって言っててね。私もなんていうのかな?直感で必要になりそうかなーって思ったから準備してきたんだ」
「そちらのガンケースには何を?あなたの愛銃がそのカスタムなら、長物の気がしますが」
「大正解!私もこの子、この前エンジニア部に用意してもらったんだけどすっごく気に入ってるんだ!見てみて!」
「ほほう、それでは失礼して。これは……!」
カヤの糸目が見開かれて、口元には楽しそうな笑みが浮かべられていた。カヤはこう見えて銃器の愛好家でもある。普段使用している武器があまりにも特殊すぎるがゆえに知られていないことではあるが。
「このフォルム……デザイン……アレキサンド・クロックワークス社のT-5000のようですが、ちょっと部分的に違いますね……まさか新作ですか!?し、しかもフルカスタムモデル!?」
「流石カヤちゃんは通だねー。うん、最新モデルのやつをエンジニア部にカスタマイズして貰ったんだ!見えないけど、中も結構触ってるよ!」
「うーん、たまりませんね!ほらミユさん、見て下さいこれ!」
突然話を振られてビクッ、と驚いてしまうミユ。しかし、興味はとてもある。彼女の主武装は狙撃銃であり、武器のメンテナンスや調整は怠らない。加えて、狙撃銃に対しての興味も強かった。しかし、アスナは初対面の相手である。かなりマシになったとは言え、ミユは奥手で引っ込み思案である。突然のことでオロオロとしていれば。
「わー!かわいい!あっ、もしかしてこの子がカヤちゃんが自慢してたRABBIT小隊のミユちゃん?すっごい狙撃手だって聞いてるよ!」
「ええ、ミユさんはとても優秀な狙撃手なんですよアスナさん。そしてRABBIT小隊は全員優秀です。ネルさんにだって鍛えられましたからね」
「あー……部長が前に『楽しくなってついスパルタし過ぎちまった』って言ってたやつかな?」
何か思い出したのかげっそりとしたようになるRABBIT小隊。実際、ネルの訓練メニューはスパルタで地獄だった。
特にその中にあった地獄の鬼ごっこというものが本当に辛かったのだ。
「んーでも本当にかわいい!RABBIT小隊ってみんなかわいいんだね!お持ち帰りしてもいい!?」
「ミユさん抱きしめながら目を輝かせてそれ言いますか。というかミユさんが窒息しそうなのでそれくらいで。後、そんなことしたらユキノさんが殴り込んできますよ。ただですら最近……なんでしたっけね、『コウハイニウム』?とかいうのが不足してるらしくてちょっと機嫌悪いので」
「う……ユキノはちょっと怖いかなあ。後輩のことになると容赦ないから……。あっ、ごめんねミユちゃん!大丈夫だった!?」
「い、いいにおいがして……ぼんやりしますぅ……ふわふわで……ねむく……」
「……ねえカヤちゃん、ミユちゃんだけでも持ち帰っちゃ駄目?」
「真面目に言うと駄目です。ネルさんにもまた怒られますよ」
「うーん、残念だけど諦める!」
先生と話し込んでいたユウカが事態に気がついて、『なにやってるんですかアスナ先輩ー!』と慌てて駆け寄ってくる。
「親睦も深めたいところだけど、先にやるべきことをやりましょう。……アビドス高校の皆さん、通信では話したことがありましたがこうしてお会いするのは初めましてになりますね。ミレニアムサイエンススクール、セミナー所属の早瀬ユウカです。そしてこちらが……アースーナーせーんーぱーいー?」
「あはは、わかってるわかってる!」
かわいいぬいぐるみでも抱きしめるようにしてミユを背後から抱きしめてご満悦だったアスナは彼女を離すと姿勢を正す。
「ミレニアムサイエンススクール、C&C所属の一ノ瀬アスナだよ!よろしくね!」
ワンオフのアサルトライフルにスナイパーライフル。しかも両方がフルカスタムであり完全武装状態。旗から見ればかなり物騒なものだが、本人はそれと正反対のごとく元気にアビドスのメンバーに挨拶をする。
「ちなみにRABBIT小隊の皆さんは知ってると思うのでアビドスの皆さんにお伝えすると、アスナさんはミレニアムで2番目に強い生徒です。でももし私が戦うなら、一番戦いたくない生徒ですね。ほんっっっっとうにネルさんよりタチ悪いんですよね」
「カヤちゃん大袈裟だよ。私はカヤちゃんと模擬戦するの楽しいから好きだよ!いっつもヘトヘトになるし負けるけど!」
「……それは何よりなんですけど、あなた前に突っ込みながら殆どの攻撃避けるじゃないですか。ボールめがけて走っていく大型犬ですかって思いますよあれ。しかもなんでかは知らないですけど運が全部あなたに味方するじゃないですか」
「んー、相手に突っ込んでいっているんだし首元噛み切ろうとする猟犬的な?」
「いやツッコむところそこですか。というかそっちのほうが例えとしてはあってますね……」
カヤとアスナはそんな話をしているが、アビドスの面々としては驚愕していた。ミレニアムのNo.2、それはつまり三大自治区レベルの中での最高戦力の一人ということだ。まさか自分達の支援のためにそんなとんでもない存在が助っ人として来てくれるとは思っていなかったのだ。
「えっと……アビドスの外交担当の生徒はアヤネちゃんでいいのよね?」
「は、はい。ええと……ユウカ先輩」
「緊張しないでいいわよ、今の立場はミレニアムのセミナーだけど、シャーレとしてアビドスのことは知っているつもりだから。だから変なことふっかけたりとかそんなことはしないから。ただちょっと驚くかもだから、覚悟だけはしてね。……これ、リオ会長。うちの生徒会長からの親書なんだけど」
「……?拝読させて頂いても?」
「あー……うん。覚悟だけはしてね」
ユウカの言葉に疑問符を浮かべながら、アヤネは丁寧に手紙を開封して中身を確認していく。そうして、暫くの間。固まったように動かなくなる。その様子にどうしたのだろうか、とシロコ達が思っていたところである。
「……きゅう」
「ア、アヤネちゃん!?」
まるで理解が限界を超えたように。そのまま手紙を地面へと落として後ろに倒れ込んでしまう。慌ててノノミが後ろから支えて、シロコが手紙を回収する。一体何事だ、そう思いシロコ、ノノミ、セリカも手紙の内容を確認すれば。
「……ん!?」
「は、え?ど、どういうこと!?」
「と、とんでもないことになっちゃいましたー……」
三人も理解が追いつかない、といように驚愕を見せた。
リオからの手紙。そこに書かれていることを要約すると、まず今回のアビドスとミレニアムとの話し合いの席についてはセミナーであり調査員のユウカに全権を任せるということ。ミレニアムとしては事前の試験調査の時点から前向きであるということ。
そして、
『本格的な調査結果によって、事前の調査が裏付けられるようであればアビドスの借金全てをミレニアムが肩代わりしてもいい』
『ミレニアムは、アビドスとの協同関係においては対等な立場であり全面的にアビドスを支援する用意がある』
と書かれていたのだ。
この内容が、ミレニアムの生徒会長であるリオから出たというのが何よりも大きく、つまりこのセミナーの印章とリオの持つ生徒会長としての印章が押されている親書がこの時点でミレニアムとアビドスの協同関係を証明するものとなったのだ。
「内容を見てもらったみたいだから補足すると、肩代わりした借金についてだけどカイザーのように利息を増やしたりなんてことはないわ。無利息だし、金額が減る可能性も高いわ。返済についても、もし資源調査で結果が出て。その研究や資源によって得られた成果に応じてそれが返済にあてられることにもなるわ」
「それって、つまり……」
「もうあなた達が借金を返す必要はほとんどない、ということになるわね。といっても……そうなったからといって、やることがなくなるわけじゃない。新しい目的。そうね、今度は前向きなもののためにやってもらわないといけないことがあるの」
そう。これこそが、リオからユウカがちゃんと伝えておいて欲しいと言われたことだ。
「ミレニアムとしては、アビドスでの研究や調査、開発。それから今後のことを見据えてた場合、アビドス自治区。ひいてはアビドス高校には安定した状態になってもらいたいと考えているの。今の状況では、連邦生徒会に対する発言権もなければ申請権もない。自治区の治安や整備もそうだし、やることは山積みね」
「アビドス高校と自治区の復興。今後はそれを目標として、ミレニアムもそれに力を貸してくれる……そういうことでいいんでしょうか?」
恐る恐る確認するように口を開いたのはノノミだ。対して、ユウカはそれに力強く頷いた。
「そのあたりのもうちょっと具体的な話と、それから調査にあたっての書類の確認とサインをお願いしたかったんだけど……えっと、委員長のホシノ先輩は?姿が見えないけど……」
「そ、そうよ!こんなとんでもないことになってるのにホシノ先輩は何を……って寝てるんだっけ!?」
ホシノらしいといえばらしい。そう思う先生やアビドスの面々だったが、やはりどうにも。嫌な予感がするような気がカヤはしていた。
まだ寝ているのなら起こしに行こう、そんな話になったシロコ達はユウカに一言断ると、ホシノの自宅へと走っていった。
その後、アビドス高校に残ったカヤ達はユウカとアスナに現状にについての話や学校の施設状況など、自分達でわかる範囲での話をしたり情報交換を行っていた。
時間にして30分ほど経った頃だ、事態は起こった。
「あれ……電話だ。アヤネ?」
先生の持つスマホが鳴った。発信者は、少し前にホシノの家に向かったアヤネからで。
『せ、先生っ!た、大変です!先輩が……ホシノ先輩が!』
電話先で明らかにアヤネが慌てているのがわかった。そうして、そんな電話を受けている先生の様子を見て、カヤの嫌な予感は再びどんどん大きなものになっていく。
『居ないんです!家に居なくてっ……!メモだけが残されていたんです!』
■アスナ
完全フル装備。愛銃のアサルトライフルに加えて、エンジニア部が大真面目にカスタムとチューンを施したスナイパーライフルを装備している。ライフルのモデルはT-5000。更に現在ではほぼ健康体の上、カヤがげっそりするレベルで幸運値が高い。フルパワー大型犬。
■ミユ
アスナのクッションで極楽に行きかけた。なお。解放された後も気に入られたようでずっとホールドされていた。隠密は幸運補正でアスナには見破られる。
■ミレニアムとしての意図。
拙作リオがこの時点で原作よりアグレッシブで、裏に隠居もしておらずアクティブに活動していることからセミナーも十全に回っている。なお、よくヒマリと一緒にやらかすためトキがよ疲れたようにため息を付いている。
ミレニアムとしては、全権と判断をユウカに任せてはいるしアビドスの現状も報告として聞いているので、明らかに今のアビドスの状況がおかしいことは把握している。なのでカイザーに対しての致命傷の打ち込みと、最大の問題点の解消という意味合いで破格の提案をした。
■ホシノ
深淵からの手招きに応じてしまった。
悪魔の取引であり絶望とは知らず、其れの言葉に手を伸ばしてしまった。
■あとがき
告知というか、ご報告までに。外伝として投稿していた『巡礼者達の日常』について、色々と検討を重ねた結果切り離して連載版を開始することを決めました。というのも、後々かなりの文字数になる外伝を本筋とは関係ないのにここに載せるのはどうなのか、という考えが出たためです。なので、内容を一部編集の上で連載版をスタートさせました。