元殺し屋、元気なお姫様に苦悩する   作:Check

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プロローグ 犯罪者の男

 マリウス・ドリウグラエズ。

 彼女はこの世界にて令嬢さまと呼ばれる地位を持った少女だった。

 

 何故"だった"と口にしたかと聞かれれば答えは単純で。

 

 彼女が、全てを奪われた記憶のない少女だからだ。

 

 暮らしていた豪邸が業火に包まれこの世から消え失せた。

 両親や従者たちが、切り刻まれ、業火と共に骨となった。

 

 それだけじゃない。

 

 負の感情だけでなく、両親と暮らしてきた温かな記憶も全て忘れてしまったのだ。齢11歳にして、彼女は金を稼ぐ手段もないまま世捨て人になりかけたのである。

 

 もし、誰もいなければ――彼女はきっと、数日足らずで死んでいただろう。彼女が幸運だったのは……偶然、殺し屋がもう一人その場へ訪れたからだ。

 

 そう、この俺だ。

 

「………………」 

 

 目元にかかる金髪の隙間から黒目がみえた。悲しいとか、嬉しいとか、困惑とか、言語化出来る感情ではない。ただの無だ。

 

 俺にはそれが理解できた。

 

 殺し屋として、何度も何度も何度も、人が死ぬ姿を見てきたからだ。

 特に感情が育まれやすい場所だとそれが顕著に表れる。

 

 だからこそ、俺は直感的に理解した。

 

「…………お前、名前は?」

「……ごめんなさい、わからない、です」

 

 こいつは、記憶をなくしていると。

 

 あぁ、なんという運命だろう。

 

 悪い貴族は俺が来るより前にこの世から消え去ったのだ。

 それも、死体が多すぎてどれが当の本人かわからないという惨状で。

 

 つまりそれは、俺に二つの選択肢を背負わせたのだ。

 

 目の前の少女を殺すか、否か。

 

 殺して首を見せつつ、こちらに来させれば俺は利益を得られる。

 数年遊んで暮らすことが出来るかもしれない。

 

 だが――俺はできなかった。

 

 悪いことをした証拠の紙一枚ない少女を殺せるほど、俺は強くなかったのだ。

 

 依頼を失敗した俺はその日に、街を出ることを決めた。

 それに当たり犯罪を三つ犯したので、明記しておく。

 

 偽造旅券発行をする場所に忍び込み、自分とマリウスの物をそれぞれ作成した。

 作成名は、ベルリスとウリマという名前にした。マリウスの"ス"という文字を拝借し、いつか奴が思い出したときにすぐさま名前を説明出来るようにするためだった。

 

 もう一つは捨てられたバイクを回収・修理したことだ。

 耐久性や速度ともに優れた漆黒のバイクであり、それなりに燃料もある。すぐにも移動できる状況にした。これにより、俺はどこか違う国で別人として生きることが、可能な状況になっていた。

 

 そして三つ目は――マリウスの回収だ。

 マリウスは廃屋となった元豪邸敷地内で眠りについていた。

 

 俺は少し罪悪感を抱きながら、奴を起こす。

 

「おい、小娘。一緒に来い」

「……おじさん、だれ?」

「ベルリスだ」

「……明日じゃ、ダメ?」

「ダメだ。今夜中に外へ出たいからな」

「……おじさん、焦ってる?」

 

 マリウスは小首をかしげながら問いかける。

 

「あぁ、焦ってるよ。だって俺は――君を連れ去る、誘拐犯だからね」

「誘拐……悪いこと、ってこと?」

「あぁ、そうだよ。俺は悪人だ。悪人だからこそ――俺は君を連れ去りたい」

「その割には……無理やりしないんだね」

「君の意思を尊重したいから」

 

 マリウスは顔をじーっと眺めてから、すくっと立ち上がる。後部座席に乗り、後ろに跨ろうとする。俺は右手を伸ばし、奴が近づくのを止めさせた。

 

 不思議そうに首をかしげる中、俺は両手を前に出す。

 

 そして――俺が唯一神様から与えられた技を発動する言葉を口にした。

 

錬成(れんせい)

 

 一言口にすると同時に、頭を覆える道具が現れた。前に図書館で読んだヘルメットという道具だ。俺は頭にヘルメットを着けてから、同じことをするように伝える。

 

「……わかった」

 

 マリウスは俺と同じようにヘルメットを着けてから、後ろに跨る。

 俺の胸元にひんやりした冷たさが伝わる中、俺はバイクを動かした。

 

 夜街にバイクの駆動音が響き続けるのだった。

 

 




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