元殺し屋、元気なお姫様に苦悩する 作:Check
俺たちは入国審査を素早く終え、城塞国家に入った。事前想定していたよりも犯罪が横行しているわけではないらしい。そんなことを考えつつ、適当な宿へ宿泊した。
俺の旅券と事前に貰っていた写真で作成したマリウスの旅券をそれぞれ見せると、店主は快く二人部屋と温かな飯を用意してくれた。
うまい飯に感謝しつつ平らげるとマリウスは一通り就寝準備を済ませ眠った。
記憶喪失の割に最低限生活に必要な行動は覚えているらしい。
マリウスはドリウグラエズ家の元令嬢だ。
如何にも令嬢様といった風貌の少女で、胸元まで伸びた艶やかな金髪に白色の細い肢体を持ち、記憶がなくても恐ろしくまじめで生活習慣も整っている、完璧な超人と言いたくなる存在である。
今までの人生で温かな寵愛を貰いながら育ってきたからこそ、彼女は両親の記憶を失っても人として生活が出来る基盤を身につけられているのだろう。金持ちの家系で生まれる人間は神に愛されていると下町で回っていたが、なるほど確かにそうだと、賛同できる気がした。
まだまだ彼女のことは知らない。
だけどせめて、まともに育ってくれたらよいなと願い眠ろうとしていた。
その時だった。
ガラスの割れる音が部屋の外から響いた。カランカランと乱雑に落ちていくガラスから誰か不法侵入してきたのだろうと俺は理解した。俺はドアノブを捻り、部屋の外に出る。
入口の前に立っていたのは、ハンマーを持った樽みたいな男とひょろがりの男だ。
「婆さん、金よこせ! 金をよこさなかったら……わかるな?」
「げひひひひっ! さぁ、よこせっ!!」
「あわ、わわわわわ……」
観葉植物の陰に隠れながら状況を理解する。お婆さんは恐喝されているらしい。
樽男が実行役、ひょろがりが状況を確認する男らしい。放置していれば、婆さんは殺されてしまうだろう。
それだけならまだよい、いや、ダメではあるが、まぁ良いとしよう。
犯罪者ってやつらはみんな、上手くいきすぎたら更に進んでいくものだ。
廃屋に宝石が落ちていたら盗むみたいな感じで、どんどん欲望を高めていく。仮に次の欲望を手にするとしたら……女への凌辱だろう。
犯罪者っていうのは、皆欲望の塊だ。
犯したいから犯す、殺したいから殺すみたいな感じで、欲望にストレートだ。
そんな奴らが次に目をつけるとしたら――マリウスだ。
マリウスみたいな上玉を見たら、男どもは息を荒げて奴に手をかけるだろう。記憶を失ったかわいそうな彼女に手をかけるだろう。
それはあまりにも、理不尽すぎやしないだろうか。
何も悪いことをしていないのに、あまりにもかわいそうではないか。
「な、なんだお前!?」
あぁ、なんて馬鹿だろう。相手の実力一つ判明していないのに、なんで俺は他人を助ける行動なんてしたんだろう。
あぁ、俺はどうやら――いかれちまったらしい。
「……ただの、宿泊客さ。ちょっと外に出たいから、どいてくれないか?」
「あぁん!? 駄目だよ!! へへっ……それによぉ、お前金を持っていそうだな!早く置いて行けよ!! げへっ、げへへっ!!」
「……はぁ、わかったよ」
俺はため息をついてから――意識を犯罪する側に切り替える。生まれ持った長身を活かし、樽男の首と顎の間へ右手を差し込んだ。親指と人差し指の間で上に刺すと、樽男の顔が天井を向く。
予想外の攻撃に出していた舌を引っ込める時間すらなく、強い顎で舌を嚙み潰す。樽男は意外にも打たれ弱く、「舌が、舌がぁ~~!!」と鳴き声を出していた。
「錬成」
俺は奴の胸へ跨ってから、奴の服を材料に胴と足を拘束する金属板を生成した。
実力が足りていない俺は前回のようなヘルメットよりも強度の高い物体錬成時に、交換できる触媒が必要となる。今回は偶然服があったというわけだ。
「ひっ、ひぃっ!!」
頼みの綱だった樽男を倒された男が逃げようとするが、奴は無様にもさっき壊したガラスに躓き地面に倒れる。俺はそんな奴の腹に蹴りを入れてから、「錬成」を行い奴を拘束することに成功した。
それから三十分経過した頃――
この国で働く警察がやってきた。住民が通報してから、これだけ時間が経過すると考えるとなるほど、治安が悪い理由がはっきりするな。
そんなことを考えていると、お婆さんがお礼を伝えてきた。
「ありがとうございます、お客様……!」
契約とかが全く介在していない感謝の言葉。
それは、雷に打たれたような思い付きを俺にもたらした。
――もしかして、自警団で日銭を稼げるんじゃねぇかと。
個人間の悩みを解決する何でも屋。
つまり万事屋として活動することで、利益を稼げるんじゃないかと。
一瞬で考えをまとめた俺は、お婆さんへこのように伝えた。
「いえいえ。これも万屋の役目ですから」
「万事屋……?」
「正義の万事屋、ブルータスって奴です。一般市民の皆様が悩んでいる個人の悩みを私自ら解決に乗り出そうってことですよ」
「えっと……つまり、お金がかかるってことですか?」
「いえいえ。まだ出来て期間が短いんですよ。ですから、お願いがあるんです。今回行った私の実績を町内へ広めてくれるってこと、それと何か月かの間、こちらで生活させていただけることを約束してもらえればよいんです。無償とは言いません。仕事で稼いだ数割は、渡すようにしますよ」
俺はお婆さんへ交渉を仕掛けた。
交渉が成功すれば、衣食住、そして仕事が手に入る。
おばあさんのメリットとしたら、強いケツ持ちが手に入る。
ケツ持ちが手に入ればおばあさんは安全に仕事ができるだろう。
そう予想しているとお婆さんは俺との約束を結んでくれた。
こうして俺は、この国でしばらくの間暮らすことになったのだ。
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