生きるためにネームドキャラを目指したら幽閉されました   作:あああああああ

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第2話

それは突然起こった。

 

紅いインクのような液体が空から零れ落ちた。各国の一部地域に落ちたその液体は徐々に形を変え、巨大な触手の怪物と100体近い鎧武者に置き換わった。赤い直剣と物々しい盾と鎧。そして、悍ましい笑い声。

 

「た、助けてくれぇ!」

「こ、殺される!!!!!」

「か、金ならいくらでもやる!そこをどけぇ!!!!!」

「く、来るなぁ」

「うああああああああああ!!!」

 

逃げる者。命乞いをする者。 その全てに、赤い鎧武者は容赦なく襲いかかり、凶刃を振るった。 切り裂かれ、串刺しにされ、ズタズタにされ、人があっさりと数多の軀と化す。 吹き上がる鮮血は加速し、命が尽きた肉塊を炎の舌が舐め取る。 血走った瞳を見開き、唇を唾液で湿らせ、獣のように無力な兵士を蹂躙した。 紅き鎧武者は血の饗宴に陶酔し、ゲラゲラと、笑い声を轟かせる。

 

鎧武者の進撃は止まらない。絶望が連鎖する間にも、罪業を重ねる。

 

残酷な凶刃の前にまた1人、一般人が地に崩れ落ちる。抵抗するもの無抵抗のもの全て関係なく、血の海へと沈めていく。

 

そこに主人公はいた。震えることしかできないこの時は未熟者。

 

「もう大丈夫だから」

 

戦場に鈴のような声が轟いた。赤いの瞳を輝かせ、少年を庇う少女が出現した。白髪の髪をふわりと揺らし、燃え上がる闘志を手に少女は傲慢に胸を張る。

 

身体は細く、四肢の先までスラリと伸びていた。御伽噺の精霊のようだ。

 

「行くよ?」

 

地面が爆ぜた。限界まで練り上げた魔力を前提にしなければ、生身では決して到達できるはずがない常識外の動きだった。

 

30歩以上あったはずの距離がわずか2歩で潰される。剣が振り下ろされ、怪物の胴体に鮮血が舞う。

 

踏鞴を踏む怪物が、巨大な体を宙に浮かし後ろに下がる。先ほどまで白髪だった少女の髪は、腰まで届く長い深紅に変わっていた。

 

咆哮と共に怪物の触手が周囲を蹴散らしていく。少女は魔力を限界まで熾し、触手の嵐をくぐり抜け、何も考えていないような真っ直ぐな軌道で、正面から剣を突いた。

 

「おりゃあああああああ!!!!!!」

 

裂帛ながら、気の抜ける叫び声と共に怪物が宙に舞った。巨体を少女がぶん投げる光景を見れば、誰もが驚くだろう。しかし、彼に驚愕はなかった。

 

魅せられていた、どうしようもなく。彼女に。

 

少女の持つ剣の刀身が赤く輝く。そして、それは起こった。

 

「『アグニ』!」

 

灼熱の光線が空を穿った。気が付けば、怪物は一部の肉片を残し消滅していた。

 

「うむうむ、やはり私はさいきょーだね!君も無事でよかった!」

 

天真爛漫で、自由で、眩しい少女だと思った。

 

これが浦部忠也の初恋(原作プロローグ)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主人公の補助をしろってことだけど、俺ここから出れないのに無理じゃね?唯一出られるの、ここが襲撃を受けた時だけだぞ?」

 

「それは大丈夫じゃ。在学生の一人に儂の人形を紛れ込ませておる。庶民嫌いの貴族の設定じゃ。儂が浦部の幼馴染であるイレーナを呼び出し、浦部にはイレーナを騙して攫ったことを手紙で伝える。返して欲しいなら封魔の塔に来いと言ってな。で、封魔の塔に来た浦部を人形に襲わせる。動機は生意気な庶民がいるからでどうじゃ?」

 

凛音の膝に頭を乗せて偽学園長(人型ゴーレム)を通して、生徒の様子を眺めているアリシアは得意げに語る。

 

酷いパッチポンプだと思いつつ、その人形とやらがゴーレムなのか生身の人間かで色々と変わりそうである。

 

「で?結局それって襲撃を受けた直後しか出れないだろ?自衛って名目だし」

 

「こんな早い段階でお主が姿を見せる必要はないのじゃ。ただし、絶対的な存在として目立ってもらう必要はある。テロリストへの牽制と緊急時であれば封魔の塔がお主を解放すると知ら占められれば良い」

 

どうやら彼女の中でシナリオがあるようだ。

 

「なあ、前提として俺は別にそこまで強くないぞ?学生にはさすがに問題ないが、上澄み連中には普通に負ける」

 

「お主の開発した魔法次第では行けるじゃろ?」

 

「あれは上澄み連中ほど効果が悪い。入学してきたテロリストの女、永血魔法使いとかはしんどそう」

 

「やれるだけやればよい。契約じゃからの。この学園にいる限り、儂が必ず守る」

 

凛音とアリシアの視線が絡み合う。脳を痺れさせ、蕩けさせるほどに甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐってくる。

 

口を開きかけた凛音の耳に轟音が響いた。

 

「!?」

 

「噂をすれば、浦部と人形が交戦を始めたのじゃ。窓から見えるぞ!ポップコーンを用意せい!!!!!」

 

「この計画事後承諾なのかよ!」

 

 

 

 

浦部忠也。今年15になった少年だ。歴史の長いこの魔法学園へ入学し、いつかは幼馴染の少女を守れるようになりたいと思う主人公。

 

誰よりも大切な彼女が攫われたという手紙を受け取った時、冷静さを欠いたのは予定調和だった。

 

「罠だったのか!」

 

「当たり前であろう。永血魔法の使い手がそう簡単に誘拐されるものか。この程度で冷静さを欠くとは所詮庶民よ」

 

事前に仕掛けられていた魔法を食らいすでに傷だらけの忠也とそれを眺めて愉快そうに叫ぶ男。彼こそがアリシアの人形であり、軽い思考誘導を受けた貴族の子息である。

 

「貴様のような庶民が目立つこと自体が腹立たしいのだ!」

 

男の放った風の弾丸が忠也に肉薄する。忠也はその動きを辛うじて察知、長剣で魔法を防ぐ。

 

「無茶苦茶逆恨みじゃないか!」

 

「庶民が口答えするな!」

 

男の名はベルク。大貴族の三男として生を受けた。何不自由なく幼少期を過ごした彼の最大にして唯一の不幸は才能がなかったことだ。優秀な兄妹に囲まれ、貴族としてふさわしき実力を求められた彼は厳しく躾けられたのだが、期待に応えられるほどの才能が彼にはなく、それを補う精神もまた成熟していなかった。

 

拗らせに拗らせた彼が最後に縋ったのは大貴族の血であり、確かに絶大な力を持った彼の武器である。

 

兄妹に見下されることこそなかったが、彼の才能を親は認めてくれず幼き日の彼は拗らせた。罵倒すらされず、金だけを渡される自分が嫌いだった。

 

彼の庶民嫌いは自己防衛手段である。アリシアはそのコンプレックスを刺激するように、浦部忠也の情報を流したのだ。

 

「『ヘルゴート』!」

 

異形の杖から繰り出される大火が渦を巻き忠也に迫る。落ちこぼれとはいえ、それは魔法で栄えた彼の実家基準。人並み以上には強い。

 

「『ウォルティア』」

 

水の防壁が炎を阻むが押し切られ忠也は吹き飛ばされた。男が笑う。追撃で放たれた風の刃。何とかそれを回避した先にいたのはベルクの放った風の弾丸だった。剣で防いだが、嫌なの音が響きバランスを崩したのを見てベルクが強烈な追撃を食らわせる。

 

「『シュベル』」

 

石畳の床が変形し、忠也の鳩尾を抉るように剣に変形する。辛くも忠也は殺意を受け止めるも、勢いを殺しきれずそのまま吹き飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

吹き飛ばされた勢いに押され派手な音を立てて封魔の塔に衝突した。日が完全に落ちかけ薄暗くなった封魔の塔へそのシルエットが近づいてくる。

 

「クソ!クソ!俺は………強くなりたい!」

 

「まだ吠えるのか庶民!!!!!」

 

「だからお前みたいな奴に!イレーナに追いつくために!負けない!!!!!」

 

一か八か全魔力を解放し一点に集め、その呪文を唱える。

 

「炎の王、我は希う!力への圧政を、純然たる熱を、汝の大火を!」

 

それは本来1年生が使えるはずもない上級魔法の詠唱。英才教育を受けたベルクですら成功率70%の魔法。卒業試験に用いられる高難度の魔法である。

 

「ま、まさか!庶民ごときが」

 

「『エルカルス(炎王殺)』」

 

周囲の気温が上がり、そして轟音と共に発せられた灼熱の業火が津波となって、封魔の塔ごと飲み込んだ。

 

「勝てたのか………」

 

安堵したのも束の間、ガラスの割れる音と共に嫌な鳴き声が聞こえた。それは獣の、否悪魔や魔獣と呼ばれる異界の使者の鳴き声。

 

「庶民に負けるなどあるわけない!我は負けない!禁忌に手を染めても!!!!!」

 

土煙の中から現れたのは、一体の獣。

 

「ケルベロス!?」

 

ベルクは哂う。学園長室から盗み出した怪しげな試験官。魔獣が封印されているのはわかっていたが、これほど高位の魔獣とは思っておらず彼は被害の規模を考える。

 

おそらく学園の教員ですら手に余る魔獣だ。学園長や生徒会長以外に倒せるとは思えない。

 

「ここで我と共に死ね!庶民!!!!!」

 

緊張感が高まる。忠也はあの夜のことを思い出し。恐怖で固まっている。あの触手の怪物の記憶がトラウマになっている。忠也は声も出せなかった。

 

瞬間—————この場に似つかわしくない金属音が響いた。それは鎖がぶつかり合う音。

 

気がつけば一人の少年がその場に立っていた。黒色の髪に赤の瞳。整っている容姿だが、それ以上に悍ましいと感じる存在感が彼にはあった。魔獣すらも一瞬固まった。

 

「ま、まさか………いや、それよりも何故封魔の塔から出れている!」

 

「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」

 

驚愕、威嚇、恐怖様々な感情が入り乱れるが、その全てが一瞬で掻き消える。

 

「うるさい」

 

その魔王は絶対零度の視線と共に魔獣たちを見つめ逆らうことを許さない絶対的な魔力を向ける。ドクンと抑えきれない音を上げてベルクたちの胸が震える。

 

瞬間、ケルベロスの懐に現れそのがら空きの胴体に杖を向け、一言。

 

「消えろ」

 

大仰な光も、大火も、雷もない。気が付けば、無音と共にケルベロスが砂の山になっている。

 

恐怖を感じる間もなく、その様子を見た後浦部忠也は強烈な眠気に誘われて、意識をなくした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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