マケインわーるど   作:einan

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原作系ss
八奈見(やなみ)杏菜(あんな)とフィットネスゲーム


 

 休日の我が家のリビング。

 俺は何故か一人の女子が汗だくになっていく様を見せられていた。

 

『腰を下げて──伸ばして! ビクトリー!!』

「び、びくとりー……」

 

 ゼェゼェと息を切らして、疲労困憊(こんぱい)になっている女の名は八奈見(やなみ)杏菜(あんな)。万年腹ペコ系食いしん坊ガールだ。

 突然我が家に襲来し、また何か食いに来たのかと思ったが──今回はフィットネスゲームを持ってきていて、それをウチのテレビに繋いで激しい運動をしていた。

 

 ──この際それはもう構わないのだが、こいつはこの後汗だくのままどこで休むつもりなのだろうか。カジュアルなゆったり目の黒いスポーツウェアからは、所々汗が(にじ)み出している。

 ……ソファーに座るのは流石に勘弁してほしい。

 

「温水君、私、やったよ……ムキムキドラゴンに──私は打ち勝った!」

「お疲れ、八奈見さん。タオル持ってきたよ」

「お、温水君にしては気がきくじゃん。でもここに冷たい飲み物も一緒じゃないと、私のマネージャーは任せられないなー」

 

 八奈見のマネージャー……? あの謎理論と膨大(ぼうだい)な摂取カロリーに耐えられる人物がこの世に何人居るのだろうか。少なくとも俺は無理だ。

 冷蔵庫を開ける。──牛乳でいっか。

 

「はいどうぞ八奈見さん。一区切りついたみたいだし、そろそろ帰る?」

「んぐっんぐっんぐっ……ぷはー。ありがとう温水君。そうだね、そろそろ……って違くない!?」

 

 しまった、正解はウーロン茶だったか。

 

「あのね温水君、ここは過酷な運動を乗り越えた私を(たた)える場面なんだよ。『よく頑張った』『君ならできると思っていたよ』『流石だね』──みたいな感じで。あれだけ頑張った私を見てたら、自然とそういう言葉の一つや二つは出てくるもんじゃないかな」

 

 なんだそのセリフは。うちはホストクラブじゃないんだぞ。

 ……そういえばフィットネスゲームをしている最中に、似たような掛け声がされてたな。

 八奈見のわりには運動していると思ってたが、そういうカラクリか。

 

「えっと──八奈見さん、流石だね。凄いと思うよ」

「ちがうっ! 心がこもってない!」

 

 えぇ……どうしろと。

 

「やっぱり私の頑張りをわかってくれるのはリングくん、キミだけなの……?」

 

 こいつ、まさか無機物に恋を──? その先は(いばら)の道だぞ。

 まぁでも応援するから、二人で仲良く帰ってくれないかな。

 

「そうだ! 温水君もやってみればいいんだよ! そうすれば私の気持ちがわかるはず!」

「なんでだよ」

 

 話がおかしな方向に転がり始めたぞ。

 八奈見は身に着けていたレッグバンドと、リングコントローラーを俺に押し付けてきた。

 こいつさっきまで疲れ果ててた(くせ)に、意外と元気だな。

 

「わかった、やるけど……このコントローラーだけでいいよ」

「え? この足に着けるやつと二つ(そろ)ってないとできないよ?」

「このコントローラーだけでもできるモードも少しあったでしょ? 見ててそっちに興味が()かれてさ」

「なんだ、温水君もなんだかんだやりたかったんじゃん」

 

 そういうわけではないが──機嫌がよくなったのか八奈見はニコニコと隣で見学し始めた。俺はコントローラーを操作し、画面に表示された運動メニューを眺める。

 腕力測定……これでいいか、なんか短そうだし。

 

「全国平均は八十回だって。温水選手ははたしてこの記録を超えられるのでしょうか?」

 

 八奈見が(あお)ってくるが、俺にも多少の筋トレ経験くらいはある。超えられないにしても、平均値くらいは────

 

 

『今回のキミの記録は三十八回だ! よく頑張ったね!』

 

 

 ──自宅のリビングで腕力の限界を迎えている男、温水和彦。

 ぜ、全国の日本人はこれを八十回やっているというのか……? 平均──平均ってなんだ? 実はモリモリのマッチョメンの平均だったのだろうか。(だま)された。

 

「うわぁ……流石に温水君、平均の半分もいかないのはどうかと思うよ。はい、飲み物どうぞ」

「あ、ありがとう八奈見さん……」

 

 俺が喉を(うるお)しつつ休憩している間、八奈見は手の甲を(あご)に当てつつ、何かを考えているようだ。

 今日のおやつについてだろうか。カステラはうちにはないぞ。

 

「流石にこの(てい)たらくは色々マズいと思うんだよね。というわけで、今後も定期的にこのゲームを持ってこようと思います。よくよく考えたら私が運動するのに温水君が運動しないのは不公平だし、名案でしょ。運動って誰かと一緒にやる方がいいって聞くし」

 

 八奈見はニヤつきながらそう言った。

 

「待ってくれ、運動がしたいなら焼塩(やきしお)あたりを誘えばいいじゃないか。あいつなら喜んで一緒にやってくれると思うぞ」

「あのね温水君、そーゆーことじゃないんだよ。私と温水君、どちらも運動が必要である同志(どうし)であるはずなのに……私が運動している間、温水君はゆったりと本を読んでくつろいでいるという環境の格差。この格差を是正すべく、私は声を上げているのです」

 

 勝手に同志にされた。このままではまたなし崩しにうちのリビングが占拠(せんきょ)されてしまう──いや、どうせ断ったところでこいつが気まぐれに押しかけてくるのは阻止(そし)できないんだ。

 ならば了承して来る予定を伝えてもらう方がマシか……? 

 俺は立ち上がり、八奈見の方を向く。

 

「わかったよ。じゃあ時々は一緒にやろっか──次はいつにするの?」

「へ? 次とかわからないよ。運動ってそういう気分になった時にするものでしょ?」

 

 ……ほんとに定期的にやる気があるのだろうか。

 首を(かし)げる八奈見に、俺は彼女の恋人候補であるコントローラーを返すのであった。

 

 

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