マケインわーるど   作:einan

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 当然のように、原作最新刊9巻のネタバレ注意です。



水島(みずしま)小春(こはる)と帰る場所

 

 流されるのは楽だ。求めないのも楽だ。

 固執(こしつ)するような拘りなんてないなら、無邪気に笑って、他人に流される方が良いはずだ──。

 

『おじさん! 私とヒロくん、付き合ってるんです!』

 

 世が世なら大人に流されてお見合い結婚でもして、それなりに幸せになっていたかもしれない私が……初めて欲しくなったのが弘人(ひろと)だった。

 ただ、それだけ。

 

 

          ◇

 

 

 ──昔は見慣れない大きな鞄が客間にいっぱいあると、子供ながらに高揚(こうよう)した。

 彼と、その家族が来ているのがわかったから。

 その鞄が、玄関先に並べられるのが嫌だった。

 彼とその家族が、もうすぐ帰ることがわかってしまうから。

 でも……彼と恋人になってからは、それもちょっとだけ大丈夫になって。

 (うね)の向こうまで続く畑の緑のなか、思いを()せてはしゃぐことが増えていった。

 

 庭先の柚子は、毎年変わらず実をつける。

 背伸びをしても届かなかった実は、わたし以外の人が持ち上げて()ってくれて。

 (かご)に詰め込んだ不揃いの柚子を運んでいく。

 「ほら、いい匂いだ」、なんて。

 ひばりも弘人も、競うように匂いを確かめて、嬉しそうにうなずく。

 獲った柚子は、夕方のうちにネットに(まと)めてお風呂に浮かばせた。

 かわりばんこにお風呂に入ったあとの、みんなの匂い。

 私もひばりも弘人も、皆同じ匂いだった。

 

 

 皆が見ている家だからこそ、付き合う姿や振る舞いは大切で……。

 どこか(いびつ)なまま進む青春を飲み込めず、(うめ)きながらごろりと寝転ぶ。

 皆集まっているのに、私は小部屋で携帯を持って一人きり。

 真っ直ぐな好奇心で進む画面の中のキャラクターが、どうしようもなく眩しかった。

 ……付き合っているからといって、ワガママばかりじゃ続かない。

 けれど重くならないように言った、上辺だけの言葉じゃ(かれ)の心は到底()きこめなくて──。

 

 使い込まれた階段の(きし)む響きが、二人が私を呼びに来たことを知らせてくれる。

 ──ああ、弘人と、ひばり。隠すの、上手くなったな。

 

 

          ◇

 

 

 ──ほんの少し振り返っただけなのに、(あふ)れる嗚咽に思考が途切れる。

 うん。別れたとしても……一緒に過ごした時間が、なくなるわけじゃない。

 彼氏彼女の関係だった間に、弘人と出来る遊びは大体やったんだ。

 そう思えば、残っている後悔なんて二つくらいしかないな。

 

 記念日のプレゼントは、渡せそうにないこと。

 彼に褒めてもらいたくて買った秋服が、無駄になってしまったこと。

 これまで弘人に見せていた私に、さよならをしなきゃいけないこと。

 行きたかったイベントには、一人で行くことになりそうで──

 

 あれ、これで四つめか。

 ……まあいいや。

 

 泣き()らした顔の後始末もせずに、ふらりと外に出た。

 ()だるような暑さでも、夏の風だけが今年も変わらず枝葉を巡り、着慣れた浴衣の裾を揺らしていく。

 彼にも、私にも、ハッピーエンドはあるんだろうけど。彼と私にはハッピーエンドなんてなかった。

 だけどもう少しだけ、あの透明なぬるま湯に(ひた)っていたかった──。

 

 本当に、ただそれだけの話。

 

 

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