大学生
フワリフワリと羽のような雪が降っている
「住宅街こわいな……」
別に普通の道で気を付けていないわけではないが、住宅街は目の前の家から人が出てくる可能性を常に考えるので、どうしてもビクビクとスローペースになってしまう。そうしていると、目的地がもうすぐであることをナビが教えてくれる。
「あいつに会うのも久しぶりだな」
そう、今回訪れるのは元同級生であり、同じ文芸部員でもあった、俺の友人の
◇
『ピンポーン』
チャイムを鳴らす。雪が降ってるだけあって寒いな……マフラーをしてきてよかった。早く室内に入って温まりたい。少し待っていると、奥の方からドタドタバタと早足で玄関へ向かってくる足音が聞こえる。目の前の扉がガチャっと開いた。
「ぬ、温水……なんで」
「あれ、
「き、聞いたけど、さっき聞いたばっかで! そもそもなんで、来るのが……お前なんだ」
「それは俺も知らん。頼んできたお前の弟に聞いてくれ」
今回進君から頼まれたのは、小鞠に料理を食わせることだ。小鞠は最近小説執筆で忙しいらしく、進君や
何故2人が連絡を取れるんだ……? あんな小さい子が、まさか佳樹を狙ってはいないよな……? そこら辺も確かめないとな。とにかく家に入るか。
「今日は小鞠が家で1人なんだろ? 親も姉弟も居ないらしいじゃん。だから来たんだよ。とりあえず中に入れてくれ」
「──?! ……ま、
「色んなおかずやら
「お、おお……ぬ、温水の料理の腕、上がってる……?」
「大学生になって料理する機会が増えたしな。これはオニオンスープで……これは──」
何しろ俺は1人暮らしをしているのだ。……1人暮らしかどうか若干
俺が持ってきた料理に感心している小鞠と一緒に昼飯を並べ、席に着く。小鞠もちょこんと席に座り、2人揃って手を合わせる。
「「いただきます」」
そうして、少し遅めの昼御飯を食べ始める。いつも食べなれている温水家の味だ。特に言うことはない。
「ぬ、温水……ありがとう。りょ、料理、美味いぞ。助かった」
「どういたしまして。最初は小鞠の家の台所を借りようかとも思ったんだが……勝手がわからないし、俺は夜に用事があって晩御飯まで作れないからな。こんな感じであらかじめ作って持ってきたんだ」
「そ、そうか。手慣れてるな。きょ、今日は温水に
「どこかの誰かさんに比べたら小鞠は食う量も態度も全然可愛いし、手間とかじゃないが……食生活には気を付けろよ。そんなに忙しいのか?」
正面に座る小鞠の顔を見る。疲れているようには見えないし、むしろ肌のツヤとかは、高校の頃に比べて
「かわっ……ん、んん。い、忙しいわけじゃない。新しい作品が、いい感じに書けそうで……さ、最近はずっとそれを書いてる。他のことより、そっちのことで頭がいっぱいで」
「そうなのか。小鞠がそこまで力を入れている小説なら俺も楽しみだな」
悔しいことに俺はすっかりこいつの小説のファンになってしまっているしな。一応最初期からのファンを名乗れるはずだと思う。同じ部活だった
「そ、それで……出来上がったら、賞に
「マジで!? それは凄いな!」
「お、応募するだけだぞ……?」
「チャレンジしようとするだけで凄いよ……うん、それなら仕方がないな。応援してるぞ小鞠。俺に出来る範囲で手伝えるなら手伝うから」
衝撃の事実に思わずテンションが上がる。そうか、本格的に小説家への道を……小鞠が遠い存在になっていくようだ。やっぱり皆、色々と変わっていくんだな──
◇
昼食も終わり、片づけを始める。とりあえず食器を洗い場に持っていって……これから何をしようか。片づけが終われば夜まで暇である。同じように食器を運ぶ小鞠とすれ違うと、サラサラと揺れる髪が目につく。
「小鞠、髪も綺麗になったな。ブラシとか全然引っかからなくて楽そうだ」
「うなっ!? きゅ、急にそんなこと、言うな……馬鹿」
「あ、悪い。女の子の見た目に
「……お、男か? その友達ってやつ」
「いや、女の子だけど。結構
「──死ね。に、二回死ね」
「
小鞠は髪を片手で
「ぬ、温水は女にコロッと
「ウチはそんな怪しいサークルじゃないから……ちゃんとしたサークルだよ。多分。俺は小鞠の大学生活の方が心配なんだけど。押しの強いタチの悪い男に言い寄られたりしてないか? ちゃんと友達を呼ぶんだぞ」
「ふ、ふん……問題は、ない。温水も、困ったときは私たちに、そ、相談するんだぞ。私はお前から宗教に勧誘されたくは、ないからな」
小鞠が俺の背中を軽くどつく。頼もしい相談者だな。
……? 片付けも終わり手を
「ぬ、温水。お前、な、なんでも協力するって言ってたよな」
言ってない。
「ここここれ、映画のペアチケットで……そ、創作のインプットのためって、友達に
「なるほど?」
「も、もうすぐ一息つくし、息抜きにこういうことしたら、ち、チビたちも余計な心配しなくなる。つ、次の週末、一緒に、来い」
「確かに俺とお前の
思いっきり映画館デートだが、自分から誘ってくるということは小鞠は気にしないんだろう。
「次の週末は同じ
「く、車……そうか。ら、来週は」
「来週は──サークルの皆で、スキー旅行だな」
「温水……お前、役立たずだな。て、手伝うって言ったのは
「で、出来る範囲でって言ったから……再来週でどうだ? いつでもいいぞ」
ジト目で俺を見てくる小鞠にそう提案する。小鞠はそれを受けて目を
「し、仕方ない。それで、我慢してやる。さ、再来週、忘れるなよ」
「おう」
なんとか俺の面目は
「小鞠はこれから小説を書くんだろ? 俺はどうしようかな……適当に本でも読むか、ネットがある場所探してレポートでも書くか……」
「……」
小鞠も考えている。こいつ、なんというか
「温水、こ、ここには、車で来たのか?」
「え? ……そうだけど」
小鞠から急な質問。話の流れがわからない。
「の、乗せろ。どこか連れてけ」
「どこかって……どこだよ。小説はどうするんだ?」
「しょ、小説は、車に乗りながら、書く。わ、私は電車で書いたりもする。余裕。それで、か、書いてる最中、私が見たいと思った景色まで、温水が運転するんだ。とりあえず、海だな」
「夜までに帰れる場所にしてくれよ……」
どうやら小鞠様は専属ドライバーをご所望らしい。手伝うと言ったのは
小鞠に雇われた俺は、いそいそと出かける準備をする。小鞠も着替えるのは早かったので、2人で玄関に向かう。小鞠は
「じょ、助手席は綺麗にしているか? ……
「誑してないから。小鞠はどういう気分でそのセリフを言っているんだ……? 掃除はしてるぞ、ちゃんと」
ニマニマと笑い、俺をからかう小鞠。こいつ、どこかに置き去りにしてやろうかな……成長した小鞠なら、陽キャグループのど真ん中に放り投げられても
◇
──結局、俺たちは3時間くらいの時間を、雪が降る空の下、同じ空間で過ごした。
ほとんど会話もなかったが、それだけ小鞠が執筆に集中できたということだろう。助手席で
それでもなんというか、