マケインわーるど   作:einan

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ルート逆転IF
姫宮(ひめみや)華恋(かれん)が負けヒロイン?


 

 キーンコーンカーンコーン。4限目の終了を告げるチャイムが鳴る。

 俺は少し間を開けて、教室に入った。そう、俺は滅多にしたことがない遅刻をしたのである。職員室で既に遅刻届も提出済み。

 理由はわからない。朝、普通に道を歩いていたのに……気づいたら昼になっていた。摩訶(まか)不思議である。

 

「ボケたのかな……」

 

 そう呟き昼休み中の教室の自分の席に着く。我らが1-Cは相変わらずの賑やかさだ。

 

「それじゃあメシにしよう。俺、今日はお前のために弁当を作ってきたんだ。愛情込めて」

 

 クラスの中心人物、袴田(はかまだ)草介(そうすけ)の良く通る声が聞こえる。相変わらずのラブラブさだな。

 

「3段重ねた自信作の弁当だ。たっぷり食ってくれ……杏菜(あんな)!」

 

 ──は? 俺は思わず袴田の方を振り返る。袴田は普段より明らかに近い距離間で……既にフッたはずの負けヒロイン、八奈見(やなみ)杏菜(あんな)に言い寄っていた。

 勝ちヒロインのはずの姫宮(ひめみや)華恋(かれん)が、少し気まずそうに席を立っている。

 嘘だろ、あの2人が破局したのか。それにしても別れてすぐに、あんなことがあった八奈見を口説(くど)きに行くのか……俺の中でそこそこ上位だった袴田の評価が、一気に底の方へと推移する。

 

 あまりのことにアングリと口を開けその光景を見ていると、八奈見がこちらを向いた。

 

「……!」

 

 八奈見は席からガタっと立ち、俺の腕を掴む。

 

「ごめん!! 今日中にどーしても、温水(ぬくみず)君と済ませないといけない用事があったんだった! 少ししたら戻るから待ってて草介!」

 

 八奈見はあっという間に俺の腕を引き、教室から連れ出してしまった。……俺、まだ鞄も置けてないんだけど。教室の喧騒(けんそう)が、少しずつ遠くなっていく。

 

 

           ◇

 

 

 例の非常階段。八奈見は少し疲労した表情で、俺を問い詰める。

 

「で!? その様子からして、温水君は関わってないんだよね!? ──このタチの悪いドッキリに」

「ドッキリ?」

 

 袴田が八奈見を口説いていたことだろうか。

 

「そうだよ。朝家を出たら草介が目の前に居て、私の彼氏だとか言ってくるし。父さんも母さんも当然のように受け入れてて、学校では友達がみーんな草介の恋人は私しか居ないって言うんだよ。どういうことなの? 小鞠(こまり)ちゃんには逃げられるし。授業も先生が随分(ずいぶん)前のことをやり直してて……わけわかんない」

 

 なんだそれは──ドッキリなのか? 八奈見は混乱しているようだ。

 ……授業のやり直し。俺は携帯を確認する。

 そこには本来示されているはずの日付より、数カ月前のものが表示されていた。設定を確認するが、世界標準の日付である。

 

「八奈見さん、携帯で今日が何月何日か確認できる?」

「今日? 今日は別にエイプリルフールじゃ……なにこれ、全然違うじゃん。私のスマホ壊れちゃった?」

 

 八奈見の携帯にも表示される、俺の携帯と同じ日付。

 

「多分違うと思う。これは──タイムスリップだよ。ドッキリだとして携帯に細工をするのは大掛(おおが)かりすぎるし……先生が協力するとも思えない。俺は前もこんな不思議な体験をしたんだ。その時の相手は小鞠で、何故か今まで忘れてたけど」

 

 そういえば遅刻届の日付もおかしかった気がする。

 

「タイムスリップ? つまり、温水君と私だけが時間が巻き戻っているってことだよね。まさかそんなわけ……でも草介も華恋ちゃんも、皆変だし──あれ? 時間が巻き戻っても、草介はもう華恋ちゃんと付き合っている……はずだよね」

「それは巻き戻る時に因果(いんが)が逆転したとかそんな感じじゃないか? とにかくこの世界では、八奈見さんと袴田は恋人同士になっているんだ」

 

 俺の説明に八奈見は半信半疑といった様子で、腕を組んで首を(ひね)っている。俺も別に確証があるわけじゃないからな……

 

「なら、どうしたらいいの温水君」

「前は気づいたら元通りになっていたから……普通に過ごしてればいいんじゃないか? 変に(さわ)ぐのも良くないと思う」

 

 俺の言葉に八奈見は(うつむ)き、押し黙った。そうだよな、八奈見は12年間の初恋が(みの)らず振られてしまったことを、こいつなりに乗り越えていってる最中(さいちゅう)なんだ。

 そんな時に見せられた、もしもの可能性……この世界は、八奈見にとって残酷すぎる。

 

「──つまり、元に戻るまでは私と草介がラブラブってことだよね!? 幼馴染カップル(ばく)(たん)!! ……ってコト?」

 

 ハハ、こいつめ。人の心配を返せ。

 

「八奈見さんがそれでいいなら、いいんじゃない? ……浮気には、ならないんだ」

「ん?」

 

 どーしよっかなーと浮かれている八奈見を見て、何だか少し腹が立った。口に出す言葉が、どうしてか止まらない。

 

「やだなぁ温水君、勿論(もちろん)冗談(じょうだん)──」

「おかしなことになったからと言って、何でもしていいわけじゃないだろ。元に戻った時、袴田や姫宮さんに顔向けができなくなったりしないのか。俺は八奈見さんが後悔するところは見たくないし、軽はずみにそんなことするのは──」

 

 更にヒートアップしそうになった時、八奈見の表情に気づく。見たことがないものを見たといった感じで、目をパチパチとさせていた。

 ……その態度に、少しだけ冷静になる。

 

「──ごめん、変なこと言った」

「全然いいけど。温水君がそんな感じになるの、珍しいね。いっつも余裕そうな感じで私にバンバン毒吐いてくるのに。温水君も驚いて混乱しちゃったのかな。それとも……別の理由だったりする?」

 

 八奈見は(あや)しげな雰囲気を(かも)し出して、俺の隣に寄ってきた。くそ、今年最大級の失言だ……俺は()()()すように半歩、八奈見から離れる。

 

「──俺も、取り乱していたのかも。さっきはあんなこと言ったけど、この世界の袴田たちに疑われても良くないし。恋人として振舞(ふるま)うのもいいと思う。もちろん節度(せつど)は必要だろうけど、それさえ守るなら……八奈見さんの、想い出になるかもしれないから。一緒に弁当を食べるとかは、構わないんじゃないか」

 

 俺は八奈見にそう提案した。それを聞いた八奈見は、また考え込んでいる。さっきまでノリノリだったのに、何を迷っているんだ。

 

「草介と2人で弁当……恋人同士で……華恋ちゃんとイチャイチャしていたのが、私になって……うん、何回もやりたかったって思った、思ってた、けど──」

 

 八奈見はジッと俺の顔を見る。なんだ、何も付いてないぞ。八奈見は少しの間迷っていたが、ふと何かに気づいたような表情になった。

 

「──待って。私が草介と付き合っているってことは、華恋ちゃんがフラれたってことだよね」

「……そうだね」

「こうしちゃいられないよ!! あんなにラブラブだったのに。華恋ちゃんが心配だよ。今どこに居るの? イギリスに帰っちゃったり……励まさないと。私達は親友なんだし。華恋ちゃんに会いたいから、私探してくるね」

 

 おいやめろ。姫宮さんはほっといてやれよ。お前もあんまり干渉して欲しくなかっただろ、あの時期。そんな時間()ってないのに忘れるんじゃない。

 俺が止めるより早く、八奈見は階段をガタガタと降りて行った。……かと思ったが、引き返してきた。

 

「そういえば温水君! 華恋ちゃんに手を出してないよね!?」

「え? いや、出さないよ。何でそんなこと考えたの八奈見さん?」

「だって! 私と華恋ちゃんが逆ってことは──」

「……逆ってことは?」

 

 八奈見の言葉が途切(とぎ)れる。俺は非常階段の下の方で突然立ち止まった、八奈見の言葉を待つ。

 

「──温水君は私が好きだから、ここでは温水君は華恋ちゃんが好きってことになるじゃん」

「あのね、八奈見さん。前も言ったけど、俺は八奈見さんのことを別に恋愛的な意味で好いてるわけじゃないんだ。それは勘違いだし、俺は俺のままだからそもそも逆にもならない。オーケー?」

 

 俺が丁寧に説明しても、八奈見は姫宮さんを口説かないことをしつこく念押ししてきた。俺から言質(げんち)を取った八奈見は今度こそ、非常階段からドタバタと去っていった。

 

 

          ◇

 

 

 取り残された俺。どうしよう。とりあえず鞄をゴソゴソと(あさ)っていると、ちゃんと弁当があった。……食べるか。

 弁当を(ひざ)に乗せ広げていると、階段の下からカツンカツンと誰かが上がってくる音が近づいてきた──

 

「温水君、ビックリしたよ。いつの間に杏菜とあれだけ仲良くなったの?」

 

 非常階段の手すり越しに話しかけてきたのは、渦中(かちゅう)の人物である姫宮華恋。おい八奈見、入れ違っているぞ。しかし相変わらずの華やかさで……あれ、さっきの会話聞かれてた?

 

「──ほどほどだよ。ちょっと用事を手伝って貰っただけで。さっきの八奈見さん、姫宮さんのこと探していたけど」

「そうなの? 2人の話を盗み聞きしちゃうのはダメかなって思って、そこら辺に隠れちゃってたな。後で杏菜に話を聞いておくね」

 

 良かった、聞かれていないようだ、すると姫宮さんは俺の近くにハンカチを広げて、そこに腰掛けて俺と同じように弁当を広げ始める。

 ──もしかして、一緒に食べるとかそんな感じか。いい匂いがする。

 

「杏菜も酷いよね。2人の間に割り込んだ私をまだ親友って言ってくれるのはとっても嬉しいんだけど、私のことなんか構わなくていいのに」

「……これがきっかけに疎遠(そえん)になりたくないとかで、八奈見さんも必死なんだろ。袴田とイチャつき過ぎるのはどうかと思うけど」

「だよねー? 付き合いたての10年モノ幼馴染カップルを、間近(まぢか)で見続けるのはまだ私にはムリです……もうちょい時間をください……」

 

 姫宮さんは顔を突っ伏してそう愚痴(ぐち)る。その動きに連動して、彼女の長い髪も下に垂れ下がる。……これがあの姫宮さん? まったく雰囲気が違うし、脳内にお馴染みのBGMも流れてこない。

 

「──だから、温水君がこうやってお弁当を一緒に食べてくれるのは嬉しいんだ。いつもありがとう! 文芸部の先輩たちは優しいし、新しいお友達も出来たし……私、ちょっとずつ前に進んでいるから。杏菜に何か聞かれても心配ないよって伝えてね」

 

 そう言って姫宮さんは笑う。その笑顔に、あの目を潰すほどの溢れんばかりの輝きはなく……キラリと光った、6等星ほどの(わず)かな輝き。それを見た俺の胸に、形容しがたい感情が湧く。

 

「無理に区切りを付けなくてもいいんじゃないかな、姫宮さん」

「え?」

「高校生で付き合ったカップルの7割は、1年以内に別れるらしいんだ。姫宮さんならともかく、八奈見さんが1年もつかは、わからないし……半年とかで、別れるかもしれない。その後に、姫宮さんが袴田と付き合っても問題はないん……じゃないか?」

 

 また何を言っているんだ俺は。もしそうなったら今度はこの世界の八奈見さんが傷ついてしまうし──どうしてか頭の中に、余計な考えが湧いてきている。

 そんな俺の言葉を聞いた姫宮さんは、何故かケタケタと笑い始めた。笑い声がどんどん大きくなっていく。

 

「あの、姫宮さん。なんでそんなに笑って──」

「そりゃ笑うよー……! 私ならともかくとか、わけわかんないし。あの2人が半年で別れるとか言う人、初めてだよ。周りの皆はやっとくっついたかとか、結婚式には呼んでくれとか、夫婦揃って末永(すえなが)くお幸せにーって感じだもん。しかも別れた後に奪っちゃえって……温水君って、意外と悪い人?」

 

 姫宮さんは俺の目を見る。否定できない俺は、バツが悪い表情になった。

 

「確かに、杏菜と草介が上手くいかない時もあるかもね。でも温水君が言ったようなことにはならないんじゃないかな?」

「そ、そうかな? 幼馴染だからこそのトラブルとか──」

 

 思わず反論した俺の鼻を、姫宮さんが(いまし)めるようにツンとつつく。

 

「そうじゃなくて。忘れたの? 今はちょっと離れているけど──ここには杏菜の親友で、草介の親友の私がいます。あの2人にはずっと一緒に居て欲しいし……もし2人がケンカしちゃったなら、その仲直りを手助けするのは私がいい。私の目が黒いうちは、破談(はだん)になんてさせないんだから」

「……そっか。うん、そうだよね」

 

 そう宣言する姫宮さんの周りに、見慣れた輝きが少しだけ戻り、彼女の周囲を(ただよ)い始める。

 ──強いな。何でこの人が負けたんだ……この世界の八奈見さんはそんなに魅力的だったのかな。八奈見、そこら辺の話を袴田から聞いてないのか? 聞いた本人にとっては、手酷い追い打ちになるかもしれんが。

 

 姫宮さんの心配はそこまでしなくても大丈夫そうだなと考えていると、姫宮さんは俺の顔をジッと見てきた。それ、流行っているのか? 

 何が面白いのか俺の表情を少し観察した姫宮さんは、人差し指を口元に当てて気まぐれな声色(こわいろ)を出す。

 

「んーでもやっぱり……前言(ぜんげん)撤回(てっかい)しちゃおうかな。私悪い人になって、草介を誰も見てないところで誘惑しちゃうかも」

「え? そ、それはダメって今言ってたじゃん」

()っちゃえって言い始めたのは温水君だよ?」

 

 姫宮さんは俺を非難するように口を(すぼ)める。ここにきて昼ドラのようなドロドロ展開になるのか。

 

「だから私が悪い人にならないように、ちゃんと見張っててね温水君。君にしか頼めないんだよ……お願いね」

「うん──わかった」

 

 俺と姫宮さんは握った拳の側面を、お互いにポンと合わせた。これは何の同盟なんだろうな……? 

 気づくと残った休み時間のわりに、食事が進んでいない。俺は昼食を再開して、時折(ときおり)姫宮さんと話す話題に困りつつも、当たり(さわ)りのない雑談をなんとか繋げて昼休みを乗り切った。

 

 

          ◇

 

 

 放課後である。八奈見は姫宮さんと話していたし、とりあえず文芸部に向かっていると、廊下でイチャつくカップルが視界に映る。お盛んですね。

 

古都(こと)……好き……美味しそう……」

「ちょっ、やめろ、夢子(ゆめこ)! 恋人だからって、時と場所を選べよ!! こいつ……」

 

 なんと廊下では志喜屋(しきや)さんが、月之木(つきのき)先輩の首筋に顔をうずめていた。──今恋人って言った? ええ……何をどうしたらそうなるんだ。この世界、俺が思っているよりカオスなのかもしれない。

 関わりたくないので素早く通り過ぎて、足早(あしばや)に部室に向かう。その道中で、見知った顔に出会った。

 

和彦(かずひこ)さん、どちらへ向かっているのですか?」

 

 ピカリと光るおでこ。出くわしたのは朝雲(あさぐも)さんだ。この人は焼塩(やきしお)から綾野(あやの)を勝ちとって、綾野の彼女になっているはずだけど。

 ……もしかして、ここでは違うのか。あと何で下の名前で俺を呼んだの? 親以外が俺の名前を言うことはそうそうないので、ビクッとしてしまう。

 

「あ、朝雲さん。俺は文芸部に──」

「めっ、です。もう……和彦さん、私のことは千早(ちはや)って呼んでくださいって言ったじゃないですか。綾野さんのことも、ちゃんと光希(みつき)って名前で呼んであげてくださいね。あの人和彦さんに名前で呼ばれてすっごく喜んでいたんですから。()ねちゃいますよ」

 

 え何その設定……知らない。戸惑(とまど)う俺。

 

「そっか。ごめん、うっかりしてたよ……千早さん」

「許してあげます。あと今日は文芸部に行く日ではありませんよ? 今日は4人で(じゅく)に行く日です。和彦さんが居ないと私、2人の間に挟まれないんですから。しっかりしてください」

 

 この世界の俺、高校でも塾に通っているのか。それで綾野や朝雲さんと仲が良いみたいな感じなのかな。もう1人は誰なんだろう。焼塩か?

 

「もう一度伝えておきますが、私のことは千早さん。綾野さんのことは光希。檸檬(れもん)さんのことは焼塩って呼んでください。檸檬さんは綾野さんの彼女ですので、軽々しく名前で呼んではいけませんよ。今日の授業の時間割はこのプリントに書かれています。それでは、行きましょうか」

 

 朝雲さんは俺に1枚のプリントを渡したかと思うと、俺の(そで)を引っ張って反対の方向に向かせ、背中を優しく押す。

 おそらくこのまま塾に連れていかれるんだろう。何もかも予想外だが、俺は並行世界の自分と入れ変わっているという可能性もあるし、迷惑がかからないようにノートはキッチリ取らないと……

 

 朝雲さんに連れられた俺は、校門で待ち合わせていたであろう綾野と焼塩に合流して、皆で仲良く同じ塾に辿(たど)り着いた。それぞれ授業を受けて、休憩時間は毎回4人で集まって話し、それが終わればまた授業を受ける繰り返し。

 いきなりの塾の授業にあまりついていけなかった俺と、単純に学力が足りていない焼塩を、綾野と朝雲さんは順を追って手際(てぎわ)よく指導してくれた。なんだか新鮮な時間だったな。

 

 

          ◇

 

 

 すっかり夜も遅くなった。全ての授業を終えた俺たちは解散し、各々の帰路(きろ)につく。今日は色々あってクタクタだ。家でゆっくり休もう……ゴトンゴトンと電車が揺れる。最寄り駅で降りて、徒歩で家に帰った。我が家の扉を開ける。

 

「お兄様、お帰りなさい!」

 

 もう夜遅いのに、佳樹(かじゅ)が出迎えてくれた。嬉しい。佳樹が差し出した手に、鞄を渡す。

 

「ただいま、佳樹。お出迎えありがと」

「いえいえ。佳樹はお兄様の婚約者なんですから。これくらい当然です」

 

 ちょっと待て。今、とんでもない単語が聞こえたぞ。

 

「あの──佳樹? 俺たちは兄妹……だよな」

「……? お兄様、確かに私とお兄様は兄妹のようにお義母(かあ)さんとお義父(とう)さんに育てられましたけど――佳樹とお兄様は血縁(けつえん)上、従兄妹(いとこ)ですよ? そうじゃなきゃ婚約者になんてなれません」

 

 嘘だろ、この世界、家族関係まで変わっているのか? 俺はショックで玄関に立ち尽くす。

 

「それより……お兄様、今日も随分色んな女性の方と会われたようですね?」

 

 立ち尽くしている俺の胸元を、佳樹がスンスンと匂いを嗅いでいる。

 

「これは……朝雲さんで。これは……姫宮さん。これは……知らない方ですね。しかも随分と濃く(こす)り付けて……お兄様ったら、あと何匹盛りの付いた雌猫(めすねこ)を構えば気が済むんですか? お兄様が本当に望むのであれば佳樹は受け入れますが──今の状況はあまりにも節操(せっそう)がありません。お兄様を1番幸せに出来るのは佳樹です。お兄様にはそれをあらためてわかって貰わないと……」

 

 いやいや怖い怖い。いつの間にか佳樹は髪の毛を1本口に(くわ)えてる。ばっちいからやめなさい。おどろおどろしたオーラを放ち始めた佳樹は、目をクワっと開き、言葉を続けた。

 

「今日もお兄様の体は念入りに佳樹が洗います! 隅から隅まで何も残しません。その後は新しくできた地下室で、心ゆくまで愛の語らいを──」

「おーっとそういえば今日は友達の家に泊まるんだった。父さんと母さんにもそう言っておいてくれ」

「えっ!? ……お兄様!? 綾野さんのお家ですか!? 玉木(たまき)さんのお家ですか!? 外泊なんて佳樹は許しませんよ!!」

 

 佳樹の返事を待たずに俺は外に出る。妹に(おそ)れをなしたとか、そういうわけではない。きっと今俺に必要なのは、状況を整理する時間なのだ。

 

 

          ◇

 

 

 あてもなく夜の公園でブランコを()いでいた俺を、偶然通りがかった朝雲さんが家に招待してくれた。なんでも両親に新しく出来た友達を紹介したいらしい。親御さんが想定していたのは女の子の友達なんじゃないかな……この際贅沢(ぜいたく)は言えないんだけど。

 

 俺は結局、朝雲家で大人しく一晩を過ごした。朝ご飯が美味しかった。

 

 

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