ある日の昼下がり。
俺は秋の風に揺られ、ゆったりと自転車を
「あれ、ぬっくんじゃん。ぬっくーん!──あれ、聞こえてないのかな……ぬーーっくーーん!! ぬっーーーくーーーーーん」
そうしていると、俺の名前を叫びながら近づいてくる陸上系女子、
──焼塩の存在はちゃんと認識しているから、声を落としてくれ。このままでは通行人
「偶然だね! あたし走ってたんだ。ぬっくんも走る?」
「いや、自転車あるし……」
「自転車でもいいよ!」
よくない。なんとなく
俺が渋っていると、焼塩は何かを思いついたのか手を叩いて軽く飛び上がった。
「せっかく会ったのに何もしないのはもったいなくない? ──そうだ! ここから近いし、ちょうどいいよね。ぬっくん、こっちこっち」
「ま、待てよ」
焼塩にシャツを引かれるがまま彼女に着いていく。そのまま少し入り組んだ道を抜けると、まったく見慣れない場所に出た。なんだここ……林? 森?
俺は自転車を適当なところに停め、焼塩に
「それで、ここで何をするんだ?」
「ここじゃないよぬっくん。もっと奥。行くよー」
え、まだ歩くのか……それ以前にここって入っていい場所なのか?
──不安になってきた。
「焼塩、ここって入っちゃダメなんじゃないか? ほら、誰かの
「しゆーち? よくわかんないけど大丈夫だよ。ここら辺道っぽいじゃん」
判断基準はそれなのか。確かに
「おい、焼塩──」
口に出そうとした瞬間、彼女の人差し指が俺の口に当たる。……顔が近い。
焼塩はもう片方の人差し指を自らの口に
「しーーーーっだよ、ぬっくん。これから行く場所はね、秘密の場所なんだから。静かにしなきゃだめ。まだ誰にも教えてないんだからね。二人だけの秘密。わかった?」
なんだその素敵な響き。まさか俺が女子と二人だけの秘密を共有することになるとは。
──あれ、何考えてたんだっけ……思い出すがもう既に結構進んでしまっている。
こうなれば特に問題がない場所だという可能性に
枯れ枝と落ち葉を踏みしめながら、俺たち二人は目的地へと進んでいく──
◇
「着いた! ここだよぬっくん。見て見て、すごいでしょ」
「あ、ああ。……ん、なにこれ」
「えーー!? わかんないの!? どこからどう見ても──秘密基地じゃん!!」
「秘密基地……言われてみれば」
着いたとたんいつものように
どこから見つけてきたのか──下に大きめの石をいくつも敷いており、そこそこの大きさの木の板二枚で屋根らしきものが出来ている。一応、秘密基地っぽくはあるな。二人だけの秘密って、これか……
「いい感じに色々
焼塩が秘密基地に立てかけてあった木の棒を一つ俺に渡してきた。
「焼塩、まさかこれでチャンバラでもするんじゃないだろうな」
「そうだよ? ぬっくんよくわかったね。大丈夫、手加減するから。ごっこだよごっこ」
高校生にもなってチャンバラごっこか。……まあ何度かやれば焼塩も満足するだろう。
俺はかの剣士様のような理想的な動作で流れるように剣を構え──
「……もしかして雨降ってきてない? ヤバいよぬっくん!
ポツポツと振り出してきた雨に勝負を中断させられるのであった。
◇
「──雨、なかなか止まないな。今日は一日中晴れって予報だったはずなのに」
「そうだねー。でも天気予報なんてそんなもんだよ。ちょっと外れてもバーッて走っちゃえばあんまり関係ないし」
風邪ひいちゃうからやめなさい。
当たり
当然のように焼塩の肩や腕が当たっているし──足に至っては入り切れていない。
これは……不健全ではないだろうか。誰かに見つかれば怒られるどころでは済まない気がする。
ジワジワと靴と足が濡れてきている。今頃置いてきた自転車も濡れているだろうな──
「えへへ、でもぬっくんはラッキーだったね」
「ラッキー?」
ラッキーとはこれいかに。
「だって今日あたしに会えなかったら、こうやって秘密基地で雨宿りできなくて──二人ともずぶ
「焼塩に会わなかったら俺は今頃大通りの方にいるだろうし、そっちの方が雨宿りする場所は沢山あったんじゃないか……?」
この頼りないスペースしか雨を
「もーまたぬっくんはそーゆーこと言う。そういうとこだよ、ぬっくん」
「そういうとこか」
俺の理論は焼塩のお気に召さなかったらしい。
……この密着状態から気を逸らすためにとりあえず外に意識を向けると、さっきより雨の勢いが弱まっているような気がした。
──少し
「よし、今のうちに帰ろう焼塩。帰り道は──」
「見て見てぬっくん! 虹だよ、虹! 消える前にさ、根元まで走りに行こうよ」
雨上がりの空に掛かる
あいつの思考回路は良くも悪くも純粋だ。
少しは
俺は彼女の将来に