気が付くと、俺は見知らぬ通路に一人で立っていた。通路はきらびやかな
……おかしい、俺はさっきまで『
もうすぐ期待の催眠術幼馴染が登場するシーンだったはずなのに、俺が手にしていたスマホは影も形もない。
「もしかしてこれは──異世界転生か!?」
その可能性にたどり着いた瞬間思わず興奮する。
普通ではありえない現象、なんとなく感じる
ここはきっと異世界の王宮とかに違いない。異世界転生は本当にあったんだ。俺は今、すべての異世界小説読者が夢見た光景を目にしている──
自分の顔や体をペタペタと触る。鏡がないので確信があるわけではないが、おそらく16年間慣れ親しんだ
……ということは異世界転移パターンか。服は何故か中世ヨーロッパ風のものになっている。親切設計だ。
「さて……ここからどうするか」
異世界転移したからといって浮かれてばかりもいられない。既に俺がチート持ちで、この世界が何の
異世界転移者が複数いて敵対するパターン、最初は能力が
まずは慎重に情報収集だな……
「ひ、人を探して……とにかく敵対の意思を見せないように……」
誤解から処刑なんてことになったらたまらない。──段々心細くなってきた。
おそるおそる通路を進んでいると、扉の向こう側から
「シルヴィア・ルクゼード
……まさかの異世界婚約破棄ものだった。となると婚約破棄されたシルヴィア・ルクゼード嬢が、ここから新天地で更にハイスペックな結婚相手に
「あ、あう……」
そうだ、
──口ごもっていたけど今反応していた声、小鞠だよな? あいつもこの世界に来ていたのか……いや、俺はオマケで主役はあいつか? 作者だしな。
「シルヴィア、言い訳なら
そう、これは第1話の印象的なシーン。セカンドライフに向けて
「君のアンヌ
……あれ、修正されないぞ。気になって扉をコッソリと開ける。部屋の中には
小鞠は肩を縮こまらせ、今にも部屋から消えてしまいそうな雰囲気だ。視線を伏せているのか、扉の隙間から
おい、しっかりしろ。お前が書いたキャラクターだろ。こういうのは原作のセリフをそのまま言えば、原作の通り乗り切れるはずだ。
「ままま、まっ…………そ、そつ………………いべ……」
──ダメっぽい。さっきからギュスター王子の
見てるだけの俺ですらちょっと怖い。本物のシルヴィア嬢は強かったんだな……
そんなことを言っている場合ではない。ここでは小鞠のいつものチャット打ちもできないんだし、何とかしなければ。俺は扉を3回ノックし部屋に入る。
「ぬ、
「何者だ! 許可もなく部屋に入ってくるなど
「……し、失礼いたしました。わ、私はお嬢様の付き人でして……
今着ている服はよく見ると使用人っぽい服だったし、どうにかなってくれ。小鞠は俺の目線で察したのか、コクコクと
ギュスター王子は
「……ルクゼード家の使用人は全員
「私はシルヴィア様個人に付き従っているものでして──」
「ふん、そうか。まあいい」
どうにかなった。勢い任せにとにかく口を回す。
「ギュスター王子。シルヴィア様は罪を認めております。ですがこのような場ではなく、公正な場で裁かれることを望んでおられるご様子。王立魔法学園の卒業パーティーにて、
「な、何? 流石に
よかった。修正力でもあるのか、原作の流れに合流できそうだ。俺とギュスター王子二人の視線が小鞠に注がれる。
あとはあいつが頷きでもすれば、シルヴィア嬢こと小鞠知花は、隣国の王太子フィリップの婚約者として、公爵領を経営するセカンドライフを送ることができるはずだ。……頼むぞ。
以前小鞠が言っていたことを思い出す。
『す、好きなモノ、書くのが一番』
──この世界はあいつの好きなもので溢れている。そこで過ごせるならばきっと幸せになれるはずだ。
小鞠は注目されて
「──い、いえ、さ、最初はそのようなこ、ことも考えておりましたが……や、やはり家の名誉を考えると、
そう告げる彼女の表情は、色んなものが混じっているようで俺にはよくわからなかったが──はっきりと自分の意志を、目の前の王子に伝えていた。
よくやった。これでパーティーに……って、修道院?
『シルヴィア・ルクゼード(とその付き人)──修道院に
◇
馬車に揺られている俺と小鞠。ここに乗っているのは俺たち二人だけだ。
こんなものは初めて乗ったけど……
同じく尻を痛そうにしている小鞠に、俺は質問をする。
「なあ……ここって小鞠が書いてる小説の世界だよな。なんで今俺たちは修道院に向かっているんだ? 学園の卒業パーティーに出席しないとフィリップに会えないはずだよな。作者にしかわからない裏ルートでもあるのか?」
「ち、違う」
違うらしい。
「ぬ、温水はわかってない。げ、現実と小説は、別。必ずしも主人公になりたいわけじゃ、ない……」
言われてみればわからなくもない。つまり小鞠は小説の通りになりたいわけではないので、正反対の修道院ルートを選んだということか。
「なるほど、そういうことか……え、それじゃあ何のひねりもなく、ただこのまま修道院に行くだけ? 俺も?」
「お、お前は私個人の付き人、らしいからな……い、
最悪だこいつ、俺を巻き込みやがった。せっかくの異世界転移が
他に誰かこの世界に来ていないのか?
慌てふためく俺を見て、小鞠はのんきに笑っている。こいつ、今の状況わかっているんだろうな……?
◇
──気が付くと見慣れた我が家のベットの上にいた。トントントンと台所で佳樹が晩御飯を作っている音が聞こえる。
……何だったんだこれ