三月の
ソフトボール、サッカー、バスケットボールなど──様々な球技がクラス対抗ゲームとして、ツワブキのグラウンドや体育館で行われている。
俺が出場する種目はソフトバレーボールだ。必ずどれか一つの種目を選んで出場しなければいけない決まりなのである。
この義務運動システム……
「考えても仕方がないか」
試合開始の時刻まではまだ時間がある。今のうちに各階の水道水のコンディションを確認しておこう。クラスマッチの開催日は全生徒が運動する関係上、水の消費量がかなり増える。
その影響は言うまでもないが──それに加えて
「ん……」
そんなことを考えていると、1人足をダランと伸ばして、
「水……飲んでる……の……?」
「は、はい」
「クラスマッチ……準備……万端」
「水分
この人はただでさえ色々とひ
「クラスマッチ……君は……何に出るの……?」
「ソフトバレーですね。先輩は何に出るんですか?」
「私も……同じ……」
へえ、志喜屋さんもソフトバレーなのか。ということは一応ライバルチームということになるな。
一旦会話が
「応援……行く……試合……いつ始まる……?」
……? クラスマッチは最初、同じ学年同士で試合が行われる。志喜屋さんは同じ競技のよしみで、その試合を応援してくれるということだろうか。その気持ちはありがたいのだが──
「いや、先輩にそこまでしていただくほどじゃ……嬉しいんですけど、今回は
「……嬉しい……のに……なぜ……?」
「──ウチのクラスはその、部員の人数比的に他の競技に力を入れていて……運動ができる人は
「……」
「勝ち目はかなり薄いですし、見ててあまり面白いものでもないと思います。そんな試合をわざわざ応援してもらうのは……」
流石に申し訳ない。あとこの人に──試合に負けるところを、なんとなく見られたくない。そんな言い訳をしていると、志喜屋さんはズイっと一歩、距離を縮めてきた。俺の心臓に悪いので勘弁してほしい。
「関係……ない」
「え?」
「それは……関係……ないよ……?」
生徒会メンバーの前で、学校行事に積極的じゃない発言はマズかったか──?
相変わらず志喜屋さんは無表情だが……
「応援……行くね」
「へ? ──わ、わかりました」
「何時……?」
「じゅ、十時三十分頃です」
「
結局時間を教えてしまった。──志喜屋さんの腕の振り方とか
「私の……試合は……十時くらいから……よろしく」
これは交換条件として、先輩のチームも応援しろということだろうか。志喜屋さんはそう言ったっきり、フラフラと東の方を
◇
既に十時を経過し、体育館で
現在のスコアは11-14で、志喜屋さんのチームがリードしている。先に十五点取った方の勝ちなので、あと一点で勝負が決まる形だ。
しかし、あれはいいのか……?
志喜屋さんがスポーツに耐えられるイメージは全くなかったが、コートの
でも先輩、サーブだけはちゃんと入れてるんだよな……感心していると、このマッチポイントの場面で、志喜屋さんにサーブのターンが回ってきた。
「
「ゆっくりでいいからねー!」
先輩ギャルたちの声援が聞こえる。俺の声はそこにはない。
そう、俺はまだ応援らしい応援ができていないのである。全然
試合の順番待ちをしていますよーというような立ち位置で、遠巻きに見ているだけである。一応約束っぽいことをした以上、このままではいけない。
──志喜屋さんがサーブ位置に立つ。チャンスはもう、ここしか残っていない可能性が高い。俺は心のどこかにあるはずの勇気を振り
「な、ないすさーぶ」
……名指しで応援する勇気までは出てこなかった。それ以前に声が果てしなく小さい。こんなんじゃ応援になるわけないな──
しかし、俺がそう言った瞬間──こちらからは後ろ姿しか見えない先輩が……
彼女は綺麗に山なりのサーブを入れ、その試合は志喜屋さんたちのチームが勝利した。
◇
……さて、とうとう1-Cのソフトバレーの試合が始まる。対戦相手は1-Bだ。
志喜屋さんは
彼女はそのポーズを取ったまま動かない。……あれが先輩なりの応援ということだろうか。とりあえず
『関係……ないよ……?』
──そんなことを志喜屋さんは言っていた。関係がない。つまり勝つ可能性がどれくらいあるのかは関係なくて、全力で戦う精神こそが重要……みたいな感じだろうか。クラスマッチは予選で敗退するとわりと
でも、今は違う。先輩の気持ちに応えるためにも、俺はこの試合に勝ちに行くのだ──
「やるだけやってみるか」
……後で知ったことだが、1-Bのソフトバレーチームはその半数が現役バレー部員だったらしい。我ら1-Cはものの見事に
──パワーバランスおかしくない?
◇
結局暇になった。まあ元々そういう感じだったし……次にチェックする予定の水飲み場のことでも考えて切り替えよう。そうしていると、志喜屋さんが声をかけてきた。
「
「ま、まあ……そうですかね」
志喜屋さんはそう言ってくれるが、俺の方は若干気まずい。上手い返しが思いつかないでいると、彼女はゆったりとした動作で、俺の頭に手を伸ばしてきた。
「頑張ったから……
──!? 先輩の小さな手のひらが、俺の頭を
……意識するのはやめよう。それよりもこの場所は体育館の近くだ。人通りも当然あるので、周囲の人たちの注目を集める。は、恥ずかしい──
「先輩、な、なにやってるんですか。やめてくださいよ」
「……」
俺は
──この奇妙な時間は、偶然エナジーバーを
サンキュー八奈見。今度適当なお菓子でも部室に買っていきます……