それは古い動画だった。今から10年前、インターノットにアップロードされた動画だ。旧都崩壊の時を写した動画であり、インターノットで都市伝説的に語られる存在でもある『ゴーストライダー』を写した数少ない動画。
『すげぇって!八人同時にホロウの中から助け出しちゃったよ!』
撮影者がブレブレな画面で撮影しながら興奮気味にまくしたて来る。映像内ではブラックホールのような色をしたドーム状のホロウの中から炎を纏った頭蓋骨の頭部を持った人物がバイクに乗って肩や両手、後部座席に乗せるなどして人々を運ぶ出していた。
『何人か浸食されている。すぐに治療しろ』
『あ、あぁ!』
その燃えているドクロの頭をしたライダーは助け出してきた人物たちをホロウ調査協会の救助係の人物に受け渡しかと思うとすぐさまホロウ内部へとバイクに進んでいってしまう。
『なぁあんた!あんたのおかげで妻の命が救われた礼を言うよ!』
一人の男性がライダーに近づき心からの感謝を伝えている。
『……気持ちだけ受け取っておこう。奥さんを大事にしてやるんだな』
頭の炎を一瞬だけ大きく揺らめいたかと思うと穏やかな口調で燃えるドクロのライダーはホロウ内部へと入っていこうとする。
『待ってくれ!せめて名前だけでも……』
『……ゴーストライダー』
ゴーストライダーと名乗った怪人はそう言い残してホロウの中へと消えていった。そこで動画は終わってしまっていた。
「ニコの親分。また骸骨怪人の動画見てるのかよ。親分だけで一万回は見てるんじゃねぇか?」
邪兎屋の従業員であるビリーは呆れたようにそう呟く。二人は現在、プロキシのビデオ屋へと来ていた。猫又とアンビーの二人は別の依頼を任せている際中である。邪兎屋の二人はアキラにある用事があったがためにパエトーンの経営しているビデオ屋に足を運びに来ていたのだが、生憎肝心のアキラ本人がいなかったが為に暇を持て余していたのである。
「なによ、良いじゃない」
ニコはソファで寝そべりながらビリーの言葉に反論を示す。
「何を好きになったってその人の勝手でしょ?……それと骸骨怪人じゃなくて『ゴーストライダー』よ!私の命の恩人なんだから!」
ニコはかつて育った孤児院が旧都崩壊の際に巻き込まれ、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たれたことがあった。
「その時に私を助けてくれたのが、『ゴーストライダー』よ」
まるで自分自身が褒められたかのように無駄にある胸を張って誇らしげにするニコ。
「親分、その話は何回も効いたぜ。しっかし親分も乙女だよな八歳の時の初恋を未だに引きずってるんだからよ」
「なっ!?そんなんじゃないし!」
二コは顔を真っ赤にしてポカポカとビリーの鋼鉄の胸板を叩く。
「どうやら待たせてた間に騒がしくなってたみたいだね」
が、そんな漫才のような喧嘩も中断されてしまった。二人が待っていた伝説のプロキシパエトーンの片割れであるアキラがビデオ屋の裏口から戻ってきた。
「おっ、店長首を長くしてまってぜ!」
「うん、お待たせ。ちょっとバイクの点検に手間取っちゃって」
アキラは首にタオルをぶら下げて片頬を少し黒くしているところから嘘ではないとはっきりわかる。
「あれ、あんたバイクなんて持ってたんだ。車持ってるのは知ってるけど」
「俺も乗ってるところ見たことねぇぜ、今度見せてくれよ」
二人ともアキラがバイクを持っていることが初耳であったようでそれぞれ驚いているようだった。
「まぁ、最近は使うことが少なくてね。捨て置くのもあんまりだから久しぶりに点検してみたんだけど、そしたらちょうど君達とすれ違いになっちゃったみたいだ……それで?僕に用意ってなんだい?」
「えぇ、実はある老人にあなた当てに直接渡してって依頼されたのよ」
「俺はその付きそいだ」
「僕宛に?怪しいとは思わなかったのかい?」
アキラは少し訝しんだ。自身がアウトローな仕事であるプロキシを生業としているが故に何か渡して欲しいものと言われると少し身構えてしまうのだ。流石にそのあたりは同じ裏稼業である邪兎屋もわかってはいるはずだ。
「最初は私もそう思ったんだけど、なんか妙にアキラに詳しくて……」
「もしかしたら何らかの手段で連絡が取れない店長の知り合いかもしれないと思ってよ」
なるほど……より詳しく話を聞いていくと自身の身長名前、果ては顔まで知っているらしいそこまで知っているなら直接来た方が速い気がして少し怪しい気はするがもしかしたらビリーの言うように本当に知り合いかもしれない……どうするべきか
「それと本人がこれを見てから受け取らなかったらそれでもいいって言ってたのよしかも返金は必要ないそうよ」
そう言いながらニコは懐から一枚の手紙を取り出しアキラに見せつけた。
「手紙……?」
「珍しいよなこの時代にしかも封蝋までされてるし、アンビーじゃねぇけど映画みてぇだよな」
アキラは恐る恐ると言った風にその手紙を受け取り、そして封蝋を凝視した。そこには人の骨の手の形をした印がされていて、見慣れたものだった。手紙の右下には
『光を愛さない物より』
と書かれていた。アキラは受け止めきれない衝撃を何とか腹の奥底で受け止めようとする。
「店長?どうした平気か?」
「プロキシあんた顔色悪いわよ?」
邪兎屋の二人はアキラのただならぬ様子に心配を露わにする。
「…………大丈夫だよ二人ともちょっと驚いただけだ。大丈夫、大丈夫だから、この手紙は受け取っておくよ」
「そう、ならいいんだけど……」
「店長無理すんなよ」
アキラは深く息を吸った後いつもの様子に戻る。しかしながら、いつも穏やかな彼が今はどこか違うようすに戸惑いながらも二人は依頼を達成したためビデオ屋を後にした。
―――☆―――☆―――
「お兄ちゃんお休み~」
「うん、お休み」
夜更け、午後23時。リンとアキラのプロキシ兄妹は明日も仕事があるためいつも通りの時間に就寝する。が、兄であるアキラはいつも通りではなかった。
「……」
手慣れた手つきで封蝋がされた手紙を金属のヘラを使って開封する。中には一枚のメッセージカードが入っているだけだった。
「あいつにしては短い文章だな」
手紙にはたった一文だけ書いてあった。
| 親愛なる下辺へ、私は帰ってきたぞ。また楽しいパーティを開こうじゃないか
飼い犬に首をかまれた飼い主より |
それは間違いなくアキラにとって因縁の相手だった。水銀級エーテリアスにして一度は自分のすべてを奪ったやつが再び蘇ったという事実は彼にとって言いようのない怒りが同時に蘇ってきた。気づけば奴の手紙を握りつぶし高熱を持って灰にしてしまっていた。
「10年前のことでまだ懲りてなかったのか。いいだろう今度こそ何も奪わせはしない。父さんも先生も……妹だって」
アキラの目には轟々と燃え盛る炎が宿っていた。その目が裁かんとする罪は果たして奴か、はたまた……
たぶん気まぐれに書く。