「おい!バッグを寄越せ!」
「ひっ」
新エリー都のとある橋の下で一人の浮浪者が裕福そうな女性に迫っていた。浮浪者の手には拳銃が握られており、逆らえばどうなるかを暗に示していた。女性は恐怖で全身を震わせながらブランド品のバッグを渋々渡してしまう。
「お前、意外といい体してんな……ちょっと相手してくれよ」
浮浪者は汚い吐息をまき散らしながらよだれたっぷりに舌なめずりをしながら女性に銃を突きつける。
「そ、そんな……」
女性はそれなりの企業に勤めるキャリアウーマンだった。毎日を充実感と疲労感の板挟みにあいながらも仕事をこなす日々を送っていた。そんなどこにでもいるようなただの一般人だったというのにどうしてこんな目に……女性はそう思わずにはいられなかった。だが、そこで単なる悲劇で終わらせるほど世界は残酷ではなかった。
『おい、貴様』
「あ?」
背後から肩に手を掛けられイライラを抑えながら浮浪者は後ろを振りかえる。
「邪魔すんな、今――」
浮浪者が最後まで言葉を紡ぐことはなかった。振り返ると同時に自身に声をかけられた存在を認識してしまったからだ。そこにいたのは燃える骸骨の頭部を持ち革のライダージャケットを着込んだ異形の化け物ゴーストライダーだった。
「は?おいおいおい、嘘だろなんで……」
浮浪者は驚愕を露わにしながら立ち尽くしてしまった
「エーテリアスがホロウ外にいるんだよ!?ここは新エリー都だぞ!ホロウ協会はどうなってるんだホロウ協会は!」
『酷い言い草だ。まぁ、間違ってはいない』
絶叫する浮浪者を他所にゴーストライダーは顔で左側を指して同じように震えている女性に逃げるよう無言で伝える。
「……ありがとう」
なんとか通じたのか、女性は浮浪者が棒立ちしている間にバッグを奪い返してその場から逃げることに成功する。
『さて、今日がお前の審判の日だ覚悟しろ』
ゴーストライダーは浮浪者を指差してそう言い放つ。
「ま、待ってくれ!やめろ!死にたくない!許してくれ、出来心だったんだ!」
『安心しろ、殺しはしない。しかるべき罰を与えるだけだ』
浮浪者の命乞いに半ば聞いていないゴーストライダーは一歩ずつ浮浪者に近づき、壁際まで追い詰めようとする。
「ち、チクショー!」
浮浪者はヤケクソ気味に拾った拳銃をゴーストライダーの眉間めがけて発砲する。その弾丸はなんとゴーストライダーに当たる前に全身の高熱によってドロドロに溶けて地面に金属の液体が落ちてシミになってしまった。
「う、嘘だろ……」
『もう終わりか?今度は俺の番だな』
浮浪者がそう言った直後ゴーストライダーは浮浪者を壁に叩きつけ襟首を掴んで持ち上げてしまう。
『俺の目の奥を見ろ』
「あっ、あっ……」
浮浪者は言われるがままゴーストライダーの頭蓋骨の目があるであろう穴を見つめてしまう。その穴にあったのは深淵だった。深く深く、底なしの絶像しかなかった。
『お前が行ってきた悪行の数々、その全ての報いを今受けるが良い』
浮浪者は体に何かがまとわりついてくるのを感じた。ぬちゃぬちゃとしたドロドロの粘液が蠢くような嫌な感覚が最初は足に、腰に、やがて全身へと「それ」は近づいてくる。視界すら覆われてた浮浪者には何も見えていなくなってしまった。正確いうならば彼の眼球には何も映らなくなった。彼の脳裏にあったものは黒、いやそう呼ぶにはあまりに複雑な色で支配されていた。玉虫色の泥ような塊が脳裏に存在し恐怖で魂すらも縛り付ける。その塊の裂け目から覗く白い歯列と嚢胞のような無数の眼球が泥に溶けあうかのように蠢いていた。そして歯列はあざ笑うかのような声を上げ、眼球たちは彼を咎めるように目を吊り上げて彼を凝視してた。
「やめろ!やめてくれ!俺を見るな!俺を笑うなぁぁぁっぁぁぁ‼‼」
そんな状況でどれだけの時間がっただろう?一時間?あるいは一年かもしれない。一分にも満たない時間だったが彼にとってはそれ以上に感じられたのだろう。その後、警察に引き渡された彼がどうなったのかはわからないがきっと正気ではいられない事だけは確かだ。
―――☆―――☆―――
俺は人々が寝静まる夜にバイクを走らせていた。久しぶりにゴーストライダーとして力を使うためである。メフィストとか言ういかれぽんちが復活した今、10年と言うブランクを埋めるために毎日、悪党のメンタルを粉砕!玉砕!大喝采!して回っているのである。まぁ、相手はとんでもない地獄を精神と時の部屋ばりに圧縮された濃密な時間喰らっているのだが精神科医の下、メンタルケアさえきちんと受ければあれはすぐに治るものであるソースは俺……なんだかんだ言って俺がゴーストライダーとなってから10年以上、ゼンゼロの主人公の片割れとして転生してから26年が経過したのか。時の流れは速いな……なんて思っていると偶然、「COFF CAFE」の看板が見えた。ちょうどいいコーヒーブレイクといこう。
「いらっしゃいませ……ご注文は?」
店内に入ると店長であるティンさんが出迎えてくれる。コップを磨いていて暇そうにしていたが俺が入って来るとわかった瞬間目の色を変えた。
「カフェラテ、ミルク薄めで」
「豆の種類はいかがいたしましょうか?」
「ブラックハニー製法のコーヒー豆でお願いするよ」
本来ならそんなものは存在しないメニューなのだがこれがティンの昔の店のルールなのだ。俺の言葉を聞き終わったティンさんは店の看板を裏返してからまた戻ってきた
「……ご本人で間違いなさそうですね」
ティンさんは普通のキリマンジャロのコーヒーを俺に差し出してくれる。無論、一杯百ディニーくらいである
「わざわざ僕のそっくりさんになる必要があるとは思えないけどね」
「引退した身の上とはいえ情報屋とはそうゆう生き物なのですよ」
今のティンさんはみんなのよく知るインスタントコーヒーが嫌いだけど人当たりがいいコーヒー屋の店長ではない。その正体は旧都で名の知れた情報屋「メーティス」本人だ。旧都時代からも店は持ってはいたが小さなコーヒーハウスでしかなく、きちんと堅気の仕事をしたかったらしくそれで今に至る。
「それで、何があったんですアキラさんわざわざ封印していた力を使うなんて?」
「さすがティンさん耳が速い。単刀直入に言うと奴が蘇った」
その言葉にティンさんは目に手を当てて信じたくはなかったという反応を見せる。
「正直、昔の知り合いたちから聞いた話でもしかしたらとは思っていたんです」
「現に僕の元に奴の手紙が来た。何回も奴の手紙を見てきた僕だからこそ間違いないと断言できる」
俺はコーヒーを飲み干してティンさんと現状知りえることを教え合う。
「……わかりました。できる限りメフィストについて調べてみましょう。奴を野放しにされては第二第三の旧都崩壊事件を起こされかねませんからね」
旧都崩壊……あの事件は悲惨な者だったけど――
「――あれは僕が引き起こしたようなものだ。もう二度とあんな事は起こさせない」
お店のカウンターにお代を置いて俺はティンさんに背を向けて店を後にすることにした。
「アキラさんあなただけの責任ではありません全て背負わないでください。それに今は一人で戦う必要はありませんよ?」
ティンはアキラの背中越しにそう言い残した。その顔には憐憫や悲しみの色が写っていた。
☆解説(独自設定した点)
・ティン
元々はただのNPCキャラだけど、この世界ではゴーストライダーの協力者ポジ。しかも情報者(裏社会、ホロウ情報その他諸々……)主人公の事情を大体知ってるおやっさん枠でもある。人情家だが、他人と関わると心に傷が残る経験をしてきたことで人と深く関わらないのがポリシー
・アキラ
今作主人公。見た目はプロキシ兄だが、中身は一般通過ゼンゼロプレイヤーな転生者。ゴーストライダー本人。原作前に色々仮面ライダーみたいな戦いをしてきたため自己犠牲的な精神が強い。リンのことは変わらずブラコンだが昔のことで結構感情が激重。