モンスターハンター 嵐への導き   作:唐揚げ

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初の投稿です。
至らない部分ばかりですが、努力を重ねて日々、精進します。
拙作の改善点は星の数ほどに見えるので批評、アドバイス、誤字脱字の指摘などありましたら、遠慮なく申し上げてください、お願いします。
それでは、どうぞ。




第一章 明星の光
第一話 新天地への扉


 今回の狩猟の舞台となる密林は海に面した緑溢れる原生林である。その環境下に恵まれた生物は生命感で満ちていた。

 天候は曇天。不快感を覚える湿った空気が全身に纏わりつき、泥濘の地面に足を取られる、狩人にとっては痛手な悪天候だ。

 正に自然の純色に囲まれた密林に一人、森の住民ではない者の姿あった。

 陽光が届かない濃い緑地に潜む者が辺りを確認する。木陰に身を潜ませたその者の容姿は大自然に溶け込めておらず、醜い程に注目を集めた。決して派手ではなく、寧ろ地味な風貌なのだが、周りに見る者が居なければ関係のない話だ。

 依然として静かな密林は鬱陶しい湿気と共に異様な空気を放っていた。嵐の前触れという不吉な予兆のようだ。

 警戒を解いた後、携帯食料を齧る。その外見からすれば《ハンター》だと言う事は一目瞭然である。

 防具と言うには少し貧弱な金属製の鎧は黎明期の《ハンター》に打って付けの質素な一式だ。通気性が良く、動き易いという利点を持つが、欠陥は多い。達者が扱うような防具ではない。人目見れば分かる、彼は黎明期の真っ只中の《ハンター》だ、と。

 腰の佩剣も同様に単調に作られた物だった。黄金色の一対の剣は見ての通り骨が素材の武器で総称、《ボーンシックル》と呼ばれる。

 暫し歩き、足を止める。徐に構えた一対の剣の先端を小型の生物へと向ける。小型といえども背丈は彼と同等くらいでその体貌は見慣れたもの。前脚を下げ、後ろの二足で飛び跳ねる青い鱗の鳥竜は通常の生物には見えない。鋭い爪と吠える際に垣間見える牙は肉食に特化した得物だ。

 数は三頭。威嚇するその様は獣を超えた―――《モンスター》。

 耳障りな喚き声を散らす一頭が後ろ足に力を入れた。遅れて《ハンター》も得物の柄を握る拳に力を入れた。眼前に迫る一頭に慌てた様子もなく、片方の剣を突き出す。

 無知の突進は最善の一突きで終わる。朽ちた屍体を飛び越えた彼は亡くなった連れに哀悼もくれない鳥竜に突貫する。手段が無いのか、極々基本的な突進を容易に避けて奥に控えた鳥竜を狙う。

 視線が合った。狙い違わず刺突した剣はその鋭利な切っ先で眼球を貫いた。吹き出る鮮血を浴びずして熾烈な斬撃を繰り出し、絶命に追い込む。その光景を眼にした残りの連れは我を忘れたのか、軽々な跳躍で迫る。

 上からの攻撃を対処する術は知っているが、行動に移すとなると難しい。重力という他の力を利用した奇襲は回避こそ容易いが迎撃が困難だ。熟練者でもなければその偉業は成し得ない。故に彼は回避という選択肢を進んだ。

 軽く退って距離感を狂わせた彼は目前に着地したばかりの鳥竜へと一閃。安易に鱗を割った剣は肉体へと到達し、完全に切り裂いた。噴いた血と共に喚き声が聞こえ、それが断末魔だと知る。留めと言わんばかりに猛烈な追撃を加えて納刀する。

 崩れ落ちた屍体が転がる空間は居心地が悪い。早くも退散と言いたいが《ハンター》と自然の約束を忘れる訳にはいかない。

 他者の命を奪って生きる彼らは感謝と礼儀を忘れない。歴代から紡がれた誠心は殺戮ではなく、自然との調和である。利益の為に殺すという観点は変わらず、殺すという行動の罪を忘れるな、という意味だ。

 狩った《モンスター》を剥ぎ取って大切に扱い、恩寵を忘れない。この行動の由縁は《ハンター》の誠心なのだ。

 青い鳥竜、総称《ランポス》の腐敗は早い為、剥ぎ取りの作業は早急に取り組む。鱗の間に小刀を食い込ませ、鱗を躰から分離させる。三頭から手に入れた幾つかの素材を丁寧に詰め込んで、袋の口を縛る。

 腐敗した屍体は栄養分となり、土の栄養分となり、植物の糧となることを信じて、その場を後にした。

 濃い樹と樹の間を進み、目的地を目指す。今回の目的は《ランポス》の討伐ではなく、他にある。決して先程の彼らを無駄に殺した訳ではない。本来の目的と敵対する際に妨げとなるので、先に排除したのだ。

 そして、本来の獲物は唐突に訪れた。

 僅かに気配を感じた数瞬の後。背後から突風に煽られ、巨大な影が過ぎる。強風に吹きつけられた躰は腐葉土に這った。

 草食竜《アプトノス》の群れが集うこの域に舞い降りた赤き飛竜。

 広げた翼で地面に旋風を叩きつけ、降り立つ。降り立った奴を《ハンター》達は大怪鳥と口を揃えて言う。

 本物の飛竜と戦う前に一度、顔を合わせる。攻撃方法や体躯の作りは飛竜と酷似した《モンスター》である。飛竜との戦い方を教えるような立場のことから登竜門とも呼ばれる。

 青い空にも似た翼膜に赤に満ちた体躯。大怪鳥と呼ばれるに相応しい強靭な嘴が鳥という印象を与える。頭の後ろに広がる扇のような耳もまた珍妙な雰囲気を助長した。

 降り立つ天敵の存在を知った《アプトノス》が一斉に逃走する。慌ただしく走り逃げる《アプトノス》の間で立ち止まる。

 巻き起こった土煙が《ハンター》を隠蔽する。

黎明のハンターが初に挑む瞬間、胸が高鳴った。湧き立つ気炎を抑えることができず、激昂する躰は熱を溜め込む。流れる血が滾り、今一度、命を燃やした。

 土煙の幕が晴れる。

 

「行くぞ」

 

 地に脚を着けた怪鳥を待望したハンターが武器を抜き放つ。

 足音を聞き、足踏みをして振り返った怪鳥が耳を広げ、体を反らし、息を吸って。

 

「ギュアアアァ…!!」

 

 一鳴き。

 離れていた所為か、咆哮に躰が反応する事はなかった。道具を投げ付けた直後、異臭が放たれる。強烈な臭いを発する投擲系の追跡用道具だ。見逃した敵を強烈な臭いを辿って見つける優れものだ。

 開戦と共に駆け出し、素早く肉薄する。間合いは詰まった、と思い立った直後、急激に反転した怪鳥を見、直ぐに飛び退く。直前までいた空間を大人の腕の太さぐらいの尾が薙いだ。尾が通り過ぎた事を認識し、背後を見せたその瞬間を好機と見て走り寄る。

 初撃。一撃だけを与えて踵を返す。好機を活かすには満たない一撃だ。取り敢えず距離をおいたハンターは離れた場所から怪鳥を観察する。

 先ずは観察する。この時の為に用意は周到に済ましたが交戦した訳ではなく、実際の感覚的なものは掴んでいない。怪鳥に関して知識は備えたが、実戦的な戦法は備えていないということだ。

 防御から徐々に確立させる。防御を第一と考えるならば、先ずは敵の観察を重視する。ハンターに一撃必殺の奥義などなく、地道に負傷を与える他ない。最強の威力を誇る爆弾も支給品としてあったが、今は持ち合わせていない。故に地道な攻撃で攻めつつ、確実な安全が必須となる。

 観察すべく遠のいたがその間合いは直ぐに詰められた。迫る巨躯を避け、通り過ぎた怪鳥に視線を向ける。攻撃を失敗した怪鳥はその巨躯を地面へと投げた。地面を滑るようにして木々に突っ込み、植物を薙いだ怪鳥が再び起き上がる。

 知識で分かっていたが実際に見ればその異常な動きの迫力は物凄い光景だった。摩擦力を利用して方向を転換する豪快さは見る者を唖然とさせる。

 予想もつかない速度で距離を詰めた怪鳥の嘴を無様に転がる事で避ける。直ぐに駆け出し、敵を叩くが天然の鎧を攻略しない限り致命的な攻撃は成し得ないと判断した。

 直ぐに跳び退って意識的に呼吸する。常に感じる鼓動が興奮していると教えてくる。冷静な心を保ち続けるには激しい攻防に小休憩を挟んで呼吸を整える必要があった。

 策のない無知の攻撃を続ければ一瞬で亀裂が生じて勝機を逃す原因になる。

 

「退くべきか」

 

 進展しない戦況に危機感を覚え始めた頃合いだ。

 怪鳥が翼を広げた。飛び上がり、体勢を立て直すつもりなのか。警戒心を万全にし、空を仰いで上空の怪鳥を睨む。怪鳥は一瞬、強襲する態度を見せたが振り返って滑空し、飛び去っていった。

 双剣を戻して戦意を鎮める。突然の静寂に先程の戦いが嘘のように思えてくる。辺りに《ランポス》の姿はない。あの時の甲斐はあったみたいだ。

 少し座り込んで小休止を挟みたい感情を抑え込み、武器と防具の確認をし、走り出した。

 臭いがする方向とは異なる方向へと。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 雲が青空を隠蔽し、薄暗い密林に雨が降り出した。

 地面から突き出た岩体に身を隠し、静かな息遣いで一点に視線を飛ばすハンターは左脇に木製の小樽を抱えていた。

 葉から滴る雨粒がハンターの兜に落ち、弾けて地面に染み込む。ずぶ濡れという状況でも構わない思いで真っ直ぐに視線を飛ばす。

 木と木の間から見える自然に似合わない大きな人工物は予め、あの場所に設置しておいた物だ。

 獲物である怪鳥、《イャンクック》の特性を知っているからこそ、考え付いたこの策は運を必要としていた。降り注ぐ雨に負けまい、と必死に堪えてその時を待ち侘びた。

 この辺は奴の縄張りである。奴の特性は縄張り意識が強いことだ。縄張りを常に動き回り、外敵を排除する特性を持つ。その特性を利用する。

 雨音に紛れて聞こえた風切り音。ふと、上方に視線を向ければ―――赤き飛竜は堂々と舞い降りてきた。

 周囲を見渡している。あの行動の目的は恐らく、縄張りに進入した外敵を探索するもの。首を振っていた怪鳥が止まる。

 見慣れない異物に視線を止め、緩慢に近寄る。動かぬ異物に僅かな興味と奇妙さを覚えたのか、間近で観察していることが窺えた。

 ハンターは息を吸い、吐いた。瞑っていた目を見開き、岩陰から飛び出す。

 音を素早く感知する怪鳥に気付かれたら、この策は失策に終わる。そして、恐らく依頼は失敗するだろう。

 緊張感が積もる最中、怪鳥の耳が微動する。首を掲げ、異変に勘付いた。

 

「遅い」

 

 抱えた小樽を投げ飛ばした直後、背を向けて駆け出す。

 急激な奇襲に戸惑う怪鳥の目の前で小樽と大樽が衝突する。刹那、激越な光と熱が怪鳥を呑み込み、爆音が木霊する。

 僅かに背後から迫った熱波に襲われ、その熱に思わず意味もなく転がる。濡れた躰に火傷はなく、直ぐに振り返って敵の行方に眼を見張る。

 立ち昇る黒煙が消え、草に移った炎が雨に打たれて消える。

 怪鳥は立っている。突如の爆破に戸惑い、痛々しい負傷を受けながらも隙を見せまい、と転倒を堪えていた。

 ならば、と双剣を抜き放った彼は雨に追われて疾駆する。雨に濡れる剣はより一層、光沢を増したように思えた。

 濡れて体重が増加したにも関わらず、疾駆する狩人の速度は衰えない。鍛錬された成果が見て取れる場面だ。

 

「後半戦だ」

 

 前半戦で得た知識を存分に扱う。敵の一挙手一投足を見逃さず、観察した情報が役に立つ。

 軌道を左に逸らし、怪鳥の右脚へと飛び込む。素早く腰と足首を捻って旋回しながら剣を振るい、傷を負わせた。脚と脚の間を摺り抜けると同時に左脚を斬り付けた。

 滑る脚に無理を言わせ、右脚を踏み込む。思い切り躰を捻らせ、躰を回転させて桃色の濡れた甲殻を叩き切る。剥がれ落ちた甲殻は地面に沈み込み、剥がれ落ちた部分で肉体が露出する。

 不安定な足場では十分な攻撃をすることができず、舌打ちをしながら大きく退いた。

 互いの視線が交わる。突如の奇襲の効果は既に無いだろう、怪鳥の視線は真っ直ぐで戸惑う気持ちが見られない。

 濡れた刃に映る自分を一瞥し、腰を低く落とす。

 降り注ぐ雨が視界の上から下へと落ちてゆく。無数の雨粒が彼我の間に厚い壁を作り、双方の衝突を遮っているように錯覚する。それ程に強い豪雨なのだ。

 無表情で感情の読めない眼光が落ちる。態勢を落としたと思えば、滑る地面を蹴って突進を開始した。慌てず急がずに距離を見計らって迎え撃つ。

 馳せ合う。迫る巨躯との距離感に集中しながら走る。狩人と怪鳥の脚力と歩幅の差は圧倒的で見る間に距離は詰められた。

 強靭な嘴を眼前に立ち止まり、迎え撃つ。僅かな愛嬌を孕んだ視線と交わりながら、躰を傾けて、腰を捻り。

 回転によって起きる力の連動を利用した一撃を放つ。嘴の側面から双剣が閃き、叩くというよりは押すといった感じでぶつかる。押し倒せる筈もなく、躰は押し返されるが走る巨躯に巻き込まれることはなかった。

 僅かに重心が揺らいだ怪鳥は地面を滑って豪快に木々を薙ぎ倒す。泥塗れとなり、無様な姿を晒すハンターと付着した泥を飛び散らせる怪鳥は再び睨み合う。

 古来、大陸の生物の頂きに君臨してきた主である。真面に視線を交わらせれば、背筋は当然のように冷え固まる。気力を根こそぎ持って行かれたような錯覚を抱き、精神に支障をきたす。

 荒い息と整えつつ、目の前の強敵に細心の注意を払う。ここに至ってもう既に打つ手はない、自分の力の無さに悔いる暇もない。この戦況を大きく打開する案はなく、切迫する死への恐怖が積もる。

 相手は爆撃によって満身創痍。このまま激しい攻勢に入って追い詰めるべきか。それとも慎重に事を運んで地道に追い込むべきか。悩みに悩んだ挙句、迷いを吹っ切った。

 狩猟に於いて迷いは雑念である。迷えば自分の選択に十分な自信が持てず、危機に陥る。そう結論付けると双剣を握り直し、走り出す。

 距離を詰め、踏み込んだ瞬間。怪鳥の巨躯は突風と共に舞い上がり、少しの距離を空けた。唐突に吹かれたハンターの躰は若干、反るようにして後退する。

 突風が視界を遮り、敵を目視できない間の出来事。

 口の端から炎が漏れて。

 

(火炎液…!)

 

 爪や嘴の他に炎を放つ器官を持っている《イャンクック》はその辺りの鳥竜とは訳が違う。他に類を見ない緻密な身体だからこそ、成し得る一種の業なのだ。高音の液体にも平気なあの身体の仕組みは正に《モンスター》だ。

 首をもたげ、身体を反らし。口内を露わにして赤熱した球体が放物線を描いてハンターに迫る。

 反りの反動で繰り出された火炎液は思いの外、速度は遅かった。距離を見計らい、十分だと見る。

 迷う程の余地はない。覚悟を決め、思い切り地を蹴った。質素な防具に耐熱性の効果はなく、当たれば炎上して焼け死ぬ。運良く雨で炎が消えても重傷は免れないだろう。無論、当たらなければ良い。

 思い切り着けた勢いを利用し、脚から飛び込むように滑る。泥濘の地を滑るのは容易かった。放物線を描いた火炎液が頂点を過ぎ、落下を始める頃合、その真下を滑り通ったハンターは勢いを殺すべく転がる。

 好機。身軽な害虫が見せた業に驚愕する《イャンクック》の動作が遅れる。

 態勢を低くして《イャンクック》の嘴を潜り抜け、腹の下へと到達した狩人の反撃の一閃。振り抜かれた刀身は硬い脚の鎧を削って血を噴き出させた。脚が折れ曲がり、気付けば頭上から巨躯が迫り、押し潰されそうな危機に直面していた。

 紙一重で巨躯から逃れた狩人は生存の喜びに浸る時間もなく、跳躍する。皮膜を切り裂き、躰と翼の狭間、つまりは翼の付け根に鋭利な刃を穿孔させる。

 突き刺さった刃は奥まで到達し、硬い異物に当たって音を立てる。異物の正体を骨と理解した狩人は強引に押し込んで骨を砕く。

 

「グバ、ギュアァァアッ!!」

 

 超絶な激痛に耳を聾する悲鳴を上げた《イャンクック》はのたうち回る。暴れ回る《イャンクック》の身体に巻き込まれまい、と狩人は飛び退いて安全を確保する。

 血と泥と雨に塗れた奇妙な狩人は鮮血を垂れ流す刃を両腕に立っている。その光景は見る者に本能的な恐怖を駆り立てた。

 力任せに暴れた《イャンクック》は困難な現状で立ち上がり、僅かに浮く。翼を上下し、緩慢な動きで空へと飛び上がった。骨を砕き、皮膜を切り裂いたというのにまだその翼は機能するのか、驚いた狩人は腰に下げた球体の物を掴む。

 

「逃がさない…」

 

 掴んだ球体、ハンターの屈指の投擲系の道具―――閃光玉を拳に腕を振るう。

 真っ直ぐ飛んだ閃光玉は彼の意志に従うかのように《イャンクック》の目の前で爆ぜる。膨大な光を走らせ、閉じた瞼を開けた瞬間、地響きと悲鳴を反響させて《イャンクック》は地を這った。

 「飛竜」という階級から「獲物」へと成り下がった《イャンクック》に向かって猛然を駆け抜ける。

 両手に握った双剣が身体の至る箇所に閃いた。爆撃に焼かれた甲殻は簡単に剥がれて宙を舞い、皮膜は障子のように容易く引き裂かれる。

 常に鼓膜を打つ怪鳥の叫びが濃密さを増し、やがて、それは断末魔へと変わる。

 勝利を疑わない激昂が糧となり、果敢に攻める。暴風のような兇刃は踊り、怪鳥を自然の浄土へと誘う。全方位に飛散する鮮血が狩人を殺戮者の色に染める。

 幾度目だろうか。狩人が振り上げた剣は大怪鳥の身体を切り裂き、赤い鮮血を爆ぜさせた。痛みは限界を通り越したのか、暴れた左翼が狩人を突き飛ばす。

 その威力に若干、吹き飛ばされるようにして地面を転がった狩人は大怪鳥を見るべく顔を上げる。

 

(やった…のか?)

 

 実感がない。

 鉄製の防具の、脚の部位から伝わる地響き。先程まで生に執着していた大怪鳥が倒れた際に起きたもの。

 動かぬ赤き大怪鳥は眠っていた―――訂正する、永遠の眠りだ。

 斃れ動かない赤き代怪鳥を呆然と見やる。周りに他のハンターはいない、自分が狩ったのだと解っている。頭の中で解っていても実感がない。

 我に返って震えた狩人は歩み寄って小刀を手に剥ぎ取りの作業に入った。甲殻と甲殻の間に小刀を突き刺し、甲殻を部位から肉塊から離して、掴み取る。

 その瞬間。ぶわっと沸き上がた実感に喜びは頂きを超えた。今までに感じたことのない僅かに残る温もり。生きていたことを証明する温もりだ。

 怪鳥の甲殻を袋に詰め、小刀を握った状態の狩人は無言のままだった。生命の輝きが途絶えた元怪鳥の身体に傍に歩み寄る。見下ろし、源が瞭然としない物寂しい空気に心身は沈む。

 降り注ぐ雨が罪悪感を浄化するように戦火の残滓となる血を洗い流す。血の溜まりは雨の割合が多くなり、血の臭いも薄れ始める。

 ふと、空を見上げる。雨雲の窺い知れない向こうから迫る小さい雨粒が全身を伝って落ちてゆく。その光景が不思議でもなく、興味がある訳でもない。意味を持たない感情が込み上げてくる。

 視界の端に映った黒い煙。それは迎えの馬車が到着を知らせる狼煙だった。

 物寂しい空間に独りの狩人は剥ぎ取り終えた大怪鳥を背に向けて帰路を歩き出した。

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