モンスターハンター 嵐への導き   作:唐揚げ

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第十六話 リベンジ

 悠久の大地の上を小風が吹く。細かい熱砂が巻き上がって、小さな幕を上げては下げた。地上の砂粒は常に押しあいへし合って這いずり回り、時には舞い上がる。

 乾き切った砂の地。辺りは熱気で支配され、時折、吹く風も熱を孕んでいる。

 本来、人が住める世界でないこの砂漠地帯に四つの人影があった。

 岩陰に身を潜め、身体を出来る限り小さくする為に這っている。熱気を運ぶ風に乗って、砂が口に入る。じゃりじゃりと鳴る口内に不快感を覚えながらも四つの人影は愚痴一つ漏らさなかった。

 聞こえるのは静かな息遣いと風のみ。強い日差しは待ち続ける彼らの体力を奪い取ってゆく。

 彼らは狩猟者。彼らが狙うのは音に敏感な双角を持ったこの広大な砂漠の主。

 瞬刻、生物をも殺し得る太陽に長時間、照らされ続けた狩人らに陽光とは遥かに異なる、威圧感が突き刺さる。

 常人でも十分に視認できる距離。突如、数万の砂粒が舞い上がり、大地を割いて飛び出した雄雄しき双角。

 

「来た……」

 

 静かに待ち続けていた狩人の一人が双角竜の登場に思わず、興奮の声が漏らす。

 地上に出た黒檀の巨竜、ディアブロスは視線を巡らせるとぽつんと生えた緑のサボテンに歩み寄る。この辺りのサボテンは全て除いた。残るサボテンはアレのみ、つまり、奴の食物はアレに限られる。

 一挙手一投足を見逃さず睨み続けていたエリーが静かに立ち上がる。合図なしに駆け出し、所定の位置に転がり込む。日陰の熱砂に身体を密着させ、素早くロングバレルを装備し、可変倍率スコープを覗き込む。大きくズームして、ディアブロスの行動を黙視する。

 ディアブロスは口を開ける途中。間違いなく機だ、と感じ取り、こちらに視線を飛ばす三人の狩人に合図を送る。そうして、スコープを再び覗き込み、十字架の交点をディアブロスからずらし、サボテンの裏に隠れた大樽爆弾へと重ねる。

 振り絞り、引き金を引く。弾丸は予測通りの軌道で直進し、過たず大樽爆弾を射抜く。

 

「グルゥゥ……――――ッ!!」

 

 猛烈な爆音は耳を聾し、業火は全方位を駆け巡る。銃弾にも似た飛び火が爆散し、巨竜の絶叫が熱い砂と気を振動させ、天高く立ち昇る漆黒の煙中から。

 兇悪な一対の大角が覗く。

 

「…行くぞ」

 

 さぁ、狩人から砂漠の主への再挑戦(リベンジ)だ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 爆破したのを確認し、エリーが人差し指を二度動かしたのを確認した後、ルークが岩陰から飛び出した。メルとラグッドはもしもの為に待機する。無論、再び狩り場に立ち脅威に再挑戦を申し出た彼らの心に隙は無い。

 黒煙が薄くなり、遮煙から現れたディアブロスが見回し、その視線はルークを見つけて留まる。一度だけ右脚を地面に擦り付け、喉を低く鳴らすと、角を低くして駆け出す。

 ルークはディアブロスの怒気を感知するが早いか、所定の位置まで走り出す。見る間に、双方の距離は縮まり、歩幅と膂力の大差を再確認させられる。

 だが、知力は此方の方が上だ。

 小さな砂丘を駆け上がったルークはその頂きから跳び出し、一気に駆け降りる。砂に足を取られ、転がって砂に埋もれながらも直ぐに起き上がって走り続けた、瞬間。

 

 爆炎が煌き、爆風が砂を全方位に吹き飛ばした。

 

 爆風に背中を突き飛ばされ、ルークはその場で転がるが大事には至らず、起き上がって振り返った。巻き上がった砂塵の中から顔が持ち上がる。

 爆破が丁度良い折だったのは確かだ。しかし、ディアブロスの直進する巨躯を制御する事は叶わなかった。ディアブロスの目先にはルークがいる。

 

「ラグッド!」

「おうッ!」

 

 熱砂を蹴り、メルとラグッドが走り出す。双方が身につける装備の重さから自然とメルが速くなる。

 ディアブロスの尻尾へと回り込み、熱砂に足を沈み込ませ、双剣を引き抜くと同時に跳躍。

跳んだ力を回転力に転化させ、その力は腰から手先へと駆け抜け、双剣の先端へと注がれる。三度の斬撃は尻尾の表面を微かに削っただけだが、ディアブロスの注意を逸らすには十分な急襲だ。

 素早い受け身から起き上がり、その場を前転で離れる。

 そして、立ち替わり、ラグッドが飛び込む。

 ラグッドが尻尾へと飛び込み、大剣を抜き放ったのを確認し、視線を巡らせてルークを探す。既に安泰出来る位置に退避していたのを確認し、視線を戻す。

 気合いと共に大剣が振り下ろされる。紅く厚い剣(レッドシザー)は黒檀の尾と衝突し、火花を散らして、振り切られる。

 尻尾の甲殻を突き破りはしなかったが、十分過ぎるほどの一撃だ。その一撃の痛みに耐えかねた尻尾が反射的に跳ね上がり、それによる体重の移動でディアブロスの体勢は傾く。

 この瞬間を予期していたかのように、尽きた弾倉の中に徹甲榴弾を装填したエリーが狙い違わず振り絞って、撃ち放つ。右角の付け根に着弾した弾丸は即時に爆破し、甲殻を爆砕させる。加えて傾いた体勢を大きく崩し、遂に転倒させるに至る。

 確かな好機と前衛の狩人らの眼が、爛々と光る。

 これを機にエリーは脚を動かして位置取りを変える。その行く先を一瞥しながら、前衛の狩人らは攻勢に転じる。

握り締めた両腕の延長とも見える双剣を振りまくった。翼膜を重点に斬り付けた。裂傷から血が噴き出し、辺りが真っ赤に染まるのにそう時間はかからなかった。暴れ回る翼に危険を感じ取るまで斬り付け、メルは早々に避難する。

腹を斬り付けていたルークと頭に叩き付けていたラグッドも其々が危険を感じ取って避難する。残るエリーは絶えず散弾を撃ち込み、装填し、撃ち込みを繰り返していた。

前衛が退き、十五秒後、伏していたディアブロスの巨躯が起き上がる。身体を揺すぶり、砂を振り落す。粗略に振り回した尻尾に手応えを感じなかったディアブロスは喉を低く鳴らし、辺りを見回した。

距離を置いた狩人らを順に睨み、止める。

 向けられた重圧感で視線を見なくとも分かる。ディアブロスは双角の先をメルへと向け、脚で地面に削り取って、一瞬で加速する。

 眼を見開き、対象物との距離を頭に細かく叩き込む。

 

「大丈夫だ、見えるッ」

 

 と、呟きながら横っ飛びに転がった。

 大きくなる足音と震動。巨竜が熱気を纏って暴風の様に通り過ぎる、その瞬間。

 

「ぐっ」

 

 器用に尻尾を曲げ、メルが逃げた先へと尻尾が回り込む。膝を付いたこの状況であの強靭な尻尾を避ける術は持ち合わせていない。

 

(少しでも衝撃を―――ツッ!)

 

 激痛と共に吹き飛び、転がされた。

 熱砂の上を擦過し、腕と肩を砂に食い込ませることでようやく転がっていた身体が止まる。視界が揺らぐ。全身にはまだ激痛が走っている。頭が痛い。割れそうだ。

 輪郭が二、三重にも見えるディアブロスとの距離を大よそで理解するが、動けない。口の中で砂が嫌な音を立てる。

 後ろから叫び声が聞こえてくる。野太い声だ。それに重なって連続的に銃声も聞こえる。

 大木の様な脚が迫る。その二本の角で突くつもりか、叩くつもりか。それとも、足で踏み潰すか。

 ふー、と息を吐き―――、

 

「簡単に死ぬつもりはない」

 

 と、言い放ち、身体を数回、横に転がした。

 その直後、傍らで大きな震動が起き、一瞬、視界がぶれる。そして―――、

 絶叫。

 

「ブルゥォオオオオオオオオオッ!!」

 

無数の赤が弾けた。ディアブロスの足裏から。傷口の中央、メルがあの激動の最中で握り締めていた双剣の片方。

未だに身体は完全には機能しない。天を仰いだまま、身体は動かない。

強い陽射しに眼を眇める。

傍らでまた震動が起きる。恐らく、あの巨体が倒れたのだろう。一瞬、歓喜に口が緩む。

 

「やるじゃねぇか」

 

 駆け付けたラグッドに身体を起こされ、運ばれ、一声かけられる。

 返事をしようとしたが、緊張と疲れが言葉を喉で詰まらせる。掻き混ぜられたみたいに頭痛がし、返事さえ思い付かない為、呼吸を整えるのに努めた。

 自分の筋力を自慢するだけの事はあると改めて感服した。重装備でありながら、防具を付けた人間を軽々と運ぶのだから、驚嘆に値する。しかし、褒める言葉も頭の中には思い浮かばなかった。

 途中、傍を走り抜けるルークが言い残していく。

 

「流石だね」

 

 兜を付けている為に表情は分からなかったが、声は笑っている様に思えた。

 唾を口に溜め、砂を混じらせると、近くに吐き捨てた。そして、ラグッドに問いかける。

 

「…っディアブロスは、どう……なって、いる…?」 

 

 ラグッドが一度振り向き、視線を戻して答える。

 

「すげぇ苦しんでるぜ」

「…そう、か」

 

 それ以後、話し合う事は無く、岩陰まで運ばれた。暫くしてエリーとルークが駆け戻ってくる。

 かなり戻って来た様だ。簡易キャンプを立てた岩壁に挟まれた道が見えている。

 

「メル君、私が診ます!」

「心配するな。骨折はしていない……もう直ぐで動ける」

「…でもっ」

「心配し過ぎだ」

 

 そういってエリーを制止させる。まだ、何か言いたそうな態度だったが、強引に話を切り替える。

 

「俺はまだ動ける、作戦を立てよう」

「動ける? 嘘じゃねぇだろうな?」

「…お前も、か……俺は、この一戦に命を懸けている。簡単に死ぬつもりはないけどな……」

「「「………」」」

 

 一切、曲がらない視線を真面に受けたラグッドが数秒、黙り込んで頷く。その様子を窺っていたエリーが「無理だけはしないで下さい」と助言し、ルークが「無理なら直ぐに言ってね」と付け足した。

 こんな怪我でこの念願の一戦を逃すなど考えられない。意地でもこの場は押し切った。

 メルは真剣な眼差しで一度、首を縦に振ると、道具袋から割れた瓶を投げ捨てて割れていない瓶の中身、回復薬を二本、飲み干す。

 メルは思考を巡らせ、双眼鏡でディアブロスの様子を盗み見るエリーに細かく問いかけながら、身体の回復と調べを行いつつ、舌を打った。

 メルの手に得物はない。

 

「どうするよ?」

「ディアブロスが回復したようです。私達を探しています」

「双剣を取り戻したい。時間を稼いで欲しいが、出来るか?」

「小回りができる僕とエリーで時間を稼ぐ。ラグッドとメルが砂に埋もれた剣を探すが妥当じゃないかなぁ」

「あぁ」

 

 常にディアブロスの動きを監視しながら、目的を成功する為の作戦を練る。

 先ず、四人で固まって移動し、ディアブロスに接近する。ディアブロスとの交戦と同時に作戦は決行される。

 作戦を練り終えた頃、エリーが双眼鏡から眼を離して指示する。

 

「そろそろ、ディアブロスが動きます」

「よし……行くぞ」

 

 岩陰から飛び出し、ディアブロスへと猛進する。メルの身体は既に回復し、支障はない。

 ディアブロスはその場から去る模様。その背中を追い駆けるようにして狩人らが闘技場へと飛び込む。荷車の位置を確認し、ディアブロスとの距離を確かめて、瞬時に散開。

エリーが射撃範囲内に辿り着いた時点で通常弾を速射し、注意を惹く。

 

 

彼らと相対した場所を動かずに居たディアブロス。弾丸の感覚を感じ、待ち侘びた、と歓喜し、打ち震える。

突然の来訪者。今回で二度目になる。

一度目は無謀な愚者として迎え入れ、返り討ちにしてやったのだが、予想から逸脱。一戦の終極に軽弩を駆使する人間に魅せられた。砂漠の暴君となり、何年もの月日が流れ、幾多もの乱入者を返り討ちにし、圧倒的な差を見せ付けていたが、あれ程の力を持つ好敵手は久方振りだ。

他の三つは眼中にない。

どれほど、待ち侘びたか。迎賓しよう、我の乾きを潤す最高の好敵手。

これが、歓迎と再戦の、鯨波となろう。

 

「ヴルル゛ゥゥオ゛オォ゛ォオオ゛オ゛オ゛オオ゛!!!」

 

 さぁ、砂漠の主が狩人の再挑戦(リベンジ)を受ける。

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