モンスターハンター 嵐への導き   作:唐揚げ

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第二話 新大陸

 荒々しくも眩しかった数世紀―――未開の地を開拓するハンターが活躍する時代。

 一言でハンターと言ってもその類は計り知れず、星のような数ほどいた。主にハンターは辺境と呼ばれる地域で村や街を本拠とし、人々からの依頼を村長やギルドを通して受けていた。

 そして、命を賭した狩場へと赴くハンターを出迎える凶悪の敵こそが―――モンスター。生命感に溢れた生物で独自の習性や繁殖方法などを持ち、昆虫類から飛竜種まで常にモンスターは進化を遂げる。

 自然の脅威が進化するように狩る者達もまた進化する。進化したモンスターの屍体を時に身に付け、時に得物へと変えるハンターも同じように進化を遂げる。

 こうして、世界の自然は調和を保っていた。狩る者と狩られる者が均衡を保つ時代は人間が自然に害のない者として存在できた。

 この均衡を保つ為にもハンターは常日頃に活躍するのだ。或者は力量を試す為、或者は富や名声を求めて、或者は狩りを心の底から楽しむ為に。ハンターにも其々の道があるが、行き着く先は自然の調和なのだ。

 未開の大地を舞台とした原始的な世界を生き抜く者達は世界の深奥を求めていた。未開の地を拓き、自然の調和と人類の繁栄を今も尚、目指していた。

 そんなハンターで満ちた世界の一部。旧大陸の左の端に位置する街、《ミナガルデ》は今日も活気に満ち溢れていた。

 活気が沸く街にとあるハンターが初めて足を踏み入れた。

 呆然と立ち尽くし、騒然とした空気に圧倒される。初めて踏み入れた彼にとって辺りの物は全て新鮮で興味は抑えることができなかった。歩くだけでも楽しめていた彼の眼の輝きは衰えることを知らなかった。

 一度見たことのある街を思い出し、目の前の景色と比べてもその差は計り知れなかった。

 慣れない空気に慌てつつも唇を引き締め、荷物を担ぎ直した。様々な目的を持って動き回る人の合間を歩き出す。

 歩き出した中で少し辺りを見回せば熟練のハンターは大量といえる程に居た。

 ハンター。それは辺境の地に生きる者達。狩猟や採取を生業とし、依頼を受注して狩場へと赴く。死と隣り合わせという状況を配慮すればその報酬は目に余るものだった。それでもハンターは其々の誇りや夢を持ち、命を賭した狩場を駆け巡った。

 熟練を示した装備品が視界に入る度にメルの好奇心は高まった。

 初めて訪れた街、《ミナガルデ》は切り立った崖の中腹に位置し、わずかな平地や洞窟を中心に構成されている。

 故に、人間達が住みやすい環境とは言い難い。

 周囲は危険なモンスターが徘徊する危険な地であるが、ギルドとハンターの手によって発展した。モンスターの生息域が近いという特性上、西シュレイドを拠点とするハンターが身を置くには最適の場所となり、ハンターの活躍によって高度な発展を遂げた。

 一方で街の近くにモンスターが現れる事も多く、それらを迎撃するための設備も整っている。事実、後方で三基の大砲が空を睨んでいる。

 「破落戸の街」や「猛者街」などと呼ばれた《ミナガルデ》にも当然のことながら一般人も生活している。商人の往来も盛んで実際に噴水を通り過ぎれば豊かな市場が見える。

 そんな《ミナガルデ》に訪れたメルの出身、ココット村を思い出していた。郷愁が自発した訳ではない。改めて街に来た理由を念頭に置くためだ。

 《イャンクック》を倒し、初心者を脱して新天地の扉を開いたメルは自分の修行も兼ねてこの街に足を踏み入れた。自分の実績に自信がある訳でもなく、過剰な思い上がりを持っている訳でもない。それでも自分は一人前のハンターになったという自覚はあった。しかし、それは小さい思い込みに過ぎずそんな思いは街の圧倒的な空気に押し潰されてしまった。

 村長である年寄りの爺は昔、有名なハンターだったと聞く。腰も弱々しく曲がり、杖を頼りにしなければ歩くことさえ難しいその姿からすればその噂は信じられない。だが、その名声に憧れたハンターが集うことで村ができた事もまた事実だった。

 彼は長く尖った耳を持つ《竜人族》である。調合や鍛冶面で高度な技術を備え、人間を優に超える長寿である。身命の危険や長寿の為に繁殖力は低く、その人口は少ない。

 そんな竜人族の彼には知られざる偉業があった。《ココットの英雄》と呼ばれた彼はハンターの隊は最大四人という条例や一角竜の狩猟は単身のみなど数々の歴史を作った偉人である。老山龍を退けた数少ないハンターだと聞く。

 彼の生涯を物語る伝承は多く、無数の吟遊詩人は世界中で語った。内容を盛り上げる為に矛盾や食い違いも多く、その伝承は改竄され、謎に包まれた。

 そんな英雄であった村長の助言もあり、見事に登竜門を突破し、初心者を脱したと思っていたメルだが、街に踏み入れた瞬間、自分の愚かさを思い知った。世界は想像を絶するほどに広く、我は自惚れているのだと。

 街を歩き回りながら視界に入った数々のハンター達を見て鼓動は高鳴った。未熟者だと思い知らされたと同時に湧いた興奮は歩調を早くしていた。

 そして、メルが彼女と出逢うのは酉の刻頃になる。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 狭い通路を抜け、角を曲がった時の出来事。

 半ば突き飛ばされるような衝撃で足取りが不安定になり、尻餅をついた。防具越しから伝わった衝撃に僅かな痛みを感じながらも目の前で同様の格好をした少女に慌てて手を伸ばす。

 

「大丈夫か…?」

 

 目測で同年齢くらいだ、と判断したメルは気安く声を掛けた。頭を押さえながら痛みを堪えていた少女はメルの手を借りて立ち上がった。

 その鎧を見る限り熟練のハンターと見受けられ、更に優れた実績を持つ逸脱した者だと判断される。同年齢にしか見えないことに驚きながらも再び自分の未熟さを思い知る。

 頭を何度も下げながら謝った彼女に言葉を返そう、とした時、不意に脚に当たった物に視線を落とす。

 黒々とした特注品の軽銃だと逸速く見たメルの興味が湧き立つ。気付けば座り込み、その黒い《ライトボウガン》を見るなり持ち上げて暫く観察した。

 メルの行動に些か驚いたのか遠慮しながら彼女は待っていた。そんなことを知ってか知らずか黒い銃を持ち上げたり、傾けたりとしていたメルが我に返る。

 

「……特製の銃だから気になってしまって。悪かった」

「あ……はい」

 

 銃を慎重に手渡したメルは丁寧に銃を受け取った彼女の態度に僅かな笑みを浮かべた。

 メルの過去、まだ鍛冶師の息子として生きていた頃の経験が語っていた。武器を相棒のように扱うハンターに悪い人はいない。

 その理由もあってか、彼女とは少し話し込んでしまった。武器の重要性や街に始めて訪れた彼女の体験談など会話は不思議と盛り上がった。メルが話し込んだ理由、それは街に初めて訪れたという微妙な不安を和らげる切欠だったこともある。

 何時しか辺りは暗くなり、街が夜を迎える準備に取り掛かる頃合、メルは会話に一区切り置いてから会釈を挟んで傍を離れた。

 そんな時だった。

 

「あ、あの……えっと私と一緒に来ませんか?」

「一緒に?」

「はい!」

 

 突然の勧誘に振り向きながら驚く。一瞬、耳を疑ったが彼女の感情が赤条々な視線と合う限りでは耳は正常だ。

 急な彼女の言葉はメルの不意を突き、僅かながらに動揺させた。動揺が治まるや否や呆れ果てた。

 メルの引く態度を知ってか知らずか顔を近付けて目を輝かせる彼女の意に嘘はなかった。本気で言っているのだろうと理解した上でメルは更に呆れた表情になる。

 

「あのな……俺は名前も知らない人に命を預けることはできない」

「あ、そうですよね! 私の名前はエリーです!」

「…そういう意味じゃない……」

 

 疑問符を浮かべた様子で首を傾げ、再び顔を押し寄せてくる彼女の興奮は衰えることを知らなかった。対応に困ったメルは取り敢えず、押し退けるが彼女の勢いは止まらない。

 活発で元気な性格の彼女はメルを追い込むように問い詰めた。本当に熟練のハンターか、と疑ってはいられない状態に立ったメルは彼女を落ち着かせることに成功する。

 興奮の声音がまだ残った彼女は漸く冷静さを取り戻し、続けた。

 

「新大陸の発展とユクモ村の繁栄という命を受けました、エリーです。もう一人のハンター追加をユクモ村より急遽依頼されまして…」

「俺もそれに同道しろと?」

「強制はしませんが……」

「何で俺なんだ?」

「同年齢の方が好ましいかなぁ…と」

 

 彼女の言葉を聞く限り嘘ではないように思える。別に根拠は無いが彼女が嘘をついているとは思えなかった。詐欺などの犯罪に類されるようなものではなさそうだ。

 詐欺ではないなら彼女は常識的な何かが揃っていない。抜け落ちている感じがする。

 彼女の勧誘を拒絶するつもりは毛頭なかった。だが、幾らか急な出来事ということもあり、判断に困るのだ。少し考える時間が必要だ。

 同様の級くらいの仲間と友情を築き合いながら互いに成長し合うという過程も悪くない。仲間との関係を深く持って狩りに挑むその姿を想像するだけでも胸が躍る。

 しかし、師という強力な成長の糧を授かり、師と共に急激な成長を遂げるという過程にも興味があった。勿論、ハンターの世界で師匠を持つことは珍しく最高の環境となる。熟練のハンターから教わる知識を取り込めばそれは大きな成長期となる。ハンターとしては上出来だ。

 別に仲間を持って友情を築きたいという願望もなければ拘りもない。一度きりの人生だ、慎重に生きることも大切だが、これは万に一つの好機。

 失敗したなら一からやり直せばいい。人生は一度きりだが、時間は幾らでもある。そう判断したメルは言葉を待ち侘びた彼女に返答を返す。

 

「分かった」

「本当ですか!」

「出発は何日?」

「五日後です。大丈夫ですか?」

 

 メルが首を縦に振れば、彼女の表情が一瞬で明るくなり、活気さは一段と増した。今日から彼女、エリーと共に命を賭した狩りへと赴く。人生で初めて隊を作った瞬間だった。

 これから起こる出来事を想像すれば見る間に広がってゆく。

 何を思ったのか、興奮の声音で喜んで跳ね回るエリーが辺りを見渡す。彼女の喜色に溢れた表情が急に冷めたように思えたメルが心配の声を掛けようとした時。

 手を握られ、小柄なメルの身体を引っ張った。

 無言のまま従い、追い掛けていく。通路を抜け、角を何度も曲がって大きな広場へと出る。噴水の傍を過ぎ、人波の合間を抜けて行く。慣れたような身軽な動きで意のままに人と人の間を抜けていき、メルが苦労した道を三分足らずで走りきった。

 そうして、辿り着いたのは人混みの最中。多くの人々が密集した域に辿り着き、引っ張っていた手は力を緩めた。荒くなった息を整えながら空を見上げるエリーの肩を叩く。

 

「何なんだ?」

「あ、上がりますよ!」

 

 エリーが指差す夜空を見上げ、不意に上がった花火が空で弾ける。爆音と共に鳴り響いた快い音が余韻を残して消える。再び上がった花火が弾けて爆音を放つ。

 次々と打ち上がった大輪の花は爆音を放って一瞬の芸術を創り出し、儚く消える。虚無の夜空を彩る色彩豊かな花火は見る者、聴く者を魅了した。

 気付けば窓から見る者も多く、この花火は有名な祭典のようなもの。

 

「間に合いましたね! やっぱり綺麗です!」

「あぁ、そうだな」

 

 弾けて消えゆく儚き花火の美しさに見蕩れたメルは将来への希望を抱く。

 僅かに湧き立つ興奮を打ち上がる花火が煽り、血が騒ぐ。将来に抱いた希望は想像であって、現実に起こりうる可能性は低い。下手をすれば早死の無様な一生となる可能性だってある。

 それでも夢を持った黎明のハンターには不安など有りはしなかった。

 新大陸。その単語を聞いただけでも胸が躍る。

 抑える切れない興奮の最中。満面の笑みを浮かべ、背後に夜空を彩る大輪の雫を控えたエリーは一段と美しく見えた気がした。

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