一時の狩りを終え、狩りの一件のお礼をギルドマスターから頂き、出来事の要点だけを報告し、一区切り終えた狩人達は食事をしていた。村人からお裾分けで頂いた果物の盛り合わせと其々の多様な飲み物で食後の一服を過ごした。
相変わらず集会浴場の中は暖色に染まっており、幾分か暖かい感じがした。
ギルドマスターから村直々の要望で行商隊の陸路の安全確保を依頼され、見事に渓流でドスジャギィ二頭を狩って見せ―――ようやくここ、ユクモ村へと戻って来た。その為か疲れの度合いは異常で今にも倒れてしまいそうだ。これが、約一ヶ月の間、小休止こそあったが、仕事続きだったので尚更のことである。
「しばらく休日?」
メルは突然の話に煌びやかに光る果実を、口に放るのを止めた。疲れが出ていたことは紛れもない事実だが、仕事を中断するようなことは考えていなかった。それどころか、続行を予定していた。
エリーの休日を設けるという提案に初めにルークが同意し、ラグッドが唸って理屈の通らない抗議をして見せる。単に不服だ、としか言っていないような顔つきだ。メルはしばらく考えていた。
(休日は構わない……が)
最近になって狩りの充実感が増し、気分も有頂天に達している頃だったのだが、残念だ。一層の事、装備品を重要視し、財貨を注ごうと思っていた頃だったので余計に残念だった。
しかし、身体を酷使しても良いことは無い。この辺で休暇を取り、心身を休ませることも重要だと一目置いて素直に従った。メルが従い、味方が居なくなったところで不服そうにラグッドも同意した。
赤い果実を口に放って微笑み残った飲料を飲み切ってからエリーが皆を見回す。
「それでは、三週間後、ここで会いましょう」
三週間、二十一日間となる休暇を得た。先ずは道具の整理と装備品の手入れを済ましておきたい。それと道具の調達と装備品の強化を見込んで加工屋にも立ち寄りたい。休暇というよりは次の依頼へと準備期間になりそうだった。
◆◇◆◇◆◇
休暇が始まって五日が経った。済ましたい用は全て終えてしまった。休暇はまだまだ残っているが、思い浮かぶ過ごし方は驚く程に無かった。
休暇の過ごし方は人其々でエリーは主に書類の整理を行っている。何度も伝書用の鳥を飛ばしているのを見かけた。更に村長と村の拡張について談話する姿も見られた。休暇というには相応しくない日常を送っている様子だ。
一方でラグッドとその兄のルークは村で姿を見かけない。噂では採集に行っているだとか。装いを新たにするべく素材が欲しいとの事らしい。帰って来る二人の身に付ける武具が楽しみな半分、羨ましい部分もあった。
メルも一応、装いの強化にはそろそろ力を入れようと試みている。
自分の防具と武器を見回すように一瞥し、ベッドに腰掛けた。手持ち無沙汰になったメルは意味もなく辺りを見回した。借家の奥の部屋である倉庫から椅子に座って資料の片付けをするエリーへと視線を動かした。
差し込む陽射し。そんな事柄に気を留めるほどに暇な現在を無駄と考え、戒める。また悪い癖だ。直ぐに自分に欠点を見つけて咎める癖は昔から変わらない。
資料を束ね、机をとんとんと叩く音が聞こえる。どうやら資料の片付けを終えたらしい。精一杯に腕を伸ばしたエリーは達成感で一杯だった。
メルは予め持参した冊子を手に仕事を終えたエリーへと歩み寄り、その足音に近づいたエリーが振り向いたところで乾いた口を開く。
「エリー少しいいか?」
「はい…何でしょう」
「これからの事を考えたんだが……俺には力が足りない。だから、防具を作りたい。なるべく強固な奴を」
「そうですか。それで私は何をすればいいのですか?」
「素材集めに付き合ってほしいんだが…駄目か?」
「勿論良いですよ! 何をお作りに?」
「これを見てくれ」
持参した冊子の目的のページを開き、手渡す。興奮の色を僅かに持ったエリーはそれを受け取ってページを頷きながら凝視した。
暫くの後、エリーの言葉を待っていたメルは興奮のあまり耐え切れなくなって感想を問う。
「どうだ?」
「決まりですね…それでは早速、取り掛かりましょう!」
ハンターにとって大事である防具の新調。自身を守る鎧であり、実力を公に明かす見せ物でもあった。因みにエリーは黒い装束の様な防具で特製な物である。ラグッドとルークはユクモ村が開発したユクモノシリーズという民族的な装備を使っている。エリーは違うが、二人の防具は武具工房で予め製図された物である。
対してメルの防具は《ハンターシリーズ》という質素な防具である。正直、モンスターと対峙するには軟弱な防具で動き易さだけを重視した物となっている。故に一度の攻撃で異常な損害を負う破目になる。
恐らくこの先で待つ屈強なモンスター達と渡り合えるほどの防具ではない。規格外のモンスターとの対峙で素朴な防具は危険度が高すぎる。
これから先で待つ屈強なモンスターと矛を交える際に耐えられる頑丈な防具を。
◆◇◆◇◆◇
エリーの定期的な資料の整理と提出が一通り切り上がり、更に数週の時があっという間に流れていった。渓流の生き物達も村専属ハンターと同じくして妙に落ち着いていた。静けさを取り戻したユクモ村では再びハンター達が動きを見せていた。
踊り場は毎朝と相変わらず盛り始め、活気付く。様々な目的を持った人々が往来し、それを呼び止める看板娘の清々しい声が透き通る。
何一つ変わらない風景を鬼門番は眺め回し、腕を精一杯に伸ばした。
「おっ、竜車が来てら」
門の手前で止まったガーグァが牽く荷車が到着した。時間帯からするに資源の搬入などではなく、旅人か誰かだろう。個人的な者に変わりはない。いつもの様に鬼門番の仕事を果たそうと石段を降り始め、第一声で脅かそうとした時だった。
「おぉ?」
見慣れた顔二つに無意識に足が止まる。その見慣れた顔はここ最近になって見慣れなくなった顔だった。
しかし、顔は同じだが、風格が違う。纏っていた筈の質素な防具ではなく、真っ蒼な素材を贅沢に使用した強固な代物だった。だが、毎度のことながら隣で明るい風格を持った少女の姿は変わっていない。
彼らはハンターだ。時にその武装を強化させ、更なる高みを目指すのだ。
「メル、久し振りじゃねぇか! 格好良い武装しやがって、一流にでもなったかつもりかぁ」
内面では喜色満面であるが、茶化すようにしてメルを褒めた。当の本人も少々、胸を張ったが、露わにはせずに微笑を浮かべて返した。
「悪いが、ラグッド達と用があるんでな」
「おう! 行って来い!」
門を抜けて石段を上り切り、踊り場で皆の羨望の眼差しを受けながら足早に集会浴場へと足を運んだ。彼らとの再会は集会浴場と決まっている。三週間も前になるが、そう約束したのだ。
暖簾を退けて内部へと立ち入るが、彼らの姿は無かった。普段通りの看板娘が数人と、見慣れない二人連れのハンターと一人の翁が腰かけていた。
一人は正に重装備と言わんばかりの防具で身を固めている。遠目からするに真っ赤な甲冑とそれを奔る何本かの白線が特徴の《ザザミシリーズ》だ。少し形状が変わっているが見間違えではない。狩りの際に破損したなど防具の形状が変わることなく稀ではない。その背負われた大剣も素晴らしく重装備で《レッドシザー》と称される《ザザミ》から造られる代物だ。だが、絵様に違和感があると思えば白線が奔っていない。摩耗でもしたのだろうか。
そしてもう一人。防具は《ユクモのシリーズ》を更に補強した《ユクモノ天シリーズ》という装束だ。ユクモ村が誇る良質な木から取れるユクモの堅木は意外にも丈夫で軽い。防具には適していると言えるだろう。しかし、可燃物なので火耐性が疎かになるところが痛手であろう。
(武器は……片手剣)
メルの脳内である事実が浮かんだ。
「あ…」
「ふふ、メル君もお気づきですか? 恐らく、お二人ですね」
エリーも気が付いたらしく微笑ましい表情で駆け寄っていった。
二人の向かい側に座る翁に気も留めず、メルも興味を膨らませて飛び出して向かった。足音に気が付いた二人の顔を確かめ、その奥で覗く翁を一瞥し、浅く礼をする。
久しい再会に浸ることなくメルは直ぐに興味を居据わる翁へと向けた。
「貴方は?」
「マークじゃ。いやいや、立派な若人達じゃ」
「僕から紹介するよ。彼はあらゆる村や街へ赴いてハンター達と取引している人なんだよ。取引は単純でモンスターの素材や鉱石、植物なんかを物々交換する少し変わった人でね。ラグッドの武具の素材も交換してもらったんだ」
「そういう事じゃ。もちろん、道楽ではない。まぁ、珍しい物の愛好家と言ったところかの。ハンターが欲する物なら用意するが、相応の素材を集めてもらうつもりじゃ。
「……成る程な。だったら《イャンガルルガ》の素材が欲しい。防具を作れるくらいの量を」
「ふむふむ。明日、ここで落ち合うとするかい?」
「了解だ」
「そうと決まれば、メル! 早速、狩りの準備をしねぇとなぁ!」
「そうですね。話も纏まった事ですし…昼食をいただきましょうか」
「賛成だね」
「ほっほっほ。若いは良いのう!」
持ち上げていた腰を下ろし、卓を囲む。
ラグッドとルークが交換条件の一つの項目である《ウロコトル》との熱戦のこと。
《レッドシザー》の絵柄を無理矢理にラグッドの好みの絵柄に変えてもらったこと。
メルとエリーが《バギィシリーズ》を作るべく凍土まで足を運び、苦労したこと。
話題は様々で会話は無価値な様で実は各々の成長ぶりが見られる有意義なものだった。
黒狼鳥、《イャンガルルガ》の素材を手に入れる為、直ぐに準備に取り掛かりたい。新調したこの蒼い防具、《バギィシリーズ》を暫く利用する予定だが、資金が溜まり次第、《イャンガルルガ》の素材を贅沢に使ったより強い防具を造る新たな目標が定まった。
どうやらやるべき事は山積みである。
この先で待つ屈強なモンスターと渡り合えるその時まで彼らは歩みを止めない。いや、その先をも目指し歩き続ける。
そう物語はまだまだ、始まったばかりだ。